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14 学園に戻って2


 本日二話目、ラストです。



 俺は少しだけ真面目に考えて思っていることを口にすることにした。


「…………どうにかしようとなんて、思うわけないじゃないですか。俺は当事者ではなく傍観者です。もし介入出来るなら出来ることなんて当事者達に危機意識を持たせるだけです。俺は雑魚ですから巨悪となんて戦えません。もし何かの間違いで死なせてしまったら俺も誰も彼も全員死にます。だから俺は命に代えても守る覚悟がある。そして戦地に送り出す非情さも持つべきだ。貴方達の約束された幸せを俺は知ってる。そこに沿わせればいいんですから余計な真似はしなくていいんです。俺は主役じゃない、主役の踏み台だ。例えるならそう、序盤で出てくる噛ませ犬です。主人公達を俺はより高みに上らせる。その最後に全員が笑ってればいいんです。俺は元々そのあとおこぼれの功績で適当に相手を見つけて領地を継いで父さんに孝行すればそれでよかったんです。俺は打算で近づいてるのになんで拒まないんですか。意味がわかりません。気持ち悪いと切り捨てればいいのになんで俺を構うんですか。貴方達の物語には俺はノイズでしかない。…………本当に。何で嫌ってくれないんですか。同じ記憶があって同じことをしているのに俺を蔑んでくれないんですか。俺はもうモルモットとしての価値すらないのに。」


「君という人間の意見はどこですかぁ?」


「そんなものいりません。感情とか必要ないんです。俺は意見なんて無くともどうにでもしますし俺はしたっぱでも貴族です。利益さえあればどうとでもします。……俺は心を原動力に出来るほど強くないんです。感情だけで何もかも覆せるほど……。」


「そうやって悩んでるから誰も責めないんですよぉ。」


「意味が分かりません。今だってこうして喚き散らして馬鹿みたいだ。」


「静かに喚くんですねぇ?」


「捲し立てるように話しかけてくる相手にそれは悪手ですよ。」


「冷静ですねぇ。……すっきりしましたかぁ?」


「全然すっきりしません。」


「本当に私達が好きなんですねぇ。」


「当然です。むしろ愛していると言ってもいい。自分の命を賭けるくらいには、そしてそのために努力できるくらいには大好きですよ。でもそれは本物じゃない。思考の傾向も身体情報も趣味嗜好も知ってても俺は本物を知らない。貴方を知らない。相手は感情のある人間です。笑いもすれば泣きもする。あんなゲームより何倍も魅力的な人間がそこにいる。そしてより深く悩み傷つき苦しむ。それもたった数年なんかで終わらない。しかも思考パターンも限定しきれないから何考えてるのかなんて部分的にしか分からない。……こうして当然のようにゲームの情報を宛にしている。貴方達をちゃんと人間として扱えているかわからない。」


「……デリケートなところつついたんですねぇ。本当に申し訳ないと思ってるんですよぉ?」


「思う必要ないです。」


「嫌ですよぉ、奴隷とかと話してるわけじゃないんですからぁ。悪いと思っても謝らせてもらえないと私はただの意地悪おばさんですよぉ。」


「おばさんじゃないです。」


「君が否定するんですかぁ……。」


「おばさんじゃないですもの。」


「それはそれとしてぇ。……努力する姿勢だけでも印象は全然違うんですよぉ?」


「それはそれとして話を進めませんか?」


「ならまず立ち直ってくださいよぉ。放置したらまた婚期逃すじゃないですかぁ。」


「ははははは。」


 俺はその冗談に空笑いで答えた。


「表面上はほとんど普通なのが分かりにくいですねぇ。面倒な人ですぅ。」


「教諭降りるんですか? それはそれで構いません。しばらくデロデロに甘やかせばそのうち立ち直るでしょう。」


「降りませんよぉ。……あのですねぇ、女々しいですよぉ?」


 女々しい? そうかしら?


