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10 急展開


 本日一話目



 食事を取って先生が去ってから俺達は各々必要なことを始めた。


 俺は寮から必要最低限のものを調達、購買にて文房具やバインダーのようなもの、その他色々を買い込む。エプロンもあった。


 お金は手持ちで足りた。お昼ご飯抜きの生活になるが自炊なら量を増やせるので朝晩で足りると思う。


 一度荷物を置いてから今度は厨房に裏から訪ねる。今日から先輩の研究室所属……まあ先輩のお守り役になったことをまず伝える。


 少し不審げだったが執行部に訪ねてもらえば確認が取れることを告げ、自らの学生証を見せたら信用してくれた。


 その後その食堂の責任者と顔を合わせ、先輩の話をしたら驚かれた。そりゃそうだ。


 食材の融通の話は普通に通り、たまに修行に訪ねたいと言えば下働きからで給料は出せないがそれでもいいならと許可をもらった。


 仕込みをしていたので見学と軽い実践をさせてもらう。野菜の皮剥きだったが料理自体は今生でも経験があるので苦もなく終わる。


 ただやはり本職とは比べ物にならず他の人は二倍三倍以上の速度で絶え間なくこなしていく。

 体力自体はあるつもりだが使う部位が違うのか俺には片手間のように迅速に絶え間なく剥くのは無理だと思った。絶対途中で手首が疲れる。


 ギリ邪魔にはならなかったようで周囲からは貴族のボンボンの道楽か……みたいなうんざりした感じからこいつ案外やるな……みたいな空気へと変わっていた。

 普通に年季が違ってただ俺が遅いだけだ。


 どうにかこうにか受け入れられたようでいつでも来いと言われた。

 だが修羅場……朝昼晩のピーク時は正直邪魔だからはしっこの方で大人しくしていてくれとも言われた。


 そればっかりは仕方ない。戦力にならないどころか質が落ちる。


 部室棟近くでピークが早いが昼と夜の合間は短いらしく休日の午前10時くらいが一番相手しやすいとも言われた。その時間に合わせようと思う。


 ちょっと見ただけで明らかに俺のレパートリーにない食材があったので収穫は多そうだ。先輩に栄養のある美味しいご飯をお届けしたい。






 食材を持って戻るとすれ違う人にぎょっとされたが気にしない。

 最上階が五階なので往復はまあまあの運動になる。最近運動不足なので丁度いい。


 部屋に入ると先輩が待っていた。


「おかえりなさい。」


「ただいま戻りました。……どうかしました?」


「休憩ついでに一つに纏めて、探せば見つかる場所に置きたい資料とすぐ出せるようにしたい資料と仕舞って構わないけど捨てたら駄目な資料と焼却する資料に分けた。内容的に再利用は出来ないからしっかり燃やして跡を確認して処分すること。」


「休憩してないじゃないですか。」


「内容は全部頭に入ってるから分けるだけ。そんな労力いらない。後輩君は忙しそうだけど大丈夫?」


「今食材貰ってきて料理の下準備始めるところだったので問題ないですよ。厨房見せてほしいです。」


「なら良かった。……シャワーとかトイレはここの使って。わざわざ探させるのは忍びない。荷物を見たけど睡眠道具は無かった。執行部に提出したものは確認したけどベッド、生活雑貨、筆記用具とかが主だった。許可出しといたから明日には搬入されるはず。」


「……すいません、今手持ちが……。」


「これは経費。」


「あとシャワーですが……。」


「使って。浴槽もあるけど私は使わないから洗わないと使えない。とりあえず付いてきて。」


 ……ひとまず場所を変えるようだ。隣の部屋に移ると……ここはそれなりに整理されていた。


「ここが今メインで使ってる実験室。下手に触ると消し飛ぶから私の確認を取ること。正面の扉の先が厨房。調理器具とか水回りは使ったものは洗ってるけど水回りの手入れはしてないから綺麗とは言えないと思う。ここに仕掛けはない。その隣がトイレ。右の奥の扉の先が洗面所兼脱衣所。全自動洗濯魔道具があるけど私はたまにしか使わない。その奥が浴室。こちらも掃除をしていないので綺麗とは保証しない。通路と脱衣所、浴室にも仕掛けがあるから後で説明する。右の手前の部屋が自室。入ってもいいけど研究室より散らかってるし仕掛けと仕込みがあるからおすすめしない。ただ掃除するなら言って。仕掛けと仕込みし直すから。虫は敵なのでいないはず。いたら教えてほしい。その虫にも効く虫除けと殺虫剤作るから。」


