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神童とは誰よ!

 私の楚々かしさは相変わらずで、帝国の医学院を目指すことを目標に猛勉強をすると神童と呼ばれるようになる。危うく第一王子の婚約話が持ち上がるところだった。“何事も程ほどに”が座右の銘になる。まあ、守れないと思うが。


 今回も石投げは回避して医師の調査を慎重に行う。学会誌や図書館を活用して調査をする。書士にマークされているので絵本を混ぜることは鉄則だ。派閥とか実績は出てくるが、通常の王宮魔導医とは経歴が異なる。パトロンはいるようで、調べてみたが誰だかわからない。


 私の担当医は技術に間違いはないが、はっきり言って怪しい人物である。



 医師の背後関係は一介の令嬢では探り切れず、調査に関しては万策尽きたので先送りすることにした。きっと他のアプローチをとらないと迫れない。諜報とか政治、貴族社会など知らなければならないだろう。目標が増える。



 第三王子と婚約してお茶会しているときに王子の体調が悪くなる。薬を飲ませようとしたときに異常に気づいてしまう。その薬に見覚えがあったからだ。私は故意に薬を落として、謝りながら薬を懐に入れる。


 回収ミッションは成功した。


 持ち帰って、簡単に確認した後で町の薬局で鑑定してもらうことにした。

 分析の結果、間違いなく初回等で私に処方されていた薬だった。



 どうするか対処法を迷ったが、王子に薬を盛るのはいくらなんでも無視はできない。誰に相談するか決定打もなく様子を見て王子本人に相談することにした。次のお茶会のときに話すべく下調べをする。この薬は通常の薬店では買えず、医師の処方箋と指定薬局に行かなければ購入できない。


 医師が明らかに関与している。そうでなければ闇ルートだ。


 そもそも敵の多い王子は納得であるが、使い方次第で毒にもなる劇薬を私に盛る理由は何だろう。私自身に何か隠された秘密があるような気がする。どうやって調べればいいか皆目見当がつかない。



 迷いに迷ってカイト殿下に相談する覚悟を決めた。定例のお茶会ではなく面会を申し込むと勘の良い殿下はすぐに応じてくれた。そして私は用途不明の懇談室に通された。内装は王宮内とは思えないほど質素であるが、インテリアは非常に高価な年代物が並んでいる。安い物でもうちの土地付きタウンハウスと同等の値段かそれ以上だ。


「待たせたね」

「殿下、今日は急な面会に応じていただき有難うございます」

「気にしないで、ところで相談内容とはなんだい?」

「人払いしていただけますか」

「何か事情がありそうだね。君達はドアを開けた先に待機していてくれ」


侍女は護衛の騎士に誘導されて渋々と出ていった。殿下は快く人払いしてくれた。そして、私に近づいてアイコンタクトする。


「実は前回の茶会の時に、わたくしが落としてしまったお薬を持ち帰ってしまい。代わりの薬を持参しようと薬局に行ったところ、殿下のお薬は治療薬と言うより……」


殿下の顔色が目に見えて変わり、私の唇に人差し指を当て話を遮られる。殿下にしては大胆な行動である。まあ、それほど予想外の事態だったのだろう。


「大まかな事情は理解した。それ以上は話さなくていいよ。それにこの話は一切他言無用で。いいね!」

「は、はい。両親にも話しません」

「わざわざありがとう。嫌な予感がするから今日は帰ったほうがいい」


 この話を他者に口外しないよう強く命令されるなど穏やかな王子からは考えられない対応だ。私は、うなずき口外しないと誓って殿下の指示に従い城を後にする。家に戻り父と夕食をとっていると事件は起きる。


「お嬢様、王宮よりお花が送られてきました。いかがいたしましょう?」

「ジェシカありがとう。お部屋に飾っておいて」


 私は食事を終えて部屋に戻る。花は生けられておらず、無造作に置いてある。


「ジェシカ?」


 返事はない。私は花の送り主を確認しようと花束を触る。送り主は王子付の侍女だ。私は他の使用人を呼んでお茶を淹れさせる。しばらくするとめまいがして吐き気を催す。私は立ち上がろうとするが麻痺症状が出て動けず、やがて幻覚症状が現れ意識を保てなくなる。




 目が覚めると時間が巻き戻っていた。おそらく何らかの毒を盛られた。花束の可能性が高いがお茶かもしれない。王子に告げて毒殺までが早すぎる。素人の仕事ではない。今回の人生において、どのように対処するか迷う。首謀者がだれであれ、不都合な事態になると躊躇なく排除されることが分かった。毒殺だけではないだろう。


 毒について考えるが、解毒が間に合う薬物かわからず、神経毒のような即効性の高いものであれば致死量以上を盛られるから対処できない。魔法による循環器の制御や消化器の洗浄も可能だが間に合うか、そもそも詠唱できるかさえわからない。


