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16 GW


 本日一話目です。三話あります。



 光陰矢のごとし。本日は4月30日、月曜也。今日までにちゃんと同郷ニ名は特定させていただきました。

 どちらも同クラスだと思ったら片方別クラスだったよ。


 明日行けばゴールデンウィークに突入するのだが……面倒なことが起きてしまったので研究室で臨時会議を行うべく先生を心の声で召喚した。


 先生を召喚したら会長も来た。会長はいてもいなくてもどちらでもいいかな。


「それでぇ、何で呼ばれたんですかぁ?」


「あれ、説明しませんでした? ラブレター貰ったんですよ。」


「ラブレター? また増えるの?」


「増えませんって。」


 ラブレターと言う名前の面貸せやレターだから。制服破レターにならなきゃいいけど。


 ……うん。ゴールデンウィーク一日目に呼び出されました。知ってる場所です。ヘイトこっちに来たか……。

 差出人は不明。そりゃそうだ。


「なるほどぉ。どうお返事するつもりなんですかぁ?」


「その気はありませんごめんなさいって言います。」


「そのくらいで引き下がりますかねぇ?」


「いざとなれば逃げます。大丈夫ですよ。」


「真剣に思いの丈をぶつけているのに逃げるのか?」


「あくまで誠心誠意謝った後ですよ。」


「悪くないのに謝るんですかぁ?」


「相手にとって俺は敵ですからね。」


 先生にはお願いしてたから共有したかった。もしも本当に俺には対処できなくなったら助けてください。

 話すならここが最適で先輩にはいなくなるよって伝えないとだったから。


「……仕方のない子ですねぇ。」


「モテ男も辛いものです。」


 俺達は微妙に噛み合っていない会話をして、気付かれないうちに話題を変えた。






 そして二日後の5月2日。本日は晴天ナリ、本日は晴天ナリ。


 俺は指定された午前9時に校舎裏の目立たない場所に来た。


「……あれ? 私を呼び出したのは貴方でしたか。教室では駄目だったのですか?」


 あ……ヤバイ。メインヒロインちゃんがいる。これは不味い。


「逃げてください、今すぐに。走って、まるで俺が犯罪者かのように叫びながら。端的に、嵌められました。」


 俺がメインヒロインちゃんを逃がそうとすると……メインヒロインちゃんが困惑している数秒の間に幾人かの人が来た。


 遅かったか……。


「……まあ!? お二人ともこのような人気のないところで何をなさっているのですか!?」


 てめぇに呼ばれたんだよアバズレが。

 ……駄目だ、落ち着けロレンス。キレるな。落ち着いて、冷静に対処するんだ。


 俺は作り笑いを浮かべながら応答する。


「私は少々散歩に。部室棟へ行こうと思っていたのですが途中でミラベル教諭のお話を思い出して花壇を見ようと思いまして。彼女とはそこで出会ったんですよ。」


「きゃー!! 神聖な学園でなんて破廉恥なことをなさっているんですか、ロレンス・セルヴァー様とマリアン・セルスター様!! 白昼堂々とそのような乱れた格好で! 恥ずかしいとは思わないのですか!?」


 あー……そういうことにしたいのね。ぶち殺したい。


 でも証明しようもなければきっと彼女達の方が爵位も上で人数も多い。


 問題はメインヒロインちゃんに精神的かつ社会的な傷が残ることだ。俺にだって社会的な傷が残るしそれはすなわち先輩達の評価に繋がる。


 …………ここで、全員沈めて殺すか。そうすれば俺の好きに事情は操作できるし俺一人の不名誉で収められる。


 ただ父さんに激しく申し訳ないのと別にそれを聞く部隊がいると詰むことだな。逆上して……って形にされる。


 全員襲えば黙るか? こいつら結局嫉妬が原動力な訳で徹底的に貶して汚せば引け目から諦めるだろ。そうすれば黙る。


 これの問題は俺の評価が地の底どころか奈落の底まで落ちることだ。あと先輩達にも被害が出る。やめとくか。


 あとは……金握らすか? そんなんじゃ動くわけないな。


 実際にメインヒロインちゃんとそう言う関係になるってのは却下で。


 あ、紐で括って剥いて全員引きずり回すか。剥いた辺りで全員泣いて懇願するだろうよ。


 そうとなったら……脅すか。バレたら不味いんだけど成績に嫉妬して嘘八百吐いてることする。そしたら封殺するのが最善になるからな。


 となると噂の流し口は腹黒証人に金握らせれば良いな。


 俺は極力威圧感の出るように目線を鋭くして息を吸った。……ところで助けが来た。


「あら? 妄言を大声で吹聴する貴女方の方がよほどはしたないじゃない。嫉妬もここまで来ると見苦しいだけですわね。破廉恥なのはどちらか明白ではなくて?」


 …………貴方が来ますか。好感度どんな感じなんだろうね?