「…………もしかして虫が出なかった理由って……。」


「私がここでまず作ったのは虫除け。次に殺虫剤。私は虫が大嫌い。黒いやつとか滅んでほしい。だから、この部屋から滅ぼした。排水周りは浄化機能を付けたのと殺虫機能を付けてるからそこからの侵入もない。あとたまに夜煩くすることがあるから防音もある。防汚はない。全面付けるの大変だから。」


「防音は……これ部屋全体を覆う結界ですか。先生の使っていたものより効果は低そうですね。」


「あれは初めて見た。組成は覚えたから気が向いたら新製品作ると思う。でも効果高過ぎるから秘匿かな。」


「……今秘匿製品いくつあります?」


「使えるものから使えないものまで五十八種類。依頼の合間の暇潰しだからムラがある。問題ないものは発表するけど商業価値の無いものと悪用が懸念されるものは流してない。防音は国からの依頼。」


「流石、天才博士。」


「その呼ばれ方嫌い。」


「失礼しました。流石先輩、俺に出来ないことを平然とやってのける。そこに痺れて憧れます。」


「そう?」


「俺は既製品は作れますけど新しいものは無理です。」


「……魔道具作れるの?」


「簡単なものなら。難しいのはもう全然無理です。魔方陣描けません。」


 魔道具って難しいのになると基板みたいの使うんだけどそこの接続が俺には作れない。

 簡単な……魔力を込めると光るみたいなのは作れる。


 魔方陣の描き方はゲームじゃやらなかったからなぁ……そもそも魔道具作るのなんて先輩操作の時くらいだし。

 あれはパズルだったからなぁ……。


「君も結構万能。」


「先輩と比べたら子供と熊くらい違いますよ。」


「私と比べるからおかしくなる。一般的には十分通用するし優秀。例えば魔石一つあれば照明が作れる人は便利。私は戦闘に関しては全然駄目だから総合力なら負けてるかもしれない。」


「そうですかね……一つ作るのに暗闇だと20分はかかりますけど。」


「逆に20分防衛すれば照明が出来る。冒険者としてなら相当重宝されるはず。」


「ダンジョンは暗いところや暗闇トラップもありますからね。」


「いつも松明や油を持ってるとは限らない。手は多いほど生存率が上がる。」


「……先輩にそう言って貰えると少し自信が付きますね。」


「なら良かった。」


「…………先輩の自室は言われなくても確実に散らかってることが予想できるので週末にやるとして。台所周りの掃除と時間があれば風呂周り、浴槽も使えるようにしたいですね。でも明日から授業始まりますしそうすると戻るのは16時くらいになるのでボチボチですね。先輩何時くらいにシャワー使います?」


「気が向いたとき。」


「じゃあ気が向かないときにゆっくりやっていきましょうか。」


 水をどっかから汲み上げてるなら水垢が結構あるだろうし魔道具で水を作ってるなら少しはマシでもやっぱり汚れる。


 髪の毛溶かすくらいの強塩基があれば楽だけど配管駄目になるかもしれないし微妙。


 その辺は現状確認と平行して組み立てだな。


「顔が完全に仕事のそれ……。」


「仕事ですから?」


「何考えてたの?」


「必要な掃除用具と今後の日程の組み立てです。今日は最低限厨房周りを使えるようにして細かいのは後程。現状次第で時間があれば浴室にも着手してトイレ掃除もしないと。」


「トイレは綺麗。臭いがつくと感覚鈍るから。そもそもそういう風に作ってある。」


「配管も水周りも下水処理まで出来るんですか。」


「燃やせば大体解決。分離と焼却で浄化効果を高めてるしトイレは燃やして灰は下で溜まる。定期的に花壇にでも撒いてもらってる。」


「結構無理矢理……。」


「少し値が張るけど私には関係ないし平民みたいに溜めておきたくはない。これでも一応女。機械みたいだとか言われるけど気も使う。」


「薄いですけど石鹸が香りつきですからね。」


「………………変態。」


 えぇ……。いや、変態ちっくなことは確かに言ったけれども。

 既成事実だの言って照れもしない人が人がそっちは怒るの……? 全裸見られても恥ずかしくない人が?


