第八話 予定調整のすれ違い
決意も新たに、ヴィリアンヌを次のお茶会に誘わんとするリバシ。
しかしその決意は若干空回り気味のようです。
どうぞお楽しみください。
「アッシス」
「はい殿下」
自室でリバシは真剣な顔付きでアッシスを呼びました。
「今日は学校でヴィリアンヌを二回目のお茶に誘う」
「……そうですか」
「達成目標は、ヴィリアンヌの希望に合わせた日程を組む事だ……!」
「……はい」
「それに向けてやり取りを、ざっと百は想定した……! これでヴィリアンヌが何を言って来ても、動揺せずに対応できるだろう……!」
「……恐れながら殿下」
「何だアッシス。呆れている様子だな」
「お分かりでしたら幸いです……」
こめかみを指で押さえたアッシスは、言葉を絞り出すように話します。
「……そんな固い決意と入念な準備が必要なものですか、これ……?」
「何を言う! 私が今まで対峙してきたどんな政敵よりも、ヴィリアンヌは手強い相手だぞ!」
「今までの政敵共が聞いたら憤死しそうな発言ですね……」
「お前は心が読めないからわからないのだ! ヴィリアンヌの難攻不落さが!」
「……そこまでご執心でしたら、国王陛下に頼まれれば結婚など容易な話ではありませんか? 公爵家令嬢にして女神の評判、お立場も問題ありませんが……」
「……親に甘えて妻を娶るような男が、国を背負っていけると思うのか」
「……ご無礼を申し上げました」
すっと鋭い表情になったリバシを見て、恋に浮かれているだけではない事にアッシスは安心し、同時に若干の不安を覚えていました。
(この若さで修羅場をくぐりすぎている……。リバシは本当の意味で恋をする事ができるのだろうか……。何もかも策で塗り固められた冷たい人生を歩むだけでは……?)
その日の放課後。
「ヴィリアンヌ嬢。先日は楽しい時間をありがとうございました」
「リバシ殿下。私こそ楽しく過ごさせていただきましたわ。心より感謝いたします」
「それは何よりです。また是非ご一緒したいのですが、前回は私の都合で日程を決めましたので、今度はあなたのご予定に合わせたいと思いますが、いかがですか?」
「私の都合、ですか……」
にこやかに対応していたヴィリアンヌの表情が、ほんの一瞬曇りました。
すかさずリバシは用意していた紙を、ヴィリアンヌに渡します。
「そう言いながら私も色々と都合がありますので、こちらに私の予定を書いておきました。この空いている日で、ヴィリアンヌ嬢のご都合の良い日を指定してください」
「ありがとう、ございます……」
紙の上に目を走らせ、じっと考え込むヴィリアンヌ。
その様子も想定していたリバシでしたが、時間が経つにつれて不安が増してきました。
(これ程悩むとは……。予定に合うならその日を、合わないならこの中では難しいと話すだけなのに……。前回緊張がほぐれたと思ったのは、私の思い違いか……!?)
(あぁ! 早くお返事をしなければなりませんのに、お誘いいただけた嬉しさで、予定が……! いつもなら誦じられる予定が……!)
その沈黙に耐えられなくなったリバシは、
「ではそちらはお持ちください。ご都合の合う日がありましたら、明日お知らせください」
「あ、はい、ありがとうございます」
「では失礼いたします」
笑顔でそう言い残すと足早に教室を去りました。
その後のリバシの自室では。
「殿下。今回の目的はヴィリアンヌ嬢の予定に合わせる事なのですから、達成と判断してよろしいかと」
「うるさいうるさい! 愉快そうな顔をしおって! どうせ大口叩いて失敗したのを面白がっているのだろう!?」
「いえいえ、政敵を鼻歌混じりに追い落とす殿下が、ヴィリアンヌ嬢の前では年相応なのが何ともおかしくて……」
「わ、笑うな! あとその安心の感情は何だ!?」
その頃のヴィリアンヌの自室では。
「リバシ殿下の予定表……! リバシ殿下の予定表……!」
「はいはい、ほわほわしていないで、早く予定を決めてしまいましょう」
「これ、複数の日をお伝えしたら、その分お会いできないかしら!?」
「そんなお約束ではなかったと思いますが……」
読了ありがとうございます。
これにはアッシスもにっこり。
結果として一日待つのは良策だと思います。
次話もよろしくお願いいたします。