 不器用ツンデレ婚約者さん、ありがとうございました。


 彼女の登場によって完全に噛ませ犬になってしまった女共は顔を青くする。

 うん、彼女は公爵家の長女だからね。怖いよね。というか勝てるの王族くらい。


「珍しく意見が一致するとはな。」


 婚約者の男の方も来たね。普通二人目が来ることなんてないから好感度で考えるのやめようか。


「そうだな。二人でこれから気分よく城へ戻るところ叫び声がするからと来てみれば。とても綺麗に制服を着こなした天使と同じく僅かばかりの乱れもない首席殿がいるじゃないか。それで? 乱れた服装だと言うことだが……どこが乱れているのか教えてはもらえないだろうか? 声が聞こえて一分も経っていないのだから着直したとしても乱れているはずだろう?」


 うわ……可哀想。チャラ王子さんちーっす。


「様子がおかしいから来てみれば……後輩君を嵌めようとしてる人がいる。後輩君を学園から追い出そうなんて……私の敵だ。」


「敵かどうかは知らないが……少なくとも、私が生徒執行部部長を預かっているうちは看過できない愚行だな。」


 先輩! 会長! オーバーキル!!


「……私とかいりませんかぁ?」


 頭上からは先生が! こんにちは! お願いしていたけれど上にいたんですね! ちょっとだけ忘れてましたごめんなさい!


 噛ませさん達は青いを通り越して真っ白だ。そりゃそうだ。俺だって怖いもん。


 王子、次期公爵、次期公爵夫人の公爵令嬢、学園一の天才に会長、先生までいる。オールスターじゃん。


 番人は来るわけないし腹黒商人はもういない。来る可能性ある主人公+αだよ。


 …………メインヒロインちゃん思考停止してるし皆さん殺気立ってるし俺が納めないと追い出されちゃうな、この子達。しかも今後の人生にも大きく影響する。


 確かに俺も殺そうかと思うくらいには殺気立ったけど毒気抜かれちゃったし少し憐れだ。


 ………………どうにか、するかなぁ……。


 俺はメインヒロインちゃんに近寄って耳元で少し囁く。ビクッとしてる。

 ごめんね、怖いよね。でも君のためなんだ。トラウマ植え付けたくない。…………本当に、ごめんなさい。


「……後で、いくらでも軽蔑してくださって構いません。ですから今しばらくお許しください。」


 俺は彼女の胸元に手を出し……リボンを軽く緩めた。


 俺は俺で適当にネクタイを緩める。皆さん停止したのですかさず殿下に最敬礼。


「ご機嫌麗しゅう、殿下。殿下にお会いするとは思いもよらず連続する休日とは言え少々浮き足だってしまいました。このような乱れた姿でお会いすること、お許しください。このようなお姿でお目にかかるには羞恥に耐えられず、宜しければネクタイを結び直すお時間をいただけませんでしょうか?」


「…………後輩君はお人好し。仕方ない、君に免じてそういうことにして見なかったことにしてあげよう。……お初にお目にかかります、ハロルド殿下。私、プラトネス・ミネリクトと申します。この度は私の助手が騒ぎを起こしたようで申し訳ありません。私からも服装については注意しておきますので私の監督不行き届き、平にご容赦願えますようお願い申し上げます。」


「……では私からは学園内の服装に対する口頭注意だけにしよう。そこの君達は大袈裟に騒ぎを起こしたことに対する反省文を提出すること。……ハロルド殿下、並びにハウストルス様、セルヴェーラ様。この度は学園内の出来事ですので、休日とは言えここは私の顔を立ててはいただけませんでしょうか?」


「………………少し問おう、ロレンス・セルヴァー。貴様はそれでいいのか?」


「ローゼンシルト様の仰っている意味がよく分かりません。」


「…………学園で家名を呼ぶのは不粋ではないか?」


「失礼いたしました、ハウストルス様。」


「………………はぁ。マリアン・セルスター嬢、貴女はそれでいいか? 貴女が望むならこの者らも……そこに踞っている首席殿も処罰できるが、貴女はそれを望むか?」


 ヴェッ! …………えぇ、俺もぉ?


 お願いメインヒロインちゃん。俺のことは嫌いになっても男性全体のことは嫌いにならないでください!

 ついでに処罰だけは許していただけると助かるかなぁって…………ちらっ、ちらっ?


「…………私……は…………。」


 あ、駄目だこれ。許容量越えてる。そりゃあテンパるよね。


 俺が少し内心を察してるとちらっちらっしてる俺とメインヒロインちゃんの目があった。

 …………この角度なら……。


 秘技! 渾身の変顔!!


 よし、他所向いて顔押さえた! 勝った! きっと顔は笑ってないけど心は笑ってるはず!


