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0話.ある過去の話【こうして俺は詠唱魔法を極める……のだが、実は本編とあんまり関係ないお話】

前作より少し長めですが本日中に完結予定ですので、ご安心ください。


過去の出来事から物語スタート! 学園生活は次話から始まります

【side クロ 10歳】



「ねぇ、クロちゃん。いい加減、意地張るのやめようよ……」


 模擬戦用のシールドを割られた俺にマリアが話しかける。


「いいの! これが俺の魔法なんだから!」

「でも……これで私の9連勝だよ? このままじゃ今日も私の10連勝で終わっちゃうよ? 無詠唱じゃなくてもいいから、せめて短縮詠唱を覚えれば……」

「う……い、いいんだよ! 俺は俺の道を行くの! ほら、次行くよ! 【火の精霊よ、俺の求めに応じて――】」


 俺は模擬戦用のシールド発生装置を起動して、走りながら【火球(ファイアーボール)】の詠唱を唱えた。


「もぉ……えい」


 半ば不意打ち気味に開始してしまったが、対戦相手のマリアは落ち着いてシールド発生装置を起動してから、無詠唱で【火球(ファイアーボール)】を放ってくる。


「――っ!【――火の意思を束ね、敵を葬る――】」


 俺は飛んできた【火球(ファイアーボール)】を何とかかわしながら詠唱を続けた。


「えい、えい、えい」


 俺が最初の【火球(ファイアーボール)】を交わしたのを見て、マリアは3連続で【火球(ファイアーボール)】を放ってくる。


「っ! うっ! 【――火球を発生させ】ぐあ!」


 パッリーン


 3発目の【火球(ファイアーボール)】を躱し切れず、俺のシールドが割られてしまう。


「クソッ! あと少しだったのに!!」

「惜しかったね。でも、クロちゃんの詠唱が終わってたとしても、勝てたとは限らないよ?」

 

 そう言ってマリアは【水壁(ウォーターウォール)】の魔法を発動させる。


「……それで【火球(ファイアーボール)】が3発しか飛んでこなかったのか……」

「エッヘン! ちゃんと備えてたんだもん!」


 マリアの言葉に、俺は脱力してしまう。もう少しで勝てそうだと思っていたさっきの模擬戦だが、実際は、全く勝ち目がなかったのだ。マリアは俺の動きや詠唱が早くて、3発しか魔法を放てなかったのではなく、俺の魔法が完成してもいい様に備えていただけなのだから。


 というのも、無詠唱魔法とはいえ、好き勝手に魔法を使えるわけではない。魔法を使うには、精霊に()()()()『お願い』して対価として自分の魔力を差し出す必要がある。無詠唱魔法は、その『お願い』を、心の中で行っているだけなので、複数の属性の魔法を使おうとすれば、複数の精霊に『お願い』する必要があるはずなのだが……


「水の精霊に『お願い』しながら、火の精霊にも『お願い』するなんて反則だろ……」

「そんなに難しくないよ? 精霊さん()に『火を飛ばしながら水で守る準備をしておいて』って『お願い』するだけだもん」

「………………そんな『お願い』で魔法が発動するのはマリアだけだ」


 人間に流れている魔力には個人差があり、精霊によって好かれやすい魔力と好かれにくい魔力がある。それにより、得意な魔法が決まってくるのだが、マリアの魔力は全ての精霊から非常に好まれているようで、多少適当な『お願い』でも、ちゃんと魔法が発動するとのことだ。


「ほんと、精霊に愛されてるよなぁ……」

「えー、そうなのかな? 自分じゃよくわかんないや」


 ちなみに俺の魔力は量こそ人より多いものの、質的には可もなく不可もなくといったところだ。ちゃんと『お願い』すれば、たいていの精霊は力を貸してくれるが、マリアのようなお願いでは力を貸してはくれない。


「ま、とにかくこれで私の10連勝だね! 今日もクロちゃんが家事当番だよ」

「ちぇ……分かったよ。晩御飯はゴブリン肉のシチューで良いか?」

「えー、ゴブリン? シチューにするなら、オークのお肉がいいなぁ」

「お前がそう言うからこの辺のオークを狩りつくしちゃったんだよ! 何頭のオークを倒したと思って――」

「「「ぶぅぉぉおおおんんんん!!」」」

「「きゃー!!!!!」」

「「――っ!?」」


 帰り支度を始めていた俺達のもとに、オークの特徴的な鳴き声と女性の悲鳴が聞こえてくる。


「今の……行くぞ! マリア!」


 俺は声がした方に駆け出した。


「うん! 晩御飯はオーク肉のシチューだ!」

「………………」


(せめてオークが5頭以上いますように……あ、いや、それだと襲われている人たちが危ないか……でも3頭じゃ絶対足りないし…………お、俺達が駆けつけてからオークがいっぱい現れますように!!)


