12 精霊
本日三話目、ラスト
ニマンジ!?
出発から三日経った。会長のお陰で俺はちゃんと御者の人と二人で宿を取ることができ、仲良くなった。
最初はお互い堅かったけど今ではおっちゃんぼっちゃんと呼び合う仲だ。多分この旅で一番仲良くなった人だと思う。
馬は操れないと話せば時間が空いたら乗馬や御者を教えてくれると言うので喜んでお願いした。
おっちゃんは気のいい人で少しからかわれたりもしたが楽しく過ごした。二人で御者台に座ったりしたくらいだ。
目的地の最寄りの街に着いたのは夕方で一泊して朝一で潜ることになった。
「ぼっちゃん、本当に大丈夫か? 1年坊だろう? 会長さんが付いてて万が一も無いとは思うが……。」
「大丈夫だって。こう見えて俺だって弱くはないんだ。怪我もせず帰ってくるよ。」
「ならいいんだが……無理はするなよ?」
「分かってる。俺が死んだら父さん一人になっちゃうからな。無事に帰ってくる。……少しくらい無茶な方が男児っぽいだろう?」
「……はははっ、それもそうか! 俺も若い頃はやんちゃしたもんなぁ! なら行ってこい!」
「行ってきます。お土産は期待しないでね。」
「期待して御者やってねぇよ!」
俺はおっちゃんと別れて二人のもとへ行った。
このおっちゃんの名前はロレンズ、名前から仲良くなった気のいい御者のおっちゃんだ。
「……御者さんと仲良くなりすぎじゃない?」
「いい人ですよ。」
「私にもああやって話してくれたりは……。」
「出来そうにありませんね。徹底的に仕込まれてるんです。」
「ちょっとずるいと思う。」
「……ほら、行きましょう。時間は有限です。」
なにも言わない会長と少し不満げな先輩を伴って俺はこの世界初めてのダンジョンへ突入した。
俺はしばらく歩いていたが会長に止められた。
「ちょっと待った。君はどのくらい戦えるんだ? 私もおおまかな感覚でしか分かっていない。魔物と戦うのは訓練とは違うが大丈夫なのか?」
「そこは確認します。会長、しばらく見守っていて危なかったら助けてください。」
「…………分かった。無茶だけはするなよ。」
「ありがとうございます。」
このダンジョンなら問題ないステータスのはずだけど……さてさて、初魔物は大丈夫かなっと。
お、発見発見。ゴブリンゴブリン。ここはゴブリンにコボルト、ノッカーと妖精ダンジョンだ。
まず水の塊をぶつけて先制、気付かれたのでぬかるんだ地面に足を沈めて固定、水をぶつけまくってしばく。
……ふう、なんとかなったな。レベル上がった。やっほい。
「………………その、なんだ。言いたいことは沢山ある。正直殴りたいが実戦訓練ではないので省こう。戦闘は私が行う。いいな?」
「駄目なところを教えてください。」
「魔力の変換効率が悪い、制御が甘い、無駄が多い、その腰の剣が飾りになってる。奇襲と固定は評価して25点と言うところか。100点中だぞ。」
「なるほど……思ったより伸び代がありますね。それは僥倖です。あと腰のこれはほぼ飾りですよ。」
「…………なに?」
「少し鞘のまま殴りかかってください。」
俺も鞘のまま構える。すると会長はとても手加減しているであろう一撃をくれた。
俺はこれを問題なくいなす。
「……何故反撃しない?」
「じゃあもう一度お願いします。」
もう一回今度は違うさっきよりは鋭い攻撃が来た。俺はそれをいなして反撃する。軽く防御された。
「ふざけているのか? 本気で来い。」
「これで本気なんです。」
「…………………………なに? いや、お前の防御の練度でこれはおかしいだろう。」
「本当ですよね……。師匠にも君は防御の才の代わりに攻撃の才を奪われたのだと言われました。」
「……少し本気でやっていいか?」
「どうぞ。」
直後、さっきとは比較にならない一撃が来た。俺はどうにかかわす。ただ今度は一撃ではなく連撃だ。
かわして流して受け止めてをしばらく繰り返したら会長は手を止めた。
「君はおかしい。歪すぎる。魔力量にしては練度が低く、防御面だけなら私は君に勝てない。」
「それは光栄ですね。」
「魔法も攻撃の才が無かったのか?」
「それは単純に練度不足です。師匠に実践は勝手に覚えろと投げられました。」
「……攻撃は私が教えていこう。下手な人間が教えたら君の才能が潰れる。」
「言うほど無いと思いますけど。」
「防御だけなら相当だ。君を適当な防御の型に嵌めるのは簡単だがそれでは何も生かせないだろう。」
「時間は大丈夫ですか?」
「彼女の護衛を鍛えるのだから彼女関係の特別処理としておく。」
「では……お願いします。」
「会長、彼は結局強いんですか?」
「強……くはない。だが弱くもない。とてももったいないな。私が鍛えたなら光るだろうが一級品の才能かと聞かれたら困る。だが二級ほど低くもない。とても甲乙付けがたい才能だ。精進すれば間違いなくそこらの人間は敵にならなくなるだろうな。秀才……という言葉を使おう。」
「それは安心しました、頑張ります。」
「だが今回は実戦はしなくていい。不確定要素の方が怖い。」
「分かりました。」
俺は大人しく戦闘を譲って道を指示していく。
最短で階段を降りていき、5層の大きな扉の前に立った。
「会長。」
「なんだ?」
「瞬殺してください。」
「……承知した。」
俺達は扉をくぐりボスと対峙する。
ボスはトロール君。再生能力と回復能力のめんどい一つ目の巨人だ。
怪力だがのろいので結構なんとかなる。
憐れ、トロール君。会長は見た瞬間に一瞬眉を潜めたが次の瞬間から怒濤の攻め、本当に数秒で消し去られた。会長つおい。
いやぁ、いてくれて助かった。制限時間があるから爆発ポーションで消し飛ばす予定だったんだ。
