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凄腕占い師の妹  作者: たつたろう
第1章 ネフィ追跡隊の結成
6/10

訓練場にて

 しぶしぶ承諾の返事をしてすぐのこと。

 ルーテは王宮内騎士団宿舎に併設されている訓練場に来ていた。


(なんでこんなことになっちゃってるんだろうな)


 ルーテは、訓練場で、「青ざめ騎士」ことアズバーンと、鉄剣片手に向き合っていた。


 姉の追跡隊に参加するのは、構わない。

 ルーテ自身も、姉の安否が気にかかるし、もし本当に姉が乱心したのならば、そのわけを知りたい、問い質したいと考えているからだ。


 先の小部屋にいた者たちは、全員、訓練場の周りにいる。

 それどころか、騎士の数が増えている。

 筆頭書記官のスロースには、アズバーンと模擬戦を行うことも、ルーテの身の安全の為には必要なことだと言われて、仕方なく剣を手に、向き合っていた。


(帰りたい……)


 眼前のアズバーンからは、鬼気迫る圧力が伝わってくる。


 周りの騎士たちからは、逆に澱んだような、静かで、それでいて暗く観察するような視線を向けられている。

 聞けば、周りの騎士たちは皆、第一騎士団員だそうだ。

 つまり、姉と直接戦い、そして蹴散らされた騎士団、ということになる。


(胃が痛いわ……どうしてこんなことになったのか……。姉さん、恨みますよ……)


 優秀な姉と別れ、順調に自らの道を見つけ、歩きだしていたというのに。

 何の因果か、巻き込まれ、姉を意識せざるを得ないこの状況。

 泣きたいほどに、辛い。


 模擬戦の立ち合いを務めるのは、副騎士団長オズモンド。

 第一騎士団以外に立ち合わせることは、秘密保持の観点から望めない。

 かといって、第一騎士団内で公正に立ち合えるのは、オズモンドをおいて存在しない。

 何より、アズバーンが暴走した時、止められる技量が必要だから、と。

 スロースに言われていた。


 ルーテには不安しかない。

 どう見てもアズバーンは殺しにくる気迫を出している。

 立ち合いのオズモンドにしても、姉に片目を貫かれたらしいし。

 確かに落ち着いて部下を抑えてくれているように感じてはいたけれども。

 内心、ネフィとその家族であるルーテに思うところがあるのは確実だろう。

 何一つ安心できない。


 だが、状況はルーテを待ってはくれないようだった。


「両者構え。はじめ」


 無情にも、オズモンドの号令がかかる。

 同時に、力強く地を蹴ったアズバーンが、一直線にルーテへと向かってきた。


「どわひゃあっ!」


 いきなりの眉間突き。

 模擬戦とは、何だったのか。殺意しか見えない。

 ルーテは頭を抱えてうずくまり、どうにか初撃を躱した。


 続く二撃目。

 突きの体勢から剣を引き戻したアズバーンは、大きく振りかぶり、振り下ろした。

 体勢の崩れたルーテに、その振り下ろしを防げるわけもない。

 否。例え万全の体勢であったとしても、到底防ぎきれないであろう。


「わっひゃあああああああぁぁ!」


 二撃目も、ルーテは何とか躱した。

 横っ飛びに転げ、不様にゴロゴロと回転してのことだった。


 三撃目は、掬い上げるような斬り払い。

 剣を立てての防御ごと押し飛ばされた。


 四撃目は、切り返し。

 倒れ込むようにアズバーンの脇を駆け抜け、勢いのまま顔から転げた。


 五撃目は、蹴りとばし。

 これはまともにもらってしまった。



 その後も、「うっひゃい!」「わひょおおおぉぉぉぉ!」「ふぉおへえええええ!」等、ルーテは様々に奇声を上げながら、時にアズバーンの剣に剣を合わせ、あえなく弾き飛ばされ、土まみれになって訓練場を転げまわっている。


 なんで止めてくれないの? とルーテは必死の表情でオズモンドを見やったのだが、オズモンドはどこ吹く風。

「ころされるうううぅぅ!」「たすけてええええ」と、悲痛な叫びが響き渡るも、眉一つ動かす気配もなかった。


 そんな調子で、ズタボロにされ、フラフラとしているルーテ。


 アズバーンは、止めを刺すべく、剣を構え直して、斬りかかった。

 足元がふらつき、もはやルーテに防ぐ術は無かろうと周囲を取り巻く騎士たちの誰もがそう思っていた。


 その時。


 フラリ、と大きく体を傾げたルーテは、足を踏み外したかのように半回転。

 アズバーンの死角から背中へと、遠心力の乗った鉄剣が打ち下ろされた。



 ぽす。



 ただ、あまりにもフラフラだった為か、情けなく音を立て。

 ルーテは崩れ落ちた。


「それまで!」


 静まりかえった訓練場で。

 剣を振り抜いた体勢のまま、アズバーンは一人、呆然と固まっていた。

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