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26 ダンジョンの罠


 四話中二話目です。



 やって来ましたハグレの草原ダンジョン。土の精霊王の居城です。


 ここはね、ゲームならいいんだけど。現実だと泣くよ?


 俺は何も教えずにダンジョンに入る。難しくはないんだなぁ。


 俺達は先生を筆頭に進んでいく。あ、敵出た。


「さて、最初の敵ですね。」


 俺が言うが早いか先生が動き、敵の……スケルトンの骸骨が砕けた。

 頭蓋骨砕くパンチって何だろうね?


「…………なぁ? まさかここの敵って……。」


「アンデッドですね。全五層、三層からはゾンビも出ます。」


「…………………………マジですかぁ?」


「出ます。」


「……得物持ってくるべきでしたねぇ。大きい打撲系のやつをぉ。」


「……すまない、ロレンス。どうやら私は役に立たないようだ。」


 会長は俺の袖を掴みながら言ってくる。


 そう、会長は対アンデッドでは役に立たない。知ってる。


「先生、ここに角材がありますよ。」


「それでいいですぅ。くださいなぁ。」


 持ってきた。俺でも振り回すには少し重いかなって角材を先生は片手で振り回してる。違和感凄い……でも取っ手の部分が持ちにくいのか改造を始めた。


 許可を求められたので許可をだすと……なんか持ち手を作ってた。包帯とか巻いて。器用だなぁ……。


「……こんなとこですねぇ。振りやすくなりましたねぇ。」


「いけます?」


「私は何でも武器にして戦う授業の先生ですよぉ?」


 応用実践戦闘学。実践戦闘学は何もなくても生き残るための授業で応用は何もなくても敵を倒す授業。


 無手はもちろんどんな武器も時には衣服さえ武器にしろって言うイカれた授業。受講生はほぼいない。


「イカれたは酷いですねぇ。大事ですよぉ?」


「なんだかあの授業は怖いんですよ、目が。死んでも生き延びろ、じゃないと殺すって言われそうです。」


「言ったことありますねぇ。あと服を武器にとは言っても武器にできるように普段から気を付けろって教えるだけですよぉ。服がないと寒かったり傷を簡単に負ってしまったりして逆に体力奪われますからねぇ。」


「戦争でもしてるんですか。」


「してますよぉ? 魔物とかとぉ。そのための授業ですねぇ。冒険者になる子には推奨してますぅ。戦闘に携わるなら一度は受けておいても損はしませんよぉ?」


「受けたことあるじゃないですか。」


 三回くらいでこれは新入生が受ける授業じゃないと実感した。おっそろしいもの。


 というか受講者の先輩は学生なのに歴戦の猛者みたいな顔してた。なんでぽわぽわしてる先生が教えられるのか理解できない。


「三回も持つなんて大したものですよぉ。一度で折れる子も少なくありませんからねぇ。」


 とか喋りながら敵を撲殺する先生しゅごい。


「このくらいの雑魚なら目を閉じていても勝てますねぇ。」


「先生めっちゃ強いですね。」


「強いですよぉ、先生ですからぁ。魔法はイマイチなんですけどねぇ。まともに使えたら良いのになぁとは思ってますぅ。」


「先生、属性は?」


「風ですねぇ。でも弱くってぇ、ちょっとした補助にしか使えませんよぉ。水とか土とか火なら他にも使えるんですけどねぇ。」


「なら四人とも属性違うんですね。」


「そうなんですかぁ?」


「先生は風、会長は火、俺は水寄りですが土も若干、先生は闇です。」


「あれぇ? 使えるんですかぁ?」


「後輩君のお陰。見て見て。」


 先輩の手が黒くなる。闇は確か影からぶわっと黒いのが出る奴だけど纏うくらいなら出来るのだろう。


「羨ましい限りですねぇ。」


「羨ましい?」


「闇は強いですよぉ? しかも見たところ適性も高そうですねぇ。でも残念ですねぇ……。」


「何がですか?」


「闇は接近戦だと強いらしいんですよぉ。詳しくはありませんけどぉ、吸収が基本ですからねぇ。」


「それは知らないですね。先輩は影からなにやら触手みたいなの出して使ってました。」


「私は何を教えたんでしょうねぇ? 確かに闇は適性の人が少なすぎて詳しくは知りませんけどぉ……普通の使い方をする属性ではありませんよぉ。」


「そうなの? 私も闇って知らなかったから何だろうとは思ってた。でも使えたし満足。戦えるわけじゃないって言われてたし私は私で出来ることがあったから鍛えようとも思ってなかった。」


