23 父
本日三話、二話目です。
翌朝。俺は痛みで目が覚めた。
目を空けて確認するとそこにはひっくり返った悲しそうな先輩、会長が立っていた。
ひっくり返ってるのは俺か。
えっと、昨日は……あー、なるほど?
「誤解です。」
「何が?」
「多分そこで寝てるだろう先生を起こして確認してもらえれば分かります。これは陰謀なんです。」
「言い訳は聞きたくない。私は悲しい。」
「本当に誤解なんです。多分俺あのあと寝落ちしたんですよ。断じて絶対にえっちぃことはしてません。危なかったですけど耐えました。なので悲しまれると耐えた理由が消えます。お願いですから話を聞いてください。」
見え……ないか。この角度じゃどうやっても。ヒラヒラしてて気になる。
……先輩も会長も逆さでも綺麗だ。
「…………騒がしいですねぇ。…………あー、誤解ですよぉ?」
「反応一緒。示しあわせた? そんなに我慢できなかったの?」
「聞いてませんね、先輩。」
「していいなら襲ってましたよぉ。これは損しましたねぇ。寝たあとに襲えばよかったですぅ。」
「それって普通逆では……?」
「私は君の寝顔と匂いでクラクラしてましたよぉ? 意識が興奮しちゃって全然寝付けませんでしたぁ。でも良い感じでしたねぇ。寝たあとなら怒られないので近くで寝たあと静かにかつ迅速に忍び込むといいですよぉ。」
「……朝からやだぁ。」
「押しには弱いんですねぇ。」
「…………本当に何もなかったの?」
「彼がそれを望みましたからぁ。本当、責められるのは可哀想なくらいに貴方達を思って、私を思って踏み留まってたんですよぉ? そして約束してくれましたぁ。私は信じて待つことにしますよぉ。いつでもウェルカムですけどねぇ。」
俺は一人ひっくり返ったまま顔を覆う。少し恥ずかしい。頭ぼーっとしてたから変なこと言ったかも。
今聞こえる上空の会話で更に恥ずかしくなる。
「……何を言われたの?」
「片想いは嫌なんですってぇ。」
「片想い?」
「あー、あー、あー、あー!!!!」
この大空に翼を広げて飛んでいきたいよー! 召されるぅ! 言わないでぇ!? 夜のテンションだったのぉ!
昨日は甘えた気がするし……言わないでぇ!!
「私は惚れ直しましたけどねぇ。」
「恥ずかしいんでそういうことも言わないでください!」
「……何かいい感じでずるい。」
「……なるほど。これなら私も同じようになるチャンスが……。」
「会長こうなりたいんですか!?」
恥ずいよぅ……また寝ようかな……。
「いっそ貝になりたい。殻に隠れたい。あぁー……。」
「でもいつもあんな感じですよねぇ?」
マジで!?
「…………うぁー……あー。」
「人間って恥ずかしくなると話せなくなるんですねぇ。」
俺は恥ずかしい奴やったんやぁ……。
「格好よかったですよぉ。」
駄目だ、お世辞の最後にwの幻聴が聞こえる。重症だ。心の回復魔法を誰かください。
…………あれ、なんかほんの少しだけ落ち着いて……?
