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17 バグ


 本日二話目です。



 ゴールデンウィーク二日目。俺は現在王都の広場に帽子を被り少し畏まった服装で立っている。


 人を待っているのだが……あぁ、来たか。


「お待たせしましたぁ。」


「待っていませんのでお気になさらず、時間ぴったりです。……大丈夫なんですか?」


「大丈夫ではないでしょうねぇ。バレたら怒られちゃいますよぉ。」


 そう、待ち合わせの相手は先生だ。今日はカジノに誘われている。


「一人で行くわけには行かないんですか?」


「だってぇ……先輩さんはデートするのに私はしないのも少し悲しいじゃないですかぁ。」


「でも……流石にこれは……。」


 今日の先生は一段と綺麗だ。普段の服装とは違い肩と鎖骨あたりが露出していて軽く化粧もしているようだし香水の匂いがする。


 平常を装っているがそんなはずがなかった。

 もう帰りたい。こんな美女といたら頭おかしくなるし絶対間違いを起こす。


 今日は絶対夜に目を閉じたら先生が出てくるな。なんでこの人を前にワンナイト狙えるの? ワンどころか魅了されるでしょ。

 夜酒場にいたら普通に全力で口説くだろ。玉無しかよ。


 もう……ね? 肩を抱き寄せたい。体温で暖めたい。

 というか……ね? 童貞には刺激が強すぎますよ。


 俺、女教師の属性持ってなかったんだけど……先生に開けられちゃう。


 襲ってしまう前に帰りましょ? 男は皆狼ですから。


「………………べた褒めですねぇ?」


「褒めていいんですか?」


 一言で言うならエロい。あのですね……もうちょっとほんわかした雰囲気出してください。そんなエロエロなやつじゃなくて。

 なんでこう、先生は俺と接するときはエロいんですか。男の子も大変なんですよ? 興奮してしまうと体の一部分が主張し始めるんですから。


「……溜まってるんですかぁ?」


 はい。

 美人の先輩に毎日抱き締められて扇情的な姿を向けられて。でも隣の部屋でいつ来るかわからないし中々処理も出来ず……。


 先生ももっと可愛らしい感じの格好なら良かったのにカジノ行くつもりだからか大人っぽい少しセクシーなやつで……正直ムラムラします。


 お願いなので勘弁してください。本気で我慢できません。俺はまだ襲うわけにはいかないんです。


「…………最後まではしないとしても抜いてあげましょうかぁ?」


「なんの話ですか?」


 お願い、本当勘弁して? そんなことで収まると本気で思ってるの? 拗らせ処女め。


 俺は言い切れる。無理! 絶対に襲うからね?


 先生が目が血走って意外に強い力で自分より体格の大きい俺に押さえ付けられても確実に伸してくれるなら…………いや、それでもあれだな。


 …………色街行こうかな。


「…………恥ずかしいので考えないでくださいねぇ。」


 先生、ここ人混み。心と会話しないで。


「誰も聞いてはいませんしバレませんよぉ。」


 そうかな?

 でもね先生、考えるなは無理だよ。もっと大人しい服装なかったの?


「……喜んでもらえるかなぁって思ってぇ。」


「ではまず服飾店へ向かいましょうか。」


「…………それはちょっとぉ。」


 じゃあ帰っていい? 先生とデートは嬉しいんだけど俺はまだ学生なんだよ。バレたら不味いんだって。

 本当に襲っちゃうから。お酒なんて入れたら間違いなく。


 だからね、駄目。お願い、着替えて?


「あんまり困らせるのよくない。着替えて。」


「…………なんでいるんですかぁ?」


「彼がデートだって喜んで出掛けたから邪魔しようかなって。私は明日なのにずるい。カジノなら私も行く。もう一人来る。」


 …………うん? もう一人? 会長来るの?


