19 歓迎会
本日三話あります。一話目です。
ゴールデンウィークも明けて今日は5月18日。歓迎会当日だ。
俺も流石に礼服を着ている。
「ご機嫌よう。パートナーはお決まりですか?」
「申し訳ありません。先約がおりまして。」
「それは残念です。」
「では私がお願いしよう。」
「………………殿下が……でしょうか?」
「そうだ。お互い知った顔の方が楽だろう?」
お、チャラ王子とメインヒロインちゃんのツーショット。眼福眼福。ただしルート入られると困る。
俺達は今入場待機中だ。
大体共に入場する相手とファーストダンスを踊るので俺の隣は誰もいなかったりする。
そうこうしているうちに成績順に並び出す。ペアの高い方を優先するが俺は首席なので最後尾、取りだ。
そして順番に入場していく。見知った顔……入試成績6位と5位のペアが入ったときは凄い歓声だった。
お嬢と坊である。
次、入試成績4位と3位のペアだ。王子とメインヒロインちゃんである。もう割れんばかりの大歓声だった。
次、2位と……微妙に知ってる顔である。腹黒商人と転生者ちゃん一号である。腹黒商人はどうでも良さそうな顔だが彼女は一応隣を射止めたようだ。
まあまあの歓声が聞こえた。王子の後とか可哀想……。
最後、首席……俺だ。会長は迎える側なので隣はいない。
俺が入場すると……明らかな侮蔑と嘲笑が飛んできた。わぉ? こりゃあ思ったより露骨に来たな。
俺は黙って進んでいく。
所定の位置に着くと開会の言葉に会長が出てきた。
「新入生諸君。今日は諸君の歓迎の為のパーティー、存分に楽しみたまえ……と、言いたいところだが。開会を宣言するその前に一つ誤解を解こう。ロレンス・セルヴァー、上がってこい。」
何で呼ばれたの俺?
聞いてないので困惑しつつ壇上に上がる。副会長が眉を寄せて腕を組んでいる。会長がいつもすいません。
「君が何故一人で入場して来たか言ってみろ。」
「……会長に頼まれたからです。」
「そうだな、私が頼んだ。私も二つ下の学年とは交流がないからな、この機会に交流を持とうと首席である彼に共に入場する者を定めないよう頼んだ。……それで? 笑った奴がいたな?」
あれ……? もしかして会長おこ?
「会長、変わってください。」
「……いいだろう。」
どっから出たの先輩!?
「新入生の皆さん、初めまして。二の零、零席のプラトネス・ミネリクトと申します。少々諸事情があって出てきました。……で、私の助手を笑った人間の顔は全部覚えましたけど一人一人弁明を聞かせてもらえますか?」
あ、ヤバイやつだ。これパーティーなのに血祭りが始まってしまう。止めねば。
「先輩。やめてください。」
「やめませんけど何故ですか?」
「時間の無駄だからです。……変わりましょうか。」
「………………まだ私の溜飲は下がってませんから。」
「分かりましたよ。……さて、新入生の皆様お久しぶりです。首席です。長い挨拶とか空気を悪くする洗礼とかそういうのはこの場に相応しくないので水に流します。今回は。次回は執行部に突き出しますので気に止めておいてください。……さて、私を笑い者にできるほど偉い方が沢山いらっしゃるようですので次回の定期試験は楽しみにするとして……今日は素晴らしい会を開いてくださった諸先輩方、諸先生方に新入生を代表しこの場を借りてお礼を申し上げます。……殿下!」
「……おや、私かい?」
「申し訳ありませんが壇上にお願いします!」
「おやおや? いいだろう。」
チャラ王子はニヤニヤしながら壇上に上がってきた。
「お願いできますか?」
「何を求められているかは理解した。いいだろう、私と君の仲だ。」
俺は最後チャラ王子に全部投げた。国家の最高権力者の子であり次期国王、彼を越える身分は現在ここには存在しない。
「では首席殿から変わってハロルド・ロッテンバァムが挨拶を引き継ごう。私としては今日ばかりは身分の垣根なく他者と交流してほしいと思っている。もちろん最低限の礼節を守ることは前提ではあるがね?」
「首席、ロレンス・セルヴァーも成績やクラスの垣根なく多くの同輩と話し関わることを望みます。」
「というわけで他者を見下すことのないよう、節度をもって楽しもうじゃないか。……サンドブルム会長、お願いします。」
「…………後輩達に良いところは持ってかれてしまったが……現時刻を以て、開会を宣言する!」
という何ともぐだぐだな感じで今回の新入生歓迎会は始まったのだった。
俺は降壇して踊るまではしばらくあるのでぶらぶらしていたらやっぱりひそひそと聞こえる。
やれ寄生虫だの相応しくないだのまぐれだの偉そうだのハゲだのと…………禿げてはいない。
「…………不愉快だな。君、何をそんなに恨まれているんだ?」
「殿下にこうしてお話いただけるからでしょうね。」
「………………あぁ、折角のパーティーなのに。不愉快だな。友人を侮辱されるのは。」
「友人……ですか? ローゼンシルト様のお名前は聞き及びませんでしたが。」
「君だよ。」
俺? うっそだぁ?