「……アクア? 心配してくれたのか?」
アクアがぴょんぴょんしている。肯定のようだ。
「……ありがとう、アクア。落ち着いたよ。」
「まだ真っ赤。」
「これは逆さになってるので頭に血が上っただけです。」
俺は一度降りて立とうとして……床に伏せた。
「何してるの?」
「そういや嵌められてたことを思い出しました。俺は伏せてるのでさっさと着替えてください、死んでしまいます。」
「……本当に何もなかったんだ。ごめんね、聞かずに怒って。」
「それはいいんですけど。起こすなら先生を先に起こしてほしかったです。」
「つい衝動的に。」
この人結構子供だよな……。
「……着替えがぁ、そっちなんですよねぇ。」
「会長、取ってあげてください。あとお湯でも貰ってきてあげて貰えると。俺が行くと邪推されてからかわれるので。奥様に。」
「あぁ~……そういうのはしないですねぇ。むしろなんで手を出してないんだって驚くことでしょぉ。」
「一時の情熱で終わらないからです。昨日先生が言ったんじゃないですか。」
「……これ共有するより独占したい。やっぱり依存させようかな。」
「明らかに健全ではない香りがするから私が止めるぞ。……そうか、私は後輩+αのお守り役……というより理性か。役回りを理解してきたぞ。」
「なんて悲しい役回りでしょうね。自重します。」
「……捨てられるよりはマシだと思います。」
「我慢しますぅ。」
三人に分身できたらいいのに。分身のスキルはあるけどそれには実体がないからな。
「結局会長が一番強いんだなって。」
「……名前では呼んでくれないのか?」
「会長は卒業しても会長って呼びますよ。特別なときかやむを得ない時しか名前は呼びません。先生も先輩もそうでしょう。……恥ずかしいので。」
「羞恥心の場所がずれてますねぇ。」
なんかこう……主張してるみたいで。小さい犬がきゃんきゃん吠えてる印象を持ちます、はい。
「身内だけの時は名前で呼んでくださいねぇ。」
「身内になったらですね。」
「呼んでくださいねぇ?」
「何で急に……。」
「呼びなさいねぇ?」
「……先生の意地悪。」
「呼んでぇ?」
「……分かりましたよ、ベル。」
「ずるい。」
「ネスって呼べばいいんですね分かりました。」
「……私は三文字だから愛称にする必要がないんだよな。」
「そうですね、セイラ。俺としては綺麗な名前だと思いますし前世でも見た名前なので呼びやすいです。」
聖愛って字を見たことあるな。会長らしい。
「好きですよ、会長の名前。」
「……むむぅ。地に伏せて言われると複雑だ。」
まだ座れないんですよ。朝の生理現象がちょっと遅れて来たみたいで。
「ところで、いつになったら俺は起き上がれます?」
「今支度をする。待たせて申し訳ないな。」
やっと朝が始まる……。
会長は二人分のお湯を貰ってきてくれた。朝からお湯を使うなんて贅沢だと今でも思うが汗臭いのは嫌なのでとてもありがたい。
着替えは何故か用意されてたから手早く済ませてしまおう。
俺は服を脱いで用意をしていく。
「……あの、凝視されると流石に恥ずかしいんですけど。」
「ごめんね、つい。そんな風になってたんだ……。」
背を向けてるのに感じる熱視線。言っても直らない。……見ないでぇ。
恥ずかしいから見ないでぇ。
俺は羞恥心に急かされるままそそくさと用意を終わらせる。
「……よし、終わった。俺は出てますね。」
そうして俺は壁沿いに蟹歩きをして部屋を出た。
着替え終わって朝食を食べるとき、凄い微妙そうな方達と顔を合わせた。
「誰の陰謀ですか?」
「私です。……結局しなかったんですか。」
「学生と教師の不祥事は不味いでしょう。バレなければじゃないんです、バレたらおしまいなんです。」
「…………よくやった。」
「お褒めに与り光栄です。」
「……ただのヘタレの癖に。」
貴方はどれなんですかね? やっぱり読心かしら?
「知らないのに言うものじゃありませんよぉ。母様もそう思いますよねぇ?」
「…………そうね。これで手を出さないのは一周回って信念ね。そこに惚れたのかしら?」
「他にもありますけどねぇ。」
「……手を出していれば意地でも反対した。出さなかったから引き続き任せる。」
「……なんか仲良くなってませんかぁ?」
「………………気に入らないが私も待つことにした。本当に三年で迎えに来れなければ見込みなしと見て切り捨てる。ベルも覚悟しておきなさい。……彼に尊敬される教師でいたいなら自分の感情とは別に実績も出させること。そう教えていくこと。分かっているな?」
「分かってますよぉ。認められてよかったですねぇ。」
「……冷めますよ。」
何で朝から恥ずかしい思いしなければならないのだろう?