「…………まずは皆様、助けていただいたことに感謝させていただきます。特に…………首席さん。」


「私の席は末席にありますれば常日頃より首席の名は相応しくないと思っております。どうぞ、名前でお呼びください。」


「では……ロレンス…………さん。助けてくださってありがとうございます。」


「私は何もしていません。謙遜などではなく本当に何もしていません。私は見頃の花を拝見に来ただけでございます。」


「…………そうですか。ですが色々と助かりました。私の独り言です。」


「……では私も独り言を。…………誠に、申し訳ありませんでした。」


「理由は分かります。私はただ立っていただけですから私に貴方を責める権利はありません。」


「…………独り言ですから。」


「そうでしたね。…………ローゼンシルト様。」


「名前でいい。」


「ではハウストルス様。私は彼の意を汲みたいと考えています。」


「………………そうか、分かった。皆様もよろしいか?」


 一人だけ眉を寄せて口元を扇子で隠した人がいるがこの人も頷いている。


 全員の意思の確認が取れたことで男性二人と会長に女達は連行されていった。


 俺は残った婚約者の女性側を見て少し残念に思う。


 この人はなぁ……考え事をしていると眉が寄る。多分口元は少しだけ笑ってると思う。

 中身は"今日はハウストルス様とお話しできちゃったきゃー! やっぱり良いことはするものね!"とかだと思う。


 うん……ベタ惚れなんだよね。


 男側は男側で恋してるけど恋や愛がなんだか分かってない堅物だし。

 彼女の心情を察しようとして見える情報や言葉から内心を推し測るのだが勘違いされやすい彼女に嫌われてると思ってる。


 だから自分も好意を示さずに書類上の婚約者として接する。相手を思って必要以上に接しないのだ。


 それがまた彼女にとっては興味がないように写って……この二人凄くいい夫婦なんだけどプライドとか色々なものが邪魔して素直になれない、焦れったい人達なのだ。


 婚約者(女)の方とか冷酷に見える笑い方で少しつり目がち、更には勝ち気と……一言で言い表すなら悪役の令嬢に見えるが中身は婚約者好き好きの超優しいお嬢様だ。


「どうかなさいまして?」


「……いえ、私は一度もお話しさせていただいたことがありませんでしたので少し驚いていました。お気に障りましたら申し訳ありません。」


「そこまで怯えなくとも私は普通の人間よ。」


 それが彼の前で言えるといいんだけどね。もう王子と彼は会長と共に女達を連れて行っちゃったよ。先生はお仕事に戻ったのかな?


「…………貴方様も、殿下も、ハウストルス様も本当に慈悲深い方であると思います。本当は一生お目にかかることすら出来ないであろう私にも話しかけてくださいます。ですが……私達は失礼をするわけにはいかないのです。私達は貴方様の魅力に惹かれた忠心厚い臣下の方にすら簡単に消されてしまう存在なのです。どうかその身から溢れる光に身を焼かれる者がいること、お心の隅にでも置いてくだされば幸いです。」


「後輩君は気にしすぎ。」


「……もし私が粗相をすれば父に迷惑がかかります。私はこのまま特待生を続けるつもりではありますが可能な限り誰かの恨みは買いたくないのです。」


「…………でもそんなの、つまらないじゃない。」


「実力のみで生き残れるのであれば身分は必要ありません。そしてもし必要なくなっても実力が身分の代わりとなりますから私は目を付けられないよう行動するでしょう。」


「……貴方は意地悪を言うのね。」


 その拗ねた態度をあの人の前で見せれば少しは変わるだろうに。貴方達両想いなんだから。


 まあ淑女としてどうの政略結婚がどうのって言うんだろうけどどんな出会いであれ愛が生まれないとは限らないだろう。


「後輩君の後ろには私がいるのですから私の名前を使えばいいのです。」


「嫌です。」


「好き嫌いはいけませんよ。それとも私では力不足ですか?」


 先輩なんで敬語になったんだろう? この人のせい?


 大丈夫だよ、先輩。この人は口堅いし本当に優しいから。正式な場所でないなら少しの粗相なら許してくれる。


「……プラトネス様、お目にかかれて光栄ですわ。」


「楽になさってください。私は仕事外では大した人間ではありません。」


 先輩は凄いよ?


「ではプラトネス様も。貴方の方が先輩なのですから。」


「……じゃあお言葉に甘えて。」


「彼とはどのようなご関係ですの?」


「私の助手。重宝してるからやめさせようとするなら私が相手になる。そもそも勝てもしないのに喧嘩売るなんて間違ってる。せめて人数をもっと集めて囲むか上級生を複数呼ぶかしないと勝てるはずない。」