「お戯れもその程度にしていただけますでしょうか。」
「本気だよ。私は君ともっと話をしてみたい。悪口よりもよほど為になる話を聞けそうだ。」
「当たり前でしょう。私の頭を見ても髪が無いように見える方々の話に価値はありません。」
「ははっ、それもそうか。」
おい、ひそひそじゃなくハゲって言ったのどいつだ。喧嘩なら買うぞテメェ。
「本当、愚かだ。一人一人言わないと駄目なのだろうか?」
「なんでこんな嫌われてるのでしょうね?」
辺りを見渡しながら独りごちる。すると腹黒商人が目に留まった。
すると彼は視線で独りの男を指した。……えぇ、同郷に嫌われてたの俺?
そっか、大人しいと思ったら俺の悪評でもせっせと流してたのか。クラス違うものだから気づかなかった。
さて、どうすっかなぁ……明らかに俺になら何言ってもやってもいい空気になってるぞ。
う~ん……実害出るまで放っておいて出たら執行部に投げるか。
「どうだ、上手くやってるか?」
「…………ローゼンシルト様にリリエルトン様……。」
「ハウストルスでいい。」
「私もセルヴェーラでいいわよ。」
「……ではお言葉に甘えましてハウストルス様、セルヴェーラ様。楽しんでおられますか?」
「それは私が聞いたのだが……。」
「私は主催寄りですので。改善点があれば纏め執行部に提出します。次回の執行部の資料として活用されるでしょう。」
「…………申し訳ないが、楽しんではいないな。」
「左様ですか。」
「明らかに異常だろう、なんだこの空気は。少なくともこの学園で首席にしていい対応じゃない。」
お、今ぼそっと不正した癖にとか聞こえた。なるほど、そんな噂もあるのね?
どうやって取り入ったんだか……とかも聞こえたな。へー?
「心当たりはあるか?」
「家名と父に誓って悪いことはしていません。」
まだしてないもん。強いて言うなら先輩のパンツ漁った。転がってんだもんあれは不可抗力だよ。
「……なるほど。恨みは……買うだろうな。すまない。」
「何故ハウストルス様が謝られるのですか。やめてください針のむしろになります。」
「どうしたものか……。」
「今日はパーティーなので暴れない限りは退場などの処置にしたくはないと思っています。楽しく思い出を作れればいいのですが……どうしても邪魔なら退散しましょうかね。」
そうだ消えろとか言うな。俺だって傷付くんだからな。
あとさっさと退学になれとか言った奴知らんからな。流石にそこまで言われると先輩を止めらんないからな。後悔するなよ。
虎の威を借る狐、先輩の威を借るロレンスである。
「それは私が納得出来ない。」
「左様ですか、ありがとうございます。そう仰っていただけるだけでも少し楽になります。」
…………おい、今飯投げたのどいつだ。あいつだな。俺の後ろにいたがさっきから声が耳障りだった。
「失礼、急用が。」
「私も行こう。」
なんか坊だけじゃなくてぞろぞろ来たけどまあいいや。
「貴方ですね?」
「何がだ? 男爵の息子程度が頭が高いぞ。」
「貴方ですね。……口だけなら見逃したのに。」
俺は特に警告などもせずに腹に一撃入れた。ただの人間相手に殴る、蹴るだけなら俺は決して弱くはない。
これでも重いもん背負って重いもん振り回してたんだ。体格だって悪くはない。
まともに入れば吐かせるくらいの威力にはなる。
同学年相手に負けると思ってんのか?
