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27 ちっちゃいチビ


 四話中三話目です。



 予想外の一発目ヒットで先生の方針がガラリと変化してしまった。

 基礎能力系の簡単なところを除けば今の俺達では行けないような高難度ばかり。


 先輩御用達スキル、思考加速や処理能力拡張は生産特化スキルだとばかり思っていた。


 先生に必要そうなのはこれで、これまた面倒な位置にあり面倒な仕掛けがあり面倒な敵がいる。先輩ソロはまず無理。


 来年か再来年じゃないと向かえなくなってしまったので視力強化だけ取ることにした。


 先生も先輩も自分の可能性に戸惑っているようで馬車の中では二人揃って実験と練習。

 必然的に俺は会長と話すことが増えた。


 でも俺も魔力制御の訓練をさせられるので最初の頃の馬車とは打って変わって訓練旅行っぽくなってきた。




 そんな具合でいくつか経由した後風の精霊の居城のダンジョンへやって来た。


 やっと、楽できる。正直ここまでのダンジョンは会長と先生にさんざん抜かれていた。毎日筋肉痛だ。


 でも風って……タイムアタックなんだよなぁ。

 全力疾走でござる。死ぬって。


「全十層、二時間以内。最短かつ敵は纏めて一掃。遠距離はしてこないので一定速度以下にならなければ追い付かれることはありません。ただ敵はゴーレムなので堅いです。その割にここのゴーレムは早い。他はまだ偶然クリアの可能性がありますがここは知らなければまず無理です。」


「長距離は苦手。」


「バテたら俺か会長か先生が背負いますよ。中は完全に迷路なので俺を見失うと迷いますよ。罠も踏まないよう走りますので疲れたからといって手をついたりはしないでください。壁がくるっと回転したりします。」