 あーっと……あ、いた! 隠れてる。


「ちょっと行ってきます。」


 俺は葛藤しているような会長に音もなく気配も消して近づく。


「やはりこの格好と言うのは……。」


「かーいちょ。」


「うひゃぁっ!?」


 わぉ、可愛い声。会長こんな声だったんだね。思ったより高い。


「き、きききききききき奇遇だな。」


「どれだけ噛むんですか……何してるんですか?」


「それは………………そのぅ……。」


 負い目があるんだろうことは置いといて他に何躊躇して…………ああ。格好か。

 ピンク基調のフリフリしたワンピース着てる。


 でも似合ってるけどなぁ……自信ないのかな? 格好いい服も可愛い服も似合うとかずるい。


 仕方ないから褒めてみよう。


 俺は会長に近づく。会長はスカートを握りしめているのでその手に右手を添えて耳元で囁くことにした。名前とかその他バレたら面倒だから役職呼びもなぁ。


「とてもよく似合ってる。綺麗だよ、セイラ。」


「…………………………ひゃぅ……。」


 あらら。真っ赤になって目を回しちゃった。漫画だとぼふんって湯気が出て目がぐるぐるになってるだろう。


「あららぁ。」


「ロレンス君の女誑し。」


「否定できないんで言わないでください。」


「私だけ褒めてない。」


 うーんとね、先輩は可もなく不可もないね。セーターにジーンズ着てる。

 あるんだなぁ、これが。この世界にはあるんだなぁ、セーターもジーンズも。


「何着ても綺麗で似合うのずるいです。」


「君も似合ってる。今日は名前で呼んでね?」


「…………はぁ。分かったよ、ネス。気を付けてみる。敬語がやっぱり抜けないのは駄目だね。」


「…………うん、満足。」


「私はぁ……なんでしょうねぇ?」


「ベル?」


「って呼ばれてましたねぇ。」


「じゃあそう呼びましょうか。……呼ぼうか。」


「でもぉ……カジノ行けないですねぇ、これはぁ。」


「俺としてはあんなお酒とムードにまみれた場所に行かなくて済んで助かります。」


「ねぇ、もしかしたら家の人間に会うかもだけどどうしよう?」


「考えずに来たの……?」


「うん、考えてなかった。君がいれば大丈夫だと思って。」


「…………ダンジョンでも行くか?」


「その格好で?」


「………………とは言え休日に遊ぶような顔ぶれじゃない。買い物か? この顔だと仕事くらいしか出来んぞ。私はまだしも残り二人は不味い。」


「そうですね。」


「変装するか? 姿代えの魔道具など持っていないぞ。」


「作成方法と材料、完成品が取れる場所なら知ってますよ?」


「…………それは簡単なものか?」


「うーんと……自分は作れませんね。ネスなら?」


「ならば作って出直すか。」


 そういうことになった。





 先輩は製法と材料を教えたら翌日には四つ完成させてしまった。流石天才。


 と言うわけで出直した。


 昨日と同じ場所に集まったのはパッとしない男女四名。男一に女三の均等じゃない4人だ。


 パッと見だとお互い分からないので目印として俺が胸にコサージュを付けてそこに集まることになった。

 先生に見繕われ、男性用でブートニアと呼ぶそうだがそんなものは知らないのでコサージュでいい。


「ロー君?」


「そうだよ、ネス。」


「あれ、分かる?」


「背格好、声、所作で分かるよ。」


「なら私達も分かるか?」


「ベル。」


「正解ですぅ。」


「凄いな。今のは普通に似ていたぞ。」


「身長と豊満な一部でバレバレです。あとセイラはもっと一言に含まれる圧が強いですよ。」


「えっちぃ。」


「知りませんでしたか? 俺は結構エッチです。」


「知ってますけどぉ。不思議と嫌じゃないんですよねぇ。」


「確かに胸元や足なんかにも視線が来るがいやらしくないからだろうな。」


「……バレてました?」


「たまに見てくるな。そのまま自然に流れていくが。」


「…………仕方ないんです、男の性なんです。どうしても視線が魅惑の胸部に吸い寄せられるんです。」


「少しならば構わない。ジロジロ見られたり露骨に逸らされたりしないから気にもならん。むしろ少し気分が良いくらいだ。」


「私も。抱き付くと凄い意識しててちゃんと私に反応してくれてるのが凄く可愛い。」


「口先ほど胸元に興奮してませんもんねぇ。あれ地味に嬉しいんですよぉ。慣れてない感じも初々しくて良いですねぇ。」


「……あんまり言うと後悔させますよ。俺の師匠は賢いだけでなく強くそして色男なので口説く方法も伝授されてるんですよ?」


「その子供にいらないこと教える悪い大人は誰ですかぁ?」


「父さんの古馴染みらしいですよ? たまにふらっときて課題を投げてく人でした。色々教わりましたね。俺の尊敬する大人の男性第二位です。本当格好いいんですよ。」


「そんな方をお手本にして本当にいいんですかぁ?」