「大袈裟ですよ。」


「本当に? 君私達が介入しなかったら何しようとしてた?」


「…………女性の前で言うのは躊躇われます。」


「言うのが躊躇われるようなことしないの。」


「してません。」


「しようとしないの。分かってて揚げ足とらない。」


「………………だってやらないと被害が私に留まらなかったので。一瞬殺すかとも考えましたが本当に一瞬で却下したのですからお許しください。」


「同級生を殺そうとしないの。」


「彼女達にとって生き恥を晒す事と死ぬ事のどちらがより効果的か考えていただけです。」


「もうちょっと穏やかに。」


「……薬で人格を飛ばす……とかですか?」


「却下。やったら軽蔑する。」


「ならばやはり辱しめるのが手っ取り早い。俺が上や同じ立場の交渉になれば負けません。口を塞げばいいんです。」


「こら。」


 ……拳骨おとされた。痛くないけど。


「そういうことしない。するくらいなら私に頼って。」


「割と聞く話だと思うんですけど……そりゃあ普通は人を雇ってやりますけど。」


「………………あるの?」


「あります。それで闇に葬られた人もいます。貴族の令嬢の体を無理矢理にでも暴く、もしくはそう誤認させれば効果的に無力化や婚姻を結べます。」


「……そう忌々しい話をしないでちょうだい。あることは否定できないけれど自分達がそれを行う立場とは思われたくないの。」


「そんなことは思っていません。ただ……可否で判断するのならばどうなりますか?」


「可能ね。だから貴女達は気を付けなさい。特に……マリアン嬢と言ったかしら? 本当に襲われるから人気のない場所には寄り付かないこと。最低限の自衛よ? もしくは……もっと強くおなりなさい。」


「本当に忌々しいです。」


「でもそれをしようとしたんでしょ?」


「感情と最適解は別物です。本音を言うのであればあのような小細工を行い平気で人の人生を踏みにじる方には指一本触れたくないです。更に確実に見た方の心を抉りますからやりたくはありません。……しかし私が確実に口を塞ぐのであれば息の根を止めてしまうか話せないほど脅すか本人が思い出せないほど最悪な記憶にしてしまうか、それしか思いつきません。」


「困ったら私の名前出せばいい。今回のことで少しは知れ渡る。私の名前は強い。」


「い、や、で、す。先輩にご迷惑をかけるのとゴミ掃除でしたら掃除を選択します。」


「………………あれ? 助けたからてっきり彼女達に同情でもしたのかと思ってたけど違うの?」


「ゴミはゴミです。私も人のことは言えませんけど。ただゴミ処理で心を痛める方が隣にいたので退学や処刑は回避したんです。少し強引でしたけどね。ほんの少しは同情しましたが私一人ならば家ごと潰そうと画策します。ゴミは根本から掃除しないと片付きませんからね。」


「…………出た、過激派。」


「私はああいう人が嫌いですから。計画も杜撰だ。最低限人払いを徹底して味方で囲んで叫んだところで目撃者を迅速に増やす。事実にしてしまうまでが遅すぎます。小芝居を打っている暇があるのなら走って逃げるべきです。あそこにいた四人が別方向に走ったならば一人では簡単に捕まえられません。私が火消ししきる前に噂を広げてしまう。そこまでやれないのなら手を出さないでほしい。」


「それ詰んでない?」


「詰んでます。そうなったら俺が彼女達へ加害……と言う名の復讐をして学園から去ります。」


「…………そうなったら私も火消しできない。そっか、確かに杜撰。でも君は陰湿。」


「陰湿で結構です。敵は徹底的に再起不能にする。中途半端に追い詰めるから選択肢が最悪なものしか残らないんです。そもそも不愉快なら努力して叩き落とせばいいんです。追い抜く意思もない、ただ不愉快だからと中途半端な嫌がらせ。やるなら反論の余地が無いほどに打ち負かしてもらわないと諦めもつきません。」


「陰湿で根暗。でも……これを危惧してたのね。理解できた。」


「理解しなくていいです。先輩は貴族とは関わらないでほしいですね。……何お二人とも呆けているんですか? ……殿下達を追うなりお戻りになるなりお好きに。ただ他言はやめていただけると助かります。……改めて、すいませんでした。」


「…………貴方一人だけ覚悟が違います……よね?」


「殺される可能性は少なくありません。周囲は全て敵です。セルスター様も今日の経験を生かして信用できる方を見極めてくださいね。」


「…………今日はありがとうございました。」


「感謝は必要ありません。」


「……今日のようなことが起こったら私を頼りなさい。多少の融通は出来るでしょう。」


「公爵家のご令嬢様が軽々しく名前の使用に許可を出さないでください。私であればどうにでもします。どうしてもとなったら私は今回の件でお世話になりましたサンドブルム会長かローゼンシルト様かロッテンバァム殿下に頼みますよ。ですから私のことはお気になさらず。」