「それはしませんねぇ。」


「では……行きます。」




 走る~走る~、俺達~追ってくるゴーレムもそのままに~。


 一層、約一キロ。十層で十キロ。


 走るだけなら120分十キロは可能だ。時速五キロだと思うと結構余裕すらある。

 ただこれが戦闘時間を含むとなるとキッツい。


 走っても時間はギリ、手間取ったら最初から。辛い。


 俺も長距離走は苦手だ。体力はある方だと思うが持久走をするような鍛え方をしていない。


 更には途中から人間が背中に乗った。むしろ辛くなくなったのは笑った。


 ……うん、辛くなくなった。

 体は重いけど……背中から聞こえる熱い息遣い、熱い体温、背中越しでも伝わる荒い鼓動や感触、噎せ返るほど甘い汗の匂い。


 多分まだそれを感じる余裕があったんだろう。もしくは人間の生殖本能が思いの外強いか。


 もうね、興奮してしまってキツいとかツラいとかクルシいとか思わなくなった。


 ただひたすらに煩悩退散、悪霊退散と心頭滅却して走り続けた。


 気づいたら最下層でボスを倒して壁をすり抜け白い空間にいた。そこで先輩を下ろして整理運動している途中で意識を取り戻した。


「会長とっ、先生はっ、大丈夫っ、ですかっ。戦闘っ、全部っ、任せっ、ちゃいましたっ、けどっ。」


「大丈夫ですねぇ。」


「私は……少し……辛い。」


「鍛え方が足りませんよぉ?」


「教諭が……おかしい……。」


 会長は疲れてはいるがなんとか、先生は汗はかいているが息一つ乱れていない。

 俺は止まったら動けなくなる。先輩は既にグロッキー。


「二人っ、ともっ、凄いっ、ですねっ。」


「君は何故まだ足踏みしているんですかぁ?」


「急にっ、止まったらっ、動けなくなるっ、からですよっ。」


 息つらぁ。喉つらぁ。頭いたぁ。足おもぉ。


 俺は弱音を心で吐きながら徐々にペースを落としていく。


「…………ふぅ。こんな、もの、ですかね。」


 息は上がってるけど。……さて、行くか。


「三人とも、絶対に、俺の、前に、出ないで、くださいね?」


 俺は呼吸を整えながら歩く。


 先輩は先生に背負われ直したようだ。


 俺は膜を通り、先生達も膜を通る。


 膜の先は深い霧に覆われていた。目の前も見えないほどで先生達の手を握って足元に気を付けながら進んでいく。


 俺はあるところで止まって一歩下がる。次の瞬間、後ろから吹き付けてくる風を踏ん張って耐えた。

 来るの分かっていたから耐えられたけどそうじゃなければ無理だろう。


 先生達は……煽られてないな。さすが。


 風によって霧が晴れ……断崖絶壁が目の前に現れた。これには流石に驚いたようだ。


「…………何で落ちないのよ。」


「知ってましたから。初めまして、風の精霊王。そしてようこそ、カクレの崖へ。」


 周囲は一面の夜空。下は崖。崖の下は霧で見えない。


 高所恐怖症絶叫のスポットだ。ここにお嬢を連れてくるとひって悲鳴あげるよ。聞いてみたい気もするけど可哀想だからやらない。


「……私の台詞奪うんじゃないわよ、人間。」


「歓迎していないようでしたので。早めに退散しようかなって。ここは綺麗ですけど危ないですからね。一人でしか来れません。」


「…………よく来たわね、人間。ようこそカクレの崖へ。一応話は聞いてるわ。」


「俺も少しは聞いてますよ。人間はどこの世界いつの時代も変わりませんね。」


「そうね、私も若かったわ。若気の至りってやつよ。」


「万年幼女が何を言いますか。」


「次言ったら叩き落とすわ。」


「それは失礼。」


 一回は許してくれるんだ……。


「試練を越えた人間。貴方達は力を欲して来たと言うことでいいわね?」


「はい。」


「何かあったらあの二人がどうにかするでしょうし力をあげるわ。精々邪神を倒してね。そこのおっぱい大きいチビが普通じゃ駄目なんだっけ?」


「……ひっどい呼ばれ方ですねぇ。おっぱいちっちゃいチビ。」


「あぁ?」


「やりますかぁ?」


 喧嘩始めた……ちょっとぉ。


「チッ……邪神は忌々しいから今回は見逃すわ。ほら、受け取ってさっさと帰りなさい。」


 なんかちょっと雑に胸元に光が来た。なお、いまだに風の精霊王の姿は見えない。


「…………あぁ? そこのクソビッチに私の適性があるのはどういうことよ?」


 あ、出てきた。羽に人形のような大きさの少女、万年幼女であってたな。

 というか何で先生はチビだと分かったのだろうか? ついさっきまで見つからなかったのに。


「誰がクソビッチですか豆粒ドチビ?」


「あんたよ。巨乳でチビで悪魔の血の濃く出た人間とかクソビッチ以外あり得ないじゃない。」


「喧嘩ですねぇ、買いますよぉ?」


「はっ。人間ごときが風の精霊王の私に向かってよくそんな口が聞けるわね。」


「私相手に姿を看破されてるなんちゃって精霊王が何を言うんですかぁ?」


「空も飛べない人間がどうやって私に攻撃するって言うのよ?」


「もう……フィー。やめなさい。」


「ディー。なんなのこの人間? 私の適性はあるし生意気だし巨乳だし。チビの癖に。」


「なんなんですかこの仮称風の精霊王はぁ? 確かに私には風の適性がありますけど弱いの馬鹿にしてるんですかぁ? それにクソビッチとかふざけてますよねぇ? 貧乳の豆粒ドチビの癖にぃ。」


「また言ったわね!? 誰が貧乳よ!」


「足下をご覧くださいなぁ。足の踵が見えますかぁ? 私には見えませぇん。」


「何よこの垂れ乳!」


「垂れてませんよ見せましょうかぁ!?」


「見せてみなさいよ切り落として肉屋に100グラム50インで売ってやるわ!」


「そんなもの買い取ってくれるお肉屋さんに心当たりがあるなんて風の精霊王サマはさぞ好き者のご友人がいらっしゃるようですねぇ? ところで類は友を呼ぶって言葉知ってますかぁ?」


「何が言いたいのよ!」


「いえいえぇ、風の精霊王サマはきっと特殊なご趣味があるんだと思っただけですよぉ。そのぺったんこは売っちゃったから無いんですかぁ?」


「ちょっとあんた表出なさい!」


「望むとこですよぉ!」


「フィー、落ち着きなさい!」

「先生、落ち着いて!」


 俺達は殺気だった二人を引き剥がす。仲悪っ!


