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20 妹


 本日二話目です。



 5月20日、日曜日。今日は外泊……というか寮の自室にいる。なんだかすっかり向こうにいることが普通になってた。


 朝の10時頃、部屋に来客がある。腹黒さんだ。


 俺達は連れだって馬車に乗り込んだ。


「何故受けてくださったのですか? 少し前に騙されているのですよね?」


「耳がよろしいですね。そのような不正をされるような方ではないと思っているからです。もし騙されて陥れられるのであれば自らの短慮を嘆き精一杯の抵抗をした末に学園を去りましょう。」


「……今日はお聞きしたいことが御座いまして。」


「何でしょうか?」


「そのために防音のしっかりとした信用できる個室の飲食店を手配しました。お話はそこで。」


「分かりました。」


 俺達はガタゴトと馬車に揺られてやがて……なんか立派な飲食店の近くに止まった。


 こう……一目で高そうと見える場所だ。俺は内心戦々恐々としながら付いていく。


 やがて部屋に入り膳が運ばれてきた。コースじゃないんだ……。


 人が出ていってしばらくは無言となったがやがて彼は話し出した。


「最近、奇妙な人に付け回されています。」


 付け回されてるってよ。頑張……られても困るけどもっと上手くやれ同郷。


「僕の事にやけに詳しく……正直気味が悪いのです。」


「パートナーの方ですか?」


「…………そうです。やはり分かりますか。」


「やはり……とは?」


「単刀直入にお聞きします。貴方は彼女……それから彼と何らかの共通の秘密をお抱えではありませんか?」


 バレた。いや、ゲームだなんだは分かんないと思うけどね?


「いいえ? 私は彼女とはクラスが同じくらいの面識しかありませんよ。」


 俺は口に出しながら目と耳と口を順番に塞いで人差し指を立てしーっとする。

 ついでに空中に四角を書いて……紙ナプキンがあったのでそれを指差す。


 すると胸元からすっと紙が出てきた。用意良いね。


 ちゃんと正規の契約書か確認して契約事項を確認する。

 この契約書、魔術的な加工がされており契約を破ると罰則が来る。確か雷にでも打たれるんじゃなかったかな?


 その契約書に幾つか修正を入れてサインして返す。それを確認した向こうはそのままサインした。


「さて、これで話しても良いわけですが。結構荒唐無稽ですよ?」


「構いません。今のままでは気味が悪くて気分が悪い。それによって貴方へ不利益が起きないことは契約書で誓ったでしょう。」


「では話しますけど……。」


 俺はぽつぽつと話をした。まあ先生の秘密もあるからそこは行動が異常だったから気付いたと言うことにしておく。


「…………………………そんなことが。」


「あります。確認もしました。いざとなれば先輩にご確認いただければ。」


「…………………………では、本当に妹は治るんですか?」


 これが彼の首席に拘った理由。正確には首席になり王宮に勤められる爵位を得て、王宮の図書室を閲覧すること。


 彼の妹ちゃんは呪われている。治せるけどタイムリミットもあるしそこそこ条件が厳しい。


「私の言葉を信じていただけるのなら……あります。私は自分の事に関して嘘はつけないでしょう?」


「………………それは、いかほどの対価で提供していただけますか?」


「パートナーの方に聞けばきっと無償で教えてもらえますが……まあ俺も対価を要求するつもりはないんですけどね。」


「…………それはどういう……。」


「私はこの世界が好きです。私は貴方達が好きです。悲しそうな顔は見たくありません。もしここで教えず妹さんが亡くなられたら俺は父にも死んだ母にも……顔も分からない両親祖父母にも顔向けできません。もし私の知っている貴方と今の貴方が大きく相違ないのであれば……貴方の苦悩や努力も少しは知っているつもりです。…………こんな得体の知れない奴の言葉が信用ならないと言うのであれば、俺は信じてほしいと言う他ありません。」


「話は聞かせてもらった。」


 なんかバァーン! って感じで先輩と会長と先生が現れた。えぇ……?


