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普通ってなんだろう

 目が覚めると例の部屋にいる。とりあえず、手を見て身長の確認。前とそう変わらないが、季節が違うようで洋服が異なる。転生というよりも巻き戻りに近いようだ。今度は真面目に生活しよう。


 まずは、おデブにならないように運動を心がける。そして、早めに勉強することにする。父の蔵書置き場に忍び込んで魔法薬学の基礎を学ぶことにした。5歳の身体に20歳に知能なのでどうにか読めるが、ちゃんと習わないと厳しいことがわかる。


 幼児なので特にすることもなく、運動と読書はこっそり進めている。心臓発作も怖いので食事にも気をつけることにした。あとは元気そうに見せるために使用人と交流することにした。料理は興味があり眺めることが多い。


「それなに?たべたい!!」

「お嬢様、間食ばかりいけませんよ」

「うんどうしてるからいいもん」

「まあ、いい子にしてるから味見ということで……お嬢様」

「いい子だから。とうぜんよ」


 食い意地が張ってるのは認めよう。その分庭を駆け回るのだけれど。



 石投げの時期になり、前回同様に元気さをアピールする。今回は外で走り回った成果もあり、褐色の幼女に仕上がっている。医者は白い歯を見せ笑う私の顔を見るなり、問題なさそうだねと言って適当に問診して帰る。


 今回も石投げは回避した。



 私には今の時点で疑問がある。最初の人生では体調が悪く性格もかなりネガティブだった。前回も今回もあの頃よりもポジティブだ。伸び伸びできていると言っていい。何が違うのかわからない。


 どう考えてもこの性格が標準で、ネガティブが異常と思える。


 調査対象としよう。




 時は流れて10歳になる。違うものに興味を持って生活するため、やり直し人生でも楽しく過ごせている。さて今回の侍女を期待して待つとジェシカが現れる。ジェシカは若返ったはずなのに見た目はあまり変わらない。


「ジェシカ、こんにちは! よろしくね!」

「まあ、お嬢さま!」


 ジェシカの胸に飛び込む。ジェシカの喜ぶポイントは熟知している。やはり、正解だった。私はこっそりニヤニヤする。



 私の勉強は順調で父に一般教養と薬学の教師を別々にお願いすることにした。父は私の学力が高いことを知っているため、興味があるならと優秀な先生を雇ってくれた。教師には不自然ではない範囲で教えを乞うことにした。


 実際は不自然だったようで……教師が途中交代になるハプニングがあった。


 専門教師に変更されたのはよかったが加減は難しい。



 父が機嫌よく帰ってきた。この時期は何だったかと考えていると父に呼ばれる。トコトコと父の書斎に行くと嬉しそうに語りかけてくる。私は”無邪気な微笑み仮面”を張り付けて様子をうかがう。


「アイリーン、お前に婚約相手が決まった。第3王子のカイト殿下だ」

「はい! お父様」

「王宮で顔合わせがある。日程は連絡があるので準備しておけ」


 婚約者が決まったからなのか、なぜか専属侍女が増えた。20歳くらいのカーリエが身辺警護と身の回りの世話をするようだ。猫のようにしなやかな女性で、護身術や剣術を含め運動全般を教えてもらうことにした。


 不思議なことに前回は婚約の話がなく、初回と今回は婚約者が現れた。もう何がなんだかわからない。興味本位ではあるが今回は素直に会うことにする。王子ということで期待はしていない。一般論ながら半数はろくでもないことを私は知っている。


 王宮の庭園でも格式が低いほうで面会することになった。当然ながら、嫌というほど磨かれ衣装はピカピカだ。ちょっと下品な気がするが没落貴族を体現していていいのかもしれない。


 王子はぱっとしないガリガリの少年。なんだか既視感があると思えば初回の私。


 似すぎてない? 何か引っかかる。



 そのうちこの婚約は解消になるので自然体で接することにした。月に一度の顔合わせでも徐々に信頼関係が構築できていた。ただ、殿下の病状は安定せず面会時間が短時間になることもあるが律儀に会ってくれるので良しとしている。


 私に実害はない。



 父の再婚の頃になったので、執事の行動を監視している。そして、私は驚きの事実を知る。継母は完全に借金返済のための政略結婚で、義妹は私とは一切血が繋がらず、赤の他人であることが判明する。