「終わったぞ。」
「助かりました。さあ、行きましょう。」
「行くってどこにだ? どう見てもここが最深部だろう。」
「見た方が早いですね。こっちです。絶対に止まらないでくださいね。」
俺は入り口正面の丁度真ん中の壁に突っ込む。そのまま止まらず歩いて、壁を出たらしばらく待った。
すると二人は手を繋ぎながら出てきた。あらまぁ。
「驚いた。壁をすり抜けられるなんてな。」
「本当ですよね。」
「ところでなんで止まってはいけなかったんだ?」
「たまに壁にめり込みます。」
うん、たまにね。止まるとバグる。
半身入ってそのまま操作不能に陥るバグだ。止まらなきゃ絶対起きない。検証した。
会長と先輩は若干顔がひきつった。
「驚いても止まらなければ大丈夫です。怖ければ次は目を瞑ってもらって俺が手を引きますよ。」
「……情けないが、頼む。」
「良いですよ。」
「怖くはないのか?」
「止まらなければいいので。俺も初体験でしたが面白い感覚でしたね。さ、行きましょう。」
「……本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫です。」
俺は前へ向かって歩き出した。しばらくして二人も付いてくる。
俺達が歩いているのは全面が白で一ヶ所の曇りもない通路だ。照明は無いのに明るく、白過ぎて距離が分からなくなる。
ここの出現条件があのトロールの一分以内の討伐。ヒント? そんなものなかった。
このゲーム容量の問題なのか所々不親切だからな……。
先輩と会長の二人の過去……作中一年前も詳しくは明かされなかった。ちょっと回想したくらいだ。
そんなわけで色々試して回数を重ねて、クリア101回目でクリアと同時にどこか空くんじゃと思って壁ペタペタしてたら見つけた。一回目はめり込んだ。
少し考え事をしていたためしばらく無言で歩き続けていると幕でもあったかのような少しの抵抗の後に景色が一変した。
そこは暖かな光の差し込む緑の楽園。マグの森だ。
二人もやがてこちらへ来て目を丸くしている。
「このダンジョンの名前、変じゃありません?」
「また突然だな。……確かに言われてみれば変だ。外の森を指しているのかと思っていたが泉とは何だ……?」
「もう少しですよ。」
俺はもうしばらく二人を連れて歩いた。すると目の前には一面に広がる浅い泉があった。ともすれば大きな水溜まりにすら見えそうな綺麗に透き通った泉だ。
「………………きれい。」
「でしょう? 泉のダンジョンを選択した理由の一つです。ようこそ、マグの森の泉へ。俺も少し感動してます。」
だから貴方の方が綺麗ですなんて惚け方はしませんよ。
「…………………………ようこそ、資格ある者達よ。ここはマグの森、その泉です。」
「はじめまして。説明奪ってしまってごめんなさい。綺麗なので早く紹介したかったんです。」
「…………貴方は驚かないのね。」
「えぇ。俺が驚いたら二人が不安になります。」
「こんな人間は初めてだわ……。」
俺はふっと現れ水の上に立つ女性に話しかける。精霊のダンジョンはかなり綺麗だけど泉のダンジョンが一番好きだ。回数に応じて報酬が変わるから順番は問題じゃなかった。
だから俺が一番好きな泉のダンジョンに最初に連れてきたんだ。楽だし。
「………………ここへ到達した貴方達には力を受けとる資格があります。貴方達は力を欲しますか?」
「質問があります。」
「…………なんですか?」
「俺もですか?」
「貴方も到達者ですから当然です。」
よっし、第一関門突破!
「もし他の人間がここへ来ても力は貰えますか? もちろんみだりに吹聴するつもりはありませんが連れてきたい人間がいるのです。」
「別の者が試練を突破できるのであれば構いません。普通は一度来れば二度と来れませんが貴方だけ案内人として二度目を許しましょう。」
よし、第二関門突破!
「最後の質問です。」
俺はそこで一拍おいたら精霊さんがなんですかと聞き返してくれた。
「また来てもいいですか? 森は絶対に荒らしません。精霊王様の邪魔もしません。この美しい場所にまた来たいんです。お願いします。」
「貴方は来れますよ。」
「彼女達もです。綺麗なものに心奪われるのは誰しも変わりません。俺は……また来ると約束したいんです。お願いします。」
俺は真剣に頭を下げる。……俺だって不安はある。何度も倒して徹底的に調べあげた。
それでも、俺は死ぬかもしれない。
だから。また行きたいねと。綺麗だったねと。心から笑顔で未来を約束したい。
俺は死にたくない。生きるんだと踏ん張れるように。
「………………分かりました。私の正体を見破った褒美として来るだけなら許可しましょう。大人数は駄目ですよ? それに次来ても何もあげられませんし私と会えるかも保証しません。」
「……寛大なお心、感謝します。」
「本題に入ってよろしいですか? 貴方達は力を欲するか、お答えください。」
「欲します。俺は強くなりたい。何でもかんでも守れるような強さがほしい。最低でも並べる強さがほしい。明日を勝ち取る強さが……俺は欲しいです。」
「……ふふっ、そうですか。是非大切なものを守ってください。お嬢さん方は?」
「……私は混乱している。貴方が誰なのかも分かっていない。精霊王とかいう言葉が聞こえたがそれも信じられない。……力か、彼にも言われた。そして心配された。」
「そうですね、力には責任が伴うものです。もし力に溺れれば私達とも敵になるかもしれません。……怖いですか?」
「…………いや、恐ろしくはない。力は制御してみせる。しかし……与えられるのは性に合わない。」
「あら、気の強いお嬢さんですこと。大変ですよ?」