「そうですねぇ……これを食べる印象で触ってみてくださいねぇ。」


 先生は骸骨を持って先輩に促す。精神力が削られそうな光景だ。


「こんな感……じ? あれ、消えた? 魔力がちょっとだけ回復してる。」


「普通の魔法は物を作るものなんですよぉ。雷や氷なんて特異な属性だって基本は変わらないんですねぇ。ところが光と闇だけ少しだけ特殊でしてぇ。光は生み出すものなので表面上は同じなんですけどぉ、闇は吸い込むものなんですよぉ。」


「…………魔法の印象と違った。でも教わった通りの手順でできた。」


「適性の高さでごり押ししたんでしょうねぇ。魔力不全って聞いてましたけどぉ、治っても闇属性なんて皮肉ですねぇ。」


「どんな感じでやるの?」


「普通の魔法と逆にする感じですねぇ。」


「逆……こうじゃない…………吸い込む……こんな感じ?」


 先輩は先生の手元から即席棍棒を取り上げた。

 おおっ!? 凄い!


「危ないですよぉ。」


「理解した。便利。距離は……練習次第かな。でもこれって……。」


 次の瞬間。先輩が落ちた。


 俺はぽかぁんとその様を眺めていた。そして少し後に慌てて先輩のいた辺りを探す。


 そこには真っ暗い何かが渦巻いていた。


 俺は思いきってそこに手を入れる。しばらくぐるぐるしていたら何かに手を捕まれたので思いっきり引き上げて抱きしめる。


「……っは……はぁ……はぁ…………。助かった、後輩君。」


「先輩のばかっ! 急に何やってるんですか!」


「つい……試してみたくて……ごめんなさい。中、息はできないし真っ暗だった。手を伸ばしてもらえなかったら上がれなかった。ありがとう。」


「次に急にやったら怒りますからね!」


「……分かった。」


「慌てすぎかなぁって楽観してましたぁ、すいませんねぇ。」


「私も完全に荷物だな……。」


「迷惑かけてごめんなさい。次はちゃんと言う。」


「迷惑だとは思ってませんけど心配するじゃないですか。」


「……心配?」


「したらおかしいですか? 先輩は結構手のかかる人なんですから。」


「……ありがとう。」


「お礼はいいですよ、仕事です。」


「……そこは私のためって言って?」


「美人で可愛い先輩の面倒を見られるとかご褒美です。」


「……バカなんだから。」


「……いつまで抱き合ってるんですかぁ?」


「なぁ、急に離れられると不安なんだが?」


「あ、来ましたねぇ。」


「ひっ。ひゃぁ……。」


 会長は現れたスケルトンを見て小さく悲鳴をあげ、更にその頭蓋が砕かれて小さく悲鳴をあげる。可愛い悲鳴。


「はいはい、今盾になりに行きます。」


「……今日は仕方ない。」


 先輩も若干物足りなそうだなぁ……。


「後でね。」


「……分かった。」


 さて、サクサクいこう。




 現在、三層。敵がゾンビに切り替わる。ここの凶悪なところは急に変わるとこだと思うんだ。


「気持ち悪い。」


「頑張ってくださいね。でもいざとなったら背負いますから無理はしないように。」


「……最悪だ。私はアンデッドだけは駄目なのにアンデッドでしかも臭う。なんて凶悪なダンジョンなんだ。」


「酷い嫌がらせもあったものですねぇ。あ、そこ罠ありますねぇ。」


「正解です。先生は比較的大丈夫そうですね。」


「キツいですけどねぇ。服に臭いがつくの嫌ですねぇ。」


「それは嫌ですね。」


「殴るとどうしても飛び散るんですよねぇ。かといって切ったくらいだと頭だけで動きますからぁ。君こそ大丈夫そうじゃないですかぁ。」