「…………あの、防音は完璧なのでは?」


「そのはずですが……。」


「私相手に通じるはずない。隣の部屋で聞き耳立ててた。あとついでに防音も重ねてあるから安心して。」


「先輩は理不尽だぁ……。」


「だってご飯行くって言ってたからてっきり女の子かと。だから会長と教諭も誘った。」


「…………彼女達もご存じなんですか?」


「ご存じなんですよ。というか何故か俺に求婚してきた不思議な人達です。気持ち悪くないんですかね?」


「また自虐する。抱き締められたい?」


「遠慮します。」


 腹黒さんは開いた口が塞がらない様子だ。珍しく呆けていらっしゃる。


「…………………………本当に?」


「知ってる。私も救われた。教諭も救われようとしてるし会長は……どうだろう? 公爵家組も救われた。きっかけはどうであれ人の幸せを喜べる人間が邪悪?」


「それは……。」


「でしょ? 貴方もこのロレンス・セルヴァーという少年に好感を持ったから食事にまで誘って事情を聞いたんじゃないの? でなければくっついてた人に聞けば良い。」


「………………。」


「だから出来れば普通に接してあげて。すぐ傷付くんだから。」


「俺はそんな子供じゃないですけど?」


「絶対落ち込むからダメ。下手したらやっぱり先輩達には相応しくないんじゃとか悩みだす。また距離取られたら悲しいから阻止する。必要なのは何? 私か会長か教諭なら大体手に入れられる。」


「薬なんですけど……得体の知れない物を大切な妹さんには飲ませたくないでしょう。」


「自分で何作ったかくらいは分かる。」


「あ、じゃあ駄目です。かかってるのは呪いですし作るものは毒に近いですし薄めたら苦しむだけです。」


「…………呪い?」


「そっちは調べれば分かるはずですよ。背中に黒い斑点、腕に白い斑点があるでしょう? 搾衰の呪いと言って徐々に体力を奪い衰弱させていく呪いです。まずは足の筋力が落ち次は腕、最後には心臓の筋肉すら動かなくなり絶命します。その前に呼吸器が衰弱し呼吸ができなくなって死ぬことも珍しくありません。誰かに呪われたとかではなく半分は事故のようなものです。」


「事故……事故だって!? あれが……人為的にしか起こり得ない呪いだって言った上で事故だって言うのか!」


 俺は掴みかかられながら怒鳴られる。


「言います。避けようのないものですし個人への悪意はありませんから。あるのは別のものです。」


「誰がやったって言うんだ!? 知ってるんだろう! 教えてくれ!」


「魔王の手下ですけど? 魔王の手下が魔王の復活のエネルギーにするために人々から生命力を集めているんです。個人に恨みがあったわけではなくただそこにいたから呪われたんです。」


「そんな……そんなことが…………。」


「落ち込まない、しゃんとしてください。貴方が判断しないと妹さん、本当に死にますよ。誰に頼るのか、自分でやるのか。大事なのは呪った相手じゃないでしょう。私は貴方が声をかけてくれないと何もできない。妹さんの居場所も分かりませんしそこまで入れません。それに義理もない。だから……俺を信じてください。お願いします。」


「………………そう…………だな。すまない、取り乱した。呪いと聞いて頭に血が上ってしまって……。」


「構いませんよ。妹さんが大切なんですね。」


「…………………………ありがとう。」


「お礼を言われるようなことはしていません。私も父が大切ですからね、同じことを言われたら掴みかかります。……それより。どうしますか? 呪いの名前自体は合っているはずですけど禁書ですから本当に王宮の図書室くらいにしかありませんよ。殿下にお願いするのも手ですが事情を説明しなければなりません。私はしたくありません。ダンジョンに潜ってもいいですけど時間がかかりますよ。」


「それは実質選択肢がないのでは……。」


「いいえ? 選ぶのは貴方です。やっぱり信用できないなら手はあります。」


「…………何故そこまで?」


「そりゃあ好きなので。どうせなら皆が笑顔のハッピーエンドが見たいです。俺はそのあと静かに慎ましく生きます。」


 ……あー、まあいいか。俺に戻ってるけど。


「俺の知ってる貴方はこんなところで躓いてるような人じゃないんですよ。……判断は任せます。」


「…………何も返せませんよ?」


「いりませんよそんなの。戦力が欲しければどうにかします。」


「…………………………お願い……できますか?」


「了解しました。……といっても俺じゃ作れないんですけどね。実に役立たずだ。先輩、助けてもらえますか?」


「もっとちゃんとお願いしてくれたらいいよ。」


「…………非才なる「自虐は聞きたくない。」」


 …………えぇ……? じゃあどうしろと?


