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真実は未知

 叔父は見事に黒であった。表面上は父と同じ中立派であるが実際は第二王子の派閥と判明する。父の負債を膨らませ、何食わぬ顔で詐欺融資を迫ったのは叔父を経由した第二王子派の仕業だった。使用人たちの人選は借金もあり、父は叔父に任せるしかない状況である。


 謀殺することも考えたが、ちょっとしたお薬で寝たきり状態になってもらい。第二王子から切られるように仕向けた。使用人は叔父からの支援が無くなり辞めていった。一石二鳥にホクホクして、使用人の好き嫌いで駄々をこねることも忘れない。私の選んだものだけが身の回りを固める。ただ、故意に敵方の諜報員は懐に置いたままだ。


 医者の調査も順調で、第一王子の派閥から送られてきたところまでは突き止めた。更に邸内には第一王子と第二王子の派閥諜報員と王家の諜報員が潜りこんでいる。この辺りは謎が残ったが、調査により私の隠されていた出自が判明する。


 病死した母は現陛下の妹で王女であった。私の王位継承権は4位である。


 いつ死んでもおかしくない状態にされるわけである。



 私はぎりぎりラインの病弱を装う健康児になった。5歳になるまでに王家の王女は全員が謀殺、第三王子も薬物中毒で陛下も子を生せぬ体になっている。これも王妃も含め各派閥による薬物投与の可能性が高い。


 実質、第一王子と第二王子の後継争いになっている。


 とはいえ、私は注意を怠らない。



 なぜ、母が王女で父と結婚することになり、私の婚約者が第三王子なのか。王家に何か意図があるのだろう。血の近さから推測しなくとも、殺してくれと言っているようにしか感じられない。次代の王も条件によりまちまちであった。


 王が違っても治世に変化がないので……王はお飾りということ。


 笑ってしまう。




 無事に高地療養を開始して、侍女と接触しようとして異変に気がつく、侍女が前回と別人なのである。おそらく、叔父を潰したことが裏目に出たようだ。侍女以外の者は前回同様である。失敗の予感がして意気消沈している。


 調査しても石投げ可能な場所は特定できず、仕方なく、前回同様に魔法の特訓を受けるが、魔法コントロールは精神と結びついているようで魔法は規格外と評価される。私の称号は神童に続き規格外が加わる。


 結局のところ私の予想は当たり波風のない穏やかな生活を送る。新たに学んだのは魔法分析と病気に見せる偽装術の研究であった。問診や検査を掻い潜る方法を魔法と薬物の併用により完全マスターした。精密検査しない限りばれないだろう。




 そして次の生でもほぼ同じ年頃でスタートした。今回の叔父は泳がせるが、借金に関してはやや減額させる工夫はした。使用人は叔父の好きにさせる方針を取る。病弱偽装も継続だ。新たに開拓したのは個人資産を早期から増やすためのエージェントを雇い、商会を陰から動かせるようにしたことである。


 やり取りは匿名、父の持ち物を無断で拝借したりしたが問題なしとした。


 問題は物資の受け取りに困るくらいである。



 無事に高地療養になり侍女も初回と同じ人物になる。どちらの侍女も叔父経由で雇われていることが確定した。片側の侍女は鍛えこんでいる以外に特に問題ないが、エキセントリックなほうの侍女が執拗に隔離診療施設の訪問を進めてくる。この施設は私と同じ病の者が入れられているようだ。


 何か胡散臭い勧め方で罠の香りがするが、誘いに乗ってみることにした。侍女に連れられて行った先は高額な診療施設で貴族や裕福なものが入院している。まあ、病の発症条件が近親相姦等であるから当たり前のことであるが。


 視察すると隣に新たな病棟を建築中で石やレンガ片が転がっている。施設から連れ出されると石のある場所に導線があるので、犯行現場はここに間違いない。やっと突き止められて舞い上がるような気分になり飛び跳ねたいところを抑え込む。


 はっきりいってドーパミン出まくり。


 一種の絶頂である。



 何度か視察を繰り返すと私に対する風当りが非常に強い。誰だか知らないけれど私が同じ病気であると言いふらしていて、私を睨みつけてくるものが数名いる。興味深い噂としては、遺族たちの間で流行病の原因がこの施設にあると騒いでいた。この施設こそが病気の原因であり排除するものと信じ込んでいる。


 誰かが作為的に情報をリーク、流行病と関連付けて私へのヘイトを高めている。


 ここまでお膳立てができれば後はタイミングの問題だ。

 事件発生は近い。



 父が領地に戻り、護衛が減らされたタイミングで事件は起こる。内通者がエキセントリック侍女に決定した瞬間である。この先の流れを掴みたいと思い誘いに乗ることにした。施設でのんびり過ごしていると暴徒がなだれ込んでくる。護衛が動くが数が多すぎる。