「まあ結構臭いますけどもっと酷いの嗅いだことあるので。」


 ゲームと現実の違い。ゾンビが臭い。


 ゲームだと会長は突入と同時に恐慌の状態異常。ただ全部燃やせば良いので無理に突破できる。


 でもトラウマになりそうなこの中を突っ切らせるほど俺は鬼にはなれないかな。


 そして腐った上に空気が淀んでるので超臭い。ゲームだと影響ないがやっぱり臭いは士気に関わるよね。


「アンデッドは面倒臭いですよねぇ。頭潰さないと動きますからぁ。」


「先生、変わりますか? 俺でも撲殺くらいなら出来ると思いますよ?」


「私より君の方が二人が精神的に楽でしょぉ? 私は大丈夫ですよぉ。敵も雑魚ですしぃ。」


 先生が強いんだよ。俺だと何度か殴らないと頭潰せない。

 先生の正確かつ力強く罠にも気を使って殴ってるのは本当に凄いと思う。


「実験して良い?」


「何をやるんですか?」


「ゾンビを落としてみたい。邪魔になるかとも思ってたけどこんなことなら早く言うべきだった。」


「良いですよぉ? フォローはしますぅ。」


「ありがとう、教諭。」


「来ましたねぇ。1……行けますかぁ?」


「まだ無理。もうちょっと……入った。」


 すとんとゾンビが落ちていく。


「倒した、凄い。これなら練習がてら楽にいける。」


「ならお願いしましょうかねぇ? ……やっぱり臭いついちゃいましたぁ。」


 慰めたいけど無理なのよ。動けないから。


 あと先生、申し訳ないけど寄らないで。二人が参っちゃう。先輩と会長孤立させるわけにもいかないし……ごめんなさい。

 戦闘終わったら抱き締めるから許して?


「……大丈夫なんですかぁ?」


「俺は大丈夫ですよ?」


「……もう一頑張りしますかぁ。でも戦闘はお願いしますねぇ?」


「任せて。やっと役に立てる。」




 ……さて、ボス戦だ。

 ここのボスは楽。


「グールですかぁ。」


「ただの脳筋です。先輩、行けます?」


「行ける。スポッと。これ楽しい。」


 さっきから下に落下して消えるのに見慣れてきた。


「それにしても……強すぎません?」


「魔力量と制御と適性の暴力ですねぇ。殲滅戦では強そうですぅ。」


「空を飛ばれるとまだ無理。あと早くても無理。遠いと届かないし閉じる前に逃げられたらどうにもならない。多分魔力が自分より強いと飲めない。でも慣れれば強いかも。」


「これどうやって倒してるんですか?」


「磨り潰してる。生きてると直接の吸収は出来ないみたい。」


「さてぇ、これからどうするんですかぁ?」


「先輩と会長は目を閉じてくださいね、手を引きますから。先生には驚いてほしいので黙って止まらず付いてきてください。」


 そして俺は壁の中心に突っ込む。久しぶりだなぁ。


 出た先で先生を待つとすぐに付いてきた。


「……これは気づきませんねぇ。」


「でしょう? 俺もよく見つけましたよ。さて、行きましょう。」


 俺は前を向いて先導しはじめる。すると先生が訪ねてきた。


「ところでぇ、なんで止まったら駄目だったんですかぁ?」


「壁にめり込むからです。」


「…………めり込むんですかぁ、怖いですねぇ。」


「先生も手を引きます?」


「…………悩みますねぇ。大丈夫ですけどお願いすれば手を握ってもらえるんですもんねぇ?」


「ああ、忘れるところでした。」


 俺は二人の手を離して先生を抱き締める。約束だから。


 うーん、普通に先生の匂いがする。やっぱり多少は他も混ざるけど避けるほどじゃなかったかな?