昨日の自分はよくやったが同時にいらないことを言い過ぎだ。もっと制御せねば。精進精進。
「……さて。一度戻りますか。仕事と荷物とあるでしょう?」
「午前中には終わる。」
「私は終わらせてきたので荷物だけ持てばすぐですねぇ。」
もう10時過ぎてるから会長も先生も問題はないっと。
「先輩は大丈夫ですか?」
「……仕事は終わらせたけど旅行支度忘れてた。」
あらら。やっぱ手伝い必要だったか。
俺達は屋敷を後にし、それぞれ支度を済ませることになった。
俺は済ませてあるが先輩はまだらしいので俺もちょくちょく手伝った。
そして最終的な荷物は鞄一つに収まった。……収めた。
鞄(異空間バッグ)に収めた。荷物はその実いっぱいある。
なんか高級そうなものいくつも見えたけど気にしない。箱ごと放り込んでたものもあるけど知らない。
なんか思ったよりすっきりしてたのってバッグに詰め込んであったからなんだなぁ……これもそのうち整理しないと。
そんなわけでいるものいらないものの判別というよりも置いておけないものの処理が大半だった。機械止めたり書類に罠張ったり物によっては放り込んだり。
そんなこんなで終わったのは……なんと午後3時。途中から四人体制だったのに。
だが少し遅くはなったが出発することになった。時間は惜しい。
……出発から二日後の昼。思ったより早く着いてここってこんなに近かったんだなぁって思った。
「凄い。本当に何にもない。畑と家しかない。」
「そうですよ。先輩達は姿変え外さないでくださいね。多分騒ぎになるので。」
俺は馬車で家の近くまで隠れてきたが村の人間が何事かと見に来ているので俺が見つかる。
多分……どころか確実に騒ぎになる。送り出されるときも凄かった。可愛がられてるなぁ……。
「……しばらく降りたら駄目ですからね?」
俺は全員に再三言い含めて……俺自身も覚悟して馬車を降りた。
「あ、坊だ!」
「なんだ坊か!」
「何したらそんな豪華な馬車で帰ってくるんだロレンス!」
「元気だったか!」
「これさっき採ったんだ、今日の晩飯にでもしてくれ!」
「ならこれもだ! 沢山食えよ!」
俺はやって来た村人によって揉みくちゃにされた。やっぱりだよ。
「ちょっと皆、落ち着いて! 説明するから! 一度静かに!」
「何を説明してくれるんだ?」
俺は手でちょいちょいっとその場にいる人間を集める。集めて円陣を組む。
「これから話すのは秘密な? かみさんとかにも言っちゃいけない。俺が帰ってきたこともだ。」
「何でだ? 皆喜ぶぞ。」
「それなんだよ。今回は本当に明日明後日には出ないといけないんだ。本当は一人一人挨拶したいけど出来ないから秘密にしといてほしい。」
「……それだけじゃないんだろ、その言い方だと。」
「流石木こりのおっちゃん、勘がいいね。……実はお偉いさんの護衛なんだよ。ちょっとあちこちに視察行くついでに寄ったんだ。」
「それは……お忍びって奴か?」
「ちょっと違うかな? お偉いさんがいるって分かったら皆パニックになるだろ? 視察ってのは普通通りじゃないと意味がないんだ。」
「ほー? お貴族様も大変だなぁ。」
「あんまり広めたくない事でもあるのは確かだよ。だから黙っててほしい。馬車の話が出たら俺の遣いらしいとでも誤魔化してくれない?」
