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2話.初めての1人暮らし?【馬鹿は進んで敵に塩を送るし、ホウレンソウを軽視する】


【side クロ】


 合格発表の翌日、入学式を終えた俺達は引率の先生の指示に従い、皆で魔術科の寮へと向かった。


「ここが、お前達が暮らす寮だ。さぁ、中に入るぞ」


 引率の先生が寮の中に入ったので俺達も後に続く。


「皆来てるな? よし、それじゃ、改めて、俺の名前はライス。この寮の寮監であり、魔術科の教師だ。これから、3年間よろしくな」

「「「よろしくお願いします!」」」

「よし! それじゃ、この寮のルールについて説明していくぞ。まずは、この掲示板を見ろ! ここには学校からの知らせが張り出されてるから、毎日必ずチェックするように! とりあえず、各自、自分の部屋を確認してみろ」


 掲示板には、寮の部屋割りが張り出されていた。寮は5階建ての建物で、1階が共有スペース、2階が男子寮、3階が女子寮となっている。


「3階かぁ……」


 一部の女子からため息が漏れた。毎日3階まで上り下りする事に、憂鬱になっているようだ。


「あぁ、この寮に階段は無いから安心しろ。共有部分に転移用の(ゲート)が設置してあるからそれを使って各自、部屋まで転移するんだ。だから気をつけろよ? 部屋を出たらすぐに共有部分だ。寝ぼけて変な恰好で出てこないよう十分注意しろ」

「あ、はい! 分かりました!」


 憂鬱そうにしていた女子から安堵の声が聞こえた。


(なるほど……それで、4階と5階が……)


 4階は王子の取り巻き達の部屋。そして5階はまるまる王子の部屋となっていた。この寮の仕組みであれば、王子の部屋を最上階にするのも納得だ。


「一応言っておくが、()()()に自分の部屋以外には転移できない仕組みになっている。部屋の主に許可されれば、その部屋には入れるが、許可なく強引に侵入しようとすれば魔法で必ずバレからな。その場合、その後の学園生活が悲惨なものになると思え」


 それはつまり、許可があれば、異性の部屋にも行けるという事だ。今度は一部の女子から黄色い声が、そして、一部の男子から熱い鼻息が発せられる。


(凄い仕組みだな………………ってあれ?)


「俺の部屋がない???」


 俺は掲示板に記載された部屋割りに、自分の名前が無い事に気が付き、思わずつぶやいた。


「お前、もしかしてクロか?」

「あ、はい。そうですが……」

「あー……その、なんだ。昨日、王子様から命令があってな。お前の部屋でとある実験をしたんだが、その結果、お前の部屋が使い物にならなくなってしまったんだ。だから、しばらくは誰かの部屋に居候させてもらってくれ」

「………………は?」


 ライス先生の言葉に、俺は言葉に詰まる。


(『俺の部屋で実験』って……いやいや、実験室でやれよ! それに王子の命令って……――っ!?)


 その瞬間、周囲の男子が怪訝そうに俺を見ている事に気が付いた。


「(王子様の命令って……あいつ、何したんだ?)」

「(うわ、入学早々あいつ、終わったな。ってかあいつ、クロって言ったか?)」

「(クロって確か、入学試験の模擬戦で全敗してたやつの名前じゃね?)」

「(そうだ! たしかそんな名前だった!)」

「(まじかよ……最弱でかつ王子から目をつけられてるとか……あいつ、本当に終わったな)」

「(間違っても俺の部屋に来ませんように!!)」


(……ああ、これが狙いか)


 入学してすぐの今、友人関係など築けていない。そんな中、明らかに王子に目をつけられている俺を助けてくれるような、奇特な人間はいないだろう。


「…………部屋割りを見る限り、空き部屋があると思うのですが?」

「あーいや、そこは使う予定があってな……もし、誰にも居候させてもらえないのなら、共有部分で暮らしてもらう事になるが……」


 申し訳なさそうに言っているが、この教師も王子の手先なのだろう。いくら理不尽だと言っても意味が無いに違いない。


(それにしても、なんでマリアじゃなくて俺を? そりゃ、さすがに女子を共有部分で生活させるわけにいかないだろうけど……)