男は胃液だけ……俺にひっかけて倒れた。きちゃねぇ。
「執行部じゃないから実刑は下せません。私もこれは反省文で済むでしょうか? でもきっと退学にはならないでしょう。……いいですか? 暴言までなら見逃します。嫌がらせも見逃します。ただ物と食べ物には当たらないように。以上、首席からのありがたいアドバイスなので覚えておいてください。」
さて、これ持って帰るかなぁ。一張羅汚しちったし。染み落ちるかなぁ……?
「かいちょーう、もうしわけありませーん。一人伸しちゃったんで医務室運んできまーす。沙汰は後でいいですかー?」
「無罪放免だから大丈夫だ。それはその辺に転がしておけ。暴言ですら私は退場にしたいくらいだが数が多いし被害者である君の望みだ、ひとまずは不問にする。だが物を投げたら立派な暴行だろう。執行部部長として不問にする。異論のある部員はいるか?」
皆さん首を振っていらっしゃる。これは俺の味方なのか会長の味方なのか分からんから信用していいんだか悪いんだか。
「むしろ私達が取り押さえるべきところをすまないな。」
「いいんですよ。食べ物を無駄にした事に腹が立っただけですから。」
「……そこに怒ったのか?」
「私は元々作る側です。それに餓死者を見たことがあれば無駄にしようとは思いませんよ。辺境やスラムにいけば転がってたりしますよ。見ることはおすすめしません。きっとご飯が喉を通らなくなります。」
あれは変わる。昔見たことがあるけど……父さんがいなかったら数日くらいは物を食べれなかったと思う。
「……さて、暗い話はここまでです。良い頃合いですしダンスでも初めては如何ですか?」
俺は言うと荷物を壁に立て掛ける。そのまま会場を出ようと思って入口に足を向けた。
「どこへ行くつもりだ?」
「これ、一張羅なんです。制服というのも会長に恥をかかせてしまいます。私がいると折角の催しを楽しめないようですので私は帰りますよ。後は皆さんでお楽しみください。」
「……礼服なら貸し出してるはず。」
先輩……ごめんなさい。それにレンタルは申請が必要ですよ。
「私は暴力沙汰を起こしましたからどっちみち退場が妥当ですよ。学園側も介入してきませんしこれが一番丸く収まります。」
「主役がどこへ行くのかな?」
「主役は貴方達全員です。その中でも一等輝いているのは貴方ですよ、殿下。」
「いやいや、学園の催しで主役と来たら首席だろう?」
「……どうぞお楽しみください。」
「どうしても帰ると言うんだね?」
「この格好でいるわけにもいきませんから。」
「そうか……ハウストルス、君の意見は?」
「殿下のご随意に。私共がいても場は乱れるだけでしょう。」
「セルヴェーラ譲は?」
「少し体調が優れなくなってきたところですわ。」
「マリアン譲はどうですか?」
「私も少々気分が。」
「どうやら楽しげな話をしておられる。私も混ぜていただきたい。」
「おや? 次席殿が珍しい。」
「僕のことはアソエルと。首席殿がやらかして愉快に思っていたのですよ。」
「パートナーの方はよろしいのですか?」
「元より入場のみの約束です。さほど親しくもありません。」
「ではアソエル殿もご一緒に。……ロレンス君、私達と二次会をしようではないか。」
「……二次会……ですか? こちらは?」
「私達も参加はしましたし首席殿が抜けるのにのうのうとしてもいられません。大した事は出来ませんが首席殿が抜けられるのでしたらお供します。」
次席君がそんなことを言う。次席君……。
「……主賓級が全員抜けてどうするのですか。」
「残りの主役の方がどうにかなさるでしょう。」
えぇー……それじゃあ抜ける意味無いじゃん。
「…………分かりましたよ。普通に着替えてきます。」
「そうかい? ならこっちだ。」
俺は何故か王子に背中を押されて何処かへ連れられた。あの、汚れますよ?