 …………駄目元でやってみるか?


「……ネス、手伝ってほしい。俺は彼の妹を助けたい。」


「いいでしょう。」


「……これでいいんですか。」


「私は婚約者、他人行儀なお願いされても聞きたくない。でも可愛い婚約者の後輩君のお願いなら聞いちゃう。ということで製法と材料。」


「大火蜥蜴の肝に炎熱草、アーミービーの毒とオーガの角、あとは難しいものはないです。全部研究室にありますね。」


「何、炎熱ポーションでも作るの?」


「流石先輩、近いです。作るのは高濃度熱病ポーション。飲んで暫くは苦しみますが一時間ほどで安定、そこから三日で回復するでしょう。後遺症もありません。」


「んー……衰弱の呪いを活性の毒で相殺するんだ? それなら多分あっちを使ってここの反応を抑えてこうすれば……後で妹さんの容態見せてもらえる? もっと苦しまずに出来るかも。」


「本当ですか?」


「うん、原理は理解した。錬金術でも緩和は出来ると思う。問題は素材だけど……。」


「僕が集めます。そのくらいさせてください。やっと……やっと光が見えたんだ。僕にもその手伝いをさせてください。」


「じゃあお願い。製法は想像できるけど後で教えて。材料はどのくらいかかる?」


「宛はあります。今週中に集めてみせます。」


「良い気概。集まったら持ってきて。待ってる。出来たら皆で飲ませに行こうか。」


「どうか……お願いします。」


「後輩君のお願いだから。本当は高いけど負けとく。」


「いくらですか?」


「後輩君を追加で抱き締める権利24時間分、分割払いあり。」


「……わかりましたよ。」


「………………ふっ。」


「あぁっ! 鼻で笑いましたね!?」


「いえ、すいません。張っていた糸が切れてしまって。ふふっ……あの有名な天才をそんな報酬で動かせてしまうなんて。君はすごい人だ。」


「凄いのは先輩です。」


「後輩君は凄い。説明受けたなら分かるでしょ? 彼と彼女達の違い。」


「えぇ。こうして比べると彼女は私を見ていません。違和感の正体と原因が分かってすっきりしましたよ。……それに彼は誠実だ。」


「誠実……ですかねぇ?」


「話したくない秘密でしょう? こちらは知らないのだから誤魔化しようもあったはずだ。でも君が誤魔化そうとしたのはたった一点、同類を見つけた方法だけ。」


「……バレたら意味無いんですけど。そんな分かりやすいかなぁ……?」


「私達には分かりますよ。人の悪意と向き合ってきましたから。貴方に悪意がないことも、本当に幸せを願われていることも。少し変わった予知能力者とでも思えば何も思うところはありません。君は包み隠さず話しました。そして私の妹を助けたいと言った。……私も信じてみます。薬学の第一人者と錬金術の教諭、執行部部長のそのお三方が付いていてわざわざ毒を盛る必要もないのですから。」