「結構余裕そうですねぇ。」


「先生が危惧するほど重症じゃないですよ。もう落ち着きました。」


 元々そのつもりだったことをするだけだ。何もおかしくない。


「……私切られそうですねぇ。」


「はあ。よく分かりませんけど。俺の剣は人を守る剣で人を傷つけるものではないので先生なら切れませんよ。これが丸腰の一般人とかなら別なんですけどね。」


「そこは普通逆では……って、まさか言葉の通りなんですかぁ?」


「攻撃とか雑魚雑魚です。防御だけなら会長に褒められました。」


「うわぁ……偏ってますねぇ。でも剣の話じゃありませんよぉ。」


「ならなんだって言うんです。」


「君に役立たずと切り捨てられるんですよぉ。」


「先生はとても優秀な方です。」


「でも裏事情を知った私を戦力として数えることはないでしょぉ?」


「安心してください、約束は守ります。婚活は手伝いますし秘密も守ります。俺の持ちうる全ての記憶と知識を使って貴方も笑顔にしますから。」


「…………何でそういうこと言っちゃうんですかねぇ?」


「先生が好きだからですけど?」


 癒されただけじゃないしね。唯一結婚まで描かれるって言うのもあるし少し救われたこともある。

 たかがゲームに何言ってんだって感じだけど……初めての趣味で最初にやったゲームで俺は慰められた。


 糞ゲーとの呼び声もあったゲームを極め抜いたのは彼女達を見たかったから。やりこむ分には何年も出来るゲームだった。


 俺はほぼゲームを知らないしやったことない。初代のマ○オとかの古いゲームとアナログゲームは別だが流行りのゲームとかは分からない。


 携帯ゲームの代表的なもの、それにポケ○ンとかだってやったことない。アニメは知ってるから多少の話は分かるけど。


 俺の恩師は先生だ。誰にも言えなかったけどね。そんなゲームのキャラを尊敬してますなんて言えない。


「……私を好きなんですかぁ? 物好きですねぇ。」


「…………これは俺の尊敬していた人の話です。当時の俺は十……二かな? だったんです。両親を事故で亡くしたのは幼い頃でしたから祖父母に育ててもらったんです。それには不満もなにもなかったんですけどやっぱり周囲には両親がいて自分が浮いているようで少しだけ思うところがあったんです。……その時、俺は友人に勧められた流行りのゲームを強くやってみたいと思って貯まってた小遣い全てと祖父母にお願いしてパソコン……まあゲームやる機械とゲームを買ってもらいました。祖父母は酷く驚いてましたけど喜んで買ってくれましたよ。俺が初めてねだったものですから。どうしても我慢できないくらいに楽しそうに話すやつがいたんです。今では顔も名前も思い出せませんけど親友と呼べる奴でした。少しやらせてもらっても楽しくて楽しくて、我慢できなくてお願いしました。高価なものですからもう全力でお願いしました。結果として存外簡単に成功しました。」


「そうなんですかぁ。」


「……そのゲームに俺は酷く魅了されたんです。その中に俺の気持ちを救った人がいました。一言結婚してくれと言うと魔王もなにも包丁一本単身で倒してしまう人です。笑わせてもらって少し気分が晴れました。その人が言ったんですよ。"貴方は貴方でしょ? 生まれも育ちも身分も関係ありませんよ。等しく私の可愛い生徒です。"……って。"私は手伝えませんけど無事に帰ってきてくださいね"って。"今日から家族ですよ"って。他にも色々。癒されました。そして胸が少し軽くなりました。いつも"無事でよかったです"って言うんです。"今日から英雄ですね"、"私より先に結婚するなんて"、末長く幸せになってくださいね"、"邪神も倒しちゃうなんて自慢の教え子です"、"私だけ幸せになってないのなんなんですか?"って……ほとんどの最後を独白で締めてくれる人でした。…………卒業してるんですよ? そっから二年後なのに必ず会いに来るんです。どの人物が主人公でも絶対に。そして必ず関わる人物でもあります。場合によっては生徒を庇って唯一の死者となる人です。」


 魔王は単純に好きなキャラだけど先生は好きになったキャラだ。


「とても可愛くて魅力的で優しい先生でした。面白くて俺の中に一番残った人でした。沢山死んでやり直したら真っ先に癒してくれました。…………次がないなら誰を利用してでも不幸にするわけにはいかないんです。誰と誰が結婚しても構いません。でも俺は泣く人が出る結末を許さない。もしその連中が俺の同郷だったとしても……全滅させようとするならば俺が殺します。幸せにする覚悟がないのなら関わらせない。……だから、教えてほしいんです。」


「重いですねぇ。」


「そりゃそうです。何万の命と恩人の幸せがかかってます。」


「君が背負うこともないと思うのですがぁ。」


「始末は余所者同士付けるべきです。刺し違えてでも俺は貴方達の不幸を見たくない。」


「……私は貴方の幸せが見たいんですけどねぇ?」


 俺の?


「学園を卒業して爵位を継いで父に楽をさせられたら幸せです。あと貴方達が揃って笑ってくれれば幸せです。極論先生の式に呼んでもらえると幸せです。」


「………………私に覚悟が足りないんですねぇ。そうですよねぇ、婚約者がいるならキープなんて……。」


「あれ、話しましたっけ?」


「あ、やっぱりそうなんですねぇ。そこまでいきましたかぁ。」


「そうですね。正式なものはまだですけど。」


 捨てられるまでは婚約者です。


「しつこいですねぇ……私じゃ、勝てませんもんねぇ。」


 俺、ミラベル先生のこと結構好きだよ。


「私もですよぉ。」


「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです。」


「結婚しましょうよぉ?」


「焦らなくても婚活付き合いますから。」


「貴方に言ってるんですよぉ。」


「俺に? ストレス溜まるだけですよ。さっき言った尊敬していた人と先生は瓜二つなんですよ。名前も性格も顔も何もかも。嫌でも重ねてしまいます。」


「……そもそもぉ! 私は別に記憶があること自体はいいんですよぉ! 可愛い生徒ですからぁ! ただイカレ年増と呼ばれるのは我慢ならないの分かりますかぁ!?」


「それはまあ……謂われない事ですからね。」


「そうですよぉ! 別に気持ち悪いとか思ってませんよぉ! それに貴方の私への評価って本当に貶してるわけじゃなかったんですねぇ! ごめんなさいでしたぁ!」


「先生声大きいですよ。」


「…………本当に思ってませんからねぇ? それに嬉しいですぅ。確かに私はそれを言いそうですねぇ。」


「だから求婚されたときテンション上がったんですよ。狂気のエンドさえ無ければ二つ返事でした。」


「本当ですかぁ?」


「嘘でそんなこと言いません。他の誰でも俺は頷きませんが先生だったら喜んで首を縦に振りました。」


「………………黙って聞いてたけど私も聞きたい。私でも駄目だったの?」


「……………………そうですね。出会って一番に結婚を迫られたら警戒します。してたでしょう?」


「してた。」


「助手が欲しいのも結婚が楽だったのも理解できたから警戒を解いたんです。先輩は理由さえあればそのくらいする人ですから。俺は何考えてるのか予想できるので先輩としては楽だろうなとも思いました。俺は先輩にとって必要だと思ったから今一緒にいるんです。」