「俺を見て言わないでください。」
「………………私は力が欲しい。だが与えられたものに価値も責任も感じられない。」
「ふふふっ……そうね、分かりました。なら貴方は成長しなさい。より高みを目指して、鍛練に励むこと。そうすれば貴方は今より遥かに高みへ行けます。……貴方の目標も聞かせてくれるかしら?」
「……人を率いてその先頭に立ち、自らの姿で人を鼓舞して元気付けられるような……そんな人間になりたい。」
「貴方も素敵ね……最後のお嬢さんは?」
「…………私は、二人ほど高尚な理由じゃない。私は……兄や家族に認められたかった。だから頑張った。それでも駄目だった。……少しは見返したいとも思った。けど今は……少し変わった。力があるなら欲しい。もっと直接的に背中を守れるような力が。私がいくら弱くても背後を気にされないくらいの力を。…………お願いします。」
「…………ふふふふふっ、貴方達は良いですね。色んな人間を見ましたけれど貴方達は謙虚で、向上心があって、とても素敵。気に入ってしまいました。いつでもいらっしゃい、森を荒らさないなら歓迎します。……さて、では貴方達に力を授けましょう。」
彼女はそう言うと手元に三つの青い光が灯った。それが一つずつ俺達に近づいて、胸元にスッと入って消えた。
…………それと同時に穏やかな笑顔だった彼女の顔がひきつった。
「…………俺……ですよね。何なんですか、俺って。無害ですか? 有害ですか? それとも得体の知れない何かですか? 教えてください。」
「………………心配しなくても大丈夫ですよ。貴方は何も悪くない。貴方はとても善良な魂で少し数奇な運命を持っているだけです。……問題は別ね。」
「…………別とは?」
「貴方はいいのです、呼ばれた客ですから。でも……呼ばれてない客がくっついてきています。貴方の体にも魂にも問題はありませんが、どこかに潜んでいます。それはいつか貴方達を脅かすでしょう。」
「………………すいません。」
「い謝らないでください。貴方は悪くない。私もここに来る人間は見ていますが貴方も気を付けてください。それと誰でも信用しては駄目ですよ。悪意は貴方の近くにいます。貴方と彼女達と……貴方の教師はきっと大丈夫ですね。ただ、私も見通せない悪意が貴方の近くにいます。しっかりと見極めてください。」
「……肝に命じておきます。」
「きっと貴方より詳しくはありません。けれど知っているはずですよ。隠れています。貴方が目立てば不審がりますから、十分に気を付けてください。大丈夫です、貴方には彼女達が付いていますから。運命に負けないでください。」
「…………俺は死ねませんから。」
「そうですね。本当は良くないけれど……これを連れていってください。」
彼女はまた水色の光を手元に灯し、それはまた俺の元へと飛んできた。
しかし今回は吸い込まれることなく俺の周りをふわふわ浮いている。こんなの知らない。
「貴方達にしか見えませんよ。」
「これは一体……?」
「精霊……水の精霊ですよ。貴方と契約しています。言うことは聞きますが大切にしてあげてくださいね。きっと貴方の役に立ちますから。本能で危険と安全を教えてくれますから参考にしてあげてくださいね。」
「…………ありがとうございます。……よろしく。」
俺が手を寄せて挨拶すると光は俺の手のひらに寄り添うように動いた。少し暖かい。
「今回は名前はいりませんが必要であればつけてあげてください。」
「ネーミングセンスは期待しても無駄だけど……名前いる?」
…………いる……のかな? また手のひらに寄り添うように動いたから。というより頭を擦り付けるように……?
「…………アクア。」
なんか皆えぇーって顔してるけど当の本人?はぴょんぴょんして嬉しそうだ。……なんか可愛い。
「気に入ったみたいですね。」
「…………一つだけいいですか?」
「どうぞ。」
「俺はロレンス・セルヴァーですか?」
「それは貴方が決めることですよ。貴方は名もなき魂? それとも十五年間生きてきたロレンス? 答えは既に出ているはずです。私に会ったからと揺らぐ必要はありません。貴方は誰ですか?」
俺は……。
「…………俺は、ロレンス。ロレンス・セルヴァーです。セルヴァー男爵家の嫡男で、父さん……シング・セルヴァーの息子です。」
「覚えておきましょう。……頑張ってください。私は何も出来ませんが貴方のことは忘れません。だから貴方も忘れないでくださいね。貴方はロレンスさんですよ。」
「……………はい。ありがとうございます。」
……少し、吹っ切れた。そうだな、俺はロレンスだ。
それに俺がもし名も知らない誰かだったとしても何も変わらない。俺は俺だ。
「…………後輩君。」
「なんですか?」
「ありがとう。」
俺はお礼の理由が分からずに振り返る。位置的に俺が一歩前のままだったから。
振り返ると、先輩は泣き笑いの表情で手に黒い何かを纏わせていた。
…………先輩は生まれつきの魔法機能障害、魔力不全だった。人並み以上に魔力はある。制御もできる。なのに魔法を使うことだけが出来ない。先天的にそう言う体質だったのだ。
先輩は期待されて育った。魔力量は凄いから将来を期待された。だがいくつになっても簡単な魔法すら使えなかった。
そして五歳の時検査をして魔力不全だと判明した。先輩の家は魔法の名家だったからその結果として周囲の視線は一変した。
蔑まれ、罵られ、軽視され……それでも期待され愛された過去を忘れられない先輩は努力した。努力して、努力して……才能に出会った。
優しい家族に戻ってくれる……そんな期待は裏切られる。魔法が使えなければ無価値だと一蹴される。