 王子の意図が分からずもやもやするが、今は目の前の問題を片付けるのが先だろう。


「はぁ………………マリア、お前の部屋に居候して良い?」


 俺はマリアに頼む。すると、怪訝そうに俺を見ていた男子は驚愕の表情を浮かべ、女子は顔を真っ赤にした。ライス先生も慌てて止めようとしてくる。


「い、いや、クロ、お前、女子にそれは――」

「ん、いいよー。ってか、私の部屋、やけに広いから1人じゃ寂しいと思ってたんだよね」

「………………へ?」


 ライス先生の言葉を無視して、マリアがOKしてくれた。途端に男子からは凄まじい雄たけびが、女子からは黄色い悲鳴が上がる。


「まじか! え? まじか!」

「凄い凄い凄い凄い!! こんな事あるのね!」

「うおぉぉおお! あいつ、勇者だ! 俺も……俺も続くぜ!!」

「ねえ? 私達もう付き合って3ヶ月も経つわよね? だからさ、その、よ、良かったら今晩、私の部屋に……」

「模擬戦での貴女の戦いぶりに惚れました! どうか、俺と付き合ってください!」


 何かに触発されたように(いや、間違いなく俺なのだが)、皆それぞれ、恋人や気になっていた異性に思いのたけをぶつけていく。そんな中、ライス先生だけが茫然としていた。


「な、そんな……こんな事って………………」


 恐らく、王子からの命令的と異なる展開になってしまったのだろう。だが、そんなことは、俺の知った事ではない。そんな中、マリアはよくわかっていない様子で首を傾げている。


「皆どうしたんだろ?」

「んー、まぁ気にする事は無いよ。これも青春の思い出さ」

「???」


 周囲は、絶望に打ちひしがられている男子や涙を流している女子、そして、顔を真っ赤にしながら見つめ合う男女などであふれかえっていた。


「んーよくわかんないけど……ま、いっか! とりあえず部屋に行こ? ここの寮、お部屋にお風呂があるんだって! 一緒に入ろうよ!」

「「「(一緒に入る!!??)」」」

「まじか! 部屋に風呂ってすごいな! 宿の貸切風呂みたいに時間を気にしなくて済む」

「でしょー? あの時は慌ただしかったけど今日はのんびりできるよ」

「「「(あ、慌ただしかったって……)」」」

「いいね! よし、行こう!」


 俺達の側にいた生徒数人が、真っ赤な顔で、酸欠になったかのように口をパクパクさせているが俺達に出来る事は無いので、ほっておいた。


「先生、もう部屋に行っていいですよね?」


 マリアがライス先生に尋ねる。


「あ、ああ……まぁ、うん……か、構わないぞ」

「はーい! それじゃ、お先に失礼します!」

「失礼します」


 俺も一応、ライス先生に挨拶をしてから、マリアと一緒に(ゲート)から転移した。





 

「うわぁ! ひっろーい!!」

「これは……凄いな」


 俺は転移した先の光景に圧倒される。俺達が転移した先は、当然、マリアの部屋なのだが、そこは、宮廷の一室かと見紛うばかりの広さの部屋だった。


「そもそもなんでこんなに部屋があるんだ? 全部屋こうってわけじゃないよな?」

「んー、部屋割りで見た感じ、私の部屋、他の人の部屋の3倍くらい広いみたい。あ! こっちが寝室で、こっちがお風呂だね! わ、お風呂も広い! 宿のお風呂より広いよ!!」

「……しかもこれ、魔道具だ! 凄いな! これならいつでも簡単に風呂を沸かせるぞ!」

「あ、ほんとだ! これなら毎日入り放題だ! 凄い凄い!! ね! さっそく入ろうよ!」

「そうだな! ほら、ホック外しててあげるから後ろ向いて」

「うん、ありがとー」


 確かにマリアの言った通り、これだけ広い部屋に1人では、寂しかっただろう。そういう意味では、部屋を壊してくれた王子様に感謝するべきなのかもしれない。


(それにしても王子様は何がしたかったんだろう? 俺とマリアの部屋を使えなくするならともかく、俺の部屋だけを使えなくするなんて……)


 王子の意図を読み切れず、どうしてももやもやしてしまう。


「? どうしたの? 入らないの?」


 マリアのドレスのホックを外した後、王子の意図について考えていた俺に、ドレスを脱ぎ終わったマリアが声をかける。


「ん? んー……いや、なんでもない。服を片付けてから行くから先に入ってて。後から行くよ」

「そう? 分かったー! 先行ってるね」


 裸のマリアが元気よく返事をしてからお風呂場に向う。


(ま、分かんない物はいくら考えても分からないか。せっかくマリアと同室になれたんだ。この新生活を楽しもう!)