「いいんじゃないんですか? 昔は浮名を流したそうですが結局奥さん一筋らしいですし。そんなところもまた格好いい。」


「ちなみに一位は……。」


「父さんです。」


「やっぱりですかぁ。どんな方なんですかぁ?」


「よく本を読んでる息子に自分の食事が塩水と焼いた小麦粉になることを覚悟で凄く高い学費を払っちゃうような人です。愛する人を失った事を俺に当たらず寂しさなんて隠して振る舞えちゃう人です。村へ行くと笑顔で挨拶されてたまに持ってけと野菜とか肉とか押し付けられる人です。彼らの生活も決して楽ではないのにですよ? そんな人間に私はなりたい。」


「君はお父さんが大好きなんですねぇ。」


「照れ臭いですけどそうですね。もし父さんが父さんでなかったら俺はここにいないかもしれません。受かる自信はありますが……父さんの期待に応えたくて来たんですから。」


「…………父……か。」


「セイラさんはどんな関係なんですか?」


「悪くはない……と思う。……知らないのか?」


「全然知りません。」


 出てこなかったからね。会長って主人公になると覇道を歩み出すから家の介入の余地がない。


 会長主人公はなぁ……乙女ルートと覇王ルートで分かれて覇王ルートは王子落として女王になる。本当に覇道だ。


 あれは格好いい。"私に付いてこい、背中は任せる"って……少年漫画の主人公か!


 誰も落とさないと今度は学園長になったり結婚したり……色々あるよ。


「父は騎士団長をしているよ。仕事であまり戻らない人だから直接会話するのは年に幾度かだった。……尊敬出来る人ではある。だが少し……。」


 会長は寂しそうだ。適当言って慰めないと。


「甘えてくれていいですよ?」


「……ふふふっ、そうか? ではたまにはそうしようか。」


「……ちょっと? 何故抱きつくんです?」


「違う、腕を組んでいるんだ。」


 挟まってる挟まってる。やめて、先輩は少し慣れてきたけど会長は慣れてないから。先輩とは違う匂いに頭がくらくらする。


「では私はこっちですねぇ。」


 やめて……やめてぇ……。


「私以外の匂いがつく……いいんだけど……複雑……。」


「前から思ってましたけどぉ……皆さん結構独占欲強いですよねぇ?」


「そうだな。」


「独占欲ないもん。」


「それは無理がありますよぉ。……誰が一番好きですかぁ?」


 先生は悪戯をする子供のような顔で俺に問いかけてきた。


 誰って……魔王。


「もぅ……。」


「言ったら角が立つでしょう?」


「いるんですかぁ?」


 いる。けど教えない。皆好き。


「私ですかねぇ?」


「私に決まってる。」


「私かもしれないぞ?」


「……行きますよ。」


 俺は場を濁すべく歩き出した。少し目立ってきていたからな。




 目的地のカジノに着いた俺達はまず景品を見に行った。


「本当にありますねぇ……秘伝書って滅多に出ないんですけどいつ出たんでしょうねぇ? でもやっぱりというかぁ……高いですねぇ。」


「そうですね。今日は確認と適度に遊んで帰りますよ。カジノは本当に運ですから無理なときは無理です。固執して破産したら笑えませんよ。」


「そうですねぇ……バラけると怖いので纏まって動きましょうかぁ。」


 その怖いって二人ほどお嬢がいるから怖いなんだろうな。

 引率する先生気分なんだろう。もしかしたら俺も含まれているけど……絡まれた時に前に出るのは俺だ。弱いけどその時ビビってるようでは男が廃る。


 俺達は適当に見て回ってルーレットをやることにした。


「今日は私がお小遣いを決めますねぇ?」


 そう言って先生は笑顔で金貨一枚分のコインを押し付けてきた。

 1000コイン……四人分出したけどそれ給料一ヶ月分近いのでは……先生、無茶しやがって……。


「じゃあこれ……。」


「いいんですよぉ。格好つけさせてくださいなぁ。」


 先生はこういうとこある。格好いい。そういうとこも好き。


 さて、やろうか。




 結果。


「何で勝てないんですかぁ!」


「私大勝ち。ぶい。」


「俺もいい具合ですね。」


 先生は全部スって先輩は10倍に、俺は2倍になっている。会長は……困っている。

 先生は綺麗に負けてる。二分の一すらことごとくスカだ。


「どうすればいいのだろうか……。」


 会長の持ちコイン、150万。1億5000万円分のコイン。元からは1500倍、実におかしい。


 何がどうしたらそうなったかと言うと、一点賭けで幾度か当ててる。玉投げ入れる前にベットしてるのに。


 特に一番初めなんて全部掛けてたんだぞ……? 意味わからん。


 毎回1000ずつ掛けるのに外さないものだからディーラーの人も顔が少し青い。上手い人はピンポイントで投げられるらしいけどそれでも当てるのは凄い。変えてるだろうに一個ズレたりしてるのかな……。