「なら何故私を口説くことはしなかったんですかぁ?」


「伝えませんでしたか? 俺は好きな仕事をしている先生を素敵だと思って尊敬して好きになったんです。領地に籠る可能性があって妊婦にする可能性もあるのに口説くなんてありえません。先生は先生をしているときが一番美しい。先生が先生だったから俺は先生と出会えたんです。生きている先生と話せるんです。教えてもらえるんです。こんな幸せなことはありません。先生にはやめてほしくないんです。」


「…………ベタ惚れじゃないですかぁ。よく茶化せましたねぇ?」


「だってバレたら恥ずかしいですし……重ねてしまえば先生に失礼ですし……結婚させられますし……。今は駄目だったんです……。」


「………………ここまで慕ってくれた人はいませんでしたねぇ。教師冥利に尽きますよぉ。」


「俺が慕ってるのは別人です。」


「…………人間って都合のいいものですねぇ。貴方の話を聞いて嫌なことを言われたら嫌なのに良いこと言われると気分が良くなるだなんてぇ。どっちも嫌だってならないんですもんねぇ。…………重ねてくれていいですよぉ。」


「だって別の人ですし……。」


「私は今更ほとんど変わりませんよぉ。すっごく言いそうですものぉ。ただイカレ年増は嫌ですぅ。アラサーも嫌ですぅ。」


 大人で良いと思うんだけどなぁ……食べ頃って感じだけど。ほら、女性の性欲って30からピークって言うしピークが揃うと思えばお互い良い具合じゃなかろうか?


 やばっ、想像しちった。煩悩退散煩悩退散。


「…………そんなこと思われたのも初めてですねぇ。」


「絶対いるでしょう。」


「この人チョロそう、行き遅れだしちょっと飲まして乗せればいけるだろう……って人ならいましたねぇ。」


「なんですかそいつ。ぶん殴ってやりたいです。」


「年齢を肯定的に捉えられる事ってなかったんですよねぇ。若いと小娘って呼ばれますしぃ、今は行き遅れって呼ばれますぅ。」


「若ければ若いほど良いって訳じゃないでしょう。先生には年齢で熟成された妖艶さがあります。初物とは思えません。俺は先生好きですよ?」


「…………照れますねぇ。」


 赤くなってる。可愛い。先生と話してると癒される。


「だから先生が本気なら結婚出来ないはずないんです。確かに少し面倒なところはありますけど人間なんてみんなそうでしょう? こんな女性を放っておくなんて節穴ばっかです。先生がいまだに独身なのは少し特殊な考えと……先生が結婚したいと思える男がいないからです。」


「………………ベタ褒めやめてくださいよぉ。」


「事実です。少なくとも俺はそう思います。なりたいものになってやりたいことをしている人に魅力がないはずないじゃないですか。先生も……先輩も、会長も、とてもとても素敵な女性です。先生を馬鹿にする人なんて相手にしなくていいですよ。あんまりウザいなら呼んでくれればぶん殴ります。先生は俺より強いですけど先生が伸すより都合がいいでしょう? 強い女性が苦手な人だっていますからね。」


「貴方は強い女は嫌いですかぁ?」


「好きですよ? 努力した証拠じゃないですか。俺の生まれた場所には天才は1%のひらめきと99%の努力であるとの言葉があります。有名な発明家が残した言葉……記者がそれっぽくしたらしいんですけどね。強いということは才能とは別にそれを伸ばした事実も付随します。才能を見つけることだって難しいのにそれと出会って伸ばしたんです。その水面下の努力を俺は好ましく思います。方向性が前向きであることが前提ですけどね?」


「後輩君超いい子。」


「俺は1%を持ってないのでどんだけ努力しても秀才止まりですけどね。でもずっと負けてる気もありません。天才と並ばないといけないですから。優雅に取り繕う余裕もありませんから泥まみれになったって食らいついてみます。」


「超いい子。」


「世界には女性が前に出るべきでないという風習もあります。でも俺は普通に女性が好きなことをやってその上で前に出れる男になりたい。女性に一歩引けなんて情けないことを言いたくありません。せめて並べないと。」


「…………………………いるんですねぇ。」


 先生は赤い顔で思わずと言った感じに呟いた。


「何がですか?」


「……………………………………………………王子様。」


 王子様? 王子なら先生のクラスにいるけどそれがなに?


「…………………………白馬の王子様ですよぉ。」


 白馬? 比喩の方か? 誰が?


「………………この歳で迎えにきて貰えるなんて思いませんでしたねぇ。憧れたこともありませんでしたけどぉ。」


「あれ、聞いてます?」


「………………あぁ、駄目ですねぇ。年甲斐もない。」


「先生は若いじゃないですか。」


 そういえばいつ顔を押さえつけられていた手を解かれたんだろう?