「そういえばここは臭わない。鼻がおかしくなってて気づかなかった。」


「……本当だ。」


「ほら、行きますよ。」


 俺は先生を前に抱きながら前へ促す。先生ちっちゃいから良い感じに腕に収まるなぁ。


 俺達は歩いてやがて膜をくぐる。


 俺は前へ出て振り返り、三人を見た。


「お疲れ様でした。ようこそ、ハグレの草原へ。これはこれで綺麗でしょう?」


「…………凄い……ですねぇ。」


 見渡す限りの一面の草原。先ほどまでの閉塞感はどこへやら、空の青と緑の世界だ。


 風はないが息苦しさなどは感じない。


「言われてしまうのは仕方がないのかのぅ……。ようこそ、ハグレの草原へ。風と取り合っただけあって広大でいいところじゃろう?」


「俺は泉の方が好みですけどあのダンジョンを越えたあとだと凄く開放的で心洗われますね。初めまして、土の精霊王。話は水の精霊王から?」


「聞いておるよ。そのうち来るんじゃないかのぅ?」


「来れるんですか?」


「来れるよ。また足を運ばすのも悪いと新しい顔を見せたら来ると聞いておった。呼んだから暫し待て。」


 現れたのは土の精霊王。白い立派なお髭がチャーミングなマスコット的小人のお爺ちゃんだ。

 今は高さを会わせるのに土の塔みたいなのに乗っている。


「とりあえずお聞きします。また来ていいですか? お弁当持参とかで。」


「荒らさなければいいよ。その時は儂にもなにか振る舞っとくれ。」


「それは是非。」


「本当は儂らも手伝えればよいのじゃがなぁ……儂らは存外忙しく外界にも出れん。契約者が来てくれれば良いのじゃがなぁ。精霊と親和性の高そうな善良な人間、誰か知らんか?」


「俺には精霊との親和性などは分かりません。」


「最低でも魔力が膨大な人間じゃな。あとは個々の相性の問題じゃから会ってみんと分からん。」


「そうねぇ。多分そこの赤いお嬢さんは火と相性いいんじゃないかしら? 今度会ってみたらいいわよ。」


「来たか、水の。」


「愛称でもいいのよ?」


「そこの小僧に名前を知られても良いんか?」


「バレてるもの、仕方ないわ。」


 まぁ……名前知らなくても四大精霊と言ったら、ね?

 というかまんまなの?


「貴方の世界にはありふれていたのかもしれないけれど、この世界ではただ一つの私を指す言葉よ?」


「なら儂も分かるんか?」


「ノからの人?」


「合っとるのぉ……恥ずかしいから呼ぶでない。」


 恥ずかしいの? 変なの。


「……では改めて。試練の合格者よ、汝は力を望むか?」


「そのために来ました。」


「お嬢さん方はどうかのう?」


「力は欲しいが与えられるものに価値を感じない。」


「後輩君に迷惑はかけたくない。」


「……単身で魔王を倒せるようにならないとならないそうですからぁ。」


「良かろう、意思があるなら授ける。」


 前回は水色だったが今回は黄色のふわふわが胸に入っていった。……先生以外。


「…………む? 弾かれるのぅ。何かと契約しておるのか?」


「してませんよぉ?」


「少々触れてもいいかしら? 私も貴方を詳しくは知らないの。」


「良いですよぉ。」


「では失礼するわね。」


 水の精霊王が先生のおでこに手を当てる。なんだか妹の熱を測るお姉さんみたいだ。


「…………貴方、悪魔の子ですね。」


「敵ですか?」


「そうかっかしないでくださいな。比喩ではなく事実です。貴方も察していたでしょう?」


「………………そうですけど。」


「……それ……ってやっぱり……事実……だったんですねぇ。見ないふりしてましたがぁ……。」


「貴方は能力が強く出てしまったようですね。」


「やっぱりですか。」


「えぇ。……精霊王の加護は悪魔の力と反発しますけれど。本当はここまでしないのですよ? ちゃんと感謝して私もピクニックに混ぜてくださいね?」


「邪神を倒したらみんなで打ち上げしましょう。」


「……ごめんなさいね、貴方の命を貰うわ。彼女と共に生きてあげてくれる?」


 精霊王は真面目な顔でどこからか一匹の精霊を呼び出した。……命を貰う?


「貴方に水の精霊の加護を。」


 精霊王は手元の精霊を先生の方へ向かわせ……それは先生の胸元に吸い込まれた。……えぇ!?


「何が起きました?」


「彼女は善良で良い魂をしていました。なので悪魔の力に振り回されないよう精霊の加護を授けました。」


「精霊王の加護……ではなく?」


「そうですよ。私の力では反発してしまいますが……自我のない精霊を一つあげて力を授けました。……本当は駄目なのですけど、邪神は倒してもらいたいのです。でないと持ちません。知っているのですよね?」


