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凄腕占い師の妹  作者: たつたろう
第1章 ネフィ追跡隊の結成
5/10

姉の乱心 詳細説明

(姉が……乱心?)


 辛うじて、声を抑えたルーテ。

 しかし、内心では嵐が吹き荒れていた。

 そんなルーテの内心を読んだかのように、スロースはひとつ頷いて、先を続ける。


「そうだ。ネフィは乱心し、騎士団長のデズールを殺害。続いて、取り囲んだ騎士団員を次々と殺傷し、ここにいるオズモンドの片目を貫いて、悠々と出て行ったよ」


 姉が、騎士団長を殺害した。

 騎士団を相手にして圧勝したうえ、今、この場にいるめちゃめちゃ強そうな偉丈夫を打ち負かし、眼帯の偉丈夫にしたというのだ。

 一体、どうやって……。

 ルーテは姉が戦っている姿など、想像できなかった。いつも静かに座って、相談にきた相手の話に相槌を打っている。

 ルーテの記憶の中にいる姉は、そんな姿をしているというのに。


「ま、魔法を使ったとか、ですか?」


 ルーテは、姉が魔法を使ったところを見たことはなかった。

 しかし、占いができるのだから、きっと魔法も使えるに違いない。

 そうだ。魔法ならば、屈強な騎士を複数相手取っても、きっと戦えるのに相違ない。

 姉は凄腕の占い師なのだから、凄腕の魔法使いでもあるのだろう。


「いいや。ネフィは魔法など使わなかった。使ったのは、一振りの剣。宝剣ブレイブ、だな」

「す、すごい剣なのですか?」

「無論。何といっても、騎士団長の振るう剣だからな。ネフィは騎士団長の剣を奪い、殺害し、そして去っていった」


 話を聞けば聞くほど、姉のしでかしたことは、とんでもないことだと思えてくる。これでは、国家反逆者ではないか。ルーテを含めて斬り殺されても、文句は言えないだろう。

 アズバーンの様子を見ていて情緒が不安定だと感じていたが、今は逆に、他の護衛騎士やスロース、そして、姉に片目を貫かれたというオズモンドの態度の方が、不自然なほどに落ち着いていると言えよう。


「あ、あの、にわかには信じられない、というか。姉が剣を使うところなど見たことも無かったもので。そ、その、宝剣ブレイブというのは、魔剣なのですか?」


 おそるおそる、ルーテは質問した。

 あるひとつの期待を持って。

 しかし、その期待は、すぐさま否定されることとなった。


「確かに、宝剣ブレイブは魔剣だ。ルーテ殿が何を期待しているのかは分かる。

 しかしながら、宝剣ブレイブに人の心を支配するような強い影響力はない。

 逆に、戦場などで冷静さや勇敢さを損なわないよう、鎮静作用があるくらいだ」


 ひとつ、またひとつと希望を打ち砕かれていく。

 どうやら、姉は本当に乱心してしまったらしい。


「そういうわけだ。ただ、市民は占い師に騎士団長を殺害され、騎士団を蹴散らされたと言っても、理解できないだろう。まして、周辺諸国への影響ははかり知れない。

 栄光ある王国騎士団が、たった一人の占い師に剣で負けた、などと、到底知らせられるものではない。

 そこで、王国発表のような形をとることになった。この事実は、デズールの遺族にすら知らされていない」


 それは、そうだろう。

 王国は大国だが、四方をそれぞれ別の国に囲まれている。

 王国騎士が弱い、などと誤解されれば、すぐにでも攻め寄せてくるだろう。


「王国騎士団長が乱心した、というのも、騎士団の名誉を著しく損なうことに変わりはない。

 ただ、強さにまで不信感を与えるわけにはいかず、また、姿を消した者を偽ることも、完全にはできない。よって、こうする他、なかった」

「お話は……まだ全ての整理がついたわけではありませんが、分かりました……。

 あ、あの、それで、どうして私は呼ばれたのでしょうか。お話からすると、デズール騎士団長のご遺族は、デズールさんが亡くなったことも知らず、乱心なさったと誤解されて、大変心配なさっている、ということです……よね?

 私なんて、ただの冒険者ですし、何も知らされないままでもおかしくないっていうか……」

「その通りだ。突然のことなのに、随分と冷静に飲み込んでくれるものだな。

 話が早くて助かるが、ネフィに通じるものがあると思えば複雑な感情が涌き上がってくるのを止められないな」

「あ、あの、本当にすみません! 本当に、何をどう言ったらいいのか……」

「よい。それ以上、言ってくれるな。皆、頭では分かっている。

 気持ちは、そうすぐには追いついてこないがな。

 デズールの遺族は、謹慎、という形で騎士団で保護している。

 本当は、事実を知らない心無い者たちに害されるのを防ぐためだ。

 そして、似たような危険は、ルーテ殿。貴方の身にも迫っている」

「えっ!?」

「事実は、徹底的に伏せられてはいるが……見ての通り、騎士であっても感情を抑えきれない。

 いずれ、秘密は漏れてしまい、王国は大混乱に陥るだろう。

 そこでだ、ルーテ殿。貴方には、ネフィ追跡隊に参加してもらいたい。

 速やかにネフィを見つけ出し、王国の危機を退けて頂きたい」


「王国の危機を退ける……姉を殺せ、ということですか?」

「いや、貴方に期待しているのは、ネフィを探し出すことだ。

 ネフィが姿を消し、我々には、その行先に見当がつかない。

 だが、手をこまねいているわけにもいかない。

 それに、単純に武力を揃えたところで、ネフィに敵う筈もない。

 まず、ネフィを見つけ出す。可能であれば捕縛、あるいは殺害したいところではあるが、実際に求めているのは対話だ」

「随分はっきり言うんですね。肉親に対して」

「最初に言っただろう。はっきり言おう、と。それで、どうする? 引き受けてくれるだろうか」


「……引き受けなければ?」

「この場で放免だ。今後、何かを求めることは無い。

 ただし、重大な秘密を知られたからには、監視がつくことは免れない。

 その上、どこからか情報が漏れた場合に、身の安全は保障できないな」

「ずるいですよ。

 私が何をしたわけでもないのに、わけも分からず呼び出されて……こんなの、断れるわけないじゃありませんか……」

「心苦しいとは思っているよ。我々も手段を選べるほど、余裕もないのだ。飲み込んでくれたまえ」


 八方塞がりとなったルーテは、溜息をひとつついてから、承諾の言葉を口にした。

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