 俺もあまり余裕ないから気づかなかった。距離は変わってないから。先生がこんな近くにいるのに……手を伸ばせばどころか倒れ込んだらキス出来るくらいの距離にいるのに。やっぱり先生は若い。


「…………………………あぁ、駄目ですねぇ。我慢してたのにぃ。駄目ですねぇ。駄目なんですよぉ。駄目なのにぃ。駄目……じゃないんですねぇ。ふふふ……。」


 あ、怖い。


「怖がらなくても食べちゃいませんよぉ。そんなに求められたら焦る理由も消し飛びますからぁ。今やっちゃうと先生じゃなくなっちゃいますからねぇ。」


「冷静でしたか。」


「冷静……ではありませんねぇ。むしろ狂気を宿したのかもしれませんよぉ? ……本気になっちゃいましたぁ。」


「包丁……。」


「は、やりませんねぇ。ちゃんと力も貸しますよぉ。恋は狂気……っていうのが風刺されてるのかもしれませんねぇ、それは。そういうのどうでもいいですけどぉ。私は私ですよぉ。他人がどう見ようと変わることじゃないですぅ。」


「こい…………?」


 恋? まっさかぁ?


「……似合いませんかぁ?」


「今の先生は凄く可愛いですけど恋は違うんじゃないですか?」


「違いませんよぉ。小娘って歳でもないんですから経験ありますよぉ。今はもっと熱いですけどぉ。」


「そうなんですか?」


「恋人はいたんですよぉ。でも私は思ってるのに相手は離れてって失恋するんですぅ。浮気もありましたねぇ。」


「ぶん殴りたいですね。」


「……その時より深いんでしょうねぇ。もう捨てられたくない気持ちもあるのかもしれませんけどそんなの自分でも分かりませんよぉ。」


「気のせいでは?」


「いいえぇ、確かですよぉ。貴方が生徒でなければ襲ってましたぁ。」


「ヒェッ。」


「……受け入れてくれますかねぇ? こんな地雷持ちの面倒な女ですけどぉ……。」


「こんな甲斐性まるでない男でいいんですか? 王子様と言うには優雅さとか金銭面とか強さとか賢さとか全く足りませんけど。俺が言ったら先輩に殴られるかもしれませんけど浮気されたら泣きますよ?」


「しませんってぇ、お尻の重たい女なんですよぉ。歴代で彼氏は三人しかいませんからぁ。」


「…………三人も? 尻軽ではありませんか?」


 先輩が辛辣……。確かに貴族感覚で三回付き合うのはちょっとなぁって感覚は理解できるけども。


「全部逃げられたんですよぉ。自然消滅、別れ話、浮気ですぅ。泣きましたぁ。」


 涙ぼくろ……。


「男にはとことん泣かされましたねぇ。この人なら、って過去に三回思いましたからぁ。」


「なんて男達だ。玉無しか。」


「二十越えた人間には子供に、それより下の人間には行き遅れに見えるらしいですぅ。」


「いやいや、そんなのなくたって先生には目を引くものがあるでしょう。……ってこれじゃあ最低ですね。無神経なこと言ってすいません。」


「視線が下卑てないので良いですよぉ。凝視したって怒りませんよぉ?」


 それはちょっと……。先輩のも凝視したくなっちゃうから。


「立ち直りましたぁ? ……捨てませんよねぇ?」


「捨てるのは先生では?」


「あり得ませんねぇ。初めてこれに感謝したくらいなんですからぁ。」


 先生は胸に手を当てて言った。……先生は貧乳でも需要あるだろうしなんなら俺は先生そのものが好きであって容姿は二の次だ。


 多分先生がお婆ちゃんでも俺は好きになったと思う。そうなったら恋愛出来るかは別だけどね?


 やっぱり抱くなら見た目は大事…………最っ低。


「自分で考えて自分で罵るんですかぁ。」


「今の考えは最低です。」


「私は嬉しいですけどねぇ。この見た目は地味にコンプレックスだったんですよぉ。」


「性欲向けられて喜ぶとか先生拗らせすぎでは……?」


「失礼ですねぇ。君だから可愛いと思って許してるんですよぉ。これが酒場の一夜狙いなら張り倒してますぅ。」


「可愛い……? どこが……ですか?」


 いや、我ながら可愛くはないぞ? 結構荒々しい感情だと思う。激しく求めたいと体が訴えてる。黙らせてるけど。

 そりゃあ童貞なんで興奮しますって。こんなん人様に見せられない。


「可愛いですよぉ。その葛藤が愛おしいですぅ。」


「は?」


「……抱きたいならどうぞぉ。責任は取ってくれるんですよねぇ?」


「そりゃあそうなったら責任取りますけど……頑張って抑えてるんだから煽らないでくださいよ。さっき捲し立てて興奮してるから抑えるの大変なんです。痛みしかない初めてを迎えたくなければやめてください。」


 俺だって余裕の有り無しは置いといて相手の初めてになるならいい思い出であってほしい。狂うくらいで丁度いいと思う。


 って考えるな妄想するな。本気で抑えられなくなる。


 深呼吸して…………平常にすることに意識を向けて……。


「…………ふぅ、少しは落ち着きましたか。からかわれたら辛いのでやめてくださいね?」


「仕方ありませんねぇ……痛いのは嫌ですからねぇ……。」


「そうですそうです。人間、普段と様子が違う相手は怖いですし恐怖したらまともに動けません。体格的には俺が勝ってるんですから襲われたら怖いでしょう。俺の理性を飛ばさないでくださいよ。お互いの未来のために。」