 少し変わった予知能力者に思われれば気持ち悪くないのか……? 前に先輩も言ってた気がする。


「あー、見つけたの私なんですよねぇ。方法は秘密ですけどぉ。私との約束を守ってもらって嬉しいんですけどぉ、そこで信頼の曇りにはなりたくないので白状しますぅ。」


「なるほど。…………良いのですか、教諭と生徒で恋愛事など。」


「良くないですよぉ。でもぉ……諦められないくらいには、メロメロなんですよねぇ。」


「へぇ~?」


「意味深な声出さないでくださいねぇ? 君も大概じゃないですかぁ。」


「俺が好きなのは先生であって先生でない。」


「その言い訳ずるいですよねぇ。私も結構誰彼構わず焦ってた自覚があるのであまり言えませんしぃ。」


「先生は綺麗です。ねぇ、アソエル?」


「…………そうですね、ロレンス。」


「お、乗ってきましたね。今度からそれで良いですよ。実家の財政状況見たら負けてますし。」


「二人で先生からかって楽しいですかぁ?」


「俺は冗談で綺麗だなんて言いません。」


「ミラベル教諭はお美しいですよ。」


「……二人になっては敵いませんねぇ。アソエル君はあまり好みではなかったのではありませんでしたかぁ?」


「先生、話してみて好きになることだってあるでしょう? それに俺は主人公の彼らは全員好きです。心から幸せを願っています。」


「私達は君が幸せにしてくれるんでしょう?」


「します。どうも等価交換にならない気がしますけどね。俺も酷い男だ。」


「そうか? 私と並ぼうなんて人間は今までいなかったぞ。」


「同じく。」


「こんなおばさん相手に本気で求婚する人もいませんでしたねぇ。」


「先生若いじゃないですか。あと求婚してきたのは先生です。」


「……本当に、不思議な気分だ。君に任せればなんとかなるんじゃないかって本当に思える。」


「何とかしますよ、俺の名誉にかけて。俺が俺でいるために。」






 どこかそわそわした平日を越えて土曜日。今日の朝早くに予定の素材が全て揃った。


 先輩はそれを持って奥へ行った。


 俺達は言葉もなく、ただ結果を待つだけの歯痒い時間を過ごす。

 ちなみに先生と会長もどこか落ち着きがない。当事者でもないし彼女達は直接会ってもいないのにいい人達だ。


 先週、あのあと妹さんに会ったのは先輩だけだ。俺達が会っても疲れさせてしまう。


 そして一時間ほどそわそわしていたら先輩が一言出来たと言って何やらグツグツしたものを持ってきた。


 俺達はその足で馬車に乗り妹さんに会いに行った。今回は俺達も一緒だ。


 寝かされていた妹さんは苦しそうに息をしながら寝ていた。それを見て会長は少しだけ目を伏せる。


「飲ませるけど、大丈夫?」


「……僕にやらせてください。」


「分かった。これ一本全部飲ませて。」


 先輩から試験管を受け取った彼は妹を揺り起こす。


「リー、起こしてすまない。大丈夫か?」


「おにい……さま? そちらのかたがたは……。」


「僕の……友人だよ。薬を持ってきた。」


「……ふふっ、おかしなことをおっしゃるのですね。どんなおいしゃさまもあきらめたなんびょうですよ?」


「ああ、分かってる。僕も必死になって治す方法を探した。そして……今ここにいるのは誰だと思う?」


「ごゆうじん……なのですよね?」


「そうだ。本当に最近、友人になった。でもそれはあそこの男の人だけなんだよ。彼が……彼女達に巡り会わせてくれた。こちらの女性は前に会ったろう?」


「えぇ……せんしゅうですか。お会いしました。」


「こんにちは。私は不可能を可能にする女。」


「……彼女はね、学園一の才女と呼ばれているんだ。どんな先生達よりもそう呼ばれてる。あっちの背の低い方は若いけどとても優秀な先生なんだ。背の高い方は学園の生徒で一番偉い人。」


「……なんだかすごいひとたちなんですね。」


「そうなんだ。……そして彼が私の友人。薬のことを教えてくれた。色んな凄い人に認められてる凄い人なんだよ。」


「なんだか過剰な評価ですけど……どうも、お兄さんのお友達です。もし治らなかったら殴って慰謝料請求してくれて構いません。俺も全力で代替案を探します。……でも、一番凄いのは戦い続けた君と必死になって駆け回ったお兄さんだと俺は思います。……大丈夫、君は治る。必ず治す。」