十分後。
「……本当にこの格好で入るんですか?」
「似合っているよ。私のものが着れてよかった。私は君に何かをしてあげられはしなかったが服くらいは貸し出させてくれ。なに、王宮の使用人は優秀だから元の服も心配はいらない。」
俺は王子に自室に押されてって王子の服を着せられた。俺としてはこんな高いの着たくないのだが半ば無理矢理に着せられた。
着せられたのは白のタキシード擬き。俺は新郎じゃないんですけど。
真っ白過ぎて汚れが目立ちそうだ。怖い。
「なんならそれいるかい?」
「もらえませんよこんなもの。」
「そう言うと思った。」
「…………何故ここまでしてくださるのですか?」
「私の部下に良くしてくれたお礼と私達を信じて秘密を話してくれたお礼。自分が貶されてるのに新入生を喜ばせようとしてくれたお礼にさりげなく投擲物の射程に私がいたのを見て避けなかったお礼。」
「……気付かれたら格好つかないじゃないですか。」
「ははは、男相手に格好つけても良いことはないよ。それに……気に入った。もっと話をしてみたい。友人になりたい。君は私を殿下と呼ぶけれどちゃんと目を見て話をしてくれるから。……何かをしたくなる理由なんてそんなものだよ。」
………………イケメンめ。そのキラキラ分けろ。
「…………ありがとうございます。」
「いいって、お礼なんて。…………あの二人の事、本人達だけで解決させてくれて本当にありがとう。私が介入するのも違うと思っていたから。……今の幸せそうな二人を見ていたら少し無理矢理にでも早くくっつけたら良かったと思わなくもないけど……そうしたらやっぱり意地を張ってしまっていただろうね。だから今の姿はとても素晴らしく見えるよ。君がいてくれたお陰だ。」
「…………私は何もしていませんよ。決断したのも、言葉や行動をしたのも当人達です。俺は見たいからくっつけただけですから。……幸せそうなら本当に良かった。」
俺達は歩きながらぽつぽつと言葉を交わす。チャラ王子は同性相手にはチャラくない。一定以上親しい相手にもチャラくない。
チャラさを装う理由は…………愛してほしいから。
「……みんな、笑顔ならそれで良いんです。流石に蔑まれるのは堪えますけど……俺は殿下達にも楽しんでほしい。三年しか学園はないんです。その後は会うこともなくなり、役割や仕事に追われる。将来笑って今日を語れるように今日の思い出を楽しいものに。」
「ある意味忘れられないよ。入学式も今日も。君はこんなにも私の心を踊らせる。」
「…………男に言われても嬉しくない。行くぞ、ハロルド。」
話しているうちに会場に戻ってきた。俺は一言だけ素で声をかける。一言なら聞き間違えることもあるだろう。
チャラ王子は……ハロルドは、少し呆けていたがしばらくして嬉しげな笑顔で俺に追従した。
会場に足を踏み入れると、そこはまるで通夜かと突っ込みたくなるような暗い雰囲気に包まれていた。
というか流れてる音楽がやたら重々しい……。
俺はまず音楽団の方を覗いてみることにした。
そこには何人か顔見知りがいた。俺は少し迷ってから一番話しやすい人に少し声をかける。
「…………キールさん、何でこんな暗い曲弾いてるんですか? というかキールさん厩舎は?」
「俺の本業はこっち。学園付きのバイオリニスト。暇な時は馬の世話をやってるけどちゃんと本業があるときはそっちをやるよ。俺は馬が好きだから手伝わせて貰ってるんだ。」
「なるほど……。」
「専属の人間は結構暇な時に他部所の手伝いをしたりしているよ。」
「それは分かりましたけど……何故暗い曲を?」
「嫌がらせ。」
「嫌がらせ?」
「君が出たあと会長さんと二年の人がそれはもうご立腹でね。踊れるような雰囲気じゃなかった。でも踊ろうとした奴がいたからこっちはこっちで全く無縁の曲弾いてんの。これじゃ踊れないでしょ?」
