15 初授業
遅くなりました。本日は一話です。
帰ってきた翌々日の月曜日。日曜日は厨房と洗面所に手を入れて少し通路も掃除できた。
浴槽は思ったよりも汚れていたようで中々しつこい汚れと格闘している。ゆっくりやっていくつもりだ。
でも昨日はちゃんと三食作ったんですよ?
それと先生と話を共有した。ちょっとだけジトーっとした目を向けられたが特に何も言われなかった。
会長も少し遊びに来た。しかし先輩は遅れを取り戻すために集中しているので俺が対応した。
暇だったらとお茶の入れ方を教えて貰いながら先輩の休憩まで雑談をしていた。
戦闘の方は夏に集中して……というか付きっきりで教えた方が良いだろうと先伸ばしにされてる。
綺麗な先輩と二人で個人授業……と言われると楽しそうに聞こえるが。多分内容はそんな余裕は無いほど地獄になるだろう。
会長は優しい。だからこそ誰かを訓練するときは本当に死ぬかもと思うくらいに厳しくするそうだ。甘くして死んだら元も子もないから、らしい。
でも厳しい分結果も期待できるので俺は付いていくつもりでいる。死ぬ気でやらないと追い付けないんだ、会長が見極めてくれれば俺は一つの事に集中できる。
……いや、どうなるかは五分五分だろうか?
ペース配分や限界の見極めも修行のうちだとか言って。もしくはやっぱり限界まで死ぬほど抜いてくれるのだろうか?
会長に限界まで抜かれるって文字だけ見るとえっちぃが絶対何度か本物の天国を垣間見るだろうから下ネタっぽくてもガチなんだよなぁ……。
会長は先輩とチェスを一局打って帰っていった。先輩の勝ちだった。でも結構いい勝負で先輩と張り合える会長は凄いと思う。
俺なんて目隠ししてやるって言われて本気でやったのに負けた。当たり前かのように負けた。もう二度とやらない。
夜は当然のように連日頭を洗わされた。
「今日から授業か……。」
俺は一人溜め息をつきながら料理をしている。昨日のことを思い返していたのはこのあとが憂鬱だからだ。
休み明けの学校って憂鬱だよね。
「……さて、出来た。持ってくかな。」
俺は盆を持って部屋を戻る。ドアを肘で開けたのははしたないが許してほしい。両手が塞がってる。
「先輩、出来ましたよ~。」
「待ってました。」
先輩はお行儀よくテーブルについている。元は書類まみれだったけどちゃんと整理した。
「今日の献立は見ての通りです。」
「数日経ってもこの部屋でまともな料理を食べられるなんて信じられない。」
「そうですか? ほら、話してないで食べてください。俺このあと授業なので食器片してから行きたいんですよ。急かして申し訳ないですけどお願いします。お昼ご飯は作ってあるもの暖めてくださいね。出来れば戻りますけど今日は四コマ目と五コマ目が埋まってるので多分無理です。」
俺は配膳して二人で同時にいただきますをする。先輩は食事の合間にさっきの続きを話した。
「君のお昼は?」
「抜きます。」
「食べないなら私も食べない。お弁当持つか何かしてちゃんと食べてね? 請求来なかったら私も食べないことにするし来ても食べてなかったら横領。人のお金だから気にせず食べて。」
「分かりました。先輩のお金なので気にして食べます。一昨日の夕食だって料金すっぽぬけてたんですから。」
「あれは私が誘ってる。それに昼食代は必要経費だって言ってる。」
「先輩に養ってもらう感強くなるのであんまり気が進みません。」
「結婚したら私の私財は君の私財。」
「正式な婚約もまだですし先輩の私財は先輩のものです。搾取するような真似はしません。それじゃあまるでお金目当てで受け入れたみたいじゃないですか。」
「プライドが高い。」
「貴族の誇りって呼んでください。そっちのが格好いいです。」
「プライドの方がかっこよくない? 貴族の誇りって言われると見栄の散財とかそんなものを思い浮かべる。」
「プライドだと高慢ちきを思い浮かべるんですよ。」
「…………なんか、こういうのいい。」
「高慢ちきですか?」
「違う。食事中に意味の無い雑談を出来る。今日の予定を確認しあっていってらっしゃいを言える。帰りを楽しみに出来る。……なんか、夫婦みたいでいい。意味もなく少し嬉しくなる。」
「そりゃあ、おんなじとこに住んでて同じもの食べてお互いの大雑把な予定把握してるんですから自然とそうなるでしょう。」