それでも先輩は努力した。魔法が使えない自分が魔法を使えるようになる術を研究した。結果は今分かる通りだ。
そしてその中で十五前後の時に国に見出だされた。学園で先輩の才能は花開いた。
実家のそれに対する態度はというと、無能が役に立ててよかったなとでも言いたげな上から目線。更には権利の主張。
先輩はとうとう絶望して実家と縁を切って学園に立て籠る。これが確か学園祭のお話。
実家に帰っていないのはそれもあるが、外出すらしないのは先輩が外に出ているときに偉そうに権利の主張に来た事があるからだと言う。
先輩が結構健康に気を使ってるらしいのに外に出ないのは半分人間不振、半分家族と会いたくないからだと出会って知った。
だから俺への態度は余計に驚いた。
そしてその反応に俺は軽く微笑んだ。
予想はしていた。もしゲームにその展開やシーンが無くてもきっと先輩は吹っ切れていなかっただろうと思ったから。だから連れてきた。
俺は数歩分の距離をゆっくり詰めて、黙って抱き締めた。
「俺は何もしてません。……お疲れさまです、先輩。よく頑張りましたね。」
俺がお礼にそう返事をすると小さな嗚咽が聞こえた気がしたが気のせいということにした。
バツが悪く視線を少しさ迷わせると凄く生暖かい視線をした会長と目があった。
俺が目線で見るなと抗議すると嫌だと視線で返される。さらには精霊王まで見てくる。俺は諦めた。
諦めたはいいが恥ずかしいし手は先輩の頭を撫でるのと背中を支えるのに忙しいので俺は誰もいない方向の空を仰いだ。
ああ、ここも空は青いなぁ……。
「…………ありがとう、後輩君。」
「なんのことですか? 俺は先輩が綺麗だったんでセクハラしたくなっただけです。勝てないので訴えないでください。」
「ちゃんとお礼くらい受け取って。私の事情は知ってるんでしょ。感謝くらいさせて。」
「…………俺はなにもしてません。出来てません。道中はもちろん旅費とかも先輩頼り、しまいには精霊王の力です。俺は関係できていない。強いて感謝するなら過去の自分に感謝してください。先輩が努力して、立場を得て、金銭を得ていたからこそ成せたんです。俺としては実に情けない。デートに誘ったのにエスコートも満足にできないなんて。」
「ふふっ、初デートはダンジョン? でも素敵な贈り物は貰った。記憶はいつか色褪せるけど、この景色は忘れたくない。素敵な初デートをありがとう。」
「…………喜んでもらえたなら一週間授業サボった甲斐があります。」
「ふふふふっ、照れちゃって可愛い。」
「お前の方が可愛いよ、略しておまかわって返します。」
「…………ありがとう、嬉しい。」
「素直にお礼を言われると……。」
「…………無粋だとは思うがもういいか? 私も礼くらい言いたいし今後もある。そもそも彼のことだって詳しく聞きたい。」
「余韻も味わったので良いですけどこのままでいいですか?」
「いいと思っているのか……?」
「今の顔を後輩君に見られたくありません。きっと不細工です。」
「そんな少女らしい理由でも誤魔化されないぞ。」
「…………だって心地いいんです。久しくこの安心感は感じていません。」
「先輩、俺もちょっと恥ずかしいです。」
「嫌なものはいや。自分の過去を呪って。」
「呪うほど嫌ではないんですけど……くっつくのは話し終わってからでもいいでしょう?」
「話し合ったらいいの? ならこれでいい?」
先輩は脇を潜って背中に回り、俺の肩に顎を乗せた。と同時にハンカチで何やらやってる。
「大差ないです。」
「嫌なものはいや。」
「…………はぁ。」
「早速尻に敷かれてるな。」
「先輩を言い負かすのは難しいですよ。それに先輩のお尻は柔らかいので敷かれるなら逆に役得……って冗談ですから本気でドン引きしないでください。」
「冗談だ……が、女性にそういう冗談を言うのは感心しないな?」
「すいませんでした。」
嘘だ、俺には分かる。会長は本気でドン引きしていた。
「ところで未婚の男女相手に尻に敷かれるは良いんですか、会長。正式な婚約もしてない男女相手に?」
「……すまなかった。」
「というところで話を進めましょう。」
「ちょっと待ってくれ。その前に……私を連れてきてくれてありがとう。」
「どういたしまして。ですが俺は何も出来てませんよ。」
「連れてきてくれなければ一生来なかっただろう。……出会ってまだ数日だと言うのに私を信じて連れてきてくれたこと、心から感謝する。」
「まだまだこれからですよ。……それに実は俺からすれば出会って数日じゃないんです。」
「…………君の秘密か。心して聞こう。」
……俺は前世のあれこれを話した。精霊王もいるが敵にはならないので気にしない。
「…………………………そんなことが。」
「気持ち悪いですよね。ごめんなさい。恩を売ってから話す辺り自分で嫌になります。しかも堂々と会長を利用しようとしました。すいませんでした。」
「…………私のことをどこまで知っている?」
「会長の過去はあまり存じ上げません。ただ今に限るなら戦闘能力から趣味、スリーサイズまで知ってます。」
「…………………………そう……か。」
「…………すいません。」
「何故謝る?」
「自分の知らない相手が自分の事を詳しく知っているだけでも鳥肌ものです。プライペートなこともとなると尚更気持ち悪い。更にゲームの話だってそうですし……正直斬り殺されても文句は言えないと思ってます。」
「君に非はないじゃないか。」
「非と感情は別問題です。自分だって同じことを言われたら気持ち悪い。同じことをされたら気持ち悪い。男の俺でもそうなのに会長が思わないはずありません。」
「私の性格は知っているんだろう?」