「不思議? 人に見られるのは一応慣れてるし子供作れるかは貴族に対して重要だから主張するのに恥も何もない。むしろ無理なら無理って言わないと相手が困る。でも体臭は気にする。」


「まあ……そうですね、失礼しました。」


「最低限の身嗜みは必要。食事を忘れることがあっても食べなければ体を壊す。多少は体を動かさなければ健康に支障が出る。もっと時間が無くなる。そんな無駄はしない。ちゃんと寝て食べて少しは動く。今回はたまたま徹夜が続いただけ。」


「では料理は?」


「火を通せば食べれる。それ以上は無駄。」


 やってる時間があったらやることやると。というかお嬢様だから料理経験自体あまりない……?


「…………臭う?」


「いい匂いがしました。」


「変態。」


「抱き締められれば匂いも鼻に入りますって。」


 ただでさえ触覚から意識を逸らして視界も逸らしてるのに。そしたら耳と鼻に意識が集中してしまうのは仕方ないのではないだろうか?


 なんなら耳元で喋られたら脳味噌溶けそうになるから耳からも少し意識を逸らすし……。


「………………嫌な臭いじゃないならいっか。」


「その結論に達するのどうなんですかね?」


「いい具合に収まってくれるから。ほら、手が君を求めてる。」


 先輩が言いながら手を前に出してぷるぷるさせた。

 フィット感は……合わせてるから。普通にしたら俺の方が少し高いし。胸元に抱き締めるから先輩が力まないように頭を下げて。ちょっと辛いんだよね、あの体勢。


「俺は危ない薬か何かですか。」


「くれよぅ……抱き締めさせてくれよぅ……。」


「今日はおしまいです。……先輩もそういう冗談言うんですね。」


「言ってみた。どう?」


「次からは迫真さを追加するといいかもしれません。」


「普段は言わない。でも言いたくなった。」


 若干口角が上がってるから楽しいんだろうね。


「そんなじろじろ見てどうしたの? …………あれ、笑ってる。珍しい。」


 先輩は棚の反射で自分の顔を認識したらしい。


「自覚無かったんですか。」


「自分がどんな表情してるかなんて見ないと分からない。君はよく分かったね。人にはもっと分からないらしいけど。」


「慣れですよ。どれだけ先輩の表情見続けたと思いますか?」


 よく見るとちゃんと口角で感情が分かる。あとは勘と雰囲気で察する。それが出来ないと先輩は攻略できない。


 会うのが大変、会っても気に入られるのが大変、気に入られても好感度を上げるのが大変、好感度上げられてもステータスと両立させるのが大変。そもそも内容はお使い多いしその難易度も低くない。