「知ってますね。次の魔王の復活で魔王は自我を失い邪神は万全になり世界は打撃を受ける。その次は持たない。」


「そうですね、猶予は200年というところ。100年前後で魔王は復活しますから。実質今回が最後なのですよ。」


「俺達には直接関係はありませんけどね。……俺はこの世界が大好きですから。」


「だから世界は貴方を呼んだのでしょうね。……憐れな魂、私達が不甲斐なくてごめんなさいね。きっと貴方を殺したのは私達です。」


「運が悪かったんですよ。事故ですから。」


「でもその運命を引き起こしてしまいました。私達は世界を守っているはずなのにその悲鳴に気が付かなかった。だから……重い宿命を背負わせてしまったから、せめて幸せになってほしいのです。」


「ありがとうございます。」


「水は相変わらず悲観的だの。儂はそれもまた運命、その時は儂らが命を賭けるときだと思っているがの。人間に背負わせるにはあまりに重く辛い責任、魔王でさえ儂らにはどうしようもできないのだからせめて邪神などは気にさせないのが儂らの仕事だとも思うのぉ。」


「土はいつもそうですね。確かに重く苦しい責任で、とても辛く悲しい道のりです。でも、私はまだ人を見ていたいのですよ。人の可能性を信じたい、それでは駄目なのでしょうか?」


「それは見解の相違じゃよ。変わらぬのは儂とお主は人間に友好的だと言うことだけじゃ。……先ほど、力を与えたときに小僧の覚悟は感じた。止めはせんよ。そして……儂も、土の力を授けよう。」


 今度は土の精霊王が先生に精霊を向けた。精霊は貰う光の玉より大きい光の玉だから力が強いのかな?


「…………ありがとう、ございますねぇ。」


「力を持てば責任が伴う。最低でも魔王の討伐は成さねばならん。それを担う覚悟はあるのだろう? ならば儂に礼はいらんよ。小僧にでもくれてやれ。」


「ロレンス君、ありが…………………………あ……。」


「なんですか、先生? 俺の顔見て?」


「………………服の下が見えます……。」


「いやん。」


「…………………………目が、良くなりましたぁ。目が……目がぁ!」


 メガメガ良いながら先生が抱きついてきた。危ないよ、先生。俺は師匠ほど足腰が強くないんだ。


「少しは制御出来るようになったのでしょうか? でも酷使すると失明しますよ? ちゃんと視覚と処理能力を増強してくださいね。」


「…………悩んでたんですよぉ。ずっと、変でしたからぁ。特異な一族で、その中でも異質。ずっと、心に刺さってたんですぅ。ロレンス君は信じてましたけどぉ……やっぱり実感すると抑えられませんねぇ。もうそんな、子供でもないのにぃ。……本当に、本当に、本当に……本当に。ありがとうございますぅ。約束を守ってくれて、ありがとうございますぅ。」


「俺はなにもしてません。…………よく、頑張りましたね。もう一人じゃありませんよ。」


「う……うぅ…………ううぅ……うぁぁぁぁぁぁ!」


 先生は今まで塞き止めていたものが決壊したかのように大声で泣いていた。

 ちょっとどうするか悩んだけど聞こえないことにして抱き締めておく。


 なんか、おっちゃんとねぇちゃんと先輩と会長が驚いて凄く間抜けな顔をしながらしかし生暖かく見てくるけどそれも知らないことにした。




「…………お見苦しいところを、お見せしましたぁ。」


「随分と大泣きでしたね。喉とか目とか大丈夫ですか?」


「大丈夫ですけどぉ……大人なのにぃ……先生なのにぃ……泣き縋るだなんてぇ……彼に振られたときもここまで泣かなかったのにぃ……。威厳がぁ……それに…………恥ずかしいですぅぅぅ……。」