 会長は困っている。手元に1000コイン分のコインの山が築かれているのだから少しは驚くだろう。


 俺は先生の逆賭けだ。ちょくちょく稼いでる。


「そろそろ行きましょうかぁ。私は悔しいので得意なカードやってきますねぇ。」


「これはどうすればいいのだろうか……。」


「お好きにどうぞぉ。返せだなんてケチ臭い事は言いませんよぉ。」


「…………一番高いのは100万でしたか。それはお譲りします。」


 実に1憶の取引である。頭おかしい。


「ではありがたくぅ。換金されるよりマシでしょうからねぇ。」


「あとは……どうしようか。」


「俺ちょっと欲しいものあるのでおねだりしてもいいですか?」


「おや、珍しいな? 持ってても持て余す、今日使う分以外は好きに換えていいぞ。」


「流石!」


 うん、あれば嬉しい程度だったんだけど5万するんだよね。だから諦めてたんだけど……いいね。


 何かと言うと異空間バッグである。便利なんだ。


 便利武器は現時点ではいらないしカジノ報酬で限定なのは年で代わる特等秘伝書だけだ。


 RTAやるような人間はカジノで乱数合わせて装備揃えたりもしたそうだけど俺はやらない。解析出来なくて乱数の特定が大変だったそうだ。


 異空間バッグは所持アイテム上限アップのアイテムだ。先輩の必須アイテムだった。つまり見た目よりいっぱい物が入る。


「なら私もおねだりしたいです。」


「珍しい。なんだ?」


「……ここのカジノ限定のストラップ。高いものじゃないけど……記念に。」


「……なるほど? それはいいな。飾るとしよう。」


「……お願いしてみたかったんです。」


 会長が凄く優しい目をしてる……ゆりゆりしてて神々しい……浄化されるぅ。

 百合に挟まる男は殺されるらしいしその辺でスロット回してていいすか?


「何考えてるんですかぁ。」


「……神々しくありません? あのネスとセイラがお互いにじゃれあってます。」


「ちょっと分かりませんねぇ。」


「俺は感動できますよ。」


 二人は本当に仲がいい。百合カプ作るなら最高のカプだと思ってる。

 そりゃあお嬢とメインヒロインちゃんとかもあるけどやっぱ先輩二人組だよ。


「私にそういう趣味はない。」


「私もないな。……私の数少ない友人だとは思っているが。」


「私もです。」


 いやぁ……尊いねぇ。やっぱ生は迫力が違うわ。


「その目は嫌。遠い目をしないで。」


「……さて、次はカードでしたか。」


 俺はまた無理矢理場を流した。




 カードの戦績は先生が勝ち、俺は少し負けた。でもまだ合計ではプラスである。

 会長は……言うに及ばず。多分そういう星の下に生まれているのだと思う。


 意外だったのは先輩だ。大負けに負けて所持数が五分の一になってる。


「無念……確率では勝てるはずだったのに。」


「確率なんてあってないようなものですよぉ。こう言うときは例え負けが1%だとしてもそっちを引くものなんですよぉ。」


「ベルは勝ちましたね。負けを取り返せたじゃないですか。」


「カードは得意ですからねぇ。」


 カードと言っても色々あった。ポーカーにブラックジャック、神経衰弱……本当に色々。


 会長はもう遠い目だ。また増えた。


 多分減らすべく必要数を除いてポーカーで全賭けしていたがロイヤルストレートフラッシュなんて頭のおかしな役を繰り出していた。


 流石に不正を疑われて身体検査。異常なし。


 とんでもない倍率で帰ってきたコインの山に本当にとんでもない目をしていた。


 現在は10万コインの山が築かれている。


 そりゃあな……100倍越えてたもんよ……。


「どうしようか、これ。」


「換金は無理でしょうねぇ……破産しますよぉ。預け入れってやってましたっけぇ?」


「知りません。凄いですね。」


「あれよあれよと言う間に増えて……何故高配当に賭けても当たるんだ……?」


 途中明らかな高配当……当たらないであろうと高をくくったものが幾つか見られた。全部拾った。親は顔真っ白だ。


「ご歓談中のところ申し訳ありません。オーナーがお呼びです。お付き合い願えませんか?」


 来た。まあそうなるわな。


 俺達は大人しく裏へ案内された。お、出たなオーナー。あんたを知ってるぞ。この辺の元締めだろ?