 流石、最高難易度対象者。伊達じゃない。


 本当に変化乏しいんだよ。慣れないと同じ表情に見える。俺も最初は画像を見比べた。


「そういえばそうだった。後輩君は私マイスターなんだった。親より私のこと知ってる。」


「先輩の親より知らなかったら俺は先輩に顔向け出来ませんね。」


「………………知ってる……んだよね?」


「知ってます。先輩の思いも苦悩も努力も。過去も未来も。意外と可愛いものが好きなことも。」


「…………誰にも言ってないのに。」


「はっはっは、俺の目の前では先輩も丸裸同然。怪物の名も地に落ちましたね!」


「……どういうゲームだったか知らないけど。………………もしかして、本当に丸裸にされてる?」


「してません。出来ません。」


 二次創作はあったけどあんまり興味ないから読んだことない。


 聞くところに寄ると先生と婚約者(女)が圧倒的人気、次にメインヒロインちゃん。先輩は三番目。無理矢理が多いらしいよ。

 会長は皆さん負ける姿が想像出来なかったんだろうね。生やされるか百合か純愛だったそうだよ。


 百合ルートで一番好きなのは会長と先輩だったけどね。薔薇ルートは婚約者(男)と王子。


 王子達のあれは鳥肌たったなぁ……。話はいいんだけどぞわぞわする。一番似合ってるからこそ駄目だったペアだった。


 俺はやっぱりノーマルがいいや。


「それは良かった。」


「もし見れてたら絶対婚約の話の時にショートしておりました。」


「そんなに意識する? よっぽど会長の方が女性らしい。私は最低限。」


「そんな気にするなら俺が化粧でもお洒落でも覚えてきますよ。」


「気にしてない。」


「だってそんなに綺麗なのに女性らしくないって思ってるんでしょう?」


「……女性らしいこと何もできない。」


「そうですか? 頑張ってる人は男女関係なく素敵ですよ。しかも結構女性らしいですよ? さっき言った可愛いもの好きもそうですし虫嫌いで臭いも気になる。鼻が鈍るからだけじゃないでしょう? あと夢も結構夢見がちですが俺は好きで応援してます。」


「…………………………そんなことまで知ってるの?」


「知ってますよ。言いますか?」


「恥ずかしいからやめて。他人の口から聞きたくない。」


 初めて先輩が赤面した。ちょっとだけだったけど。


「素敵な夢だと思いますけどね~。」


「…………本当?」


「本当です。」


 自分の作ったもので人々を笑顔にしたい。幸せにしたいでないところがミソ。


 そうやって人のこと気にしてるのに素っ気ないふりをする。突き放してしまう。そこもまた尊い。


「笑わない?」


「笑う人間はぶん殴るので教えてください。」


「………………兄。」


「次期侯爵サマをぶん殴るのか……難しいですね。どうにかして決闘に持ち込んで……も現状だと勝てませんね。流石に魔導師団員相手はまだ難しい。三年後ならなんとかどうにかこうにか殴れるでしょうかね? 五分五分ってところですか。それにどうやって持ち込むか……侯爵サマを敵に回すと厄介ですからねぇ……。」