「んー……分かった。ならちゃんと帰ってくるのはいつだ?」
「結構遠いからね。冬に帰れればいいけど無理だと来年になっちゃうかな? 俺も色々忙しくなっちゃって。でも皆の暮らし向きが良くなるように頑張ってくるから。色々見て勉強してくるね。」
「そうか。無理はすんなよ?」
「分かってるよ。俺がいなくなったら父さん一人になっちゃうだろ。……俺が行ってから父さんどう?」
「気落ちしてんなぁ……手紙で帰ってこれないって言ってたって聞いたけど急だったのか?」
「急だった。本当に少し前に決まったんだ。近いから寄ろうみたいなノリで。当然俺に拒否権はない。」
「そっかぁ……分かった。早く顔見せてやれ。」
「そのつもり。くれぐれも頼むよ? 次帰ってくるときはお土産持ってくるからね。」
「おう、待ってるぞ。」
そうして村人は解散した。口封じも完璧だ。
「お待たせしました。今父さんを呼んでくるので少し待っててくださいね?」
「…………いつもあんな感じなの?」
「ああ……そうですね。粗暴で申し訳ありません。」
「いいんだけど……なんか羨ましかった。」
「羨ましい……ですかねぇ?」
「少し分かるな。君は私にああは接してくれないし、君が慕われているのもよく分かった。」
「可愛がられてますね。俺は父さんと村で育ちましたから。きっと息子か弟子か孫くらいの感覚なんです。村の同世代だって兄弟と変わりありません。一応領主やその息子として接することもありますけど普段は貴族と平民なんて意識してません。むしろ俺達は貴族擬きの平民くらいなんですよ。……さて、見つかると厄介なので行きますね?」
「私達も行く。」
「……来客の準備しないとなので。」
「付いていかせて。」
「はぁ。……ロレンズのおっちゃん、ちょっと待っててもらえる? 馬車の置場所確認してくる。」
「おう、待ってるぞー。」
「ありがと。行きますよ。」
俺はぞろぞろと連れて門を……普通に開けて、ドア……も普通に開けて堂々と中に入る。
この時間……というか大体ここのドアは開きっぱだ。鍵がかかってたら外出してるか寝てる。
多分この時期この時間だと父さん達全員畑にいるんだよな。呼び行かないと。
「応接室は……確か使えるはずです。こっちですね。」
「……鍵は?」
「かけてません。盗られるものもありませんしもし強盗に入られたら村人総出でリンチですよ。一応書類のある部屋と私室には鍵がありますけどあんまりかかってませんねぇ。村人に教えられない重要な事って少ないんです。むしろたまに他所の子供がいたりしますよ? 文字の勉強してたり算数してたり。軽い学園代わりですね。」
「…………ちょっと想像と……。」
「違うでしょう? だから世界が違うって言ってるんですよ。……ここですね。掃除してるかなぁ……。」
掃除は……してるね。良かった良かった。
「……応接室?」
「椅子とテーブルがあるだけマシです。客間にはベッドと椅子とテーブルしかありません。二階はそもそも靴で歩くように出来ていません。固いですけど座っておいてください。」
「…………なるほどぉ?」
「これを貴方達が生活に不自由を感じないレベルまで上げるのが俺の仕事です。」
そこでガチャっとドアが開いた。あれ、この時間に誰かいるなんて珍しい。子供の誰かがいたのかな?