「俺がここのオーナーだ。とりあえず座ってくれ。」


 対面に俺が座って女性陣には申し訳ないが背後を守ってもらう。先輩だけは俺の隣だ。


「何の用だ?」


「まあそう警戒すんな。そのイヤリングとネックレスに見覚えがある。身元の詮索はしねぇよ、こっちはお貴族様も相手にしてんだ。」


「そりゃあ助かるな。俺はまだしも残りがやんごとない関係者でね。」


「やっぱそうか。……一応会ってみたが不正はどうもなさそうだな。」


「今日は遊びに来たんだ、そんな興醒めはするかよ。」


「だよな。お前さんとそこの嬢ちゃん以外は明らかに場馴れしてない。」


 俺もしてないよ? ただ師匠に仕込まれてるだけで。


「こっちも驚いてんだ。ロイヤルなんて俺も初見だ。」


「俺も初見だ。しかもそんな馬鹿みたいに賭けて当てるか普通?」


「本当だよ。俺達もどうするか悩んでるんだ。ただ戻したら面子潰すし両替なんて出来ないだろ? 景品かっさらうわけにもいかない。何かあるか?」


「………………あるにはある。」


「それ却下な。裏には行かねぇ。お目付け役も兼ねてんだよこっちは。」


「だよなぁ……。」


「…………裏……ですかぁ?」


「聞くな。」


 多分気分悪くするから。潰したらいくつかの貴族が本気で喧嘩買うから駄目だよ。


「となると裏メニューか? 本格的な裏ほどヤバイもんはねぇが……。」


「何がある?」


「いくつか秘伝書は置いてんな。あとはポーション類と装備類。姿変えもある。」


「秘伝書は何がある?」


「鑑定、筋力増強、跳躍、直感、聴覚強化だな。」


「全部で500万か。」


「いや、裏から引っ張り出すんだ、2000は貰わねぇと。」


「それは少し盛りすぎだろう。700万。」


「いやいや、こっちは次の景品も用意しなきゃならねぇんだよ。負けても1800だな。」


「800。」


「1750。」


「1000。」


「1700。」


「1500でどうだ?」


「……よし、良いだろう。」


「あとは……何億あるんだ?」


「こっちも把握しきれてねぇよ。途中で投げ出してる。」


「預け入れも困るよな?」


「そうだな。いつ引き出されるか分からんものは預かりたくない。毎回目玉を持ってかれても困んだよ。」


「俺らもここを潰す気はないんだ。ここの系列で使えやしないか?」


「お、そりゃあいい。いくつか紹介状と交換でどうよ?」


「う~ん……何処だよ?」


「そりゃあお前さん、ここの系列となりゃあ色街だろうよ?」


「却下。」


 即座に隣のお嬢さんが返答する。判断が早かった。


「…………お、おぅ。そうか。ただ酒と接待の店もあるんだが……。」


「却下。」


「とのことだ。流石に恩恵が俺だけじゃあ納得いかないだろうよ?」


「そりゃそうか。当てたのそこの後ろの嬢ちゃんらしいしな。」


「……どうすっかなぁ。」


「やっぱ裏の軽いので使わねぇか?」


「減ると思うか?」


「…………バカヅキしてるやつは恐ろしいからな。増える気がする。」


「だろ? とりあえず今日ぶらぶらして終わってからもっかい話すか?」


「まだ増やされると困るんだがな。正直出禁にしたいレベルだ。」


「不正はねぇからやめてくれよ。じゃああれだ、孤児院のガキ共に飯でも送ってやれ。手間賃とメニュー外、色々込みで今回俺らが交換する景品プラスそれで俺らの持ち全部でどうだ?」