「…………分かったわ。ではマリアン嬢……マリアンと呼んでもよろしいかしら?」


「はい。」


「ではマリアン。貴方は可能な限り私といなさい。」


 うん、それがいい。メインヒロインちゃんは困惑してるけど二人一緒なら婚約者(男)が守ってくれる。

 いざとなれば俺も動きやすいし好都合だ。


 婚約者(女)さんも俺の意図を汲んでくれてありがとう。


「…………一つ、聞かせてください。……ロレンスさん。」


「なんですか?」


「貴方は何故私を気にかけるのですか?」


 あー……どうしよう? 嘘ついてもバレるだろうし……そうだな。


「私の夢が世界平和だからです。」


「………………それは、本気ですか?」


「世界が平和じゃないと領地を継ぐことが出来ません。私は爵位を継ぎ、領主になり、静かに穏やかに暮らすんです。直接の関係はありませんが目の前の人が何らかの防げた不幸に曝されれば心穏やかにはいられません。一生忘れられないなんて嫌です。いつか思い出になった今日を笑って思い出せるように私は出来ることをします。……でも今日は良いところ無しですね。殿下方に助けていただいてしまいました。」


「…………ふふっ。」


 先輩に笑われた。何で?


「笑わないでください、本気なんです。私が手を貸した誰かがまた人を助けられればそれは幸せなことでしょう。自分も気分よくて相手もいい、それでいいんです。」


「貴方には欲がないんですか?」


「普通にあります。美味しいものを食べたいですし眠いときもあります。将来は綺麗で理解あるご令嬢と結婚するつもりです。辛いこともしたくないです。自分の出来る範囲で自分の意思でほんの少しだけ誰かを手助けするのが俺です。そんな聖人みたいな人じゃないですよ。」


「……なるほど。今後もロレンスさんってお呼びしてもいいですか?」


「お好きにどうぞ。」


「なら私も名前で呼ばせてもらうかしら。代わりに名前で呼びなさい。これは命令よ。」


 うぇ。


「婚約者のある女性を名前呼びなどしたくありません。」


「後輩君、名前。わーたーしーのーなーまーえー。」


「プラトネス・ミネリクト先輩ですよね?」


「…………婚約の事をご存じなの?」


「違いましたか? 明らかに熱視線を送ってらっしゃいましたよね? ではご本人に確認を……。」


「そんなことをしたら許さない。」


 こわっ、お嬢こわっ。それは何人か殺してる目だって。


「……誰だと思う?」


「ローゼンシルト様……ですよね?」


「…………正解よ。親が決めた政略結婚だわ。」


「………………左様ですか。」


 あれ、これって王家が両家の関係改善のために組んだ縁談じゃなかった?

 しかもお嬢はノリノリで賛成したとか……?


「何か文句があるなら聞くわよ?」


「…………政略ですか?」


「……そうなのよ。少なくともあの方はそうとしか思っていないでしょうね。」


 うんや? 愛そうとしてるよ?


 あの人は気づいてないだけ。

 それも婚約者(女)……面倒だ、お嬢でいいか。お嬢が十七になるまで。


 本当に綺麗になったお嬢にローゼンシルトさんはもうメロメロ、恋心を自覚します。自覚してないだけで今もあります。


 でも恋心なんて自分には似合わないとか……一歩引いたように見える姿を見て愛は望んでないのだとか……そんなことを考え込んじゃう可愛い人だ。


 だからこの二人は王子とメインヒロインちゃんを除けばお互いしか詰まないルートは無い。


 互いに表面だけで察してしまうからこそすれ違ってしまう。だから……。


「盗み聞きはもういいでしょう? ここで出ない人を私は男前だとは認めません。」


「…………………………気付いていたのか。」


「もちろんです。」


 皆口ぽかーんだ。


 俺も気づいたのはちょっと前。多分呼びに来てくれたんだね。


 残党の警戒をしていたから気付いた。足音と隠れたことに。

 先輩が名前呼びを迫ったり俺とメインヒロインちゃんが大事そうな話をしていたので出られなかったのだろう。


「………………その……。」


「ヘタレたら学園内で卒業するまでヘタレ貴族様と呼びます。」


「先程までの態度はどうしたんだ……。」


「私が優位なので好き勝手します。見てて焦れったかったんですよね。お互いに視線を送っているのに気づかないんですから。」


「そんなもの送って……。」


「いませんか? 私は教室で貴方が彼女を見た回数を覚えています。逆もまたそうです。無意識にしているのでしょう。」


「………………そうかも……しれないな。」


「こっくっはくっ! こっくっはくっ! わったしっとふったりっはたっいっきゃくっ!」


 ということですぅーっと逃げた。……嘘である。物陰で野次馬している。

 二人の絡みとか超見たい。ハァハァ……。


 あとついでに邪魔物排除。来たら帰ってもらう。


「…………えっと……。」


 お嬢は少し顔を赤らめてあたふたしてる。ただそれは扇子で目の下まで隠して眉尻を上げるという形で表出しているので怒っているようにも見える。


「…………私も言葉が得意な方ではないので誤解させたようだ、すまない。……彼を悪役にして君を怒らせてしまったな。私としては結婚することに反対などない。……いや、違うな。私は君と結婚することが当たり前だと思って……これも違う。…………隣にいるなら君がいい。これも少し…………………………ああ。…………酷く陳腐で俗っぽいありふれた言葉で表現してもいいだろうか?」


「………………お聞きしますわ。」


「私は婚約を告げられた七年前のあの日、嬉しかった。初めて出会った十年前を忘れはしない。……きっと私はとっくの昔に…………恋をしていた。私は立場上婚約を断ることは出来ないが……そうでなくとも君と婚約をしたい。月並みの言葉で申し訳ないが……君が好きだ。君と家庭を築きたい……と言うのは私の我が儘だろうか?」


 キャーっ!! 言ったーー!!!