「…………いい響きですねぇ、お互いの未来のために。」


「……今日はお引き取りください。話はまた明日聞きます。先生の気持ちは伝わりました。婚活はしなくていいんですね?」


「されたら泣きますよぉ~。」


「婚約が三年後以降なので覚えておいてくださいね。それまで俺達は教師と生徒です。三年後、卒業したら先生の実家に挨拶にいきましょう。最後は纏めて父に挨拶します。」


「…………実家に挨拶までしてくれるんですかぁ?」


「俺の腹のうちまで見せて本気だって証明します。」


「前世の事がばれるかもしれませんよぉ? その近くにいる精霊のこともぉ。」


 見えるのか、先生には。でもそれでも。


「精霊は隠さず見せます。前世のことは考えないようにします。……先生が出来損ないなんかでないと証明してハンカチ噛んでる人間に颯爽と彼女は貰ってくってします。」


「…………ははっ、それはいいですねぇ! 結婚出来ないと思って馬鹿にしてくるんですよぉ! 少しくらいならいいですよねぇ!」


「結婚だけが幸せじゃないでしょうに。」


「本当ですよぉ、君はよく分かってますねぇ。」


「……先生は実家に情があるんですか? それとも復讐したいですか?」


「…………微妙ですねぇ……好きではないですよぉ? 気まずいですからぁ。ただ嫌ったり憎んだりするには恩も情もあるんですぅ。嫌味は言われますけどぉ、縁談を無理矢理組まれたことは無いんですよぉ。無関心と言うには接触してきますしぃ。……もっと読めればいいんですけどねぇ。みんなあんまり話さないですからぁ。先見とか過去見とか透見とか……そういう人用なんですよねぇ。みんな私には親切に自分の目で対応しますからぁ。」


「やっぱり異質なんですか?」


「そうですねぇ。調べた限りは無かったですぅ。まともに使えないんですけどねぇ……これはこれで便利なんですよぉ。一族だと一芸がどこまで特化しているかが判断基準なので私は最低レベルですけどぉ、普段使いには便利な時もあるんですよねぇ。」


「これから一緒に頑張りましょうね。」


「一緒……いい響きですねぇ。」


「………………先生? お願いしてもいいですか?」


「何をですかぁ?」


「………………俺と残り二人が先生の生徒になったのは意味があると思うんです。心が読める先生が担任になったのも、俺が心を読めると知らなかったのも。……可能なら、見捨てないであげてください。俺には切り捨てることしか出来ません。拾えません。……お願いします。」


「言われるまでもありませんよぉ。私に年齢のことと結婚のことを言わなければそれは私の可愛い生徒ですぅ。」


「…………ありがとうございます。……帰る前にもう一ついいですか?」


「どぉぞぉ。」


「先生はなんで先生になったんですか?」


「…………私が十六の頃ですねぇ。今の学園長と出会ったのはぁ。結構すぐに私の秘密とか看破してたのに黙っててくれたんですよぉ。……やっぱり当時の私も悩める乙女でしてねぇ? 学園長は相談に乗ってくれましたぁ。真剣に生徒に向き合うその姿に憧れて……後押しもあって私もそうなりたくて実家の反対もなんのその、頑張って先生になったんですよぉ。だからそれを知らないのに出来てるって言われたときは嬉しかったですねぇ……。……私の専攻は、学園長の勧めなんですよぉ。錬金術を極めれば自分の目を制御できるかもしれないって言われて……その通りだと思って頑張って学びましたぁ。実戦学は憧れた人になりたくて専攻しましたぁ。……少し落ち着いたら二十五、もう行き遅れてましたねぇ。」


 そうなんだ。


「先生の恩師は学園長なんですね。」


「そうですよぉ、初恋でしたぁ。振られましたぁ、泣きましたぁ。教師と生徒だからって……二、三十歳違うので当然と言えば当然なんですけどねぇ。」


「それは……すいません。」


「もうとっくに吹っ切りましたよぉ。…………だから、やっぱり嬉しかったんですよぉ。恩師って言われて、教師の私が素敵と言われて……認められた気がしたんですぅ。私は教師としてちゃんと出来てるんだってぇ。」


「画面越しにですら効果があるんです。先生は立派な先生ですよ。」


「…………ありがとう、ございますねぇ。」


「お礼を言うのはこっちですよ。」


「…………私からもいいですかぁ?」


「どうぞ。」


「今後イベントって言葉は使わないでください。」


 真剣な声音だ。

 俺も真剣に聞こう。事の発端だ。


「理由を伺っても?」


「人間、山も谷もありますよぉ。辛いことや悲しいことだってありますぅ。それを本人の意思を無視して結果として言い表さないでほしいんですよぉ。……辛さを乗り越えるのは大変ですぅ。それを乗り越えるのは覚悟がいるでしょぉ。それをやっと乗り越えても……そういうイベントだから当然だなんて酷い話じゃないですかぁ。私はもしそう決まっているのだとしても乗り越えたら褒めたいですよぉ。」


「………………そう……ですね。その通りです。すいません、言葉の端でキャラクターを見ていることを表していましたね……俺の完全なミスです。」


「分かってくれればいいんですよぉ。……それに、イベントと切り捨てるのも手ではありますからぁ。君には私と同じでいてもらいたいって言う我が儘なんですよぉ。一緒に悩んで苦しめと言ってるようなものですぅ。……強く言ってすいませんでしたぁ。」