 先生は顔を両手で覆うが結構凄いことになっていたので俺は世話を焼くことにした。


「ほら、顔拭いてください。鼻もかんで。……じゃあ俺も恥ずかしいことするので落ち着いてくださいね。」


 俺は先生のおでこにキスをする。先生は口をぽかーんと開けて呆けていた。

 俺は恥ずかしくなってそっぽを向いた。


「………………夢みたいですねぇ、やっぱり王子様でしたぁ。……また泣きそうですねぇ。こんなに優しくしてくれた人はいないんですよぉ。」


「見る目がない人達ですね。」


「……ありがとう、ロレンス君。私を見つけてくれて。」


「俺に話しかけてきたのは先生ですよ。」


「……そうですかぁ。きっと今の私はゲームの私より強いですよぉ? もう凄く頼りにしてくださいねぇ?」


「してます。」


「この子のためなら、魔王だろうと邪神だろうと倒せそうですねぇ。」


「邪神を倒すのなら気合いを入れねばならん。仮にも神殺し、普通の人間には成せんよ。力を付けねばならん。」


「分かってます。」


「それと小僧。」


「なんですか?」


「貴様、精霊の親和性が高いぞ。儂と契約できる。」


 俺は魔力強くないのに。


「あら、本当? どれどれ……あ、私も満たしていますね。けど……アクアちゃんに嫌がられてます。懐かれたのですね。」


「懐いたのアクア?」


 さっきまでどこかにいっていたアクアがやってきてふわふわ縦に動く。


「戦闘に呼んでくれなかったのは何でだって怒ってますね。……ふふっ、可愛い。」


「そういえばアクアには自我がありますよね?」


「ありますね。比較的強い子を選んだのですよ? 私と契約するには足りなかったのですよね。」


「待てば良かったじゃろ。」


「もう来ないかもしれないではないですか。」


「貴様は悲観的じゃな。来ると言っておるのだから来るじゃろう。」


「邪神と戦う前に来なければ意味がないのですよ。」


「それもそうか。」


「でもアクアちゃん? 私は仕事があるし力も強すぎるから本当にいざってときにしか手を貸せません。それでも私と契約すれば彼は水の適性が上がりますよ? アクアちゃんも沢山遊んでもらえるんじゃないかしら?」


 アクアは俺の周りを飛び始めた。どういう感情?


 これは構ってほしいときにたまに見る。可愛いよね、ふわふわしてるし。


 触れないけど。触ろうとしたら怒られるけど。


「ふふふっ、本当に懐かれたのですね。何をしたのでしょうか?」


「魔力をあげたり構ってほしそうだったら反応見ながら話したり。勉強を一緒にしたりお風呂入ったりご飯あげたり。あとは魔力の制御を教えてもらったりしてましたね。」


「後輩君の女誑し。精霊まで誑しこんだ。」


「そうですね。でも私達の感情は人間とは違うから安心して良いですよ?」


「それにしても俺、魔力の量も適性も全然ですけど親和性高いんですか?」


「不思議なことにそうですね。魔力は鍛えたから基準に達しましたけれど、適性はどうしようもないはずなのです。土なんて本当におまけ程度の力だったのに適性があるとは驚きました。」


「儂も驚いたが先にお嬢さんを対処しないといけなくて驚き損ねたわい。見て気づけなかったことも驚いたのぅ。」


「私もそうでしたね。この子好きだわ、嫌いだわって適性は分かるものなのに不思議でした。」


「逆に魔力の適性を持っているのに思わなかったのがおかしいのかのぅ? 風や火にも確認したいところじゃが呼んでも来んじゃろう。」


「来ないでしょうね、彼らは人間が嫌いですから。一応伝えましたけど素っ気なかったですもの。」


「行けば対応はするはずじゃがなぁ。……それで、契約するかの?」


「まだ呼べませんけどね、魔力が足りませんもの。本当に契約できるだけです。でも魔力の適性は上がるから損はないですよ? アクアちゃんのときもそうだったでしょう?」


「……それってしても大丈夫なんですか?」


「大丈夫ではないでしょうか? 私達と気が合うのって人間としては少しずれていますからね。」


「らしいのぅ。孤立するとは聞くな。」


「俺も確かに孤立はしてますねぇ。」


「あれは向こうが悪い。」


「とにかく、問題はないはずじゃ。適性は本当に少ないからのぅ、儂らは過去に出会っておらん。風と火は出会って酷い目に合ったそうじゃよ。契約者自体は悪くなかったのだが周囲が差別したり兵器扱いしたそうじゃ。ろくな最期ではなかったと言っておったな。」


「……世界的に、大丈夫ですか?」


 防衛戦力足りるのかな?