「……色々話したいことはあるがそれは起きたときにしよう。……少し苦しいかもしれないけど我慢できるか?」


「だいじょうぶですよ、おにいさまがそれでらくになるなら。ほら、なおしてくださるのでしょう? そんななきそうなかおはいやです。」


 …………良い妹さんだなぁ。俺は妹とかいないから少し羨ましい。


「…………代われるなら代わってやりたいが……すまない。飲めるか?」


「そのくらいならもんだいありませんよ。」


 妹さんはゆっくり、何やらグツグツした得体の知れないものを飲む。

 見た目から熱いと思ったのか息を吹き掛けてから口を付けたが冷たいことに驚いたようだ。


 それをゆっくり、少しずつ飲んで……飲み干した。


 効果はすぐに出た。……が、弱い。


 顔は赤く大量に汗はかいているし気も失ってぐったりしたがそれだけだ。


 もっとこう……叫んでのたうち回って俺が胸ぐら捕まれるまで予想していたが……これは…………。


「うん、予想通り。」


「……本当ですか? 大丈夫ですか?」


「多分君の知ってる私は頼まれたものを作っただけ。用途とかどうでもいいと思ってたと思う。人が死ぬようなものじゃないし少しは信用してたんじゃないかな。でも今の私は違う。大切な後輩君から頼まれて頑張った。更には体力もまだ残ってるから……悪夢にうなされたくらいにしか感じないはず。気を失ったのはそういう効果も私が持たせたから。」


「……なんか私、結界張る人みたいになってますねぇ。ちょっとそれは悲しいので少し楽にしますかぁ。」


 先生は妹さんの手を取って直接魔方陣を書いていった。どっから出したそのチョーク。


 なんだか複雑で凄いなぁと思ってたら完成したのか消えた。


「よし、これでいいでしょぉ。」


「何をしたんですか?」


「幸せな夢を見る魔法ですよぉ。……魔術ですけどぉ。ほらぁ、幸せそうでしょぉ?」


 先生は妹さんを撫でながら言った。凄く優しい顔で……一瞬だけ見惚れた。


「そうですね。」


 確かに妹さんは幸せそうに少し笑っていた。


 俺達は部屋の端で安定するのを待った。先生もこっちに戻ってきて、ベッドの周辺には寝ている妹ちゃんとその手を握るアソエルのみになった。


 熱いだろうに彼は汗一つかかずに祈っている。


 ……俺達はただ静かに見守る。一時間が経ち、二時間が経ち、俺も不安になってくるが当事者達が負けていないのに俺が負けるわけにもいかず俺もただ静かに祈り始めた。


 静寂が支配する部屋の中で少しだけ荒い妹さんの呼吸が聞こえる。


 それを聞き続けて……時間の感覚も鈍くなってきた頃、不意にその呼吸が静かになった。


 俺は慌てて顔を上げる。目の前には焦って脈を確認するアソエルが見えた。


 その直後妹さんが目を覚ます。


「長くなったけどその分体力の消費は少なかった。起きたね。」


 アソエルは慌てて妹さんの服を脱がせようとした。俺は確認したい気持ちをぐっと抑えて回れ右する。


 しばらくしてからガバッって感じの布擦れの音と小さな嗚咽のような声が聞こえたので成功を悟って俺は小さく安堵の溜め息をついた。


 すると先生が黙って退室を促し……というか押してきたので俺はベッドの方を見ないようにしながら部屋を出た。




 部屋の外で俺と先輩はあっち向いてほいしていた。変な目で見られたが暇なので継続する。


 俺の二十八勝十六敗の辺りでドアが開き、思わずそっちを向いてしまった。


「最後は私の勝ち。」


「先輩セコいですよ。……十分語らえましたか?」


「お気遣いありがとうございました。…………本当に……本当にありがとう……。」


「今回のことは秘密ですからね。俺に言えば先輩を頼れると思われるのは嫌です。今回は超特例ですからね。そこのところ理解しておいてくださいね。」


「勿論です。…………ありがとう。」


「俺は何もしてません。やったのは先輩と先生なので二人に言ってください。」


「今回は私もただいただけの人だな……。」


「じゃあ会長と俺は仲間ですね。」


「私頑張ったのにずるい。」


「もちろん感謝してます。」


「私も色々しましたよぉ? 今だってしてますぅ。」


「いつもありがとうございます。」


 防音の用意をしてくれたんだな。いつも感謝してます。


「ご褒美はぁ……私だけ抱き締めてもらってないそうなのでそのうちお願いしますねぇ。」


「お待たせしてすいません。」


 先生はちょっと心理的ハードルがな……。


「…………プラトネス様とミラベル教諭も……本当にありがとうございました。」


「私は後輩君に言われたからやっただけ。後輩君に感謝して。」


「私も可愛い生徒の頼みなら聞きたいんですけどぉ……確かに今日は特別ですねぇ。話を聞いていなければ来ませんでしたぁ。プラトネスさんとロレンス君に感謝してくださいねぇ。私も大した事はしてませんよぉ。」