 マリアにつられて、一瞬不謹慎な事を考えてしまったが、慌てて考えを改める。すぐ後ろを走るマリアが、満面の笑みを浮かべているのは、努めて気付かないふりをした。




「ぶぅお!」


 ガッシャーン!


「ぶぅお! ぶぅお!」


 ガシャガッシャーン!!


「ぶぅぉぉおおおん!」


 ガシャガシャガッシャーン!!


「きゃぁぁああーー!!」


 少し走ると、オーク達が横転した馬車に棍棒を振り下ろしている様子が見えてくる。

 

「(あそこの茂みに隠れよう!)」

「(おっけい!)」


 俺はマリアと一緒に近くの茂みに身を隠した。


「(オークは3体。馬車は横転しちゃってるけど、防御機能はちゃんと発動してるね。あれならもうしばらくはもつはず)」

「(むぅ、3体かぁ。少ない……)」

「(……あれ以上いたら、馬車の防御機能も壊されてたよ。文句言わない)」

「(あ、そっか。ごめんなさい)」


 いくらマリアでもちゃんと理解すれば、自分の食欲より人命を優先する。単に、一般人にとってオークが脅威であるという事を理解できないだけなのだ。


「(それじゃ、とっととやっちゃおう。警戒、よろしく)」

「(らじゃ!)」


 俺が詠唱を唱えている間、マリアが周囲を警戒する。いつもの流れだ。


「【火の精霊よ、俺の求めに応じて火の意思を束ね、敵を葬る火球を発生させよ――火球(ファイアーボール)!】」


 今回は(オーク)に気付かれることなく詠唱を終える事が出来た。俺の『願い』に応じて、火の精霊が俺の魔力を糧に魔法を行使してくれる。


 ドンッ!!


「「「ぶぉぉおおおんんんん!!!」」」


 【火球(ファイアーボール)】が、俺が敵と認識したオーク達に命中し、その身を焼いた。俺の【火球(ファイアーボール)】では、オークを即死させるには火力が足りず、オーク達は長く苦しむことになるが、まぁ仕方がないだろう。もっと強い魔法だと、オークが丸焦げになっちゃうからとか、そんな理由ではない。ないったらない。


「んー、良い匂い! 早く食べたいなぁ」

「慌てない慌てない。オーク肉はじっくり煮込んだ方が美味しいんだから」

「ふふふ。はーい」

「いい返事…………っと、そろそろいいかな?」


 オーク達が動かなくなったことを確認し、俺は魔法を解除する。今回も焦がすことなく、きっちり焼き上げる事が出来て良かった。万が一、焦がすようなことがあれば、それはオークへの冒涜だ。そんな事、絶対に許されない。


「よし! マリア、急いでオーク肉を運んで血抜きをしておいて。内臓の処理もお願いね。俺は馬車を確認するから」

「了解! ほいっと」


 マリアが無詠唱で風魔法を発動させ、3体のオーク肉を宙に浮かせ、家の方に運んで行った。


(ちゃんと心臓が止まらない程度の火魔法で殺したぞ。あれなら、急いで帰って血抜きすれば、最高のオーク肉になるな。ふふふ、夕飯が楽しみだ。さてと……)


 俺は警戒しながら馬車に向かう。残念ながら、馬車を引いていた馬はオークに殺されていたが、馬車の防御機能は生きているから、中にいる人は無事だろう。


(あ、しまった……マリアに馬車を戻してもらえばよかった)


 横転した馬車を戻す程度なら、マリアの無詠唱の風魔法で事足りる。


(ま、まぁ、ちょうど風魔法の練習をしたかったからな。うん。そうさ。練習にちょうどいいから俺がやろうと思ったんだ。うん。決して、オーク肉を美味しく食べるために、判断を誤ったわけじゃない!)


 誰にするでもなく、心の中で言い訳をしてから、俺は詠唱を始めた。


「【風の精霊よ、俺の求めに応じて風の意思を束ね、対象を浮かせる風を発生させよ――飛行(フライ)!】」


 俺が詠唱を終えると、横転した馬車が浮き上がり、正しい向きに姿勢を変える。


「きゃー!!」


 馬車が姿勢を変えるために揺れたタイミングで、馬車の中から少女の悲鳴が聞こえた。


(あ……馬車の中の人に声かけるの、忘れてた…………)

 

 もやは認めるしかないだろう。俺はオーク肉のせいで完全に気がそぞろになっているようだ。


(ふー。落ち着け……ゆっくりと……丁寧に……)


