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凄腕占い師の妹  作者: たつたろう
第1章 ネフィ追跡隊の結成
7/10

ルーテの二つ名

 訓練場での模擬戦でルーテは倒れてしまったため、騎士団宿舎で休息している。

 ルーテの回復を待って、今後について、再び話すことになっていた。


 アズバーンは小部屋に戻っていた。


「剣が荒れていたぞ。アズバーン」

「ハハッ! ……申し訳ございません」


 隻眼の副団長オズモンドより、苦言を呈されてしまった。

 剣が荒れていたことについては、アズバーン自身も承知している。


 体格差、積み上げた技術の差、スピード。

 あらゆる面で、アズバーンはルーテに勝っていた。

 ルーテは確かに、不様に転げまわってはいた。いたのだが、本当に不様だったのは、冷静さを欠き、剣を大振りして、あまつさえ一撃入れられてしまっていた自分の方だ、と。

 そう感じていた。


「やはり、似ていたか、。あの剣に」

「……ハッ」


 あまりの悔しさに、自然とこぶしを握り締める。

 ルーテに一本取られたことではなく、今、アズバーンはネフィと対峙した時のことを思い浮かべていた。


 あの時も、そうだった。


 当たるはずの剣。

 構えや姿勢から考えて、避けられる筈も無い剣を、軽々と、何度も。


 ルーテの腕前ならば、初撃で終わっている筈だったのに。

 完全に虚を突いた筈の初撃は避けられ、続く連撃もすべて、決定的には当てることができなかった。

 ルーテの構え、目線、感じられる圧、そのどれをとっても、ここまでの結果を招く要素などありはしなかった。

 騎士としての誇り、そして、その経験には、絶対の自信があった。


 ネフィを取り囲み、斬りつけた時だって、そうだった。

 油断などしていない。

 できる筈も無い。


 ネフィに手も足も出ず、次々と味方を殺され、身も心も打ちのめされた。

 あの恐ろしい惨劇から、たったの三日しか経っていない。


 何の事情も知らず、ただ姉を心配している様子のルーテを見て、怒りに身が震えた。

 こんな、小娘に。

 こんな小娘とさほど変わらない、占い師のネフィに。

 同僚を、尊敬する騎士団長まで、為す術もなく殺されて。


 知らず殺気立っていく自分を抑えることなど、できはしなかった。


「あまりに……未熟。面目次第もございません」

「うむ」


 悔しさのあまりに搾り出した言葉に、オズモンドはひとつ頷き、語り掛けてきた。


「気に病むでない。誰がやっても、似たような結果に終わったであろう」

「……ハッ。しかし……」


 騎士団員の誰であっても、そうだったかも知れない。

 たったひとつの例外は、目の前のオズモンドではないだろうか。

 ネフィに片目を貫かれながらも一太刀入れ、ルーテに対しても冷静さを損なわない、この方なら。

 アズバーンは、そう思った。


「ルーテ殿の、冒険者としての二つ名は、知っているか」

「ハッ、二つ名、でありますか」

「うむ」


 名の売れた騎士や冒険者には、二つ名がつく。

 気に入れば自ら名乗る者もいるが、大抵は戦闘スタイルや容姿などから、周囲が呼び始め、広まっていくものだ。

 王室占い師のネフィならば『予見』、第一副団長オズモンドならば『不倒』といった具合にだ。


「ルーテ殿の二つ名は、『察知』だ」


 アズバーンが知らないと判断したらしい。オズモンドは答えを告げる。

『察知』。

『察知のルーテ』。


 死角からの攻撃や奇襲。

 ダンジョンの中で発動する罠。

 オズモンドの語るところによれば、ルーテはこれまでの冒険で、致命的な攻撃や罠の尽くを事前に『察知』し、事なきを得てきた、と言うのだ。


 知識も経験も、技術も大したことは無いのに、何故か生き延びることができる。

 それが、『察知のルーテ』だというのだ。


 ネフィと比べてしまえば、大したことは無い。

 だが、その特性は、あのネフィに似ていて、そして……。


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 この話を聞いて、初めてアズバーンは、今回の模擬戦の意味を知ったのだった。

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