「そんなことして良いんですか……?」
「良いんだよ。君が悪いならまだしも悪くないらしいし。そもそも不正なんてあり得ない。君と関わる厩舎と厨房の評価は高いんだよ、特に厨房。皆弟子だと思ってるらしい。新しいメニュー覚えるたびに先輩に美味いもの食わせるんだって喜ぶ奴が悪いやつかって厨房の知り合いが言ってたよ。そもそも自主的に来てるって話じゃないか。噂は色々聞くがでたらめばかりだと思うね。」
「私は一つも知らないんですけど。」
「一番酷いのだと薬使って洗脳してるってのを聞いた。変だよな、胃袋掴んでるだけなのに。」
「胃袋掴んでるって……私しか出来ないだけです。それにどうせ食べてもらうなら美味しいものを食べてもらいたいでしょう? 自分の作ったものを幸せそうに食べてもらえることほど作り手冥利に尽きることはありませんから。」
「そうだな。それで俺達も話し合った結果、君が帰ってくるまではこれで行こうってなった。あんな仕打ちして自分達だけ優雅にダンスなんて許すかよ。」
「キールさん……ありがとうございます。」
「いつも助かってんのはこっちだよ。また手伝いに来てくれな。返せるものもないがお菓子くらいなら置いてあるからよ。」
「まだ全然上達していないんですから喜んで通わせて貰いますよ。」
「勉強熱心で良いこった。……どうする?」
「どうせなら楽しく行きたいです。申し訳ありませんが仕切り直すのに空気を変える切っ掛けを手伝ってください。」
「おう、分かった。どうしたい?」
「私と会長が踊ります。セットに合わせて軽快な曲に変えてもらえますか? 多少の難易度だったら踊りきりますので。」
「分かった。リードに伝えとく。」
コンバス? コンマス? そんな人かな? あんましらない。
俺は王子を放って会長を探す……っと、見つけた。不機嫌そうに立ってる。
俺は少し急ぎ足で会長の元へ向かい膝を……つくのは怖いので少し浮かせたきっつい体制で手を伸ばす。
「……そこの綺麗なお嬢様。私と踊ってはもらえませんか?」
「……待ちくたびれたぞ。」
「お待たせして申し訳ありませんでした。参りましょう。」
俺達二人は会場の真ん中まで歩いていく。そこはぽっかりと空いた……俺達の舞台だ。
俺は背を伸ばし先輩と組み合った。と同時に曲調が一気に変わる。
軽快な……というか早いな。これは…………これまた難しい曲を。
俺は曲に合わせてリードを開始した。会長が目の前で少し驚いている。
「上手いな。」
「ありがとうございます。……中々言えませんでしたが……綺麗ですよ、セイラ。」
会長にそう囁くと会長のステップが一瞬だけ乱れた。
「…………っこの、生意気な。後悔するなよ?」
「望むところです。」
会長が少し赤くなった顔で好戦的な笑みを浮かべるものだから俺もそれに好戦的な笑みで返した。
主導権を何度か取られそうになったがどうにか一曲踊りきった。
制止してしばらく、まず王子から拍手が飛んできた。そこからポツポツと、やがて大きな拍手へと変化する。
俺達二人は並んで頭を下げた。
「……存外多芸だな。普通に上手いじゃないか。」
「跳躍持ちですから。」
「……久しぶりに楽しかった。ありがとう。」
「もう一曲行きますか?」
「いや、次が首を長くして待っているからやめておこう。」
俺達は一度別れることになった。すかさず入れ替わりがやってくる。
「…………私あんな風に踊れないから見劣りするかも。」
「だぁいじょうぶですよ。今日の主役は新入生ですが貴方ほど綺麗な人はそうはいません。目立つだけならいくらでも。」
ということで音楽隊の皆さんに転調をお願いする。まだ俺が中心にいるから目立つんだ。
セットした状態で右腕をゆっくりと指揮を執るように上下させる。気付いた人が教えてくれて彼らは一様にこっちを見た。
細かいところはプロの皆さんにお願いして……さーんにーいーち、それっ!