「ディー、そこどいて! そいつの胸削いで動物の餌にしてやるわ!」


「ロレンス君、どいてくださいぃ! そいつの無い乳で洗濯してやりますよぉ!」


「そんなことしたら表面剥げちゃうじゃないですか。俺がその洗濯板含めて全身舐め回したいので止めてください。ペロペロ。」


「ひいぃぃい!?」


「うわぁ…………。」


 風の精霊王と先生から同時に冷たい眼差しを向けられる。


 ……分かってた、分かってたもん。本心じゃないしそんなんじゃ傷付かないから。


 というか女性陣の視線が痛い……土のおっちゃん来ない……女性人口が高い……。


 あぁ、アクア。慰めてくれるのかい? ありがとう。俺の味方は君だけだよ。


「……何があったんじゃ、小僧?」


「あ、やっと来ましたね。うちの先生とお宅の風さんが喧嘩してたので両者ドン引きさせた俺が一人勝ちしたところです。ペロペロ。」


「そういう冗談を言うのは感心しないわよ?」


 水の精霊王さんが胸元に風さんを抱き締めて俺から庇うようにする。

 こういうときの女子の結束って怖いんだからなぁ……まあそうなるように仕向けたんだけどさ。


 普段真面目そうな奴が突然真顔で下ネタぶっこんできたら引くよね。知ってる。

 うん、知ってた。知っててやった。


「……土のおっちゃん。ちょっとあっちの方で星を肴に酒を飲もうよ。俺今飲んで忘れて飛び降りたい気分なんだ。こっから飛び降りれば出口に戻れるでしょう?」


 ここの成人年齢は十五だし飲酒解禁もそこだからお酒飲めるんだ。今日は飲みたい気分。


「…………そう気を落とすでない、儂にはおなご達が悪く見えるぞ。喧嘩しておったのじゃろう? しかも精霊王ともあろうものが。もし本当に手が出ていたらそこのお嬢さんもただでは済まんし周囲もただでは済まない。カッとなった風が一番悪いのぅ。次にそれを止めきれなかった水も悪い。お嬢さんも怒らせた責任はあると思うのぅ。儂は遅れてきたし話を知らんが、そんな小僧が寄って集って責められるような立場なのかのぅ? 小僧は何か手を出したのかのぅ? 誰が被害を受けたのかのぅ? 話を聞く限り一言で場を沈めたのじゃろう?」


「……俺の味方はおっちゃんとアクアだけだよぅ。」


「小僧が何を思って口に出したか分からぬのなら全員小僧を知らなすぎるのではないか? 儂ですらそんな責められることを言ったとは思えん。多少の善悪はあったとしても小僧は喧嘩を止めようとしただけじゃろうて。そして事実止まっておる。少し叱るくらいで良かったのではないのかのぅ? ……さて、小僧。酒は何があるのじゃ?」


「ワイン、発泡酒、蒸留酒もあるよ。二人で飲もう。俺、おっちゃんの過去も聞きたくなったよ。どんな人間がいたの?」


「色々いたのぅ。儂のところに来たのは盗賊風の男が多かった。」


「…………ついカッとなりましたぁ。すいませんでしたぁ。」


「ふんっ!」


「風の。貴様には後で話がある。」


「…………わ、悪かったわよ。でも私、人間の言い過ぎだとも思うのよ。」


「…………すいません。確かに、止めきれなかった私も悪いですね。」


「土のおっちゃん、始めに風の精霊王が先生におっぱい大きいチビって言ったのが発端。」


「……ほぅ? 風の、貴様にはしっかり話をしないといけないようじゃ。」


「ひっ、勘弁してよ! 土のお説教長いんだから!」


「長引かせるほど悪いことをしたのは誰かのぅ?」


「でもそこの人間も言いすぎた!」


「おっぱいちっちゃいチビって言い返してた。」


「それでキレたのか?」


「違うの! そこのク……黒髪のに私の適性があったからちょっと驚いたの! それにそこの男だって!」


「何を言ったんじゃ?」


「先生が風の精霊王を洗濯板にして洗濯するって言ったから"そんなことしたら表面剥げちゃうじゃないですか。俺がその洗濯板含めて全身舐め回したいので止めてください。ペロペロ。"って言った。二人に引かれるのは覚悟してたよ。」