「………………マジか。それでいいのか?」


「寄付だと思えば良いだろ。王都でもキツいのいくつかはあんだろ。」


「ある……が。」


「他の街にも勢力圏があるなら送ってやれ。ちゃんと匿名の客からの寄付だって言うんだぞ?」


「…………助かる。俺もどうにかやっちゃいるが寄付出来るほど自由にできなくてな。小競り合いもある。」


「そりゃあ大変だ。抗争すんなら一般人巻き込むなよ。」


「俺はその気はねぇよ、下にもある程度徹底させてる。あいつらは知らねぇけどな。」


「あんまり目につくなら国が動かなきゃならねぇ。そこだけは理解しといてくれ。」


「分かってる。」


 抗争はこのカジノの経営してる組織と色街の元締めで行われる。どちらが悪いとも言い切れないのだが俺はこっち派である。


 確か理由は……色街の覇権の奪い合いが発端か? そっから妨害、その他色々。


 向こうはこっちより黒いんだよな。拐ってきた人間が嬢になってたりする。こっちは地下で奴隷が剣闘してたりする。


 ……っと、先生気づかないふりしておいてね。乗り込んでも良いことないから。

 確かどっかの公爵家が絡んでるからね。


 もう何十年も前からあるし定期的に場所も変わる。捕まえられないんだ。


 奴隷も綺麗なのから超汚いのまで色々いるし。借金のカタに自分を売ったものもいれば拐われたものもいる。


 ここは比較的綺麗。まあ非合法だから綺麗も汚いもないんだけどね。


「っとなったら適当に遊んで帰るわ。」


「本当に両替だけはしないでくれよ?」


「しないしない。ここが潰れたら王都のカジノがしばらくなくなるじゃないか。」


「酒も扱ってるが飲むか?」


「飲まない。念のためな。じゃあ俺らは最後受け付けに持ちコイン全部投げるから準備しておいてくれ。」


「分かった。」


 俺達はまた適当に遊び始めることにした。不正? あったけど会長と先生と先輩にことごとく見抜かれて潰されてたよ。




 最終結果発表だド~ン!


 1位、会長! 今度は1コインから始めたのに億越え! 色んなゲームの相手を泣かせてきたよ!


 2位、俺! なんと5万コイン! 目標たっせ~い!


 3位、先生! 一度追加してるからそれをマイナスして5000コイン!


 4位、先輩! ジャスト1000コイン! 勝ったり負けたり得意不得意があるみたいだね!


 負けた人はいなかったけど換金はしないから負けとも言えるかな!? 今日の出費金貨5枚、一日で50万円分遊んだよ! 怖いね!


「元金だけ戻してもらいましょうか……高いですもんね。」


「お給料の使い道ないのでいいんですよぉ、お小遣いですぅ。いい具合に遊べたんですからそういうことは言いっこなしですよぉ。私も楽しかったですぅ。」


「私はきっともう来ない。あれは一周回って怖い。」


「豪運と言うか……きっとそういう運命。」


「増え幅がおかしい。もうちょっと負けないものか。」


 そう、全体で見れば会長もちゃんと負けてる。

 ただし負ける時に限って賭ける額が少額だったりする。


 低配当に賭ければ的中し、高配当に賭けても的中し、全部賭けても的中する。さながらカジノバグだ。何か恐ろしいものの片鱗を味わった。


「私としては突然口調が変わった人物に驚いたな。」


「俺ですか? あれは慣れです。うちの猟師の人が結構言葉遣い荒いんですよ。周囲も決して言葉遣いが丁寧な方ではありませんから俺としてはあっちの方が馴染み深いですね。」


「初めの方はいい感じだったのに結局敬語に戻ってる姿からは想像もできないな。」


「これでも大分崩してるんですよ?」


「そう……だな。確かに。」


「でもちょっと良かった。」


「黙秘しますねぇ。」


「同上。」


 えぇ……趣味わる。


「でもやっぱり普通がいい。」


「便乗しておきますぅ。」


「同上。」


 会長同上しか言ってない。


「ほら、ふざけてないで行きますよ。この時間なら軽く他も回れるかも……。」


「早く行こう。」


 俺達はさっさと景品を交換してカジノを後にした。




「景品の分配は適当にしていいですか?」


 実を言うと全部有用だから欲しいところではあるけど鑑定は先約あるし会長の勝ちで換えたものを占有するわけにもいかない。


「君が使えばいい。」


「でも有用なものですし……手に入れようと思ったらかなり運が絡みますから今のうちに取っておくべきです。」


「私に運の話をするか?」


「…………本当にいいんですか?」


「構わん。それで少しは追い付いてくれ。鑑定は先約があるようだがな。」


 跳躍、直感、筋力増強、視力強化は……本当便利。強いスキルじゃないけど便利。

 跳躍は脚力上がるし直感は気付くべき情報に気付きやすくなる。ゲームだとクリティカル率上昇だが現実ならもっと有用だろう。


「………………ではありがたく。」


「それはそうと……付けられてるな。」


「そうですねぇ。」


「やっぱり?」


 先輩も気付いてたんだ?