俺はドアを振り返り……目を見開いた。
「なんでいるの父さん!? 呼び行こうと思ってたのに!?」
「……いるって聞いて走ってきた。バーンズに聞いた。」
「木こりのおっちゃぁん……。」
「………………そちらが、お客様か?」
「そうだよ。……あいたっ! なんで殴るの!?」
「うちの愚息がお世話になってます。何かやらかしましたか。こいつは昔っからやんちゃばっかで……。」
「順番逆でしょ! せめて聞いてから殴ってよ!」
「……何かしら良からぬことはしてるんだろうと思ってた。だがお偉いさんに連れてこられたと来ちゃあ……やらかした以外にあるか?」
「人前なんだからとりあえず頭掴んどいて後で殴ればいいじゃん!」
「……それもそうだな。」
「殴られ損だ! 俺頑張ってるのに!」
「何をどう頑張ったら勉強に行ったはずの息子から高額の仕送りが来るんだ? まさかお前、人を騙して巻き上げてるんじゃないだろうな? 母さん泣くぞ。」
「やってないよ! 父さんも泣くじゃない!」
「父さんは泣かない。生まれてから一度も泣いたことがない。」
「嘘つき! 人間は生まれたときに泣くんだよ!」
「あれは叫んでるだけだからノーカンだろ。」
「そんな話があるもんか!」
「なら何がどうしたらそうなる?」
「……すいません、私のせいですね。」
…………あぁ!? 姿変え外してる!? そんなことしたら……。
「……っいってぇぇ! 何でまた殴るの!」
「お前何やらかした! 吐け!」
「頑張って首席になったんだよぅ……殴ることないじゃないか……。」
「…………あれは俺を心配した見栄じゃないのか? 学費を送り返されてたのも不思議に思ってたが……。」
「やっぱ使ってなかったか!!」
「使えるかあんな怪しいもん!」
「話聞いてよいい加減! 終わったら殴り返してやる!」
「おうおう、聞かせてみやがれ!」
「…………………………いつもこんな感じなんですか?」
「いつもはもう少し穏やかです、殴り返すこともしません。ですが冤罪なのでどうせ殴れって言われます。俺は全力でぶん殴るだけです。」
「…………まずは彼の誤解を解きましょうか。私は……そうですね、学園で色々作ったりしてる人です。お金はありますが危険物を扱うことも少なくありません。手が空いていなかったので助手が欲しかったところ、私の意図を汲み取れて危険物を危険だと判断できる彼と出会いました。私は雇用を持ちかけ、彼は私に雇われました。金額分の仕事を彼はきちんとこなしてくれてます。むしろ貰いすぎだと何度も言われたくらいですよ。私は雇ってみてまだ出せると思っています。」
「……紹介したのは私ですね。咎められるは私でしょう。私は……まあ生徒代表みたいな立場をしています。入学式で私は挨拶を行ったのですが……一人だけ異様にきらきらした眼差しを向けてきた人物がいまして。それが首席だったので少し揺すってみたら興味を持ちました。その後話して気に入ってしまったので、色々とあり彼へアルバイトを紹介するとなったときに会わせるだけ会わせてみようと仲介しました。」
「感謝してます。」
「…………もう一人のお方は……?」
「ロレンス君の担任です。」
「あいたっ!? また殴った!」
「元々別の用事で私達と同行しているところに私達から寄りたいと言ったんです。あまり責めないであげてください。」
「……そういえば寄ったって聞いた気が……。」
「ほら言った! えいやっ!」
俺は掛け声と共に上の方にある遠い頭をジャンプして後頭部に拳を入れる。
「いてっ……。お前本気で殴ったな?」
「父さんだって二回目は思いっきり殴ったじゃん。これで水に流してあげるよ。」
「……仕事って、何をしてるんだ?」
「掃除。」
「掃除?」
「この先輩の住処は書類と服と下着に溢れてたんだよ。それの掃除と維持。あとは普通に水回りとかね。あと買い出しとかの雑用とか仕事をたまに手伝ったり。調薬の天才なんだよ、先輩は。」
「……それにこんな額か? あと危険ってなんだ?」