「その一言であんなに責められておったのか。確かに多少は責められるにしろ全員から針の筵にされるほどか? 儂にはそうは思えん。」


「だって……。」


「言い訳はよろしい。」


「でもあんまり強く言わないであげてね。俺も責められるのは分かってたから。……ただクソビッチって言ったから許さない。」


「…………すいませんでした、ごめんなさい。久しぶりの人間が相手だったので強く言い過ぎました。」


「……私もついカッとなってごめんなさいねぇ。」


「……どうやったらそんなに大きくなるのかしら?」


「精霊王さんは成長しないのではぁ? きっとそれで完成してるんですよぉ。」


「でもディーはこんな感じだし……羨ましくて。」


「よく見たらちゃんと可愛いですよぉ。」


「…………そ、そう?」


「そうですよぉ。」


「……そ、そうよね! 貴方案外話が分かるじゃない!」


「そちらこそぉ。」


「私も初めから強く言いすぎたわ!」


「私も大人げなかったですねぇ。」


「私の方が大人よ!」


「そうですかぁ?」


「そうなの! それで、契約するの!?」


「……酷い目にあったのでしょぉ? 無理はしなくていいですよぉ。」


「絶対に戦わないけどそれでいいならいいわよ。もうずっと昔のことだもの。そうね、私も大人げなかったわ。何百年も……何千年? とにかくそんなずっと昔のことを気にしすぎたわね!」


「……じゃあ、お願いしましょうかぁ。」


「分かったわ! 私の名前は…………。よろしくね!」


「よろしくお願いしますねぇ。」


「……なんか勝手に終わらせとるがこれでよかったのかの?」


「いいよ、仲直りできたなら。俺もおっちゃん来なかったら大人しく責められるつもりだった。結構酷いこと言ったとは思うんだけど一度冷静にしなきゃいけなかったからね。汚れ役は俺一人でいいんだよ。」


 先輩と会長と水の精霊王さんのせいで無駄にダメージ貰ったけど。

 アクアは引かなくて良かった。アクアまで敵になられたら悲しいからね。


「それとそこの男。」


「ん? 何ですか?」


「貴方の本当の属性は土でも水でも無いわ。氷よ。」


「なんですかその格好良さげな属性。知らないんですけど。」


「才能にも色々あるのよ。早熟なもの、大器晩成なもの、色々ね。貴方も十分才能はあるから頑張りなさい。しっかりと努力をすればいつか使えるようになるわ。」


「そんな曖昧な。」


「人でも人でなくても成長は一定で(もたら)されるものではないわ。いくら私でも貴方の今後の行動なんて知らないわよ。まだ可能性があると分かってるだけマシでしょう。私に言えるのは努力しなさいってことだけ。」


「……益々精進します。」


「それでいいのよ。それと親和性の高さは天与のもの。生まれつき精霊と親和できる可能性がある。容量もかなり広い。きっと貴方が邪神に立ち向かうために持たせたのね。運命なんて知ったものではないけれど大きな意思は確実にあるのよ。それと理由はもう一つ考えられる。」


「はい?」


「あの二人を知ってるじゃない? そのせいかもしれないわね。」


「…………生きていらしたんですか?」


「生きてるんじゃない? 記憶さらったんでしょ?」


「私にはそこまでは分かりませんでした。」


「なら慣れね。私は人間と契約しているからさらいやすいのよ。」


「知っているんですか、彼らを。」


「誰ですか?」


「光と闇の精霊王。もうとっくに死んだものだと思っていたのだけど。寝ているなら叩き起こしてきて。」


「何かあったんですか?」


「何回か前の魔王の復活の時どーしても人間が勝てなくて一際強いあの子達が力を貸したのよ。存在で言えば私達の兄や姉に当たると言えるかしら? その時頑張りすぎてしまって音沙汰なし。寝床にも入れない。てっきり死んだものだと思ってたわ。生きているなら踏ん張りどころだから蹴りでも入れて起こしてきて。きっと消耗しているけどそれでも精霊王よ? 少しは役に立つわ。」


「そんな仕様知らない……確かに寝てましたけど。」


「私達関連のゲームってなんなのかしらね? 何者かが作ったのか、世界が作らせたのか。少なくとも何かしらの繋がりはあるわ。私達は精霊王、世界の守護者よ。起きたなら確実に死力を尽くして手を貸す。それが機能していないのはおかしいわ。そこまで忠実に、正確に、情報を転写できているのに私達が何故か何もしない。そこの赤い子だって属性は火ではなく炎だし、紫の子は闇の適性が強すぎる。それなのに加護を与えておきながら使い方も教えないなんて変よ。特に闇の精霊王と出会っているのなら使い方が間違っていれば教えてくれるはずだわ。そこの黒い子だって明らかに強い。なのに連れていく事ができない。色々しがらみはあるのかもしれないけど世界の危機よ? 何故私は行けないと言うのかしら?」


 …………確かに? そりゃあ好きなスキル取らせられないから戦力として強くないって言うのはあるけど。


 でも引率として頼むことも出来るはずだよな? 先輩がソロ行動出来るのは何故だ? 護衛は?