 窓は割られ、足音や罵声が私に向かって押し寄せる。

 それは、暴徒という波。濁流だった。


 私は小汚い少女に髪を引っ張られて建設現場に連れ出される。そこに待ち構えるのは石を持つもの。私は無意識に少女の腕を絞り上げて拘束し身体強化する。石が雨あられのように向かってくる。残念ながら、石は見事に跳ね飛んでいく。


 自己防衛が過剰すぎ暴徒を制圧していた。護衛の目が点だが仕方ない。


 あぁ、失敗した。石投げ回避である。



 再現が不可能になった私は拘束した首謀者を吐かせる。拷問もお手の物なので躊躇せず背後関係を洗い出した。首謀者は第一王子の手の者、実行犯は小汚い少女で例のエキセントリック侍女の娘であることが明るみに出る。驚くことはさらに続く。


 なんと、小汚い少女は後に侍女となるコニーであった。


 姉のように慕っていたのに。



 真実の断片が暴かれる! 推理小説であればドキドキときめく瞬間であるはずが、なんとも言えない居心地の悪さと信頼を裏切られたという悔しさが渦巻く。私は冷静でなくなっていたのか、侍女に拷問して二重スパイであることを吐かせることまでしていた。第二王子派閥の叔父に雇われ、実は第一王子の諜報員です!


 呆れましたとも。


 私の断罪は王都でも評判になり、第二王子派が私を婚約者にしようと裏工作を始めたようだ。首謀者や関係者、コニーの家族は断罪され極刑。


 暴走は後になってわが身に跳ね返ることを理解した。二度としないと誓う……。


 後悔だけが残る。



 私には一人で生活できるスキルや資産もあったため、神隠しにあったと噂されるように表舞台から消え去った。異国の地で平民として暮らすことにしたのだ。私は療養先から移動の容易な聖教国を目指して逃亡することにした。情報収集して辺境地にある教会運営の孤児院に潜りこむ。爪を隠していたつもりでいたのに、不注意で神童に認定され特別待遇で進学する流れである。


 学びたいという欲求が強すぎるのである。



 結局、私は異国である聖教国の首都に居を移して商人として大成する。今までの人生で一番伸び伸びと過ごすことができた。生涯独身であったが、新たな価値観や生活を味わえたことは、経験を得るということにおいて最高の人生であったと言える。


 そして、聖教国の聖女について断片情報から興味を惹かれることになる。


 私の巻き戻りに似た奇跡があるというのだ。




 そして次も同じ年頃に巻き戻る。今回はコニーをマークして、何が原因で私を貶めることになるのか背後を探ったのち、石投げを再現することにする。失敗したときは聖女を体験することを目指して行動することに決めた。


 状況によって多少のアレンジが必要になるのは避けられず、今のところ大枠で初回進行に忠実路線で進めている。高地療養になれば何をおいてもコニー家を監視することにした。コニーは母である侍女の話を聞き、愚痴を聞かされるうちに自身の境遇を私と比較してしまう。潜入調査によって、コニーの気持ちが羨ましさから妬みや嫉妬に変化したことを確かめた。



 そして襲撃の条件が揃ったので療養施設に行くことになった。


 私は暴徒の雪崩れ込む位置を予想して、彼らが一望できる場所で待つ。

 何やら外が騒々しくなってきた。


 そろそろお出ましね。


 今回こそはと意気込んで待ち構えると、前回同様に事が進みコニーが暴徒を先導して現れ、私は現場に引っ張り出される。今度は身体強化を無しにして基礎体力で臨むことにした。


 前回同様に石が飛んでくる。当然、全受けである。


 何か嫌な音がして意識が飛んだ……。





 

 目が覚めると3歳頃の部屋である。どうやら死んだようである。ショックと頭蓋骨が陥没する石を投げた者への恨みを吐き続けた。一時間ぐらいぶつぶつ唸っていると乳母は機嫌が悪いのを察知してあやして添い寝してくれる。


 母を知らない私は乳母が大好きで癒されていく。


 愛情は返さないといけない。


 いつかきっと。



 私は落ち着くまで天井のシミを眺める。今回の周回でどのように対処するか計画を練り始めた。

 全受けでも死なないように身体強化して、頭への投石は最低限だけ許して大きな石は弾くことが最適解だ。そして、石を投げられた後は殺されない程度に死んだふりで難を逃れることにする。


 私は挫けない。


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