 俺は浮かせた馬車を丁寧に地面に降ろす。問題なく馬車が地面に降りたのを確認してから、俺は大きめの声で話しかけた。


「すみません! オークに襲われていたようなので手を貸しました! 大丈夫ですかー?」

「……え? あ、えっと……わ、私は大丈――!? パパ!? ママ!? ち、血が!」

「っ! 馬車の防御機能を解除してください! 俺が助けます!」

「え? え? なに? 解除? わ、分かんない、分かんないよ!」


 少女は親が血を流しているのを見てパニックになっているようだ。俺はなるべく優しく、頼りがいがありそうに聞こえる声となるように意識ながら少女に話しかける


「落ち着いて。大丈夫。大丈夫だから。馬車の扉を開けられるかな? それで防御機能は外れるはずだから」

「扉? こ、こう?」


 馬車の扉が内側から開くと同時に、馬車の防御機能が停止し、俺は馬車に近づく事が出来た。


「よしっ! よくできたね! もう大丈夫だよ」


 少女が開けた扉から俺は馬車の中に入ると、扉の側にいた少女が俺に抱き着いてくる。


「あ、あぁ……怖かった……怖かったよー!」

「よしよし。もう大丈夫だから落ち着いて。ご両親は?」

「――っ! そうだ! お願い! パパとママを助けて!!」


 俺に抱き着いても震えが止まらない少女の後ろに、少女のご両親と思われる人物が頭から血を流して倒れているのが見えた。どうやら横転した拍子に壁に頭を打ち付けたらしい。


(出血はそんなにひどくない……呼吸も問題なさそうだ……これなら……)


「【癒しの精霊よ、俺の求めに応じて癒しの意思を束ね、かの者の癒しを加速させよ――治癒(ヒール)!】」


 自然治癒力を加速させるだけの魔法だが、効果は十分だったようだ。出血が止まっていることを確認してから、少女に話しかける。


「とりあえず血は止まったね。とりあえずはこれで大丈夫だ。でも、頭を打ってるから戻ったら、ちゃんとお医者さんに診てもらうんだよ」

「え……あ、うん! あ、ありがとう!」


 少女は両親が大丈夫と聞いて大分落ち着きを取り戻したようだ。未だに抱き着いたままではあるが、震えは止まっている。


「凄い! 私と同い年くらいなのに、もう魔法が使えるんだ!」

「え? 俺、もう10歳だよ?」

「ほんと! じゃあ、同い年だ! 私、サリー! よろしくね!」

「同い年!? ――あ、うん。えっと、俺はクロ。よろしく」


 2、3個年下だと思っていた少女(サリー)が同い年だとわかり、今度は俺が動揺してしまう。


(って事は、マリアと同い年なんだよな? それにしては……)


「……今、失礼な事考えてない?」

「――っ。そそそ、そんなことないよ?」


 とある場所がマリアの方が大きくいなぁとか、そんなことは考えてはいない。ないったらない。


「じー……」

「え、えっとぉ…………」


 サリーに抱き着かれたまま上目遣いで見られ、思わず目を逸らしてしまう


「…………ふーんだ! まぁ、良いけど! とにかく、助けてくれてありがとうね! そうだ! クロ様は魔法使いなんだよね! だったらいいものあげる!」

「え、いや、そんな、別に……ってクロ様?」


 遠慮しようとする俺をスルーして、サリーは俺から離れ、馬車の床板を外した。


(床下収納? 珍しいな……って! その床板、秘匿魔法かかってるじゃん!! え? これ俺見ても大丈夫か?)


 秘匿魔法は、特定の場所をあらかじめ指定した特定の人物にしか開封できなくする魔法だ。かなり高度な魔法で、大切なものを保管する倉庫や、大切な物を運ぶ馬車などに施されている。主に、国宝級のお宝や門外不出の秘伝書を保管する際に使われる魔法なのだ。


「んー……あ、あった! はい、これ!」


 そんな秘匿魔法が掛けられた床下に収納されていた古びた書物を、サリーは俺に渡してきた。


「えっと……これは?」

「うちに代々伝わる秘伝書だよ! 『精霊図鑑』っていうの!」

「秘伝書!?」


 そんなもの受け取れるわけない。そう思っていたのだが……。


「うん! これを読めば『詠唱魔法を極める事が出来る』らしいよ!」

「――!?」


(『詠唱魔法を極める事が出来る秘伝書』! え、何それ凄くない!? 欲しい! 凄く欲しい! サリーもくれるって言ってるし、命の対価に、これぐらい良い……よな?)


「ん……うぅ…………こ、ここは?」

「――! パパ!!」


 俺がそんなことを考えていると、サリーの親父さんがうめき声をあげた。どうやら、意識を取り戻したらしい。


(親父さんが意識を取り戻した以上、長居は無用だな。馬車の防御機能が作動した時に救難信号も出てるはずだし…………)


 決して、お父さんの眼が覚めたら秘伝書がもらえなくなると考えたわけではない。ないったらない。


「それじゃ、サリー。俺は行くね。秘伝書、ありがとう!」

「え、あ、クロ様!?」


 俺は、急いで馬車を後にした。後ろでサリーと親父さんが何か会話をしていたが、努めて聞こえないようにする。秘伝書を大事に抱えて、俺は家へと急いだ。




 ちなみに、家に帰ってすぐ秘伝書を読み始めた俺は、その内容に熱中しすぎてしまい、マリアにオーク肉をほとんど食べられてしまうのだが、それは別の話である。………………ぐすん。

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