「……いえ、こちらこそすいませんでした。以後気を付けます。」


「ダンジョンとかならまだしも人の関わることはちょっとぉ……。」


「分かってます。……そうですよね。例えば魔族襲撃イベント。ゲームでは死ぬと言う描写がされるだけで戦闘して読んでおしまいですが……ここは現実だ。人が死ねば血が出るし戦闘すれば傷つく。心にも深く傷を負う。失った人間は戻らない。……分かっていたはずなのに。それを恐れていたはずなのに。分かったような気になっていただけだったんですね。それを一言イベント……催しみたいに言われたら誰だって怒ります。……怒ってくれて、付き合ってくれてありがとうございました。」


「先生ですから当然ですぅ……と答えたいのですけどねぇ。これは私の勝手だったので……そこまで考えてくれて私も嬉しいですよぉ。」


 …………あぁ。先生は、やっぱり先生だ。


 嬉しい。先生は変わってない。

 生徒を思って怒れる人だ。俺のためも思って怒ってくれる人だ。


 付き合ってくれた。子供のようだった俺の話を聞いてちゃんと答えてくれた。


 これほど嬉しいことがあるだろうか?


「やっぱり素敵な人だ。先輩が入室を許すだけはあります。」


「怒られて喜ぶなんて変な人ですねぇ。」


「先生にとって俺は生徒です。……憧れの先生の生徒になれた俺は幸福者です。そして将来的にはその幸せを俺が与えることができる。……なんて素敵なんでしょうか。そこで怒ってくれるから先生は先生なんです。やっぱり節穴ばっかりだ。こんな人が結婚の機会を与えてくれたのにみすみす逃すなんて。俺は逃がしませんからね。絶対に俺が幸せにします。」


「…………心地よいですねぇ。ちょっと俺のものって言ってくださいよぉ。」


「ミラベル、お前は俺のものだ。逃がさないから覚悟しろよ?」


 俺は意趣返しにちょっとだけ寄って耳元で囁いた。


 耳元の囁き声は効果抜群で、耳まで真っ赤にした先生が耳を押さえて踞る姿が見れた。可愛い(白目)。


「後輩君、婚約者は私。私にも言って。」


「嫌です。同じことは言いたくありません。でも先輩にもどこにも浮気されないよう誠心誠意努力します。」


「嫌だ。私も後輩君のものになりたい。」


「既にマーキングしたじゃないですか。」


「マーキング? …………あ。」


 先輩は左手の薬指の根本を触った。もうそこにはなにもなかったが言いたいことは伝わったようだ。

 気づいたらなかったから消えてしまったのか保管してあるのかは分からない。頑丈ではないから壊れてしまったかも。


「もうどこにも行かせるつもりはありません。先輩には俺の身柄以外得のない婚約ですけど……ちゃんと俺も頑張りますから。」


「そっか…………ならいいや。コウハイニウムが足りないから抱き締めさせて。」


「駄目ですよ、もう時間ないんですから。ご飯食べたらお風呂入ってその後は理性が持たないので明日です。」


「そうすると多分朝寂しくなってベッドに潜り込む。無意識の私の行動は本人でも予測できない。もしかしたらキス魔になるかも。」


「じゃあご飯食べ終わってお風呂入る前で。」


「……やっぱり一緒に食べないの?」


「お仕事出来ない無能はいりません。俺が我慢できません。」


「真面目すぎ。」


「じゃないとただのヒモです。今でもヒモ臭いのに……。それは情けないので嫌です。お願いします、仕事させてください。」


「会食は仕事じゃない?」


「接待すればいいですか?」


「いらない。……仕方ない。一人で好奇の視線に晒されながら暗い中歩いて行ってくる。」


 …………それを言われちゃうとなぁ。ある意味最終手段だろ。卑怯だ。


「護衛ならそこにいます。」


「私は送るくらいならいいですけど流石に帰りは嫌ですよぉ。一緒に食べるほど仲良くはないので怪しまれますしねぇ。ここに来る分にはたまに来るのでいいんですけどぉ。」


「ここに出入りするのは教諭と会長だけ。教諭は雑談して帰ってくからただのサボりだと思ってた。」


「失礼ですねぇ。お仕事とまでは言いませんけど放っておけないじゃないですかぁ。ちゃんと一段落ついてから来てますよぉ。」


「そうですよ。先生は孤立してる生徒を見かけると仕事の合間に会いに行くんです。言葉すら通じなくてもしばらく様子を見て帰るんですよ。完全に孤立してるのは二人だけだと思いますけど。」


「二人? 私だけじゃなくて? 噂聞かないけど。」


「君は彼を知ってるんでしたっけぇ?」


「知ってますよ。ゲームの彼ですけどね。」


「……誰?」


「図書室の亡霊です。」


「……ああ。あの誰も知らない人が図書室をさ迷ってるって奴?」


「それです。」


「ただの根も葉もない噂だと思ってた。」


「先輩の同級生ですよ。」


「そうなの? でも誰も知らないんじゃないの?」


「留年生ですからぁ。」


「…………何年いるんですか?」


「結構いますねぇ。もう何年になるでしょうかぁ?」


「何故除籍されないんですか?」


「図書室の管理してくれてるから半職員状態なんですよぉ。でも生徒ですし卒業してちゃんと司書になってほしいので通い続けるんですぅ。ちょっとしたきっかけでまた授業を受けたくなるかもしれないじゃないですかぁ。その時言い出せなくても気付ける私でいたいんですよぉ。そして応援したいんですぅ。だから私は暇になれば図書室にも行きますねぇ。大体図書室かここか酒屋かに出没しますよぉ。」