「知っています。それを知った上で画策しました。受け入れられるとは思っていません。ですが出来れば強くはなってほしいです。嫌なら……せめて先輩を一緒くたには嫌わないでください。お願いできる立場でないことは重々理解してますがどうかお願いします。」
「…………確かに一般的に受け入れられる話ではないだろうな。」
「会長。」
「分かっている、そう牽制しないでくれ。……君は今まで私に好意を示し、本気で心配して本当に接してきたじゃないか。それは全て嘘か?」
「いいえ。」
「ならば私は感謝することはあっても嫌うことなどない。私をそんな厚顔無知にはしないでくれ。」
「ですが……。」
「良いと言ったら良いんだ。むしろくどく言うなら怒るぞ。」
「…………ありがとうございます。」
「………………それで……だな。えっと……。」
「会長が歯切れ悪いのは珍しいですね。なんですか?」
「…………………………君と婚約すると提案された話だが。」
「自分の手で未来を手にしたいから断らせてくれ……違いますか? 後輩達の力ではなく自らの力で未来を切り開きたいと。」
「……本当に何を考えているのか分かるんだな。」
「えぇ。」
「だが少し違うぞ。」
「…………えぇ?」
「私は受け入れるつもりでいる。」
「ふくかいちょー! かいちょーがごらんしんですよー! ふーくーかーいーちょー!」
「やめないか。……私は本気だ。」
「どこをどうしてどうなってそうなるんです……?」
「気に入った、以上。」
「……えぇ…………。」
「だが私も婚約は三年後にしてほしい。自分の力で……君に力を貸してもらうが、自分の手足で進まないと意味がないんだ。」
「それは分かります。ですが婚約は関係ないのでは……?」
「…………私だって女だ。」
「いやいやいやいや。それは知ってますけど俺はないでしょう。」
「必ず成し遂げる。だが……ご褒美くらいあってもいいだろう?」
「どこが褒美になるんですか。」
「………………正直さっきのは羨ましかった。」
……ボソッと。本当にボソッと小さな声で呟いた。
えぇ……?
「会長、私のです。あげません。共有でいいですか?」
「むしろ君はいいのか? 私は身を引く気はあるぞ。」
「会長ならいいです。あとこの辺で人数を増やしておけば後で増えにくくなりますし負い目で私を存分に可愛がってくれる気がします。」
「えぇ……?」
「困惑しっぱなしだな。」
「そりゃします。意味がわかりません。」
「……私のフラグとやらを思い出してみろ。」
うーんと……どのルート? いや、ルート最終の選択肢か?
背中は任せろか背中は任せたか命に代えても守る……?
…………命に代えても守る? トゥルー踏んでね?
「まっさか~……?」
俺は言葉とは裏腹に冷や汗が出てきた。
……まっさかぁ?
「そのまさかだ。」
「あんな馬車の一幕で?」
「……やはり特定できたか。そこだけじゃないがな。……君はそれだけの覚悟があると言い、その覚悟の理由を話しただろう。なるほど、仮想敵が邪神ならば確かに命をかける覚悟が必要だろう。……だが、後輩にそこまで言われて燃えない私ではない。そしてその言葉にときめかない私でもない。君は自分の弱さを知っているのに、私より弱いのに守ると言って強い意思を見せたんだ。弱い人間の口だけなら一笑に付すがその為に強くなると、鍛えてくれと頭を下げ、更には全て守れる力がほしいと願うような人間だぞ? 本当に私を最強にして、それでも並べる強さを求める人間だ。……そうはいないし正直くらっと来た。私も貴族の娘、結婚の意味は知っている。それでも……君なら私を迎えに来てくれるんじゃないかと思った。…………こんな気の強い女はやはり嫌か?」
「会長、陥落。後輩君はいい男。」
「都合を付けないと意味変わりますよ。」
「見て見ぬふりしながらも気遣えるいい男。」
「…………わざとですか?」
「うん、わざと。元々最後の試験にするつもりだった。私側からは100点の合格をあげる。良い男捕まえたと思う。」
「…………満点ですか。」
「100点だけど満点じゃない。減点がなければ120点あげてた。」
「なら少しは良かったです。……二人揃って俺でいいんですか? 良いとこありませんよ?」
「お金も頭脳も私がどうにかする。」
「私は武力かな?」
「この三人なら大体敵はいない。私は幸せ。……ほんの少しだけ分かった。」
「何がですか?」
「教えない。言葉にはしないから私も君に教えてあげる。君の感じるその感情がきっと答え。……私をこの世界の一番好きな人にする。」
「では私も名乗りをあげておこうかな。」
元々会長は四番目に好きです。五番目が先輩、六番目が不器用堅物婚約者です。
堅物さんは嫌いじゃないんだけどぞわぞわさせられて順位が下がってる。番人はその次。番人は最難関ではないけど面倒、故にこの順位。
最後にチャラ王子、腹黒商人と続きます。ワースト2はルートの評価順です。
サブキャラは含んでません。魔王? メインヒーローだから(迫真)。
含むと先生が2位か3位にでんと来ます。
あのネタ感と素面の時のまともなこと言ってるギャップが面白かった。
「二人とも素敵な女性ですよ。」
「その余裕、今に消して見せる。」
「余裕ないんですけどそれは?」
「なんかまともに受け取られてない気がする。」
そりゃあ……ねぇ? 頭が追い付いてなくて混乱してるし? あと俺主人公でもないからどこまで変えられるのかも分かんない。
先輩とか真面目に会長と二人でイチャイチャしだすかもしれない。
そうなったら悲しいから俺はとりあえず、"私大きくなったらぱぱと結婚する~"くらい信憑性がないと思って聞いてる。
先生は別だよ?