「…………私もずっと……お慕い申し上げておりました。しかし……伝えられず。申し訳ありません。」


「謝らないでほしい。私ももっと早く話し合えばよかった。……君を失うのが怖かったのだ。」


 キャーーー!!!!!


「言ったね。」


「言いました。良いですね、やっとです。お嬢様も可愛いし坊っちゃんも可愛いし格好いいし尊いですね。私はこれが見たかった。二人ともとてもいい顔をしている。実に綺麗だ。私は近くで鑑賞できる木になりたい。」


 …………ん? 私は今何と会話をした?


「本当だ、いい顔をしている。私も二人は気にかけていたからね、思いが通じて良かった。あんなに分かりやすいのにストも気づかないんだもの、真面目なのも考えものだね。私が全く褒めないことを疑問に思わなかったのかな?」


 …………でんかぁ……。……ただ、今はこの感動を分かち合う方が先だ。


「寡黙で同性から見ても格好いいですけどそれだと気持ちは伝わりませんからね。こんな一押しで思いが通じるのならもっと早く嵌めるのでした。流石に気持ちが伝われば処罰はされないはずです。」


「ストは厳しいから分からないよ? それに誤魔化してしまうかもしれない。今だから大丈夫だったんだ。二人から君が一定の信頼を勝ち得たからね。」


「私とか路傍の石ころなので信頼とかはないです。そして私はこれが見られたので気分がいいです。ゴールデンウィーク明けには腕を組んで登校してくださいますかね?」


「二人とも恥ずかしがり屋だからそれはないかな。……幸せそうで本当に良かった。ありがとう、ロレンス君。」


「私はなにもしてませんよ、殿下。」


「そこは名前で返す流れだろう? 一緒に覗き見した仲じゃないか。」


「殿下の名前をお呼びさせていただいたら不敬だと怒られてしまいます。」


「私とストが認めてるんだからいいんだよ。何かあったら私が止めてあげようじゃないか。悪いことに使わないなら名前も使うといい。二人の背中を押してくれたお礼だ。」


「……では、ありがたく。」


「……ルド、ロレンス。いい度胸だな。」


「おや、ストが人前でそう呼ぶなんて珍し…………痛いたいたいたいたい!!」


「鯛か、分かった。今日の晩餐は魚を用意するよう伝えよう。」


 アイアンクローである。俺も食らってるし痛いのだが声をあげたら不敬で怒られるかもしれないので黙る。


 力強いな……片腕で男一人ずつ持ち上げてる。どんな腕力してんだ。


 これが主人公か……彼は近接アタッカーの剣士だったけど強かったもんなぁ……。


「盗み聞きどころか覗きだなんて良い趣味をしているな?」


「それでは弁明も出来ないのではありませんか? 今回は後輩君が悪いですけど。」


「だって見たかったんですもの!」


「だってじゃありません、反省しなさい。」


 嫌だ! 俺は絶対見るからな!? そのために頑張ってるんだ!


「離して差し上げたら如何かしら? 彼らには心配をかけたようじゃない。見届けるだけならば許されて良いはずよ。」


「流石お嬢!」


「……ここには三人お嬢様がいるわよ?」


「なら姫!」


「ふざけるのもその辺にしておきなさい。」


「失礼いたしました、セルヴェーラ様。」


 痛い、痛いよ! 力強くなってる! 名前呼ぶの許されたもん! 羨ましいなら呼べばいいじゃん!


「それはそれ、これはこれだと思うのだが。」


「少なくとも私はすぐに手が出る殿方は怖いわ。」


 流石お嬢。手が離れた。頭凹んでないな、良かった良かった。


「馬鹿力。」


「否定はしないな。確かに私は一等力が強い。」


 大柄だけど熊みたいって訳じゃないんだけどね。どこにそんな筋肉があるのか。


「お二方は普段はそのように?」


「臣下と君主ではあるから普段は畏まる。ただ二人きりの時などはこうして話す。幼い頃から一緒で昔はずっと畏まっていたがルドが嫌がった。他言はしないでほしい。」


「仲がよろしいのですね。」


「ずっと一緒にいるからね。もう……十二年かな? 物心付いたときには顔を合わせていた。兄弟のようなものだよ。」


「左様ですか。気を許せる相手は貴重です、お大事になさってください。」


「そう、大事。私にとっての後輩君みたいに。勝手にいなくなられると困る。せめて私に相談して。」


「相談する段階になったらきっとどうしようもありませんね。私を追い出す方法なんて山ほどあります。」


「そこのお三方がいれば大丈夫じゃない?」


「私が頼るのは私の手を離れるときです。殿下方に頼るのであれば学園や国家の危機を知ったときだけですね。そうでなければ頼れません。先輩にすら頼めないのに頼めるはずないじゃないですか。そんなことより先輩も高貴な方には敬語を使うんですね。」