「なら妹さんにお礼言ってください。怖くて辛かったでしょうによく耐えました。これから体力を戻したり色々大変だとは思いますけど頑張ってください。陰ながら応援してます。……貴方も、お疲れ様でした。でも大変なのはここからですよ。貴方達は生きていかなければいけないんですから。」


「えぇ、えぇ。…………本当にありがとう。」


「もうお礼は良いですよ。あんまり言うならあれです、友人を助けただけです。俺はこれからの三年間、貴方がよく学びよく笑い、有意義な学園生活を送ることを望みます。」


「教師みたいなことを言いますねぇ。」


「…………昔々の夢でしたので。貴方に憧れて先生を目指そうと思って十七で死んじゃいましたけど。今世は別の夢がありますからもし次があればまた先生を目指すかもしれませんね。」


「………………嬉しいこと言ってくれますねぇ。」


「失礼かもしれないですけどね。」


「そんなこと思いませんよぉ。……ありがとうございますねぇ。」


「俺も誰かの支えになりたかったんですよ。……今なれてるなら本望です。」


「ね? 後輩君はいい子。嫌わないであげて。」


「だから俺はそうやって言われるほど子供じゃないですって。貴方は私の母親ですか。」


「彼女だけど?」


 う゛っ……改めて彼女って言われると顔が……。


「…………そうだよな、結婚するんだもんな。彼女……彼女かぁ…………彼女……俺が彼氏…………。」


「お、凄い意識してる。今度から彼女って名乗ろう。」


「あの……恥ずかしいんでやめてください。毎回ダメージ負うんで。本当勘弁してください。」


「…………ふふっ。」


「…………決めました。僕も一枚噛ませてください。」


「何にですか?」


「貴方の夢に。」


「田舎領地の領主ですけど……。」


「そちらではなく。……世界を救うんでしょう?」


「…………妹さんに心配かけるので貴方は後ろですっこんでてください。」


「嫌ですね。貴方の言葉通りなら私にも戦える力がある。戦力は多い方がいいでしょう? それに……友人が戦地に行くことを知ってて安全なところにいたら妹に蹴られます。ああ見えて結構強かなんですよ。」


「でも……。」


「……貴方は僕を、妹を助けてくれた。見返りも求めずにただの好意で。……なら僕にも返させてください。戦力が足りないと本当に命に代えて来そうですからね。貴方の夢のためにも私は手助けしたい。」


「男にも惚れられるロレンス君。」


「これは違うでしょう……。」


「ところで僕は戦える気はしませんでしたが貴方の記憶では何が得意でしたか?」


「…………辛いですよ。」


「それを聞いてやめるくらいなら僕は主人公とはならないでしょう。物語の登場人物で終わるつもりはありませんが……僕を恥知らずにはさせないでください。」


 みんな律儀だなぁ……おんなじことばっか言う。


「…………貴方は遠距離物理……銃でしたね。」


「……なるほど。それに護身ですか。」


「そういうことです。」


 銃……あるんだよなぁ……。魔導銃、通称魔銃ってやつだけど。


 変な発展してるよな全く。これで大砲みたいのは無いんだ。質量的に消費魔力量が馬鹿みたいになって魔法使う方が効率的に上回るらしい。

 まあ魔銃って迷宮産が殆どだけどね。


「確かにそれなら僕にも扱えますね。」


「最後の方は一撃で敵を葬ってましたよ。急所狙いが凄かったですね。」


 固有でクリ率上がってたからな。雑魚なら最後は一撃だった。使う弾変えて属性に対応してたりね。

 ちょっと癖あるけどまあまあ使えたかな。


「ちなみに私はどうだ?」


「火属性の魔法と剣です。単純でしたが凄く強かった。あと格好いいんですよね。」


「私は?」


「持ち物投げてました。ポーション投げたり毒物投げたり。正直戦闘要員じゃありません。…………ちなみに先生は包丁一本で単独魔王を倒してくる人でした。」


「聞かなかったのになんで答えるんですかぁ!」


「いやぁ、一人だけ言わないのも不公平かなって。」


「他は?」


「雷属性なんていう変な属性の魔法と剣の人、速くて強い近接では敵無しの人、四属性を操る魔法だけなら最強の人、魔導書片手に魔術連発する人、攻撃は全然駄目だけど回復にバフにデバフまで行う支援最強の人がいましたね。」