「どういう輩なんですかね?」


「とりあえず釣ってみますかぁ。」


「釣っていいんですか?」


「ふふふぅ、この顔ですよぉ? 並のチンピラが相手になるはずないじゃないですかぁ。」


「そういう問題じゃ……。」


「まあ見ててくださいよぉ。たまにはいいとこ見せないと君に格好いいって言ってもらえませんからねぇ。大丈夫ですよぉ。」


 大丈夫かな……?


 俺の心配など気にされず先生は路地裏の方に歩いていった。

 あー……囲まれたなぁ。本当に大丈夫かなぁ?


「よう? 随分と羽振りが良さそうじゃねぇか。駄目だぞ、勝ったらこんな裏に来たら。囲まれてボコされて売られちまうからな。」


「ご忠告どうもぉ。貴方達は誰ですかぁ?」


「誰でもいいじゃねぇか。これからボコされるお前らには関係ねぇよ。」


「そうですかぁ?」


「とりあえず身ぐるみ剥がさせてもらおうか。」


 俺は先生に視線で止められてるから動かなかったが先生の腕が捕まれたのでそろそろ動こうかと意識を切り替えた。


「はい、これで貴方達は暴漢ですね? 安心してください、痛くしませんから。……最初のうちは。」


 先生は間延びしない声で右腕を掴んだ人を……投げた。


 次の瞬間には次の男の背後でチョークスリーパーをかけている。一瞬で落として投げ捨てられ、また次の瞬間には……という具合に処理されていく。


 あっという間に話しかけてきた男一人になった。数分経っただろうか……?


「えぇ…………?」


「ざっとこんなもんですよぉ。準備運動にすらなりませんねぇ。」


「…………えぇ?」


「強いでしょぉ?」


 強すぎ。流石包丁一本。


 本当に瞬きでコマを飛ばしたかのように動いていた。

 どうやってるの……? 縮地……? 持ってないはずだけど……。


「さて……改めて聞きますよぉ? 誰さんですかぁ?」


「お、俺達にこんなことしてただで済むと……。」


「済まないと思いますかぁ? 答えないと子供達の前で拷問しないといけなくなるんですけどぉ……答えてくださいよぉ。苦手ですからすっごく痛いと思いますよぉ?」


 おぉ……こわっ。先生は怒らせないようにしよ。


「…………俺達はただのチンピラだ。」


「へぇ? そうですかぁ。」


 先生が俺に近づいて……俺が止めた。


「変わります。」


「男の子とは言え子供にさせるわけにもいきませんよぉ。心得はありますから任せてくださいねぇ?」


「嫌ですけど?」


「強情ですねぇ。」


「据わった目で大の男を痛め付ける姿を見たらベルに抱く印象が変わってしまいますねぇ。」


「うっ…………卑怯ですよぉ?」


「やりたくないことは押し付けていいんですよ。俺がやります。ベルが一人で背負う必要はないです。」


「やっぱりお前チビ巨乳のイカレ年m…………。」


 あ……言わせてもらえなかった。


「敵対組織の構成員らしいですねぇ。分かったので締めましたぁ。」


「嘘だぁ?」


「本当ですよぉ?」


 今絶対私怨で殴った。俺も蹴っとこ。先生は年増なんかじゃないやい。


「もしかしてベルって有名なんですか?」


「あー……たまにナンパ男を伸しますねぇ? あとは……心当たりあるんですけど言いたくないですねぇ。」


「じゃあいいです。」


「帰りますかぁ。」


「そうですね。」


 男達は全員下半身だけ剥かれ、座らされて放置された。先輩と会長は他所へ追い出され先生は少し楽しそうにやっていた。えぇ……?


 男は年増呼ばわりしたやつだけ下着を頭に被せた。先生は爆笑していた。えぇ…………?


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