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4.完璧な作戦?【馬鹿に作戦を考えさせると大変な事になる】


【side クロ】


 俺達は王子様の後に続いて『指定区域』を奥へと進んでいた。


(どこまで行く気だ?)


 ここまで一度も魔獣と遭遇していない。普通これだけ『魔獣の森』を進めば、どんなに適当に進んだとしても、1回くらいは魔獣と遭遇するのだが、王子は神がかり的な回避率で魔獣を避けて進んで行た。


(わざと……じゃないよな? 演習の内容は分かっているはずだし、あえて魔獣を避ける意味は無いはず……もしかして、この王子様、とんでもなく運が悪いのか?)


 そんなことを考えている間にも、王子様はどんどん進んで行く。


(おいおい、魔獣用の結界が見えてきちゃたぞ……)


 魔獣用の結界は円形に張られている。前方に魔獣用の結界が見えてきたという事は、ここは『指定区域』の最奥という事だ。魔獣用の結界が前方に見えた事に気付いた取り巻き達が、王子様に進言する。


「あの……フィリップ王子。これ以上は……」

「ふむ、この辺でよいか。では、ここで索敵を行う。各位、散会して魔獣を探せ!」

「………………(はぁ!?)」


 俺は変な声が出そうになるのを、必死で抑えた。隣で、色々我慢していたマリアが負の感情を隠し切れずに、王子様に聞く。


「あのー、王子様。なんでこんなところで索敵を? こんなところに出る魔獣は、もう先生方に狩りつくされてますよ?」


 マリアの言っている事は正しい。ここが『指定区域』の中とは言え、もともとは、危険な魔獣が住んでいた場所なのだ。いくら、危険な魔獣を先生方が狩ってくれたといっても、そんな短期間で低ランクの魔獣が住み着くわけがない。


 そんなマリアの正論に王子様は馬鹿にしたように答える。


「はぁ……マリアよ。お前は仮にも俺に次ぐ実力者なのだ。そんなお前が、そのようなつまらない事を言わないで欲しいものだな。やはり、ゴミと一緒にいると頭が悪くなってしまうのか?」

「――っ!!」

「(マリア、落ち着け!)」


 俺は、怒って反論しようとしたマリアの口を瞬時に塞いて耳元で囁いた。


「もがっ! うーうぅー!!(だってー!!)」

「(気持ちは分かるが、落ち着け」」

 

 怒りが収まらないのか、なおも暴れようとするマリアを必死に抑えた。そんな俺達を王子が憎らし気に、にらみつけてくる。


「ちっ! 仕方ない、説明してやろう。いいか、マリアよ。この班には俺とお前、そして取り巻き達と、優秀な魔法使いが揃っている、まぁ、足手まといの雑魚も混じっているがな!」

「――! クロちゃんは――」

「――ええ、その通りですね!」


 マリアが何か言いかけたので、俺はそれを制して、王子様に同意した。


(『偉い人の言葉にはとりあえず同意しておけ』って言われたしな)


「ならば、いくら足手まといがいるとはいえ、我々は簡単な狩場を他の者に譲り、最奥まで来るべきでだ。違うか?」

「最奥までくる必要は――」

「――ええ、全く、その通りです!」


 またしてもマリアが何か言いかけるのをギリギリのところで防ぐ。


「(何言ってるの!)」

「(いいから! とりあえず、『その通りです』って言っとけ! あの王子様に正論なんて通じないよ! 最悪、演習は、帰りに適当な魔獣を狩ればどうとでもなるから!)」

「(えぇ!? …………うぅ。わかったよぉ)……そのとーりです」


 マリアが渋々といった様子で返事をした。


「よし! 良い返事だ。では、マリアは左、お前は右を探索しろ。我々が中央を探索する」

「分かりました」

「……そのとーりです」


 ……完全にへそをまげてしまったマリアの為に、()()な魔獣を狩る事も忘れないでおこう。



【side王子】



(よし! これで、マリアとあいつを引き離したぞ。後は……ふふふ)


 俺の指示で、マリアとあいつは別々の方向に探索に向かった。これで何か問題が起きても、マリアがあいつを助けに行く事は出来ない。


「フィリップ王子。我らも索敵を開始しますか?」

「ん? あー、そうだな。よし、お前ら。ここから森の外側を探索しろ!」

「「「はっ!」」」


 これから俺がやる事を見られたくないので、俺は取り巻き達に、魔獣用の結界と反対側を探索するように指示を出した。取り巻き達は、一斉に散っていく。


(これでよし……と。さて、始めるか)


 俺は魔獣用の結界に近づき、ポケットから魔道具を取り出した。


(くくく。王家に伝わる【結界破りの鈴】。これで鈴の音が聞こえる範囲にある結界は、全て無効化される。ふふ、皆、パニックになるぞ。そんな中、冷静に対処する俺! マリアが惚れないわけが無いな!)


 もうすぐ来る未来を想像して、俺は笑みを浮かべる。


(取り巻き達もパニックになっていたら、俺が助けてやろう。しかし、そうなると、あいつまで守り切るのは難しいだろうなぁ。まぁ、仕方あるまい。いくら優秀な俺でも、守れる人数には限りがあるのだから……くくく。あっはははは)


 俺は、【結界破りの鈴】を力いっぱい振り回した。


 チリンチリンチリーーン


 シューーーーーー


 鈴の音に反応して、今まで見えていた魔獣用の結界が溶けるように消えていく。


(くく。さぁ、これで不幸な事故がおきるぞ。そしてそこから生還する王子。ふふ、奇跡の物語のスタートだ!)


 俺は、結界が消えたことを確認してから、ゆっくりと取り巻き達の方に歩き出した。

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