「邪神と戦うなら儂らの配置は貴様が決めると良い。共に戦うか、世界を守るか。正直守りに専念しても余波が凄いことになるじゃろうから守りきる自信はないわぃ。」


「多分守りきれないですね。ボロボロになって荒廃していくって結末があります。」


「じゃが手薄にしたら滅びかねん。」


「そこも分かります。……俺は無傷で終わらせたいですけどね。」


「そんなことが出来るのか?」


「条件さえ揃えれば。」


 結構鬼だけどね。魔王を味方につける……無傷で正気に戻すが前提だから。

 あとはメインヒロインちゃんを聖女ちゃんに覚醒させなきゃいけなかったりそれでも世界への被弾の回数に限界があったり。


 さらには攻撃が一度当たったら詰みぞ? 改めて考えると相当鍛えないといけない。


 一応二度までのバリアは聖女ちゃんの覚醒段階次第で選べるけど負担的な問題でキツい。バフ、回復、世界の保護にバリアとヤバイレベルの重労働になる。


 相手も考えてくるだろうしパターン変わることも想定して知らない攻撃も想定して。

 デバフとバステ無効はキツいなぁ……。全攻撃半減してくるしこっちも動きにくいだろうし。


「でも不可能じゃない。倒さなければいけないのなら……どうせなら、最善で。俺は笑い合う姿が見たいんだ。もう二度と魔王が苦しまず、魔王の部下が苦悩せず、俺達に魔王の恐怖が訪れない。そんな未来を。」


 歴史にはなんて書かれるだろうな。魔王を生かした化物とでも書かれるかもしれない。


 もし人間にとって悪に見えても俺は魔王を殺してしまったら一生後悔する。彼の自我も限界なんだ。


 だから助けたいと言う気持ちに変化はない。ただメインヒロインちゃんがどうなるか読めない。

 誘導して強制的にって言うのは絶対違う。


「……そうか。どれ、耳を貸せ。」


 言われた通りにすると耳を掴まれ囁かれた。


「儂の名はノーム、覚えておけ。言いふらすなよ?」


「では私も……私はウンディーネよ? 恥ずかしいから広めないでね?」


 合ってた。


 契約って言われたけどなんか変わったか?


 とりあえず試してみようか。


「そいっ…………っと、これはまた。」


 小指くらいの水球を出すつもりだったんだけどな。拳大になってる。


「……チートや。」


「ちーとってなにかしら?」


「ずるのことです。」


「確かに、正しくズルですね。でも代償は付きますよ? そもそも魔王討伐だって大変な騒ぎなんだから。邪神の討伐なんて本当に世界を背負うのと代わりありませんよ。貴方がそれを背負う覚悟があるから私達は細やかながら手を貸すつもりになったわけです。もし悪用しようものならこっちから切れますからね?」


「どこまでが悪用ですか?」


「それを使って世界征服しようとしたり魔王とか邪神とか全部放り投げちゃったりは駄目ですよ?」


「これで人を脅すのはありですか?」


「そんなの無しよ……と、言いたいのだけれど言えないわよね。やり過ぎは駄目よ? アクアちゃんが監視してるんだから。」


「アクア、スパイなの?」


 アクアは俺が問うとその場でふるふる動き出した。震える感じじゃなくて小さい範囲を忙しなく動く感じ……言い訳してるのかな?


 えっと、ちがうの! みたいな感じで。


「凄いわね、貴方。大体そんな感じよ。」


「……心読まれたぁ!」


「契約したもの、目の前にいれば大体何考えてるのかくらい分かるわよ。そもそも元々少しくらいは読んでいたじゃないですか。」


「そうなんですか……。」


「それはそれとして、アクアちゃんにあまり意地悪してはダメですよ? 私が聞いたら断れませんから。それでも必死に弁解してくれたのよ。貴方が無闇に人を傷つけていないことも話してくれました。」