 反省の結果、毒への対応を学ぶことにした。目的のため行動開始した私は、演技のレパートリーが増える。自ら死なない程度の毒物を服用して大げさに騒ぐという自作自演の毒殺騒ぎだ。毒は庭にある植物から魔法抽出した。「頭と知識は使いようである!」と胸を張って言いたい。まだペチャンコだが……。


 父は毒殺未遂に何か思うところがあったようで、侍女はジェシカとリズの二人が付けられた。リズはどう見ても只者ではない。一見どこにでもいる20代半ばの女性であるが、平凡な容姿ながら無駄な動きがなく諜報員のようだ。


 毒殺狂言は実を結んだ。


 リズに毒殺は怖いと相談すると、血も涙もない鬼軍曹に扱かれることになる。

 おかげで毒の基本知識や回避術など身に着けることができた。


 私はいったいどこに向かっているのか……。



 私は12歳の頃には自然毒、魔法毒、解毒術、代謝魔法のエキスパートになり、実用レベルの諜報技術を身に着けた。教師のシゴキと特訓の賜物である。何度も死にそうな目にあったが。


 王子とは適当にやっているが、薬は魔法分解することにした。薬が大好きと目をウルウルさせて訴えると手持ちの薬を見せてくれるようになり実現した手法だ。すべて分解すると疑われるのと実際の治療薬もあるから用心は怠らない。


 王子は目に見えて健康になってきたが、やつれた姿が素敵と心の隙をついて訴える。見事にだらしない王子殿下が出来上がる。何度も婚約者をやっていると誘導することや気に入られることは息をするように簡単だ。


 我ながら満足はしているが、爪を隠した悪逆非道な令嬢の出来上がりだ。



 その後、私は帝国に留学することになり、無事に帝国魔法医学校から高等医学校、魔導医学研究所と昇りつめる。私の病気の実体にたどり着くが私の代でどうにかできる病気でないことがわかる。残念だが数世代後に根絶できるだろう。


 この発見は婚姻制度に影響を及ぼし、王家の真実にも触れることになる。


 開示の仕方には細心の注意が必要だ。



 王子は毒殺を回避できたものの謀殺される運命にあるようだ。後ろ盾と派閥の力加減から後継者争いで敗れたのだろう。きっと我が家に政治力が無いから防波堤にもならなかったようだ。ごめんね、カイト殿下。私にはどうすることもできない。


 私は医者の後ろ盾については無理に進めていないし、王家の後継者争いも首を突っ込まないように用心している。いつ、時間の巻き戻りが無くなるかわからないため、人生を精一杯、全力で生きることにしている。


 とはいえ、多少のリスクは犯すが、危機察知力が上がり回避できている。


 目を付けられていいことはない。



 ほかに判明したことは、帝国にもジェームス様は居ないことが確かめられた。どこに消えたのか、夢に消えたジェームス様。巻き戻りを繰り返して感じるのは、同じ条件を選んだとしても、細かい進行や登場人物が変化することは避けられない。


 私への攻撃に対処するため、数回の人生を費やして帝国において学ぶことを決意した。領地経営や世界情勢、王家の過去、政治力学等、いくら巻き戻り繰り返そうと学ぶべきことは多く、できることから着手するしかない。




 私は数十回巻き戻りをして帝国で学ぶことのできる学問をやり尽くし、不可抗力でもない限り謀殺されないスキルを身に着けた。まあ、自分の身を守ることに関してではあるが。私はこの頃に加護の記憶について仮説を立てられるようになる。


 私は繰り返し記憶すると決して忘れないのではないかと。


 あまり変なものを記憶したくはないが。



 私は新たな目標設定をする時期に来たと考える。ジェームス様に会うことを目標としていたはずであるが、かなり大きく横道にそれてしまった気がする。とりあえず、原点回帰で初回の行動をトレースする決意をした。


 石投げを乗り越え、コニーやタニアに会い、最終的にジェームス様に会えるといいなと心から願う。高地療養は適度な演技と強く望めば問題はない。そこから先が五里霧中。建物から引っ張り出されたのは鮮明に覚えているが、場所がどこなのかわからない。誰に髪を引っ張られたのかも不明。


 街中では石はないし、先ずは場所の特定と流行病について調べよう。現場検証は調査の基本だ。隠密行動はお手の物だが、身体がついてこないのが難点だ。さてどうするべきか。


 私はスケジュール表と目標設定を考えて、ひとり微笑む……単なる怪しいおばさんである。しかし、計画しているときが楽しいのは事実である。今回も独り身である。ジェームス様に出会うまで結婚はなるべく回避すると心に誓っている。


 このまま努力してうまく出会えればいいが……運がなければどうなるのだろう。


 期待と不安で押しつぶされそう。



 でも前向きに生きるのが私だ。

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