「忠実過ぎる故に不思議な箇所がある。むしろわざとぼかしているようにすら感じるわ。まるで一定以上の戦闘力を持っている人間の手の内を隠すように……。もしかして貴方をここへ連れてきた何者かは他者も付いてくることが分かってたのかしら?」


「そうですね……もうここまで来るとこっちがゲームの世界なのではなくあのゲームがこの世界を擬似的に体験させるもののような……。」


「多分邪神に対抗する何かよ。それが善神か、世界の意思か、寝てる精霊王かは分からないけれどね。」


「……考えても分かりませんね。役に立つので置いておきましょうか。」


「そうね。でも邪神関連の記憶にだけは気を付けなさい。私達の力が反発しないから悪しきものの仕業ではない。ただ世界の外から来るものを邪神が感知出来ないと思うのは楽観すぎる。魔王の動かし方を変えるかもしれないし貴方達を意地でも殺そうとするかもしれない。向こうもかなり力を付けているから魔王を通して多少は介入できるのよ。世界には入れなくとも身の回りには気を付けなさい。あと悪しき影は貴方が見た二人ではないわ。正確には靄がかかったように分からないからそこの黒い子、センサー頑張りなさい。」


「……違うんですか?」


「その二人はグレーね、どちらにも転ぶわ。本当に真っ黒な人間がいるはずなのよ。貴方の言う主人公達は違うわ。凄いもやもやするわね、邪神が噛んでるのかしら? 私ですら見通せないなんて生意気ね。相当黒いか妨害されてるか溶け込むのが上手いか。イライラするわ。」


「……そちらも気を付けます。」


「そうね、気を付けなさい。あと貴方には迷惑をかけたからおまけよ。」


「……風の精霊?」


「そうね……って、なんか凄く嫌がってる子がいるわ。……そんなこと言っても、力は大事よ? ……そう我儘ばかり言っても……まあ、凄いことを言うわね。」


 全然わかんにゃい。


「じゃあ男の子探すから……なら女の子のがマシ? 我が儘ね。……もうっ、ディー! 説得して!」


「アクアちゃん。あまり嫌々するとその子死ぬわよ?」


 なんかわちゃわちゃしてたアクアが止まる。本当、ピタッと。確実に効いてる。


「確かに貴方は強いです。でも水よ。私達は攻撃には向かないし索敵も上手くはない。その子が寝てるときに誰かが来たら、ちゃんと守れるのかしら?」


 またわちゃわちゃしだした。


「絶対に?」


 またピタッとする。そしてしばらくそのままで俺の顔の前でまた止まる。


 なんか上目使いで見られてる気がするな。色も若干陰ってる……?


「俺はアクアが何を考えていて何を言っていたのか分からないから勘で返すけど怒らないでね。まず、俺は結構簡単に死ぬよ? 寝てるところに濡れてる布でも被せられれば死ぬ。それに力はあって困らないかな。……あと、別に契約する精霊が増えたとしてもアクアはアクアでしょ? 独り占めしたいの?」


 そこで縦に揺れられると……。


「……じゃあ、やめよっか。俺、独り占めしたいって言われたらなんも言えないや。アクア凄いもんね。」


 アクアは何をそんなに迷ってるのか。現状困らないし寝込み襲われたとしても音で気付くだろ。研究室の防犯は凄いよ?


 アクアが嫌なら無理強いはしないよ。ただでさえ三股してるわけだしアクアに愛想尽かされると困る。


「…………ふっふふふっ。女誑しねぇ? 精霊も誑せるのでしょうか?」


「後輩君、サイテー。」


「酷い男だな。」


「そんな男に惚れちゃう私達は駄目な女ですねぇ。」


「何で俺散々言われてんですか?」


「アクアちゃんが何て言ったか教えてあげましょうか?」


 アクアが凄い勢いで精霊王の顔の前を飛び始めた。あーあーって叫んでるんだろうか?