「今後仕事で会うから。それにこれでも元貴族の令嬢だから最低限の礼法くらいは知ってる。対等として接するけど。」


「それで大丈夫なんですか?」


「変に下手に出ると相手の要求全部飲まないといけなくなるから。王族との結婚を命令されて無理矢理何かをさせられるのは苦痛でしかない。だから下手にでない。」


「元ってそんな意味もあったんですね~。」


「いつか潰れるかもしれないから元でもある。社交もしないどころかほとんど研究室からも出ないし。最近は後輩君がいるから益々引きこもりに磨きがかかる。」


「そんなものに磨きをかけないでください……って言いたいところですけど今回出てきてくれましたし籠っていた方が安全なので言いません。護衛が今離れてますから気を付けてくださいね。」


「会長を護衛扱いは贅沢。ただ会長か教諭か後輩君くらいしか信用してないだけ。」


「…………聞いていいのか分かりませんが。お二人はどのようなご関係で?」


 お、坊が行った!


「先程も聞かれましたが彼は私の助手です。学期初めに彼がいなかったのは私のせいですね。」


「………………冗談ではありませんよね?」


「冗談は嗜みません。」


「…………私達の前で見せてしまってよかったのですか?」


「おや、理由を説明しなければいけませんか?」


「先輩。」


「……後輩君、ここはね? 答える義務もないし濁すのがいいんだよ。」


「素直に私のものなので取ったらただじゃおきませんって言えばいいんです。」


「………………恥ずかしいし。」


「私は時々先輩の羞恥心の範囲が理解できません。」


「まあそういうことです。それに彼イチオシですから。」


「…………イチオシ?」


「言わなくていいんですよ。」


「上位六人くらいは凄く買ってる様ですね。よく話を聞きます。ですが思ったよりも面識が無かったようですね。」


「なんで言うんですか。」


「言われたから。」


「そんな子供みたいな……。」


「一つしか変わらない。……さ、行こう? 話は終わった。」


「先輩先輩、校舎北の花壇が綺麗らしいんですよ。一緒に行きませんか?」


「花? そういえば最近ちゃんと見てない。……分かった、行こうか。私と歩いていればちょっかいかける人も減る。」


「先輩の顔って周知されていないのでは? それに会長に案内していただいたときに見せびらかしてますよ。」


「そうなの? なら意味無いかも。そこのお三方は逆効果だし……後輩君も面倒。弱いのに強いし色々縁がある。早く何か功績持ってきて。」


「そんな無茶な……。」


「私の手伝いしておけばそのうち出来る。あとは普通に強くなるか。頑張れ後輩君。」


「頑張りますけど。先輩のお陰で良縁が結べたので将来有利ですからね。記憶に残っていれば宮仕えも夢じゃないです。これは本格的に首席卒業を頑張らねば。卒業して高給取りになって父に良いもの食べさせます。」


「…………貴方の周辺を調べてもいいかしら?」


「律儀ですね、どうぞ。面白い話と言えば五歳の時に転んで頭を打って寝込んだことくらいです。そのとき軽く切ったみたいで少し傷残ってるんですよね。」


「初めて聞いた。どれ?」


「この額のところですね。ここのところにちょこーっと。」


「本当だ。治す?」


「いりませんよ。大した傷でもありません。」


 位置は左のこめかみの上のところ、ほぼ生え際だ。1、2cmくらいのうっす~い傷がある。


「転んだの?」


「走ってて廊下に飾ってあった花瓶にぶつかりまして。割ると同時に転びました。これ破片で少し深く切っちゃったんですよね。しかも頭ぶつけて血を出してるから大騒ぎだったそうですよ? 産まれたときも騒いで五歳でまた騒いで、十二でもう一度騒いで今があります。今も大騒ぎですね。」


「他は何かないの?」


「聞きたいんですか? つまらないですよ?」


「聞きたい。」


「じゃあ三つの時に木に登って降りられなくなった話でもしましょうか。」


「そんなこともしてたの?」


「ロレンス君は自然と農具が玩具でしたので。農具自体も七つの頃には触ってましたし五つまでは生傷の絶えないやんちゃ坊主だったんですよ? 流石に頭打って寝込んで心配かけた時に懲りましたけどね。」