「むぅ……私じゃない私が背中を押して私じゃない私が邪魔をする。」
「人間、第一印象って大きいですからね~。」
「でもそこは時間で埋める。まだ一年と半年はある。」
「ところで本当に来年までは大丈夫なんですか?」
「私の話すら出てないから大丈夫なはず。無理矢理生家に迫っても私に取り入れないことは有名だから。ただそのうち無理矢理籍入れて襲わせて子供産ませて遺産をかっさらうくらいはしそう。あの家に入れるくらいなら孤児院にでも寄付しますよーだ。」
「それはいい。実に愉快なことになりそうです。」
そうなる前に手を打たないとか。気は急ぐが慎重に、まずは力を付けるんだ。力を付けて、立場をより強固にして、そうしてからやっと立ち向かえる。
愉快で済む話にするのが俺の仕事だ。今に見てろ。
「後輩君はお馬鹿で可愛い。」
「そうですか? 先輩が俺と実家をぶつけたいなら安心してください、きっと勝手にやるので。どうせ先輩の実家には話を付けないといけないんです。」
「その覚悟はしたの? 私でいいの? ちゃんと見極めた?」
それ俺のは建前じゃなかったの?
「私は無理矢理は嫌。貴方の意見も尊重したい。選んでくれないと泣くけどきちんと整理してはっきりさせて。私は私。」
「泣かれるのは嫌だなぁ……。」
「時には人に嫌われる覚悟も必要。」
「…………それもそうですか。」
「それと私に嫌われようとしても私は泣く。だから本当に私の幸せを願うなら君が幸せにして。三人までなら許す。」
「それは随分と寛大ですね。」
「……私、自分一人で満足させる自信はない。縛るのは簡単、けどそれだと君の翼ももげる。自由に動く方が君は魅力的。だから楔を打つ。負い目と罪悪感まで計算に入れて君を他所へは行かせない。君は私の後輩君。誰にもあげないし奪わせない。」
「きゃー、かっこいー。」
「襲ってもいいんだけどそれだと強すぎる。君も大概面倒。」
「あははははは。」
笑って誤魔化そう。棒読みだけど。
「本当に私でいい?」
「まだ言い切るには先輩を知りませんね。」
「そう、それでいい。考えて。面倒事を背負うだけの利益は約束する。だからもっと単純に感情で決めて。」
「その言葉はずるいですよ。」
「…………………………私ってそんなに綺麗?」
「はい。」
そりゃあ感情だけで動いたらこんな美人に揺れないはずない。
整理が足りないんですよ、整理が。先輩は急です。
義務感として夫にはなれますけど俺が求めるかは別問題ですから。
「嬉しいけど……ますます綺麗になるから覚悟しておいて。」
先生が頭の中で恋した女の子は綺麗になるんですよぉとか言ってる。
なんだ…………あれだ。その………………困る。
「前世や知識に縛られずに自由に生きていいんですよ。」
いままで黙ってた精霊王がそう言った。
「自由ってなんでしょうね。」
「貴方はもう決めているんですから迷わなくていいんです。困ったらそれはその時考えればいいんです。相手を知らないなんて嘘が私の前で通じると思いますか?」
「……急速に熱されたものはすぐ冷めるものですよ?」
「それは貴方の? それとも……彼女の?」
どっちも。瑕疵にはなりたくない。
「つまり貴方も好きなんじゃないですか。」
「…………………………こんな最低な心情で告白するなんて死んでも御免です。」
「いいじゃないですか、それも人間です。決めてしまって、それを貫けばいいんですよ。中途半端がお互いに一番不安なはずです。選択肢が二つなら答えは既に決まっているのでしょう?」
「…………………………先輩。」
「乗せられなくていい。」
「先輩。」
「……なに?」
「本当にいいんですね?」
「どうぞ。」
「…………分かりましたよ。」
もう……馬鹿しかいないんだから。でも決めましたよ。三人ですね?
あぁもう、全員幸せにしますよ! じゃないと男じゃない。
情けないことこの上ない俺でもいいと言ってくれたのだから。彼女がいいって決めてるんだろ。
そりゃあな。俺だって男だ。でも相手が決まってしまえば揺れる気はしない。したくない。
「よろしくお願いします。」
「ということで敬語崩して?」
「………………人のいないところだけですからね。……だけだからね。」
「あとネスでいい。昔々はそう呼ばれたこともあった。」
「…………はぁ。」
俺は先輩の腕に手を当ててほどく。少しだけ抵抗されたがこちらも譲るつもりがないと分かったのかやがて力を緩めて腕をほどいた。
俺は黙って一歩進んで回れ右をする。見栄え必要だろうから。
そのまま右膝をついて左手を出す。これも細かい仕草が少しあるから倣う。
「お嬢様。指輪もなにも持っておらず締まらない申し出となってしまいます事をお許しください。……俺と結婚を前提にお付き合いしてはいただけませんか?」
あぁ、嫌だ。奇しくもどこかのチャラ男とセリフが近い。ポーズなんてほぼまんまだ。
「…………至らぬ身では御座いますがこちらこそよろしくお願いいたします。……後輩君は結構ロマンチスト。」
先輩は俺の手を取りながら軽くスカートを詰まんで返礼した。
「答えた先輩が言いますか。」
ちゃんと左手で取ってくれたから俺はその手をしっかりと掴む。そのまま魔力をちょちょいっとして輪っかを作って薬指に嵌めた。
指輪……だなんて言える代物じゃない。見た目はまんま土だし歪だし……でも今の俺らしい。
「見劣りするにも程がある。これを磨いていつか貴方に相応しい宝石となれる様、より一層精進致します。」
「………………やっぱり経験ある?」
「ありません。そもそも魔法のない世界から来ました。」
「……………………記憶はいつか色褪せてしまう。でも……この思い出だけはきっと墓まで持っていく。今の私にはこれがどんなものよりも価値があるように見える。」
「ただの土くれですよ。」
「だから私はこう返す。」
…………次の瞬間。止めるもなく先輩は屈んで息もかかるほどの距離まで顔が近づき、額に柔らかい感触があったあと離れていった。
離れた先輩ははにかみながら笑って……何をされたのか理解したのは数秒後だった。
理解した瞬間、体中がかぁっと熱に浮かされたかのように熱くなる。俺は思わず右手で鼻から下を覆って左下を向いた。しゃがんでいて良かった。