「…………広い部屋で冷めたご飯を一人で食べて、同じ場所に住んでても相手が何してるのか知らない。当然帰ってきても嬉しくないどころかちょっと忌避感すら感じる。そんな家で育ってきた。自然とそうならないしそれは普通じゃない。だから本当に些細な事だけど幸せに思う。」
「安心してください、結婚しても可能な限り俺は先輩を部屋から引っ張り出して食事を一緒に取ります。セルヴァー家は父と息子二人で大体同じところにいるので二人で食事をすることが普通なんです。時には使用人や農家の人とも食事を共にします。問題が起きたら代表と一緒に知恵を絞ります。そういうところです。」
「……貴族の話だよね?」
「うちの家は確か元は開拓領だったんですよ。だから貴族とは言っても本当の田舎貴族です。社交界にいるだけで笑われるような家です。」
「確かにそういうのはある。でも私はそっちの方が人間らしいと思う。」
「同感ですね。……っと、そろそろ片さないとですか。申し訳ありませんがお皿を厨房までお願いします。俺は着替えて準備します。洗面台借りますね?」
「どうぞ。食べ終わったら運んどく。……洗っとこうか?」
「仕事はします、させてください。お昼に使ったものは水に付けておいてくださるとありがたいです。戻ったらやります。今日はまた少しお風呂を掃除しますね。書類関係は増えたらまた多少分けて積んでおいてください。仕分けして纏めておきます。」
「ありがとう。」
俺はとっととエプロンから制服に着替えて改めて身支度を整える。
その後食器を片して上着を着て準備完了、時間もまあまあ良い感じ。まだ慌ただしい朝だがそのうち慣れるだろう。
「それじゃあ行ってきます。気を付けてくださいね。」
「それ送る側が言う言葉じゃないの? 今までは一人でやってたんだから大丈夫。以前より集中出来てるし問題ない。やっぱり睡眠は大事かも。」
「体を大事にしてくださいね。」
「分かってる。……いってらっしゃい、頑張ってね。……これが言いたかった。」
「言えて良かったですね。これから毎日言えますよ。……いってきます。」
俺は改めて挨拶をしてから部屋を出た。人もいないのでだーっと降りてしまう。音は立てないし走りもしないけどね。
「あぁ、いってらっしゃい。励めよ。」
「朝からお仕事お疲れさまです。会長こそ頑張ってくださいね。いってきます。」
「そうするよ。共に学ぼう。」
会長と軽く挨拶して教室に向かう。……けど校舎自体は同じなので方向も自然と揃った。少し気まずい。
「どうだ、新しい生活は。馴染めそうか?」
横に並んだ会長は歩きながら話しかけてくる。……美人の先輩と並んで登校とか心踊るじゃないか。奇異の視線が少し気にならなくなるぞ。
「はい、会長のお陰です。」
「私のお陰……か。私はなにもしていないぞ。」
「ご紹介してくださったじゃないですか。とても助かりました。」
「……そう言うのなら受け取っておこう。」
俺達はそこから黙る。下手な話が出来ないから仕方ない。会長と俺って少しだけ距離がある。可能なら縮めたいな。
俺達は玄関で別れ各々の教室へと向かった。教室に入ると凄く目立ったが気にせず目立たない自分の席についた。
「…………おはようございます。」
「おはようございます、セルスター嬢。」
「………………ご無事で何よりです。急にいらっしゃらなくなったものですから心配しておりました。」
「それはそれは、有り難う存じます。少々事情が御座いまして学園を空けておりました。学園へは申請していますのでミラベル教諭はご存じだったはずですよ。」
「そうなんですか。遅れがあると思いますが可能な事はお手伝いしますので何かありましたらお声がけください。」
「有り難う存じます。」
メインヒロインちゃんは息苦しそうだ。ごめんなさいね、堅苦しくって。嫌ですよね、分かります。
でもこれはわざとじゃないんです。親密ではないので崩せないんです。隣の席の同級生に敬語で話す感じです。
「おはよう、マリアン嬢。……首席殿もいるじゃないか。健在か?」
「暫くの無沙汰、誠に申し訳ありません。少々学園を留守にしておりました。私は変わりなく。殿下に置かれましては本日も……。」
「やめてくれ、ここは学園だ。そんなに長く挨拶していたら何も話せない。楽にするように。」
「寛大なお心に感謝いたします。」
すっごく嫌そう。ごめんなさいね、嫌がらせがしたいわけではないのよ。
隣の人が怖くってね?
