再びの小部屋
再び訪れた小部屋の中には、スロース筆頭書記官に第一騎士団副団長オズモンドは勿論のこと、模擬戦で剣を交えたアズバーンも控えていた。
ルーテの顔が引きつったのは言うまでもない。
それどころか「うげっ」と変な声も出てしまった。
目が合ったアズバーンは、その声を聞いて片頬がピクリと動いた。
しかし、それだけに留まり、静かに控え続けている。
案内を務めた女性騎士カトリも、オズモンドの後方、アズバーンの位置と対称に控えた。
「ルーテ殿。まずは模擬戦を引き受けてくれてありがとう。済まなかったな。必要なこととは言え、苦労をかけた」
「あっ、ハイ。引き受けたというか、引き受けさせられたというか、死にかけたというか」
「グフッ」
女性騎士カトリが吹き出す。
オズワルドが横目で確認した時には既に、無表情に戻っていた。
「ともかく。互いに自己紹介は充分だろう。
ネフィの捜索には、騎士団の全力を持ってあたる。だが相手はあのネフィだ。ルーテ殿には別の視点で、独自にネフィを追ってもらいたい。
護衛と連絡用に、この両名をつける。実力は、ご覧になった通りだ。
騎士アズバーン、騎士カトリ。しかと頼む」
「「ハハッ。この身命に代えましても」」
何かの決まった動作であろう。
アズバーンとカトリは揃って一歩前に出て跪き、声もピタリと合わせて喋った。
その口角は、片や苦々しく下がり、片や嬉しそうに上がっていたものの。
面喰ったのは、ルーテである。
騎士カトリはいい。宿舎で目覚めてから何くれとなく世話をしてもらい、その気遣いの素晴らしさと接し易さで、何の抵抗もない。
剣の実力は分からないが、女性ながら第一騎士団に所属している時点で尋常でない腕前だろうし、ルーテを運べるほどの力持ちらしいし。
でも、騎士アズバーンはちょっと……いや、かなりご遠慮したい。剣の腕に疑いの余地はないし、その部分については確かに、自己紹介は充分過ぎるほどだ。
しかしながら、どう前向きに見ても、アズバーンがこの待遇に納得しているようには見えないし、身の危険を感じる。
しかも、騎士団員の二人を伴って、つまり自分がリーダーとして率いて、ネフィ捜索を独自に行え、なんて。
無理ムリむりやっぱ無理。
ルーテはしどろもどろになりながら、なんとか断ろうとした。
騎士アズバーンの精神的健康を心配したりと、とにかく思いついたことを全てひねり出して語り尽くした。
だが、副団長オズモンドが一言、騎士アズバーンにこう問いかけて、
「騎士アズバーン。騎士の誓いを違える積もりはあるか」
「ハッ。この身命に代えまして、騎士の誓いを違えることはありません」
こう答えてしまって、結論が出てしまった。
こうして、隊長ルーテ。
護衛騎士アズバーン。
補佐カトリ。
王宮の小部屋で独立ネフィ捜索隊が結成されたのだった。