 マリアが脱いだ服と自分の服をクローゼットにかけてから俺も風呂場に向かう。


「お待たせー」

「んーん。お洋服仕舞ってくれてありがとう! お湯はっておいたよー」

「おー、ありがと!」


 大きな風呂だが、魔道具のおかげで、一瞬でお湯を張れるようだ。温度も熱すぎずぬるすぎず、丁度いい。


「あー……気持ちいいー」

「気持ちいいね………………一緒の部屋になれてよかったね!」

「そうだな」

「ふふふ」


 風呂の中でマリアがくっついてくる。


「本当はね。ちょっとだけ怖かったんだ。寮ではクロちゃんと離れて暮らす事になるって思ってたから……」

「………………」


 物心着いた頃から、俺とマリアは一緒に暮らしていた。お互いの両親が死んで、村の皆が死んだ時も、マリアはずっと一緒だった。食べ物がない時、魔獣に襲われた時、病気になった時、いつもマリアが側にいてくれたから何とかなったのだ。


「………………俺も、マリアと離れるのは怖かったよ」

「ふふふ。そっか。そうだよね」


 マリアが俺の上にのって、上目使いで見つめてくる。


「これからもよろしくね、クロちゃん」

「うん。こちらこそよろしく」


 俺は自分の上で笑みを浮かべているマリアを、優しく抱きしめた。




【side フィリップ王子】



 俺は取り巻き達と一緒に4階(自室)でくつろいでいた。


「くっくっく。あいつ、今頃、驚愕してるだろうな」

「いきなり『共有部分で暮らせ』ですからね」

「俺だったら間違いなく学校辞めますよ」

「私もです。ですが、あいつは平民。せっかく入れた学校を簡単にやめる事は出来ないでしょう」

「つまり、あいつはどれだけみじめでも、共有部分で暮らすしかない、と」

「そういう事だ。くくく。あっはっはっは」


 買収したライス先生には『クロ(あいつ)の部屋を使えなくしろ。他の空き部屋にも住ませるな』と言ってある。情報によると、現在あいつに男友達はいない。つまり、あいつはこの学校で暮らそうと思ったら、共有部分で暮らすしかないのだ。


「あいつがどうなるか、見ものだな。しかし、やはり見たかったな。あいつが驚愕している所を」

「それは……申し訳ありません警護担当者の頭が固くて……」


 俺達が住む予定だった魔法戦略科の寮には、万全の警護体制が敷かれていたが、ここ、魔術科の寮には、そんなものは無かった。そのため、警護の都合上、俺達だけ先に部屋に入る事になってしまい、あいつの驚く様を見る事が出来なかったのだ。


「まぁ、仕方あるまい。警護担当者も職務なのだ。あまり悪く言ってやるな」

「フィリップ王子……なんとお優しい」

「流石です、フィリップ王子」


 取り巻き達が俺を褒めたたえる。


(ふふふ、俺は傲慢な兄上とは違うのさ。ふふふ。あはははは)


「さて、明日から授業開始だな」

「はい。週末の演習に向けての基礎講習ですね」

「むぅ、基礎講習か。今更面倒だな……」

「そうですね。フィリップ王子であれば、授業は出られずとも良いのではないでしょうか? 学校の評価は、演習の評価で決まりますし」

「そうだな。ああ、そう言えば、演習の翌日は、演習の成績を発表するパーティーが開かれるのだったか?」

「そのとおりです。今年はフィリップ王子がおられるため、国王陛下やクラリス王女も参加されるとあり、皆、張り切っております」

「ふむ。では、パーティーにむけて、マリアにドレスを贈るとするか。俺の色である金色をあしらったドレスを用意しておけ」

「はっ! しかし、その……マリア嬢のドレスのサイズが分からないのですが……」

「そんなものは先生から聞き出せばよい。よいな?」

「はっ! 承知いたしました」

「うむ。……それで? 演習の内容は?」

「『魔獣の森』にて魔獣狩りです。初回のため、Eランク以下の魔獣しか出ないよう、先生方が対応されております。フィリップ王子には物足りない演習となるでしょう」

「ほう……『魔獣の森』か……ふむ」


 演習の内容を聞いた俺は、ある事をひらめいた。


(しかし、Eランク以下だとさすがにきついか? いや待てよ? そうだ、『あれ』を使えば……いける……いけるぞ! うまくすれば、演習であいつをかたずけて、マリアを手に入れられる!)


 自分の考えに熱中しすぎて黙った俺に、取り巻きが声をかけてくる。


「あの……フィリップ王子? 大丈夫ですか?」

「ふふ、あはははは! 良い事を思いついた! おい、演習の時、俺達とマリアが同じ班になるように根回ししておけ! あいつも一緒に、な」

「え? クロも一緒に……ですか?」

「ああ。まぁ、もし演習の日までこの学校に在籍していたら、の話だがな。くくく。あっはっはっはっは!」


 せっかくの作戦だ。取り巻き達にも内緒にしておいた方が面白い。事前準備は俺一人で出来るし、その時作戦の内容を知っているのは、俺一人の方が都合がいい。


 俺はその日から授業をさぼり、演習に向けてあるものの準備を始めた。





 そして、演習の日がやって来る。

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