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凄腕占い師の妹  作者: たつたろう
第1章 ネフィ追跡隊の結成
4/10

姉はさらわれたんじゃなかった。むしろ乱心していた

「続きを話しても、よいだろうか」


 返事もしないで放心していたからだろう。

 見かねた様子で、スロース筆頭書記官が問いかけてきた。


「は、ハイ、ハイ! すみません。どうぞ。ここでうかがったお話は口外しません。絶対に」


 ルーテの返答を受け、スロースは瞑目し、ひとつ息をついた。

 いよいよ、ネフィについての話が始まるのだ。

 場の空気が引き締まったように、ルーテは感じていた。

 同時に、向かって左端に控えている護衛騎士から、ルーテを射殺さんばかりに強烈な視線が向けられているのに、気が付いた。


 背筋をシャンと伸ばして控えている護衛騎士からすれば、そこらの

 Cランク冒険者であるところのルーテなど、木っ端に等しいだろう。

 きっと、そんな木っ端が、乞われてとはいえ、筆頭書記官と同じ卓についているのが気に入らないのだろうな、と考え、ルーテは席に着いた尻をモゾモゾと動かした。


 帰りたい。でも話は聞きたい。

 スロースの右後方に佇んでいるオズモンド副団長の方は、ヒゲ面で左目に眼帯までつけていて威厳たっぷりなのだが、左端の護衛騎士のような威圧感はない。

 ただ、威厳はたっぷり3倍盛りはあった。


 埒も無くそんなようなことを考えている間に、話すことの整理がついたようで、スロース筆頭書記官は目を開けた。

 自然、ルーテも背筋を伸ばして、座り直す。


「よろしい。では、はっきり言おう。まず、貴方の姉、ネフィは生きている」

「そ、そうなんですね! よかった……」


 呼び出された道中で、様々に悪い想像をしていたルーテは、つい先ほど伸ばした背筋が早くも緩み、脱力して椅子にもたれかかった。

 左端の護衛騎士から、もはや殺気と呼んでいいほどの視線が飛んできて、実際に一歩、動きかけた。


「控えよ」


 ボソッと。

 ひとこと。

 オズモンド副団長が呟くと、左端の護衛騎士は姿勢を元に戻した。


「失礼した。どうか、先を続けてくれ」


 それだけ言うと、オズモンド副団長は黙った。

 ルーテは、なんとなくまた座り直してから、話の続きを聞く態勢を作る。

 左端の護衛騎士は、姿勢こそ元通りだが、顔色は真っ赤で、こらえきれない怒りのせいか、次第に青白くなっている。

 怒り過ぎではないだろうか。


 ルーテが左端の護衛騎士のことを、密かに「青ざめ騎士」と名付けているうちに、スロースが続きを話し始めた。


「ルーテ殿にとっては朗報かも知れないが、王国にとっても同様かは、分からない。……王国騎士団長のデズールだが、彼は死んだ」


 王国騎士団長。

 乱心の末、数多の部下を殺傷し、ネフィを攫って逃亡したとされている。

 その王国騎士団長デズールが、死んだ?


「じゃ、じゃあ、もう安心なんですね? 姉は今、どこに?」

「何も安心などではない!」

「控えよ、アズバーン!!」


 もうこらえきれない、といった様子で「青ざめ騎士」が怒鳴りだし、副団長が、再度止めた。今度は大音声だ。

 ルーテは思わず、座ったまま腰が跳ねてしまった。


「青ざめ騎士」ことアズバーンは、どうにか黙って元の姿勢に戻ったものの、身体をぶるぶると震わせている。

 副団長オズモンドは横目でジロリとアズバーンを見遣り、徐に口を開いた。


「退室せよ、アズバーン」

「ハッ。……ハハッ!」


「青ざめ騎士」アズバーンは、大層ショックを受けた顔をした後、ギン、という擬音がきこえそうな程にルーテを睨み、踵を返して退室しようとした。

 それを止めたのは、筆頭書記官のスロースであった。

 彼は、片手を挙げて制止しながら、話し始めた。


「よい。……ルーテ殿。王国騎士団は、先の事件で多くの犠牲者を出している。栄光ある王国騎士団の精鋭といえど、心穏やかではいられぬ。どうか、ご容赦頂きたい」

「あ、はあ。なんだか、すみません」


 わけがわからないが、ルーテはとりあえず謝っておいた。

 その軽い調子に、青ざめ騎士が目を剝いたが、今度は自制心が勝ったようだった。


「ルーテ殿。戸惑われるのも無理はないが、ここは一旦、不用意な言動は控えて、話を聞いて頂きたい。このままでは話が進まぬばかりか、これまで心身を磨きに磨き抜いてきた騎士たちを徒に刺激し、疲弊させるだけだ」

「お心遣い、痛み入ります」


 ルーテにはさっぱり要領を得られなかったが、スロースは騎士たちの精神面を心配しているようだ。オズモンドが言葉少なに礼を言う。

 確かに、話がなかなか進まない。その原因の一端が、どうやら自分の言動にあるらしいと遅まきながら気が付いたルーテは、口を綴んで話を聞くことにする。


「ありがたい。さて、王国騎士団長デズールが死に、王室占い師ネフィが生きている。王国発表では、デズールが乱心して部下を殺傷、ネフィを攫って逃亡した、ということになっているが……事実は、ほぼ逆といっていい」

「逆? えっ? ど、どういうことですか?」


 思わず声をあげ、立ち上がったルーテを、スロースはじっと見つめる。

 そうだった、まずは話を聞かなくてはならない。

 ルーテは座り直した。


「つまり、端的に言って、乱心したのはネフィ、だということだ」

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