俺が合図すると流石にプロ、綺麗に合わせてくれる。
さっきはやたら早くってせわしなく動いていたが今度は逆に可能な限りゆっくりと、優美に踊る。俺は優美、優美に舞う白鳥。
「…………先輩としての威厳が……。」
「そんなものないでしょう。……俺との間に威厳とか、建前とか、いりますか? 少なくとも俺は心から今日の先輩は綺麗だと思いますよ。……俺のために怒ってくれてありがとうございました。去年はきっと出てないんでしょうから貴方も今日の主役にしますよ。さあ、胸を張って。今日も貴方は美しい。」
「…………後輩君はずるい。」
「ははは、それもそうですね。ほら、少し大きく動きますから気を付けて。」
今回はゆっくりしている分大きく動く。体感と筋力的にはさっきよりこっちのが使うだろうが……足りない部分は補えば良い。
一曲踊った頃には先輩も楽しそうな顔をしていた。うん、それでいい。怒った顔は相応しくない。
次はそうだな……あいつにしようか。
「殿下、踊っていただけませんか?」
「おっと、私か。良いだろう、リードは?」
「任せます。俺は二回も主役を張ったので殿下も目立ってください。……ファーストダンス、失礼します。」
「私では少々力不足を感じていましたので貴方が初めならば私の気も楽になります。」
「ありがとうございます。」
誰も踊らないからまた曲は止まっている。というより俺の指示を待ってる感じか。
もういっかなとも思うので……俺は口でお、ま、か、せと知らせる。やがて踊りやすそうな曲が聞こえてきた。
俺は何故か男と踊っているのだが今一番効果的に示す方法なのだから仕方ない。
同性だろうと身分が違かろうと好きに楽しくやれ。以上、首席の願いだ。
「私の前では崩してくれて良いんだよ?」
「……また二人きりになることがあればそうする。全く……一国の王子がおどおどと。首席を蹴落とす気概はどうした。」
「私にそういうのは似合わなくてね。それにしても……上手いね。」
「師匠に仕込まれてるんだ。師匠は今どこで何をしているんだろうな……。」
「これほどの物を教えられる人間となると限られるが……詮索はよそう。無粋だ。」
「よく分かっているようでなによりだ。……今日は仕切り直してちゃんと楽しんでほしい。学園最初の行事が暗い中終わるなんて嫌だろう? それを成すには俺じゃ無理だ。俺はこれが終わったらその辺でひっそりしているが第一王子殿下と踊りたい人間は山ほどいるだろう。無理強いはしないが可能な範囲で思い出になってほしい。」
「……仕方ないなぁ。ここまでやった首席殿が報われないのは忍びない。楽しくやるよ。」
「それでいい。」
「婚約者殿とはどうだ?」
「人がいる、やめてくれ。……見ればわかるだろう?」
「ああ、見ただけで分かった。まだ出会って一ヶ月しか経っていないはずなのに互いに相当信頼している。……実はまだ何か秘密があるんだろう?」
「それを問うのは無粋じゃないか?」
「それはほぼ肯定だよ。……私はまだそこまで親しくなった覚えがないから詮索はしない。だがいつか話してもらえると嬉しいかな。」
「全て終わって機会があれば。……研鑽し、前へ進め。貴方はこの国の未来なのだから。この先どんな困難が訪れても、どんな試練を課せられても、折れるな。俺が後ろにいる。それを忘れないでくれ。」
「随分と抽象的なアドバイスだな?」
「そのうち分かるよ。貴方には私がどれだけ努力しても追い付けないだろう。けれど置いていれるつもりはないんだ。私はいつか貴方達に酷なことを頼むかもしれない。その時、投げ出すことだけはしないでほしい。」
「…………何が何かは分からぬままだが。一応気に留めておこう。」
「ありがとう。…………さて、私も楽しみますか。本気でやるので付いてきてくださいね?」
「いいだろう。これでも幼い頃から学んできたんだ。」
王子と躍り終わって俺はその辺でひっそりしている。
勝敗? ここは試験会場ではないのだからそんなものは無粋だろう?
用意されている軽食は美味しい。服が汚れないように気は使うがとても満足だ。この味を出せるように努力しよう。
「こんばんは。楽しんでますか、首席殿?」
「程々に楽しんでますよ次席殿。」
「そろそろ名前でお呼びくださればよろしいのに。」
「私にも名前があります故首席の呼び名が聞こえなくなればそうお呼びしましょう。私は前例に倣っているまでです。」
「…………時に今度、共にお食事でも如何ですか?」
「それはどちらで?」
「王都にいいお店があるんですよ。代金はこちらで持ちますので。」
「それでは是非。」
「今度の休みにでも如何ですか?」
「分かりました、空けましょう。」
「では明後日お迎えに上がりますね。」
うーん……多分悪いことじゃないとは思うんだよね。腹は黒いけど不正はしない人だから。
噂だって事実でなければ流してはくれない。
多分本当に話すだけか自分と食事をする程度の仲ではあると見せたいか。
そうしてちょっとした約束をして、会場は何とか楽しげな雰囲気のまま新入生歓迎パーティーは幕を閉じた。