「じゃあ木登りとか今でも出来る?」


「出来ますよ。専門ではないので熟達はしていませんが森も歩けます。猟師の方の弟子でもありますから。」


「意外。他は何が出来るの?」


「そんなに凄いことは出来ません。多少体力はあるくらいでしょうか?」


 木こりのおっちゃんに付いていったり猟師のおっちゃんに付いていったり大工のおっちゃんに付いていったり畑耕したり本読んだり。


 こうして思い返すと五歳以降も結構やんちゃしてるな。猟師のおっちゃんは十二の時に付いていくのを許してくれたんだよ。


 我ながらおっちゃんの知り合い多いな。同年代って言うと……四人か? 長いこと遊んでないけど元気かな。


「想像つかない。凄く落ち着いてる。」


「師匠に仕込まれました。それに十五でまだ生傷絶えないやんちゃ坊主だったら困ります。ですから言葉遣いが悪くても怒らないでください。」


「でもやんちゃな後輩君ちょっと見たい。」


「見せる機会はないでしょうね。魔法くらいならば機会があれば。私の魔法とか農業魔法を名乗りたいくらいですよ?」


「それは見てみたい。」


「戦う気がこれっぽっちもありませんでしたから農業を楽にするためだけに魔法を鍛えました。適性も主属性が水の副属性が土ですから農業をしろと言われていますね。」


「今度後輩君で遊ぶから覚悟しておいて。」


「……俺で、ですか。」


「そう、着せ替え。……行くんじゃないの?」


「そうですね。ではハロルド殿下、ハウストルス様、セルヴェーラ様、セルスター嬢。また教室でお会いしましょう。」


「最後に少しだけいいかい?」


「お聞かせ願えますか?」


「君はどうなりたい?」


 壁……じゃないか。そういうふざけた解答をする質問じゃないな。

 チャラ王子が真面目な顔してるし。


 じゃあ真面目に答えようか。どうなりたい……か。


「セルヴァー家当主になりたいです。そしてしばらくは王都で仕事をしつつ領地の経営を学び、父に仕送りをしたいです。家の事も切り離せはしませんが学園で婚約者を見つけたいです。そして……まあ誰かの幸せな顔が見たいです。」


「地位や名誉はいらないのかい?」


「いりません。俺の誇りは父の息子であることです。地位も名誉も財産も興味はありません。父の自慢でいられれば、父が少しでも楽になるなら俺はそれでいい。つまらない人間だとは思いますけど、それでも……隣に素敵な女性がいてくれれば……。」


 俺はそこでちらっと先輩と目を合わせた。先輩は……嬉しそうに抱きついてきた。


「これは誇示しろとの合図と言うことでいい?」


「先輩、既成事実です。巻き込みましょう。周囲は確認済みです。」


「なるほど。ちょっとリスキーだけど嫌いじゃない。素知らぬ顔されるより何倍も嬉しい。私は貴方の婚約者、誰にもあげない。」


「まだ正式ではないんですから抱き付くのはやりすぎだと思いますよ? せめて腕を組むとか。」


「えぇー? コウハイニウムが足りないから嫌。」


「まだ言いますか。……そんなわけで、懐かれました。結構満たされてます。だから俺は強いて言うなら先輩の家を黙らせられる力は欲しいです。あとは守れる力。力が欲しい。無駄なものはいりませんけど彼女の外敵を排除できるくらいには、並べるくらいには強く。」


「…………………………ちょっと待とうか。……まずあのミネリクト侯爵家の長女であってるかな?」


「私の偽物は見たことがありませんね。」


「……ご本人の前でこう言うのは気が咎めますが……人嫌いで変人と呼ばれてる……あの?」


「それは私。人嫌いも嘘ではない。きっと後輩君は女性を虜にするフェロモンか何かを分泌してる。私はそれをロレンステロイド、通称コウハイニウムと名付けた。」


「先輩の冗談なので気にしないでください。俺はそんなヤバイ人じゃないです。」


「私を一瞬で絆した手腕は見事だった。」


「俺を詐欺師のように言わないでください。」


「正直でお馬鹿でいざというとき格好いいロマンチスト。さっきから一人称が戻ってる、可愛い。」


 …………あぁ!


「そんな怖がらならなくても咎めはしないよ。」


「…………良かった……。」


「ビビり。私だってこんなの。」


「先輩ほど地位が高くないんですよ……こうして考えると権力とか欲しいですね、嘘つきましたごめんなさい。」


「…………ふふっ、そうか。分かった。」


「何をご理解されたのですかね……?」


「そのうち分かるだろう。」


 えぇー?


「ふふーん、後輩君の匂いがする。」


「先輩、恥ずかしいので人前ではやめてください。」


「はいはい、また後にします。では、失礼しますね。」


「失礼します。」


 先輩が離れて挨拶をしたので俺も倣う。今度は止められることがなかった。


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