「……仮称、水の精霊王よ。はたしてこれに私の入る余地はあるのだろうか? かなり無粋ではなかろうか? 後輩の恋路の邪魔をするつもりはないのだが。」
「人間の世情には疎いけれど一見余地は無さそうに見えるわね。でも彼女達が受け入れているのだから実はあるのではない?」
「………………いいなぁ。」
「多分やってもらえるわよ。」
「本当に大丈夫か? 勢いが凄いぞ?」
「貴方は貴方のペースでいいのよ。」
何か後ろで話してる。少しだけ聞こえたがどうにも頭に入ってこない。頭がぐるぐるするんじゃぁ。
「…………………………よし、落ち着いた。」
「顔真っ赤だけど?」
「言わないでください。……精霊王、俺達はそろそろお暇します。」
「いつでもいらっしゃい。次に来るときは何人かしら。」
「知りません。」
「…………帰れるの?」
「止まらなければ。止まればめり込みます。」
「めり込まないわ。よっぽど運が悪ければ境界に挟まるかもしれないけれど私達が大体放り出すもの。どっちにしろ止まらないのは正解ね。」
「………………抱きついてていい? やっぱりちょっと怖い。」
「駄目です。」
「怖い。」
「だから……。」
「怖いものは怖い。」
「…………私も手を引いてほしい。得体が知れない場所で恐ろしいことを言われれば不安にもなる。」
「精霊王、出口に送ってください。」
「おや、私を使い走りにするんですか?」
「付属のサービスでしょう?」
「入り口から帰らないと次はありませんよ?」
「…………行きましょうか。」
俺は諦めた。精霊王はにやにやしてるから嘘か本当か分からないが俺に確かめる術はない。ほぼ話さないから性格なんて知らない。
俺は黙って来た道を戻っていく。白い通路を抜けた辺りで冗談なく二人とも腕を掴んできた。
一応二人に合わせながら進んでギリギリ壁が見えた。白いから分かりにくい。
「じゃあ目を瞑ってください。」
二人は言われるがまま目を閉じた。
……俺は悪戯心が沸いて二人の頬に唇を落としてから腕を掴んで軽く走る。
「止まっちゃ駄目ですよ?」
俺達はそうやって壁を抜けた。
「馬鹿者。」
「あたっ……殴られました。」
「ばか。」
二人に殴られた。痛い。
「男の前で無防備を晒すからそうなるんですよ。次から気を付けてくださいね。」
「…………それだけの理由でしたのか?」
そんなわけないけども。ある意味覚悟だ。俺が先に連れていく。俺が未来を見せる。
「どうでしょうかね? ……さて、帰りましょうか。遅れた授業を取り戻さないと。」
「…………大丈夫?」
「大丈夫ですよ。どうにか付いていきます。」
「そうじゃなくて……クラスの方。考えてなかったけどもしかしたら浮くかも……。」
「今更です。多分突っかかってくる人はいますけどどうにかしますよ。」
腹黒商人とか絡んでくるだろうなぁ……。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫です。俺が簡単にどうにかなるような人間ですか。」
お金と人質と身分でどうにかなるから結構どうにでもなるけど。
「馴染める?」
「多分無理ですね~。歓迎会どうしましょうか。」
五月中旬にある新入生歓迎会。主人公達は好感度の高い相手と踊るわけだけども俺はどうしたものか。
適当に端っこで花とお喋りかな。
「いっそのこと先輩のところにいてもいいですね~。」
「……駄目、ちゃんと出て。そしたら私も出る。」
「先輩が? 時間の無駄でしょう?」
「君といる時間は無駄じゃない。」
「私ならまだしも君は問題あるんじゃないか?」
「私がいつどこにいても問題はありません。浮くだけです。」
「問題あるだろう……。」
「会長だけ後輩君と踊ろうなんてズルいですよ。私も行きます。」
「先輩が踊り……!?」
「私だって踊れる。結構踊ってないから練習はいるけどなんとなくは覚えてる。一曲くらいなら持つ体力もある。」
「私は会長で出席義務があるのだが……仕方がないか。そういえば正式な婚約はいつするんだ?」
「来年の夏休み直後がいいと思ってます。今年は後輩君と会長、教諭の育成に重点を置くつもりです。このままでは会長はきっと夏にお見合いをさせられ冬には婚約、卒業と同時に結婚させられるでしょう。夏は理由を付けて断れたとしても冬は不可能です。ですから夏休み中に力を付けていただきます。方法は後輩君主導……私主導にするんでしたか。」
「育成…………。」
「事実です。特訓や鍛練、修行と置き換えても良いです。私の依頼による調査とすれば大体なんとかなります。報告書はそれっぽく作っておきましょう。題材は魔王復活の前兆と思われる各遺跡、ダンジョンの活性化調査とかでいかがでしょう? 引率に実戦学の教諭、戦力に学生最高戦力、調査員に私、私の直接護衛及び助手に後輩君。とても言い訳のしやすい人達です。」
「それはなんとも……。」
「上手く運べば魔王復活における被害を最小限にできます。過去の例とデータ、収集した情報を元に私が編纂すれば国も無視は出来ません。それを隠れ蓑に会長は学園に不可欠なほど成長、私達も強化を図ります。その辺は私の得意分野ですからお任せください。後輩君は向かう場所を纏めて私に提出すること。旅費や準備費等の諸経費は研究室の私用研究費用から出します。」
「…………では任せよう。私は君が動きやすいように環境を作ればいいんだな?」
「そうしていただけると助かります。」
「分かった。提出はこちらにしてもらえば私が目を通し次第、重要案件として扱おう。極秘として処理し信憑性を上げつつ私や教諭の必要性を確保すればいいな? 国へは今の段階では報告できないとし夏休み明けの秋頃を目安に作成、提出する情報を限定しよう。そうなると実際ダンジョンの異常が必要だ。今回は感じなかったが大丈夫か?」
「今回は誤魔化してください。研究する価値があるかの確認、結果はダンジョン内魔力安定性の揺らぎとしますがそんなものはないので誤魔化します。ついでに重要証拠の確保とでもしておきましょう。国への報告はしない方向で学園にも確認中で通してください。人員が派遣されると少し面倒です。」
「了解した。つまり上手く誤魔化せばいいんだな。」
「その通りです。」
「任せろ。伊達に二年も会長を勤めていない。」
「頼りにしてます。」
そうやって話しながらも会長は敵を切り伏せている。
俺いらねぇぇ……!!