 父に呼ばれたので書斎に行くと再婚のことを告げられる。私は確認のため質問することにした。


「お父様、母となる方と妹について教えていただけないでしょうか?」

「ああ、知る権利はあるな。我が領の災害復興で借金しているのは知っておろう」

「はい、存じております」

「その借金を返済するための結婚で、契約とは娘のフィオナを貴族籍で婚姻させることだ」

「フィオナ様はお父様の実子でございますか?」

「……血は繋がっておらん。完全に政略結婚と思ってくれ。継承権はない」

「はい。答えづらい質問を丁寧に回答くださり有難うございます」

「大人になったものだな……」

「まだまだ子供にございます」


 ”曖昧笑顔仮面”を張り付け笑ってごまかす。最近ちょっとやり過ぎているように感じられる。反省材料は多い。しかし、コニーの話は何だったのだろうか。別邸に住むことになる流れから考えて初回から契約婚で義妹に継承権はないだろう。


 いつかコニーのことを洗わねばならない。



 私はジェームス様のことを諦めたわけではない。あの手この手で医学院に進むことを父に認めさせた。条件は王立学園の履修である。飛び級で早期履修することが必要で教師も手配してくれることになった。


 父は幼いころから魔導薬学に興味があることに気がついていたようである。


 私のことを気にしてくれている。



 妹と私の入学時期が重なり例のレストランに行くことが予想される。私の病気自体は発病しているはずで、軽微であっても何か症状が他者に知れるはずである。私はジェシカに質問する。


「ジェシカ、私はお母様と同じ病と聞いています」

「はい、お嬢様」

「私にその症状は現れていますか?」

「いえ、ございません。奥様付きの侍女をしておりましたので間違いありません」

「他人からわかる特徴を教えて。体臭とか……」

「病斑が浮かぶことはありますが、他には何の特徴もありません」


 また新事実が判明する。コニーの説明と矛盾するが、私には何が正しいのかわからない。この事実から入学祝の会食は衣装さえ適切に選べば問題ないだろう。今回は参加することにした。


 会食は穏やかに進み、継母と義妹は私たち親子を気にして離れて食事をしている。配置や席順から私が優遇されているのは間違いない。初回に感じた劣等感は自身の無知に起因したものであり反省しなければならない。


 やはり学ぶことから見えてくることは多い。



 私の婚約者が亡くなった。知らせがあって、すぐに王宮に出向くが死に顔を見て違和感が強くなる。これは一般的な死因ではない。ただし、王家絡みは踏み込むと家に影響があるかもしれず、悲しみに暮れる元婚約者を装い帰宅する。


 この件もいつか調べたい。



 私は医学院に進み魔導薬学、創薬等を学んだ。卒業生も含め調べたがジェームス様は当然いない。まるで存在自体が幻のようである。私の病気による幻覚が生んだ理想の男性だったのだろうか?


 私はその後も学び続け、魔導薬学は最高学位まで取得した。私は病気の関係で女公爵となり縁者から養子を取って家を継がせた。私はジェームス様を忘れられない。幻でも納得できるまでやり直そう。




 私は52歳の冬に流行病で亡くなる。そして、次の周回は自身の病について学ぶことにした。


 そして、巻き戻りも無難にこなし医師の診断の時期になるが、今回は少しパターンを変えることにした。


「病気が進行しています。薬物による治療か高地療養をお勧めします」


 医師の勧めに父は考え込む。


「娘に負担が少ないのはどちらかね?」

「そうですね。高地療養で様子を見て投薬するか考えるのが良いかもしれません」

「先生、わたしお薬飲んでみたい」


 父はびっくりしながら医師に告げる。


「娘の希望もあり、試しに薬としよう」


 私の計画通りになった。薬は前回の知識からある程度の分析ができる。侍女をつけてもらって外部に成分分析の依頼をすることさえできるだろう。


「先生、病気になると何が変わりますか?」

「遺伝性の病気なので子供に影響出るだけで、あとは病斑が出ることはあるけど稀だね。ちょっと難しいかな?」

「ありがとうございます」


 わかってないような笑顔を浮かべ対応する。ジェシカの話が正しそうだ。今回は本格的に学ぶことにしているが早めにわかることは前倒しにする。


 前回の人生から変更した点は、早い時期に王国図書館に行って勉強を始めたことだ。広範囲で浅く学ぶことにした。雑学の大事さを前世で学んだからだ。あとは交友関係をなるべく被らないように努力した。


 その後の半生は病理学や生命科学など学び、次の人生があるなら帝国に渡り最新の学問に触れたいと考えている。当然であるが自身の病についても症例が少なので研究は続ける。私の加護の”記憶”はいまだよくわからない。学ぶことに向いている加護なのかもしれない。


 最後に医師が私に処方した薬は遺伝性の病気に使う薬ではなかった。薬効こそ高い反面、副作用が強く、依存性の高いその薬を選んだのか不自然である。医師は私が16歳の頃に事故死していて背後関係はわからなかった。


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