「俺は危なくないけどやっぱり危ない薬とかも置いてあるんだよ。爆発したり嗅いだら倒れたり。そういう扱いを普通は知らないから知ってないと危なくてできないの。あとご飯作ったりね。マリナとアリの複合みたいな仕事。」
「…………なんで知ってるんだ?」
「いっぱい勉強したんだよ。うちがやってるのは農業だけだから畜産はどうか、人手はどうか、休ませてる場所で薬草とかはどうかってね。色々考えていっぱい勉強して、礼儀作法だってこの田舎が馬鹿にされないくらいには身に付けて、この後付いてあっちこっち行くの。もちろん何かするなら村の皆と相談するけど少しは便利になったり暮らし向きが良くなったら良いでしょう? なのにまさか説明する前に殴られるなんて……俺は悲しいよ。」
「………………悪かったな。」
「謝ったからいいよ。さっきぶん殴って少しスッキリしたしね。俺だって胸張れないことはしない。」
…………いや、してる……な? 三股は胸張れないぞ? 顔も知らない母さんが泣いてるかもしれない。
「…………仲がよろしいんですね。」
「普通ですよ。」
そう言った父さんの背中を俺は黙って叩いた。
「……何をする。」
「父さんは観察が足りない。俺だって初見でも分かる。今のは叩かれて然るべきだけど理由は自分で考えて。母さんが草葉の陰で"貴方は相変わらずね"って言ってるよ。」
「……すげぇ、言いそう。しかも地味に似てるな。やっぱ親子だなぁ。」
「遠い目をしない。あと礼儀が微妙。師匠に蹴られるよ。」
「師匠……ああ。今いるぞ。」
「えっ、うそ!? 師匠忙しいって言ってたのに!」
「たまたま予定が空いたんだと。あいつにも家庭があるはずなんだがいいのかねぇ?」
「師匠どこいるの!?」
「畑。そのうち来ると思うぞ。一段落ついたら着替えて来るって言ってた。」
「……あぁ! 父さん着替えてない! 手は!?」
「…………洗ってない。」
「待ってるから着替えてきて!」
俺は父さんを部屋から追い出した。
「……お見苦しいものをお見せしました。今お茶を淹れてきますね。」
「お構い無く……お茶はあるの?」
「無いので持ってきてます。茶器くらいならありますよ。」
「……仲良いんだね。」
「良いですよ。」
順当に行くと先輩と俺もですよって言いたいけど今は誰が来るかも分からないから言えない……。
「貴方達も仲良いですよぉ。」
「……本当?」
「嘘はつきませんよぉ。」
「……ここは暖かいね。」
「冬はすきま風で寒いです。改修しないと……。」
「分かってるのに惚けないで。」
「……良くも悪くも田舎なんですよ。」
「……親子、私もああなりたかった。もう無理だけど。私はもうあの両親に求めてないし兄にも求めてない。でも良いなぁって思う。」
あ、なんか張られた。先生の防音か。
「俺が代わりになりますよ。俺が先輩を叱って、褒めて、一緒にいます。」
「…………人が来ますねぇ。……これは、強いですよぉ。それしか分かりませんねぇ。貴方のお父さんも大概でしたけどぉ……こちらは勝てるかギリギリですねぇ。こんな田舎にいるもんなんですねぇ。」
強い……と来れば師匠だ!
俺は堪えきれずドアを開け放った。向かって右側、人の気配!
俺はそっちを向いて……やっぱり師匠だ!
「ししょー!!!」
「うおっと。ロレンス君、危ないから辞めるように言ってるだろう? 君も三年で大きくなったのだから私も受け止めるのが大変なんだよ。」
「とか言いつつ受け止めてくれるししょー大好きです!」
俺は二人目の父親とも言えるような人物に飛びかかって抱き付く。俺も中々な体格をしているのだが師匠は少し身構えるだけで俺を受け止めた。
やっぱり体幹が凄いなぁ……!
「全く、そんなことで学園で上手くやれているの…………か……?」
「……ししょー?」
あれ、師匠が固まってる。初めて見た。
その視線を辿ると……会長が。会長もこっちを見て固まってる。
「ししょー? お知り合いですか?」
「…………………………。」
師匠は答えない。そして答えは後方から……会長からもたらされた。
「……父上。」