「…………殿下が仰っている。少しは楽にしなさい。」
「失礼いたしました。」
やったね、怖い人から許しが出た。
怖いんだ、この人。凄く真面目で融通が利かないから。
この人公爵家の長男さんで次期当主、更には宰相候補なんだよ。実質国のNo.2。王族の次に偉い人。
うん、怖い。機嫌損ねたら死ぬ。
だから可能な限り関わらずそれとなぁく誰かを挟んで話したい。王子とツンデレさんの方もだよ。怖いよ。
特にこの人は断罪するからな。王子に非礼をすると死ぬからな。そういう描写がある。怖い。
それさえなければ可愛い人だ。不器用で無愛想で好きが分からない。
「…………どうかしたか?」
「失礼いたしました、ローゼンシルト様。」
「私の顔に何かついていたか?」
「いえ。」
「言いたいことがあるのであれば言ってみろ。」
ひぇっ……こわっ!
「…………よろしいのですか?」
「咎めはしない。」
「…………………………お綺麗なお顔だなと思っておりました。申し訳ございません。」
「冗談は好かない。」
「冗談ではありません。同性の私でも憧れるほど整った顔に思わず見入ってしまいました。お気に障りましたら大変申し訳ございません。」
「……貴様の目はもっと別のものを見ていただろう。」
ヒェッ!
「…………………………絶対に咎めないでいただけますか?」
「約束しよう。このままだと気分が悪い。悪口なら堂々と言え。」
「………………公爵家の方や王族の方のご機嫌を損ねたら命がないのでいつ何でお叱りを受けるか戦々恐々としておりました。」
「…………そうか。それは私達が些細なことで気分を害すほど気が小さいと?」
ヒェッ!? 怒らないって言ったじゃん、怒らないって言ったじゃん!!
「滅相も御座いません。ただ私はローゼンシルト様やハロルド様のことを存じ上げる機会に恵まれず、何らかの関わりすら持たせていただくこともないと思っておりましたので慎重に慎重を重ねました。申し訳ございませんでした、どうぞお許しください。」
「…………はぁ。」
ため息ついた!? あの真面目堅物不器用の典型例が!?
「そんなに恐れてくれるな。今は同じ生徒だ。貴様に恐縮されてしまうと肩身が狭い。胸を張れ、首席。」
「…………ありがとうございます。」
「それでいい。」
おぉ……同級生とは思えない。でかいし怖い。
それに大人だ……。
「そうですよぉ、その通りですぅ。次期国王様でも次期公爵様でも次期男爵様でも平民様だろうとここにいるなら私の可愛い生徒ですぅ。……だからぁ。チャイムが鳴ったらぁ、座りましょうねぇ? 着席してくださぁい。」
先生こわっ! いや、助かったけど! ごめんなさい、チャイム聞いてませんでした!
「さて。ロレンス・セルヴァー君、改めて初遠征お疲れさまですぅ。大変なこともあるでしょうが頑張ってくださいねぇ?」
「ありがとうございます。」
「全員揃ったので改めて連絡しておきますぅ。五月の中頃、ゴールデンウィーク明けに新入生歓迎会がありますねぇ? 参加者は服装自由ですぅ。一応貸し出しもありますよぉ。貸し出しは事前申請が必要なのでゴールデンウィークまでにお願いしますぅ。……この時間無駄じゃないかなぁっていつも思うんですけどぉ、やらないといけないので仕方ないですねぇ。では皆さん今日も頑張ってくださいねぇ。あと五分経ったら出ていいですよぉ。」
……先生って結構適当?