「先生は世話好きなんです。」


「…………私も気にかけてらしたんですか?」


「そうですよぉ。私より魔法学に精通していようと可愛い生徒であることは変わりませんからねぇ。ちょっと嫉妬しますけどぉ。」


「後輩君、これが嫉妬。結構ねばっこい。」


「いやぁ……そのくらいは勘弁してほしいものですよぉ。私だって頑張って勉強したんですよぉ? 研究ではなく教職に進みましたけどぉ、お誘いだってあったんですからぁ。それが簡単に抜かれてしまうと教師としてプライドがですねぇ、こうガラガラと崩れるんですよぉ。」


「喧嘩したらボケます。」


「しませんよぉ。嫌味は出てしまいますけどそれ以外したことないでしょぉ。」


「……教諭の嫉妬はまだまし。実害ないから。」


「あの年寄り共は馬に蹴られればいいんですよぉ。」


「………………放火してきます。」


「やめなさいねぇ。困るのは彼女と君のお父さんですよぉ?」


 …………ぶぅ。


「今ので分かったの? 知ってた?」


「知りませんけど……先生が嫌いな相手、年寄り、権力者と来れば次には大体好色で阿漕な連中と相場が決まってるんです。腐った教師と研究家擬きは馬と言わず俺が蹴り殺したい。」


「物騒。駄目だよ。」


「……分かってますよ。思ってるだけです。先輩が悲しそうじゃなかったらやりません。」


「私が悲しそうでもやめて。不利になるし君が捕まったりする方が悲しい。正直ありがた迷惑。」


「………………はぁい。」


 ぶぅ。ぶうぅぅ。馬に蹴られて肥溜めに頭から突っ込め。

 そうだ、肥溜めで思い出した。うちの領地先輩達にはキツくないか? 俺は生まれたときからだからすっかり慣れてるけどここと比べたら臭うぞ。


「そうなんですかぁ?」


「そりゃそうです。化学肥料なんてありませんから堆肥で作ります。」


「肥溜め…………ってなんですかぁ?」


 あ、ご存じない? お嬢め。


 でも知らないなら知らなくていい。先輩も分かってないみたいだし。忌避感ある人は少なくないからなぁ……。

 なにより臭う。


「馬鹿にしてるんですかぁ?」


「いや、割とマジで知らない方がいいです。」


「化学肥料……ってなに?」


「先輩はそっちですか。鉱物なんかを使って人工的に植物に必要で足りない栄養素を補ってやるんですよ。必要なのは窒素とカリウムと……なんだったかな? 農業とかまともに勉強してなかったので忘れました。」


「窒素……そういうのも知らない。」


「全ての物は目にも見えない超小さい粒の集まりですよって話です。それもまたもっとちっさい粒の集まりで一番ちっさいやつの数とか並び方とかで性質が変わるそうです。窒素はその一つですね。」


「うん……うん、なるほど。同じ形の積み木をくっつけていったら違う形が出来るみたいな。」


「そんな感じなんですかねぇ? 魔力とか魔法とか錬金術とかある世界で通用するかは分かりませんけど同じ方法で作ってるんだから必須栄養素とか変わらないんじゃないですかね?」


「人工で……今は無理か。構想だけ纏めてデータ収集は学部に投げよう。」


「学部?」


「お隣、魔法学探究部のこと。私の手足、そして耳目。面倒な検証とか試行とか投げるとやってくれる。私信者か研究好きな人しかいない狂った場所。多分魔窟はここじゃなくてあっち。奇妙な笑い声とかしたらこっちじゃなくて向こう。変な臭いとか音とか煙とか全部向こう。私がやるときはちゃんとする。煙なんて外に出したら死ぬことだってある。ちゃんとしてる。」


「それ先輩は大丈夫なんですか?」


「ガスマスクしてる。あとこっちでやって使ったものは大体捨てるか煮てる。」


 全裸でガスマスクでシュコーシュコーし、パンツを煮る先輩を想像してしまった。エロいとかじゃなくて超笑える。


「くふっ! 何考えてるんですかぁ!」


「仕方ありませんよ、そう説明されたんです。」


「学部は便利。私の投げたものは取り合いになるらしい。お陰で助手なしでもなんとかなった。細かい実験してたら時間とか止めないと話にならない。ちょっとやってみようかとも思ったけどあれは無理。もし出来たとしても自分も止まるし動かせなくなるからやめた。」


「というかガスマスクあるんですね。」


「いるから作った。非売品。」


「何故売らないんですか?」


「作れないから。私も毒ガスの出るダンジョンとか毒ガスを吐く魔物とかに有用かなとも思ったけど制作難易度高いし材料もかなり高いから売れないかなって。」


「売るとしたらいくらですか?」


「う~ん……金貨380枚?」


 聖銀貨出てくるんですね。3800万円ですか。バカ高い。


「あ、いや違う。640枚くらいにはなるかな?」


「随分上がりましたね。」


「私へのレシピ提供の利益、制作者の利益、販売者の利益を考えてなかった。それとメインの素材だけで380行くけど細々としたのを少し失念した。原価とか作るときは考えてないから。前買ったときは多分500くらいで作ったんじゃないかな。」