「貴方を困らせたくないし少しでも安全になるなら我慢する。私が人間ほど大きければ昼夜問わず守れるのに。人型になりたいなぁって言ったのですよ。」


 アクアが精霊王の周りを凄い勢いでブンブンしだした。

 何で言っちゃうのって感じなんだろうな。凄く和む。


「アクアちゃんはぞっこんね?」


 あ、殴られた。正確には体当たりだけどアクアが物理攻撃してる。初めて見た。


「でも悲しくなるわよ? ね、フィー?」


「私に振らないで頂戴。私の前の契約者と私はこんな感じじゃなかった。こんな……人間の恋人みたいな。」


 今度は風の精霊王が殴られた。


 キレるかとも思ったけど結構寛容そうだ。大きさ的に頭より大きなものにぶつかられてるのに。


「アクアちゃんは人間になりたいの?」


 横に動いた。否定してるんだな。


「……私が守ってあげなくちゃ……ねぇ。罪作りなのですね。」


 また何で言うの状態だ。和む。


「アクアちゃん、貴方がどうなりたいのかが大切ですよ? もし本当に自分一人で守りたいなら魔力をいっぱいおねだりして成長してしまいなさい。でも一人では無理だって思うならフィーにお願いなさい。……どちらの方が安全か決めるのは私じゃなく貴方よ。」


 しばらくはまたピタッだったがやがて風の精霊王の前で何やらしだした。


「……あの男のどこがそんなに気に入ったの? ……そうなの、分かった。ロレンス、この子も連れてきなさい。ちゃんと名前を付けてあげるのよ?」


 風の精霊の名前……?


「…………ブリーズで。」


「何よそれ……って喜んでるわね。喜んでるならいいかしら?」


 アクアが俺の周りを円を描きながら回る。……何をしてほしいんだ、これは?


「両手で包んで撫でてほしいそうよ。」


 アクアに殴られた! 痛くないしなんか嬉しい! 猫が舐めてきた感じだ! ざーりざーり。アクアはつるつるだけどね。


 ブリーズはその場所をすりすりと擦ってくる。撫でてくれてるのかな?


「ありがとう、ブリーズ。アクア、おいで。」


 呼んだら来たのでにぎにぎにぎ。

 やっぱりつるつるしてる。なんかちょっと癖になる触り心地。


「わっ、ブリーズもやってほしいの? ……わかった、わかったからぐりぐりしないで。」


 ブリーズは甘えん坊なのだろうか? ぶりっ子の可能性もあるが……多分甘えたがりの方だろう。根拠? 勘。


「こんな感じ?」


 アクアを適度に握ったらブリーズも握る。……ちょっと温度と大きさが違うね?

 そのうち握っただけでどっちか分かったりするかな? 無理かな?


「アクア、怒んないで。ブリーズ、アクアにだけもう一回やってもいい? 収まりそうにないや。」


 ブリーズは離れて肯定。じゃあアクアをもう一回にぎにぎ。

 ブリーズは肩に体を押し付けてくる。


「風の精霊王、ブリーズって普段もこうなんですか?」


「……何故かもう懐いてるわね、何故か。なんか落ち着くんですって。相性がいいのかしらね? 知らないわ。本人もよく分かっていないみたい。」


「そうですか。……次は火の精霊王のところに近いうちに出没します。」


「分かったわ、覚えておく。黒い子。」


「ミラベルですよぉ。」


「じゃあミラベル。貴方なら呼べるだろうから何かあったら呼びなさい。困ったときでも寂しいときでも、とりあえずは呼ばれるわ。ただし戦闘では自分が死にそうなとき以外は呼ばないでちょうだい。死にそうなときは許すわ。」


「大体自分でなんとかなりますよぉ。」


「分からないでしょう。魔王の手下には厄介な魔族だっているわ。貴方も危ないことがあるかもしれない。流石に契約者が見知らぬところで死ぬのは気分が悪いのよ。」


「ではもしもの時はお願いしますねぇ。あと一人の晩酌が寂しいときとかぁ。」


「お酒ね。お酒は私も好きよ?」


「流石にまだ彼らと飲むのは気が引けましてぇ。私、酔うと絡んじゃいますからねぇ。」


「ならその時は呼ばれるわ。」


「お酒……土のおっちゃん、これあげる。多分このまま帰るから。次の機会に飲もうね。」


「良いのかい?」


「高いものじゃないけど良いよ。瓶が邪魔なら次会うときに持って帰るから。」


「瓶なら大丈夫じゃ。」


「そうなの? ならいいか。じゃあね、精霊王。火の精霊王の時また会うかもしれないけど。」


「なら楽しみにしてるわ。気を付けてくださいね。」


「ありがとうございます。……皆さん、忘れ物はありますか?」


「無い。」


「あるが聞くのは火の精霊王と会った時としよう。」


「フィーさん、また会いましょうねぇ。」


「そうね。案外気が合いそうで驚いたわ。」


「私もですぅ。でも次言ったらただじゃおきませんからねぇ?」


「そっちこそ。私も気にしてるんだから。」


「では、さようならぁ。」


 一時はどうなることかと思ったが仲良く終わって良かった……。


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