「本当に無駄ですよねぇ、この時間ってぇ。夏くらいになると話すこともあるんですけどぉ、この時期だと花の話題くらいしか出来ませんよねぇ? 校舎の北の花壇が見頃ですよぉ。」
そうなの? 後で見よ。
「五分って長いですよねぇ。でもあまり音出すと怒られてしまうんですよぉ。なのでロレンス君一発芸して場を繋いでくださいよぉ。」
そんな無茶な。
一発芸ねぇ……体操擬きなら出来るけどここ教室だしなぁ。身体能力は普通に高いんだよな。運動センスは皆無だけど。
「……生憎と時間を潰せるようなものは持ち合わせておりません。」
「そうですかぁ? あと三分暇ですねぇ。」
「仕事をしてください。」
「してますよぉ、こうやって足並み揃えさせるのも仕事ですぅ。」
「あと私に話しかけないでください。」
「そうですかぁ? ではチャイムが聞こえなかった仲間のハウストルス君、何かありますかぁ?」
ヒェッ! 先生なんて恐ろしいことを……。
「申し訳ございませんが私もそのようなものを嗜みません。」
「では殿下君。」
殿下……君? 変な呼び方するな? 普通に名前呼びじゃなかったか?
「教諭、中途半端に呼ぶのはやめていただきたい。」
「ではハロルド君、何かありますかぁ?」
「訂正していただいたところ申し訳ありませんが私もありません。」
「そうですかぁ。困ったら花の話題でも出して場を持たせつつ流すのが良いですよぉ。貴族同士なら大体通じる季節ネタというのが天気か花、食べ物くらいですからぁ。この季節は撫子とかですかねぇ? この校舎は北から時計回りに春夏秋冬と見頃になるように植えられているんですよぉ。季節外でも違う花が咲いてますからちょっとした話題にしてくださいねぇ……という話をするくらいで丁度良いはずですよぉ。」
キーンコーンカーンコーン…………。
「はい、皆さん動いてどうぞぉ。今日も一日怪我なく元気に学んでくださいねぇ。解散ですぅ。」
…………すごっ! え、最後のどうやって合わせたの!?
まさか一発芸を先生がやるとは思ってなかった。教室のあちこちが驚いてる。誰も動かない。
先生が何事もなかったかのように教室を出て、やっと俺達の時間は動き出した。
今日は一限、三限、四限、五限が埋まっている。逆に言えば二限だけ空いてる。六限はそもそもない。
六限をやるとすれば時数足らない人への救済策か……補習くらいだ。俺には関係ない話だと思いたい。
というわけで現在二限、暇な時間だ。
暇なので俺は図書室に行く。一限目の復習と三限目の予習くらいなら出来るだろう。他にも興味が沸く本があれば読むのもいいかもしれない。
俺は特に何か調べものがあると言うわけでもなく図書室に入る。まあまあ人はいるが多くはない。ゲームの図書室背景に写りこむモブの比率と同じくらいだ。
そうそう、この背景と言えばたまに心霊写真のようになる。写りこむ人間がごく稀に増える仕様だ。
……っと、今日は仕様の日じゃないか。運がいいな。何かいいことあるといいな。
その増える人、主人公である。通称図書室の番人。大体図書室にいるけど人がいる間は基本的に裏にいて本の修繕とかしていたりするのでたまに見る人。
番人の他に亡霊も有名だ。生徒の誰も知らないのもあるが見た目がもさっとしていて影が薄い。
会うのが完全ランダムの人。攻略は通いつめて沢山会って、話すこと。知らなければ話せるところまでいかないし知っていれば結構楽だったりする。話せればほぼ攻略達成。
周囲から聞き込まないとこの人の事分かんないからクリア出来ない。本人へのアプローチが結構無駄なのだ。
ちなみに彼も会長派生。一定のステータスで図書室に通いつめると会長が本の修繕と管理を依頼してくれる。こっから同じバイトをするよ。話にはならないけど。
あとは聞き込みで情報集めてひたすら仲良くなろうとする。でもぐいぐい行きすぎると警戒されて潰れるのでほどほどに。
俺は特に話しかけるでもなく好きな本を探す。魔法学がいいな。楽しいしためになる。目星だけ付けておこう。明日はバラバラで二コマ空くから。
やっぱ広いよね、この図書室。簡易案内はあるけど司書さんいないと本を探すのが辛い。ゲームと違ってポチっとしたら読みたい項目がぱっと出てきてくれるわけじゃないんだ。
この図書室、今は時間によっていないんだよね。一人亡くなって補充無いから。
だってさ……ほぼ縛り付けられるし給料高くないし結構力仕事だし広いし……本当に本好きじゃないとならない。