「たっかいですね。」


「無毒化のフィルター作りと構造が複雑。特にフィルターはバジリスクの毒袋とフェアリーフラワーの花粉とか色々いる。」


 石化ドラゴンに妖精の粉ねぇ……だるっ。


「コカトリスは駄目なんですか?」


 コカトリスとバジリスクはちゃんと別なのよね。どっちも石化させてくるんだけど。


「石化の方法が違う。だからコカトリスには毒袋の代わりに声帯に魔力の波長を変換して魔法の一種にする機能がある。」


 そうだっけ? 存じ上げない。


「メデューサは何者ですか?」


「あれは邪眼でしょ? 魔法より魔術に近い。無理に言うなら呪いの一種かな?」


「ロックゴーレム……。」


「よくあれが石化だって知ってるね。あれは感染や寄生と呼ぶべきもの。人間を殺して体を奪って全身を石に変質させる。」


「先輩こそ詳しいですね。」


「毒は薬にもなるし解毒薬作るのにも毒の知識が必要。私の一番得意な分野を忘れたの? 私は確かに色んなものを作るけど一番は薬。」


 知ってる。最初は魔法学から入って錬金術に派生して目標を持ってポーションなんかの作成をしだして薬に移った。


 しかも……本当凄いんだよ。それを十かそこらで初めて五年で国に認められるまでになったんだ。

 寝るのも忘れて没頭して……確か一番最初に作ったのは……。


「感染症の解毒ポーション。」


「よくご存じ。それが認められてここにいる。」


「それで無能だとか本当馬鹿ですよね。そっちは絶対にぶん殴りますから手伝ってください。」


「……ふふっ、だめだよ。あんな人達でも名家なんだから。」


「いいえ、やります。少なくともお兄さんは殴ります。手伝ってください。」


「……分かったよ。ありがとう。」


「あのお兄さんふざけてますからね……。」


「そこまで知ってるの?」


 知ってるよ。先輩ルートのお邪魔キャラだからね。


 先輩を愚か者呼ばわりする人だ。役立たずって蹴るし。戦闘になったら徹底的に潰した。少しスカッとした。


「魔法が使えないからって何だって言うんですか。会長なんてそのうち魔法も斬れますし霊体だって斬れます。魔法だけの人間なんて後輩を心配する先輩にすら勝てなくなるんです。プライドなんて折れてしまえばいいんです。それは俺がやりますけどね。無名で自分より確実に格下の人間に負けて一から出直してください。」


「…………私の悩みが一蹴された。」


「先輩はとっても魅力的です。きっと先輩が俺を紹介すればお似合いだとか言って笑うと思いますから誘導して決闘にしましょう。」


「恨まれるよ?」


「たかだか学生に負けて逆恨みとか……って笑い者にします。勝って華々しく婚約すれば皆が理解します。そして俺に被害が出ればたとえ別人の犯行でもそういう家だと思われます。むしろ政敵の工作から守ってくれるんじゃないですか? それがどれほど業腹でも。愉快ですねぇ。」


「後輩君性格悪い。」


「相手が敵なら容赦しません。一族暗殺とかはしませんけどこのくらいの意趣返しは許されるでしょう。」


「……倫理のお勉強が必要ですかぁ?」


 何故突然倫理? ……あぁ、なるほど。


「……すぐ殺人を視野にいれるなって事ですか。これは仕方ないことなんですよ。相手が最悪それを狙ってくるのであれば俺はそれに対抗しないといけません。受け入れた以上どんな悪意からも守るつもりでいないといけないと思います。俺達は絶対に目立ちます。過保護なくらいで丁度いい。先生のお家にはちゃんと手土産持って挨拶します。ただ、もう返さないからなって突きつけるだけです。……あ、帰るなって言ってるわけじゃないですよ?」


「分かってるなら信じましょぉ。もし感情に呑まれそうになったらやらかす前に先生に相談するんですよぉ?」


「分かりました、肝に命じておきます。」


「ごめんなさいねぇ。私がもう少し普通の家の出なら君は静かに暮らせたかもしれないのにぃ。」


「どうせ先輩の実家に行くので静かには暮らせません。」


「普通の家ならぁ……。」


「会長の実家に行くので静かには暮らせません。」


「…………普通の家庭ならぁ。」


「たらればは不毛です。あとそれでも俺は死地に突っ込むつもりなので静かには暮らせません。」


「……そうですかぁ。………………ところでぇ……会長さん……ですかぁ?」


「最後って言ってから大分経ちましたね。続きは明日と言うことで。もう真っ暗なんですから。先輩、先生も言っていましたけど確かに危ないですから俺も行くことにします。今日もシャワーですいません。」


「全然構わない。むしろシャワーはいつものことだから寂しくないご飯の方が嬉しい。行こっか?」


「二人揃って誤魔化すんですかぁ?」


「先輩が口説いてました。」


「…………行きましょうか。」


「ちょっとぉ!? 凄く気になるんですけどぉ!?」


「それは明日ということで。」


 俺達は明日を約束できるのだから。




 その後は不満そうな先生に気づかないふりをし、先輩と二人で最寄りの食堂へ行った。


 いたのは見覚えのある人で先輩を見ると驚いていたが特に怒られることもなく食事を貰った。


 多いからと先輩に少し分けてもらって二人で少し話しながら夕食を食べた。

 先輩は確かに少食だが食べきれないほどじゃないだろうと思ったが世話を焼きたそうだったのでありがたくもらった。


 先輩は相変わらず綺麗に食べていたがとても幸せそうに……僅かにだけ頬が緩んでいた。そのことに気づいたのは俺だけだろうと思うと少し優越感を覚える。



 その後、誤魔化されずにきっちり抱き締められ頭を洗った。




 お疲れさまでした、次は来週土曜日に更新予定です。


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