「………………やっぱり何でもなかった。」


「……勝算はあるんですけど…………先輩を囮にするのも嫌なんですよねぇ……。」


「…………勝てるの? 若手の天才と呼ばれてる兄に?」


「三年後なら。」


「……君も天才だった。」


「違いますよ。才能はたかが知れてますがステータス増強、スキル取得をいくつか踏めば俺だって土俵くらいには立てます。」


 俺の使える魔法は水を基本に土が少々。土は攻撃出来るような強度じゃない。


 これを水に特化させて成長させればなんとか……。適性魔法属性追加は無かったからな。無理なものは無理。


 問題は主人公達にそれらを踏ませたいってことだ。仕掛け的に複数回に渡って使えるものはいいが効果の高いものは一度きりの授与だったり遺跡だったりするから……。


 精霊関係も魔法ステータス増強貰えるけどあれは貰える内容が完全にキャラ依存だから俺はきっと無理だろう。先輩なら闇の魔法使えるようになるはず。

 ちょっとは魔法使えるようになるから連れてってみようかな。コンプレックス薄れるかもしれない。


「迷ってるの?」


「…………俺が強くなっても高が知れてます。俺じゃあ邪神は倒せない。そもそも倒そうと思ったら強化しないといけないんです。でないと見ただけで死にます。」


 最低ラインを越えてないと即死の進行不可なので。一回引っ掛かって発狂しました。


「俺じゃあ世界は救えない。俺は弱い。1に10を掛けるのと10に10を掛けることのどちらが効果が高いかって話ですよ。俺の私欲のために潰せない。」


「……いいんじゃないの?」


「良くないです。」


「重複してるのや劣化で使わないのは無い? 一つも?」


 ………………いや、ある。ステータス増強は万能だから全部踏むけど大丈夫そうなのはちらほらある。


 スキルに関しては確かに劣化で使わないのがあるな……例えば俊足と縮地。

 俊足は足が早くなる、縮地は俊足+短距離高速移動。


 補正値は俊足が上だが重複しないから縮地を使う。一瞬で寄ったり離れたり出来るのは便利だった。


 他にも組み合わせていけば……いけるかも? 性能的に主人公達の特性と重複してて何であるんだこのスキルも起こったからな。


 ここの最寄りは……行くのが難しいけどどうにかなるな。敵もなんとかなる……か。


「ついでに増強も取っちゃえ。天才達はレベルで補えばいい。」


「……マジで言ってます?」


「私の秘匿薬の中に一定時間経験値上昇の薬がある。十分くらいで止まって眠くなるけど。」


 俺それ知らない。


「もし君が戦力を増強したいならちょっとした手助けはする。ただお値段は要相談。ただであげるには材料が高い。装備とかも魔法触媒ならなんとかなる。」


「………………いいんですかね?」


「いいと思う。知識は力。持ってる力を私利私欲で利用するつもりはないんでしょう?」


「ありません。……でも、目的が私利私欲なので……。」


「もし踏み間違えたら私が止めてあげる。」


「………………お願いします。」


「任された。」


「時に先輩、夏休みは暇ですか?」


「予定入ってるけどどうかした?」


 まだ四ヶ月先なのに!


「往復で一週間空けられませんか? 無理なら来年でもいいんですけど……。」


「君が全力で手伝ってくれればいける。」


「なら良かった。」


「どこかへ遊びに行くの? 一週間だと結構遠出するみたいだけど。」


「遊びではないです。ただ先輩にどうしても付いてきてほしくて。お願いします。」


「何をしに?」


「秘密……では駄目ですか?」


「言えないことなの? それとも言いたくないこと?」


「どっちも……ですね。後悔はさせません。」


「…………………………分かった、それを考慮して進めてみる。」


 よっし! 馬車で二日くらいはかかる場所だから余裕を取りたかったんだ!


「旅行じゃないならなんだろう。遺跡かな?」


「目的地くらいはいいでしょう。……ダンジョンです。」


「……私は戦力にならない。」


「大丈夫です、敵は強くありません。ただ先輩とどうしても行きたいんです。」


「………………まさか私の強化? 強化できるところ無いけど。」


 一発ですか。森にあるダンジョンなんですけど最後に精霊の住み処があるんですよ。隠しですね。


 遠い、渋い、何もないと来たから調べてみたらあった。隠し方がずるい。


「秘密です。」


「…………教えてくれないと怖い。何されるの? 私戦えないからちょっとしたことでも死ぬ。」


「……教えないで行った方が喜ぶと思ったんですけど……怖いなら…………。」


「私が喜ぶの? 敵が凄く可愛くて襲ってこないとか?」


「違います。」


「なら先に知りたい。準備もある。」


「……簡単な魔法なら使えるようになる場所へ連れていこうと思ってました。」


「…………………………それ本当?」


「まだ可能性です。ゲームでは戦力にならない程度の強さで序盤の雑魚なら倒せる程度の魔法でした。」


 先輩が固まった。瞼一つ動かない。


「……死ぬ可能性は?」


「俺が0にします。」


 そこから先輩は黙りこんだ。たっぷり時間が経って二分ほど。


「後輩君、向こう一ヶ月の予定は私の依頼だけだっけ?」


「あと授業と食堂にお勉強ですね。あまり目を離したくもないです。」


「よし、行こう。今から。」


「…………はい?」


「私は場所知らない。連れてって。今すぐ用意。私も雑事を全力で片付ける。」


「ちょっと? …………俺授業とかあるんですけど?」


「大丈夫、私が調査の人員として指定したら授業は免除になる。なんなら一日の最大出席時数でカウントされるから問題なんてない。依頼外だから……成功したら金貨十枚、失敗だと報酬は出ない。糸口が見つかったならそれ相応。旅費は全部持つ。」