それに学園の性質上変な人を図書室に入れられないから余計に人が限られる。
今は正式な司書さん一人なんだよ。そこに番人さんがヘルプに入ってなんとか回してる。そんな場所。
それを知ってると仕事増やせない。俺は大人しく一人で完結させる。
この人立ち直らせたいけど拗れてるから難しいんだ。多分先輩か会長かメインヒロインちゃん、もしくはチャラ王子しか無理。
俺がつつけば意固地になるかもしれないしノータッチで。もし接触の機会があれば接してみようとは思うけど……多分無いな。
と、考え事をしていたら紙が差し出された。
読んでみると図書室利用規則だ。破っては……ないな。
でも驚いた。向こうが接触してくれるなんて。
「お気遣いありがとうございます。」
俺が挨拶をしたらビクッとしてそそくさと逃げていった。小動物か。
多分新入生があたふたしてるように見えたんだろうな。キョロキョロしてた割には本も取らずに座ったから。
これ裏は簡易案内になっているし受付で貰える奴だろう。
「…………おや? サボりか?」
「会長。そっくりお返しますよ。」
「冗談だ。空きにも勉強とは精が出るな。」
「遅れを取り戻さねばなりませんので当然です。」
「何か読んでいたが……案内か?」
「えぇ、図書室の先輩にいただきました。規則は破っていないので気遣われたのだろうとお礼を言ったら去っていかれましたよ。」
「む…………シリウス・ルバリオンか。なら私のせいかもしれないな。」
「会長の……ですか?」
「図書室宛に君を見かけたら少し気にかけてほしいと要望していたのだ。新入生で慣れないうちから学園を離れさせてしまうことになったからしばらくは様子を見てほしいとな。」
「……ありがとうございます。」
「色々な場所に声だけはかけてある。だが大袈裟でもないぞ。君が学園を去ってしまうと恐ろしいことになる。」
あ……(察し)。
「恐ろしいこと……とは?」
「ある意味で学園最強の存在が憤怒する。それに……私の執行部が治める学園で苛めは許さない。学園は学び鍛える場所だ。下を作り優越に浸りたいならば他所でやれ……と思っている。個々の実力だけが全てではないからな。何かあれば執行室に持ち込むといい。」
「ありがとうございます。」
うん。最強だね、先輩。会長と別方向で。
「彼女を怒らせてはいけないぞ。私も一度だけ怒った彼女を見たことがあるが……いや、言うのはやめておこう。授業の方は順調か?」
聞くのは本人から聞こう。でも良い記憶とは思えないから機を見てかな? 半分は興味本意だから聞けなければそれでもいい。
「今のところ理解の遅れている場所は無さそうで安心してます。」
「そうか。暫くはその辺にいるから困ったら声をかけるといい。手伝えるところであれば教えよう。」
「ありがとうございます、助かります。」
俺は会長が去ってからまともに勉強を始めた。やっぱり見覚えのある内容だ。漏れがあるかもと受けることにしたがパラパラと読み進められるくらいには知ってる。
特に理解の難しいところも無さそうで……問題はやっぱ実技系だな。ミニゲームならパーフェクト取れるけどそうもいかない。
そう言う意味では魔法学は鬼門だな。先のことなのだが魔術の基礎をかじるようだ。
魔術は苦手だ。筆記が難しい。
内容自体はプログラムでも組む感じだ。ただこの言語を打ち込む作業にコツがいる。
だからこう……答えは分かってるのに書く筆記用具がないみたいなもどかしい感じになる。
同様に錬金術も苦手だ。
ゲームだと錬金術やらないから……調薬で足りるんだもん。先輩操作だと使うけど最初から使えるから図書室行かないし……。
……そもそも授業パートはほとんど教師自体が出てこない。コラム的な一コマ漫画で飛ぶから。先生……ミラベル先生が教えてくれるなら参加したのに……。
…………そうだよ、先生だよ! 受けよう、錬金術! 魔法学魔術基礎を頑張って!
魔術応用は単元としては二学年推奨だが……内容としては多分大丈夫。知識の補完をしていけばいい。
問題は…………魔術、書けないことだ。筆記用具使えばかけるけど魔術文字って魔力使って書かないと意味ないし……。
……筆記用具に魔力宿らせて書いてみるか? でもそれもかなり難しいんだよな……魔力の制御鍛えればいけるか? 結構魔力鍛練は欠かさず頑張ってきたんだけど会長には無駄の多いものらしいし。
そもそも誰も魔法見せてくれないからお手本が分かんないんだよ。
鍛練自体が間違ってるのか?