「アクア、俺の代わりに怒ってくれたの?」


 ……あ、分かってないな。


「俺が色々言われたとき、アクアは大人しかったけど。弁解してくれたんでしょ?」


 縦に大きく揺れる。肯定だ。


「ありがとう。」


 これは……照れてるんだろうか? 震えてる。


「本当に凄いのね、大体合ってますよ。」


「ならよかった。俺も合ってるか不安だったんですよね。不安ならアクアに聞いてますけど俺が一方的に話してる状態ですからね。」


 アクアは俺の周囲を飛び始めた。上下に波を描くように飛んでるから……。


「撫でていいの?」


 肯定来た。合ってたね。


「いつもありがとう。」


 触るとほんのりあたたかくてつるつるしてる。電球みたい。


 勝手にやると怒って小刻みに素早く縦に揺れるけど許してくれたときに撫でないと拗ねるんだよね。


 やっぱり女の子なんだろう。複雑だ。


 アクアは満足したのか俺の目の前で横に円を描き出した。地面と水平、俺に対して垂直の方向だ。


「満足したなら良かったよ。」


「仲良いのね。やっぱり何かの影響があるのかしら? 貴方はどんなところで育ったのですか?」


「前ですか、今ですか?」


「今ですよ。」


「畑しかないところで森を遊び場に。」


「それもあるでしょうね。自然に慣れ親しんだ人ほど精霊とも親しみやすい。でも貴方の親和性の高さはやっぱり不思議の一言ですね。何か分かったら教えてくださいな。」


「精霊王に分からないものが分かるとも思いませんけどね。」


「私達は知らないけれど邪神がいるのだから善神もどこかにいるかもしれないでしょう? 邪神は世界の外にいるから外に出れば会えるかもしれないですよ?」


「会ったら蹴り飛ばしておきますね。思うところはあります。」


「程々にしてくださいね。……さて、お帰りなさい。アクア、帰りはちゃんとしてあげるのですよ?」


 アクアが縦にアーチを描くように横に揺れている。知らない反応だ。


 否定系か? でも嫌じゃないな、縦にも揺れてる。


「……言われなかったから知らない?」


 今度は縦に円を描く。向きとしては地面に垂直、俺に水平。だいせいかーいってところだろう。


「本当に凄いわね。」


「アクア、何か出来たの?」


「匂いを防ぐ防護膜みたいなものを作れるはずですよ? 衝撃には弱いけれどどうやら大丈夫そうじゃないですか。」


「……アクア、意地悪してたの?」


 横に反復横飛び、否定。


「魔力が足りなかった?」


 右斜め下へのアーチ、微妙か。


「指示しないと行動できない。」


 楕円の縦円、おしいってとこか。


「行動が読めないから変に動けなかった。」


 上下移動、正解。


「なるほど。確かに伝えてなかったしどう動くかも分からないか。勝手にやって邪魔になっても困るだろうから出来ないね。じゃあ帰りはお願い。多分一定範囲から出ないから。」


 話せないもんなぁ……不便だ。


 一応肯定が来たから大丈夫かな。


「相性ぴったりね。」


「アクアもどうにか根気強く伝えてくれますから。普通に人間相手だと二、三回で伝わらなかったらお互い諦めちゃいますよ。アクアは凄いと十回越えても付き合ってくれますからね。」


 最初の方は結構難儀した。肯定すら肯定って分からないからそれって肯定って聞いて肯定のお返事もらったり。


 怒ってる反応も分からないから色々聞いた。


「…………でもあれ? 戦闘に呼ばなかったの怒ってたんだよね?」


 アクアは動かない。肯定も否定もしない。


 ……真球だから中心を軸に回ったとしても分からないけど、今すっと顔を逸らされた気がする。


「……もしかして、拗ねてた?」


 アクアは精霊王の後ろに飛んでった。図星か!


「……はぁ。怒らないから出てきて。」


 球体が肩の隙間からほんの少しだけ見えた。結構感情豊かだよな、アクア。


「本当だよ。俺も何が起こるか分からなかったんだから呼ぶべきだった。」


 アクアが出てきて波状に……はいはい。


「次は教えてくれな? 俺は魔力の制御が全然だから薄い膜とかそんな難しいことは出来ないんだ。出来るとも思わない。教えてくれると助かるよ。」


 肯定来たから仲直りかな。


「……後輩君は私達のことを知らなくてもきっと心を読んでいたと思う。」


「それは無理ですよ。性格が分からなければ予想がつきません。アクアは分かりやすいですからね。先輩のように一発アウトにはなりませんし先輩は頭の巡りが早いから追い付けません。会長だって眩しさに目が眩んで少しの影には気づきませんよ。」


「私も気付かれていたと思うぞ? 時期は遅れるかもしれないがな。」


「遅れたら意味ないんじゃないですか?」


「そういう話ではないだろう。君は目端が利くという話だ。」


「それはどうもありがとうございます。でもアクアのこれも時間の積み重ねですよ。ね、アクア?」


 ほら、頷いてる。


「大切にしてくれてありがとうございます。」


「アクアはアクアですから。感情があって話が通じるんですから話をしたい。……帰りますね、予定が詰まってまして。アクア、お願い。」


 俺は長居しそうなところを抑えて引き返した。


 帰り道は確かに匂いがなくなって快適だった。アクアには感謝だ。


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