「流石に授業遅れますよ……。」


「首席が何を言うの? この学園の首席になれるくらいなら少し出なくても付いていけるでしょ。もしそれが原因で支障が出たなら補填する。私が勉強教えてもいい。」


「先輩の仕事とか……。」


「一時間で最低限纏める。無理は通せる。後輩君は会長呼んできて。」


「…………………………はい。」




 俺は言われるがまま執行室を訪ねる。


「魔法学研究室所属、一年ロレンス・セルヴァーです。」


「入れ。」


「失礼します。」


 会長の声で許可が出たから入室する。

 うわぁ……忙しそう。申し訳ない。


「どうした、また問題か?」


「プラトネス・ミネリクト先輩が会長をお呼びするようにと。」


「……何? 用件は聞いているか?」


「俺の口からは何とも申し上げることが出来ません。ただ厄介事です、仕事増やしてすいません。」


「なるほど……よし、副会長。代理は任せた。私は少し出る。緊急性の要する事案が入った場合の裁量も任せたぞ。」


「………………承りました。」


 眉間を揉んでいらっしゃる……ごめんなさい。




「先輩、お連れしました。」


「そっちでお茶でも出しておいてもらえるとありがたい。」


 俺は指示されたので厨房に入る。……綺麗ではないけど最低限整ってるね。これなら早く終わるだろう。


 えっと茶器と茶葉は…………あったあった。使え……そうだね。


 今更だけどお茶の正しい入れ方は知らない。飲み方は覚えたけどね。


 だから適当。蒸らすとか知らない。茶器暖めてからとか知らない。そんな聞き齧った知識で出来たら苦労しない。


 そんなわけで最低限出来ました。美味しいかは飲んでも分かんないです。


 先輩は凄い集中しているのでスルーします。何しても邪魔です。


「ああ、ありがとう。」


「…………会長、飲む前に言いたいことがあります。」


「なんだ?」


「俺、紅茶の入れ方知らないので多分美味しくないです。侮ってたり馬鹿にしてたり歓迎してなかったりする意図は全くないので許してください。」


「……なんだ、知らないのか。今度機会があれば教えてやろう。」


「助かります。……何分紅茶を常飲する家系ではないので疎くて……作法で学ぶつもりだったのですけど……すいません。」


「そういうこともあるだろう。君は新入生なんだ、そんなに畏まらなくていい。気持ちだけで嬉しいよ。むしろ君に弱点があって安心した。」


「そうおっしゃっていただけると助かります。」


「…………用件は分かっているんだよな? 先に聞かせてもらえないか? 君に関係することか?」


「先輩が急に旅行に行くと言い出しました。」


「そこ、誤解を招く言い方をしない。」


 いないのに怒られた。聞いてるんだ……。


「……俺と二人でダンジョンに調査に行くと言い出しました。俺も急に言われて少し戸惑ってます。」


「二人で? それは許可できないな。」


「ですよね……護衛とか。」


「行き先は?」


「…………マグの森の泉ダンジョンです。」


「マグの森……と言うとあの何もないところか。王都から遠い割に敵も弱く何もないから確かに本格的な調査が入ったことはないな。だが、許可できない。」


「何でですか?」


 先輩そっから会話するの……?


「君を危険に晒せないからだな。急すぎて国の機関も動かすのに時間がかかる。何か明確な根拠はあるのか?」


「ありません。」


「断言するか。……しかし君が宛もなく意味もなくただ遠いだけの場所へ行くとは考えられない。何かしら確証を得るために行くのだろうな。」


「その通りです。」


「………………ふむ。今でないといけないのか?」


「今を逃すと夏休みになります。私は一刻も早く確かめたいんです。」


「ふむ…………予定は?」


「調査含めて一週間です。」


「少し待て…………………………よし。分かった、私も行こう。それならば許可が出る。」


「……はい?」


「それは心強いです。」


「ちょっと待ってください。会長学園は? 授業と仕事は?」


「第零席の護衛なら立派な仕事だ。私以外は咄嗟に動けないだろうし私なら外でも融通が利く。一週間授業を受けない程度で遅れるほど学園一位は軽くない。心配されずとも結構だ。むしろ君は大丈夫なのか?」


「大丈夫じゃないです……けど、俺は先輩のお守りなので。気合いでどうにかします。」


「では書類は今日中に仕上げてこちらに回してくれ。私も今日中に準備を纏めておこう。」


「お願いします。」


 …………………………急展開にちょっと付いていけない。


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