でも確実に魔力量は増えてるしな……量だけなら並の三年にだって負けてないと思う。レベルが同じなら。
……あー、分からん! 今度先生に聞こう! 魔法学の授業で魔法扱うのは二学期の事らしいし!
「先輩、ただいま戻りました~。」
「おかえり。お茶あるけど飲む?」
「いただきます。」
俺が座ってた先輩の対面の椅子に座ると先輩が手ずからお茶を入れてくれた。
「ありがとうございます。」
「初めての授業はどうだった?」
「正直なところ少し退屈でした。」
「だろうね。」
「とりあえずしばらくは受けてみて教科書と自分の知識を合わせてみます、抜けがあるかもしれません。それが終わったら時数減らして上級生用の授業を受けようと思います。こっちにも顔を出せるように調整してみますね。」
「それも退屈になったら言って。テストだけ前借りして受けてしまえば良い。私の口から推薦したら多分いける。免除になればこっちにいられるしね。研究室が二人の愛の巣になる日は遠くない。」
「愛の巣とか言わないでくださいよ。それに先生の錬金術はちゃんと受けてくるつもりです。」
「そう? 君が受けるなら私も受けようかな。錬金術はちょっと専門外のところもある。授業くらいじゃあんまり変わらないと思うけどミラベル教諭の授業なら難易度は最高だろうし受けてみる価値はある。」
「仕事は大丈夫ですか?」
「後輩君に手伝わせる。とりあえず最近のすぐ出せる資料の内容は把握した? 念のためまた釘を刺すけど他言したら駄目。」
「わかってます。一通り目は通しました。」
「新しいMPポーションの研究、報告の期日は?」
「今年の三月十日、二月中に納品終了してました。継続してポーションの開発を国から依頼されていて三月末に提出してた報告で傷と魔力の回復が出来るポーションの開発が記されていましたね。結果は微妙だったと思います。」
「合ってる。でもまずはお掃除したそうだからそれが終わったら手伝ってね。」
「もちろん。買い出しでも何でも行ってきます。」
「助かる。今はまだ前の奴が残ってるけどそのうち無くなるから。執行部に言えば調達してくれるけど質にムラがあるから知識のある人に頼みたかった。それと君に微妙だと思われるのが嫌だから成果はさっきあげたよ。」
「…………何作ったんですか。」
「体力回復ポーション。傷回復がHPだからスタミナポーションとでも名付けようか。」
後半で売られるやつだ。効果はしばらく走っても疲れない。この世界では知らない。疲れが取れるのかも。
「凄いですね。」
「HPMPポーションは試してはいるけどどうにも纏まらなくて。スタミナは途中でぼやぁっと出てきてたのを形にしてみた。」
「答え知ってますけど知りたいですか?」
「言ったら怒る。」
「ですよね。急ぎでもないので言うつもりはないです。」
「他人の功績を奪うみたいで気持ち悪いしそういうことすると次が作れなくなる。自分で考えて答え出さないと。」
「国の依頼は超長期で少しでも成果が出ればって感じですからね。報告しか義務がないんですからよっぽどです。」
「私は結果も出してるから別の事してても怒られない。比較的楽な仕事。」
「発表はどうします?」
「遅らせる。色々やりたいこともある。進捗報告なんて適当にでっち上げれば良い。」
「悪い先輩ですね?」
「悪くない。出来たのを隠しても良いのに隠さないから。」
「先輩の事ですから上手いこと出来るんでしょうね。何か必要があれば言ってください。」
「その時はお願い。…………やっぱりこういうの良い。」
「そうですか? じゃあ俺も紅茶とか珈琲とか淹れられるように頑張りますね。」
「私がやりたいときもある。」
「お仕事取らないでください。」
「生活の一切合切の面倒を頼んだわけじゃない。あと今は手空きだけど緊急の依頼入ったら忙しくなる。」
「ではその時は頑張ります。」
「そうして。いつ入るか分からないから。」
「しばらくは大丈夫だと思います。」
「じゃあその間に色々仕込まないと。魔力制御が甘いからそっちも多少教える。私、魔法は使えなかったけど魔力は強い方だったし色々使うから制御はまずまず出来る。そこは安心して。」
「お願いします。」
先輩は俺と話してて良いのかなと若干だけ思いながら、俺達はぽつぽつ話して過ごしたのだった。
お疲れさまでした。




