1 プロローグ
新作です。完結まで書いているので完走予定です。
宜しければお付き合いのほど宜しくお願いいたします。
俺、ロレンス・セルヴァーはついこの間十二になった。
そして理解した。ここゲーム世界や……と。
きっかけは五歳の時だった。転けて頭をぶつけて気絶して起きたら前世の記憶があった。
当時はそれはもう混乱したが……数日もすると異世界に興奮しだした。
前世の気掛かりはあったが電車に跳ねられて確実に死んだ実感があったから結構すぐに落ち着いた。
なんか見覚えのあるシステムな気はしてたがあまり気にならずそれ以上に未知の世界、不思議な現象に胸焦がれた。
幸いにして貴族の長男という恵まれた境遇故に俺の興奮を掻き立てるものは沢山あった。
勉強も苦にならなかった。まるでゲームの世界に入り込んだかのような男心を擽る現実が目の前にあったのだから。
そして不思議なデジャヴで知ってるような知識が沢山あって容易に覚えられる事実が益々俺を熱くさせた。
貴族と言ってもうちは貧乏で畑を耕すような家だったけど、父と一緒に体を動かすのは楽しかったので不満はなかった。
多くはなくとも本さえあれば俺の欲は満たされたのだ。
そうして八歳になったころ魔法をぽつぽつ使うようになった。父はからっきしだと言っていたが俺は若干ながらも魔法を扱うことが出来た。
その魔法は最初全然役に立たないものだから鍛えて鍛えて更に鍛えて……畑仕事が楽になった。
魔物とか呼ばれる存在に少し興味は引かれたがおっかなくて俺なんてすぐ食われてしまうと常々父に脅されていたものだから出会おうとは思わなかった。
そうして月日は流れて早数年。十二の誕生日を過ぎた俺を父が珍しく書斎に呼び出した。
俺も出入りをしていて俺は読書、父さんは仕事とお互いに別々の事をしながら一緒にいることはある。
しかしわざわざ呼び出すなんて初めてのことだった。
そこで真剣な顔の父に告げられたのが学園……王立サイリウム学園へ行かないかと言う提案だった。
そこで名前にピンと来てシステムにピンと来てデジャヴの点と点が線で繋がったわけだ。
そして今に至る。
父さんは目の前だ。急に黙り込んだ俺の返事を静かに、真剣に待っている。
「…………学費はどうするの。諸経費は?」
「まず初めにするのが金の話か……。試験に対する不安なんかはないのか?」
「大事なことでしょう?」
正直試験はどうとでもなる。あのゲームは俺が初めて小遣い貯めてそれでも足りずお願いして買って貰ってから何年も何年もやりつくした。
もしその世界で間違いないなら俺が試験を間違えることはないだろう。試験問題から回答に至るまで、およそ数千以上の組み合わせがあるだろうそれを暗記してる。
「そこはまあ……心配するな。父さんの虎の子が何とかしてくれるさ。……受からなくても良い、試験だけでも受けてみないか?」
「……あそこの学費が凄いの知ってるよ。」
「うぐっ…………お、男に二言はない!」
確かにかなり覚悟した顔だ。
学園に向かえばそれこそ将来は広がる。ここの領主と兼任で宮仕えにでもなれれば領地自体も潤う。コネだって作れるだろう。
「…………父さん……。」
「が、学費のことは気にするな! お前はどうしたい!?」
「俺……は…………。」
…………思うところしかないのだが。
この世界での知識と、ゲームの知識を合わせて可能不可能の判断はつく。
このゲーム、頭おかしいことで有名だ。もちろんゲームとしては良い意味で。
端的に言おう。三年後くらいに魔王が復活する。この世界では知らない名前だが田舎のボムスってとこの街が被害を受ける。これにも事情があるのだが……今はいい。
大事なのは。魔物が活性化するということだ。ここも危険に晒されるだろう。
一方学園の方でも主人公達に色々降りかかる。被害は最悪国滅亡だ。たまに罠があるんだ、このゲーム。
このゲームは恋愛ゲームにもアクションゲームにも経営ゲームにもなる。
そして実はその復活する魔王も攻略対象だ。野郎だが俺は攻略した。俺は魔王ルートが一番好きだ。超ムズいけど。
だから巻き込まれたくない。無関係な一般生徒でさえ無関係ではいられない、最悪死にかねないイベントもある。
…………学園魔族襲来イベントはなぁ……クソだった。親切したら死ぬからな。
ただし魔王は悪くない。悪いのは全部邪神。
魔王ルートをやってしまうともう他者ルートは涙無しにはクリアできない。比べれば他は凄い簡単なんだけど全部メリーバットエンドに見える病気に罹る。
「……ロレンス。お前は魔法も使えるし頭もいい。俺のことは気にするな、お前はお前の好きなように決めなさい。俺が心配だから行かないなんて言ってみろ? ぶん殴るからな。」
父さんは答えない俺にそう言葉を重ねた。
…………主人公達の強さは知ってる。俺が操作してたんだから。そんな連中と競うのか……。
「………………ありがとう、父さん。」
でもやろう。父さんがここまで言ったのだから。
魔王ルートトゥルーやってやろうじゃないか。もちろん俺が特待生でな!
特待生キャラいたけどあの学園の特待生制度って人数制じゃなくて点数と別試験クリアだしな! 関係ないよな!
「父さん。俺、やってみるよ。」
「そうか、分かった。実はもう家庭教師を呼んであるから断られたらどうしようかと思ってた。」
「……家庭教師。」
「父さんの昔の知り合いだ。学生の入学試験程度なら教えられるから安心していいぞ! あいつも忙しいはずなんだが受け入れてくれた!」
家庭教師のお金は……もう言うだけ野暮か。
待ってろ魔王、今助けるからな。あとヒーローとヒロイン陣は頑張ってくれ! でないと世界が滅ぶから!
そんなわけで大好きなゲームの大好きな学園に通うために、色々と準備を始めることにした。
前作の息抜きに書き始めたら完結まで書いてしまった本作。200話以内に完結予定、楽しんでいただけると幸いです。
また評価や感想をいただけると励みとなりますのでブックマーク、評価や誤字報告などお待ちしております。
少し似てるなと思いましたら兄弟作として暖かく流してくださるようよろしくお願いいたします。
それではどうぞお楽しみください。