「後輩君黙ってどうしたの? 構ってもらえなくて拗ねた?」
「……俺いらないなぁと思いまして。」
「後輩君は前提。土台は私が作るけど中心は君。私と会長で隠すから少し蚊帳の外にはなるけど絶対に必要。」
「そうですか? 行き先教えればいらないんじゃ……。」
「なら私はなにもしない。君が纏める? 代わりに大人しくする。……出来ないでしょ?」
「無理です。」
「適材適所。後輩君はキング、取られたら負け。取られたら私達に対抗手段は無くなる。チェスでキングを矢面に立たせる? 立たせる場面はきっと終盤か劣勢。知識とそれに伴う感覚、それは私達には持ち得ない。情報量だって少なくない。後輩君は力を蓄えることに集中して。環境は私の仕事。」
…………情けないなぁ。
「情けないとか思ったでしょ。」
なぜバレた。
「少しくらいならわかる。……本当に情けないと思う?」
「…………何も出来ませんから。」
「後輩君はこれからなのに? 私達は一年以上も前から土台を築いてきた。それに数日程度で並ぼうとするのは私達への侮辱。やるべき事が違う、履き違えないで。私は後輩君を甘やかすために隠すんじゃない。」
…………嘘つき。でも……。
「…………ごめんなさい。少し焦りすぎました。」
「それでいい。むしろ私達は期待してる。本当に並んでくれると思ってる。今は私達が背中に庇っててもいざというときには、そして将来的には私達がその背中を見ることになるって思ってる。……もし情けなくて悔しいならその分努力して。君が前に出るのは今じゃない。今を糧により高みへ。待ってる。」
「……言いたいことは全部言われた。…………私だって無力感を感じるさ。だから気持ちは分かる。……私は後輩に庇われて背中を押されたが胸を張って前へ進むぞ。君は俯いていていいのか?」
会長は表情だけは自信ありげに笑っていた。
しかし俺には私はこんな慰め方しか出来ないと落ち込んでいるのが透けて見えた。
だからこそより強く励まされる。
「……そうですね。ここは甘んじて頼りになる先輩達に甘えましょう。……でもあんまり蹴りすぎると折れちゃいますよ?」
「君の愛したヒロインへの気持ちは自分を鍛えるに足りない? そんな簡単に折れる程度?」
…………………………おっと?
「聞き捨てなりませんね。」
「でしょう? 嬉しい。折れそうになったら慰めてあげるから存分に叩かれて揉まれて折れて強くなって。……でもまあ、本心としては甘やかしたいのは事実。だからこうする。」
先輩は突然抱き締めてきた。先輩、危ない危ない。
「先輩、いくら人気がなくたってダンジョンなんですから抱きつかないでくださいよ。」
「そうだぞ。危ないし見られたらどうする。我慢するべきだ………………それにずるい。私が鬼のようではないか。私だって世話したいのに……。」
「…………続きは馬車でしようね。」
「次は私だ。」
「後輩君は私のです。」
「少しくらいいいじゃないか。行きもずっとくっついていたろう。」
「後輩君はあげません。」
「私、だって、世話したい。」
「後輩君は私の助手です。」
「……私が雇えばよかった。今から乗り換えるか?」
「それは卑怯です。…………分かりました。」
「よし、勝った。」
「俺の意見は関係ないんですね。」
「…………嫌か?」
「俺は御者台にいますね?」
「却下。たまには中に入って。じゃないと禁断症状で寝てる間にコウハイニウムを吸いに抱き締めに行くかもしれない。」
「俺はヤバイ薬ですか!」
「くれよぉ……抱き締めさせてくれよぉ……後輩君を抱き締めると頭がふわふわして最っ高にハイになれんだよぉ……抱き締めさせてくれよぉ……。」
「重症化してる!? 俺は何かヤバイ成分でも放出してるんですか!?」
「ロレンステロイド、通称コウハイニウム。接種すると一時的に安心感や充足感を得られる。依存性が高く常習化しやすい。依存状態で一定時間接種しないでいると禁断症状として不安感、空虚感、睡眠の質の低下に思考力の低下などが起こる。」
「それっぽく言わないでください!」
「すぅ~……すぅ~……。」
「鼻埋めて嗅がないでください!」
「コウハイニウムが私を幸せにする。」
「特殊な……甘え方? ……だな?」
「会長もそのうち病みつきになりますよ。この幸福感は凄まじいです。私の脳が活性化されてます。半分は冗談ですけど半分は本気です。抱き締めてるととても幸せになります。抱き締められてても同様です。きっと今の私は一ヶ月前の私より頭の回転が速い。」
「…………そうなのか?」
「本当に中毒ではないかと疑うレベルです。恋人が人目も憚らずイチャつくはずです。まるで脳の奥が痺れるようです。」
「変なこと布教しないでください!」
「それは興味深いな?」
会長もからかうし……。
そんな具合に騒ぎながら俺達は学園へと戻った。