 順番にチャラ王子、坊、お嬢、番人にメインヒロインちゃんだ。


 正直魔王を倒すだけなら会長ただ一人で十分だ。でも救うとなると……全員いてもキツいかもしれない。


 何せ最低限のステータスが二週目以降じゃないとまともに満たせない。

 更には普通に邪神が強いし何より……今は次が無い。


 ステ自体はとにかく頑張れば満たせるけど……。


「…………俺が五人分六人分やればいいんです。死ぬ気で全てを賭けて。俺なら対応できる。」


 といいなぁ……。


「なら私も追加で二人分やれば君の分が二人減るな。」


「私も負担しましょうかねぇ、二人分追加ですねぇ。そうすると君と私達で同じくらい背負えますねぇ。」


「では僕も参加して減らすとしよう。」


「私……は足手まといになりそうだから応援してる。きっと送り出すまでが仕事。」


「…………すいません。」


「なに、気にするな。そもそも君が背負わないといけない事がおかしいんだ。安心しろ。私は誰にも負けん。」


「先言われちゃうの何なんですかねぇ? ……君が私を育ててくれたのなら、きっと負けませんよぉ。」


「……今のままでは若干場違い感がありますので早く人を増やしましょう。」


「鬼ですか貴方は。俺達がやるのはピクニックとは違うんです。人も死ねばエグい事もされます。自分達だって死と隣り合わせなんです。そんな状況に軽々しく誘えるはず無いでしょう。……本当は会長や先生だって巻き込みたくないんです。でも俺は弱い。こんなにも弱い。頼らなければならないほど弱い。だからこそ死ぬ気で鍛えて死なせないようにしないといけないんです。…………俺は鬼ですけど貴方はそんなもの背負わなくていい。」


 死んだら全部俺の責任だ。絶対死なせない。


 俺は皆で笑って明日を迎える未来を見たい。


「好きでやってることだ、そう気負うな。もし気にするなら意地でも死にたくないと思わせてくれ。……それに死ぬつもりはない。」


「そうですよぉ。先生だっているんですから大丈夫ですよぉ。」


「……少々短慮でしたね。失礼しました。」


「大丈夫です。事が起これば俺は誘うつもりですから。ただ……覚悟は必要ですよ。本当に辛く苦しい戦いになります。」


 誘うと言うか頼むつもりだ。断られることを覚悟して。

 というより断ってほしいんだ。死にたくない、戦いたくないと言ってそんなふざけたことを言った俺を罵ってほしい。


 そうすれば……希望を持たなくて済む。彼らは助けてくれないと…………彼らは死ぬことはないと思える。


 きっと誰かが死んだら俺は泣くだろうな。それでも俺は前を向くしかないが。


 絶対生かす。全てを。

 俺が救う。全員を。


「俺は酷い奴ですよね。弱みにつけこんで人を死地に送り込むなんて。」


「べっつに貴方に言われなくてもきっとやりましたよぉ。実家が文句言うから大人しいだけですよぉ。」


「そうだぞ、私だって勝手に行く。君に言われるからではなくな。……両親、特に母上に何を言われるかは分からないがな。」


「実家とか関係ない、私は私。私は後輩君に言われたから関わるけど結局自分の意思だから責任を押し付けるつもりはない。」


「……とにかく戻りましょうか。このご恩はいつかお返しします。」


「……じゃあ楽しみにしておきます。」


 これだけ言っても駄目なんだから大人しく聞いとこう。助かることには違いない。


 俺達は話もその辺にして帰ることにした。最後に妹さんに挨拶して失礼する。


 …………妹……か。いいなぁ……。


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