第七話 反省会のすれ違い
お待たせしました。
無事にお茶会を終えたリバシとヴィリアンヌ。
帰る馬車でそれぞれ考える事があるようです。
どうぞお楽しみください。
「アッシス」
「はい殿下」
ヴィリアンヌとの茶会を終えたリバシは、帰りの馬車の中で側仕えのアッシスに声をかけます。
「今回の茶会は、最低限の成果は得られた。ヴィリアンヌに多少の緊張の緩和が見られたからな」
「それはようございました」
「しかし問題点も多い。次回までに対策を練るために、今回アッシスから見て改善すべき点を話せ」
「有体に申し上げてもよろしいですか?」
「許す」
「承りました」
アッシスは軽く咳払いをして、眼鏡を胸ポケットから取り出してかけました。
「まずはお誘いで、政治的駆け引きを活用したのは失敗であると思います。恋愛におけるお誘いで、一旦断らせるという選択はありません」
「うっ……、そ、そうだな……」
「次にエスコートの際、馬車を降りるなりあっさり手を離すのは、義務感を感じさせてしまいます。なぜ部屋までそのままご案内しなかったのですか?」
「きょ、今日の今日では早いかなって……」
「そしてお茶会での会話。あんな腫れ物を触るような無難な話ばかりでは、失敗もないですが進展もありません」
「し、しかし、緊張感を解くのが先だと……」
「で、これだけの場と時間を整えての成果が『多少の緊張の緩和』では、外交であれば無能の烙印を押されていますよね?」
「うぅ……」
アッシスにこてんぱんに言い負かされ、言葉を失うリバシ。
アッシスは眼鏡を押し上げて、さらに言い募ります。
「これらの問題点に対して、殿下としては何を改善すれば良いと思いますか?」
「う、そ、そうだな……。今回は準備不足が最大の原因だが、その元になったのは、そもそも今日の茶会でなすべき事が明確でなかったからで……」
これまでの人生で最大と思える難題に、リバシは脳をフル回転させます。
そして結論が出ました。
「……今後はデートに明確な達成目標を定めて行動する」
「えっ?」
予想外の答えに、アッシスの眼鏡が傾きます。
「今回の敗因はそれだ! 達成目標を明確に定めれば十分な準備もでき、今回のような無様な結末にはならない!」
「いや、その……」
無駄に策を練ったのがヴィリアンヌの緊張を高めたのだから素直に好意を伝えれば良い、そう言いかけて、アッシスは口をつぐみました。
(リバシは私以外に素直な心を見せる事を禁じられて来ている……。今すぐそれをやれと言われても無理だろう。もう少しリバシなりにやらせて、駄目ならその時に……)
「おい! 何だその残念そうな笑顔は! 私の方策に何か穴があるのか!?」
「ありますけど致命的ではありません」
「そ、それは何だ!?」
言い募るリバシを、眼鏡を直したアッシスはさらりとかわします。
「教えても構いませんが、私の入れ知恵でヴィリアンヌ嬢を射止めても殿下は納得できないでしょう?」
「うぐ、た、確かに……」
「殿下ならお一人でもお気付きになられる事でしょう。致命的と判断した場合は止めに入らせていただきますので、安心して色々お試しください」
「何だと……? くそ、何が足りない……? 情報……? 味方……? 環境……? それとも他に何か……?」
明晰な頭脳を必死に回すリバシを、眼鏡を外したアッシスは兄のような眼差しで見つめるのでした。
その頃のヴィリアンヌの馬車。
「大丈夫ですかヴィリアンヌ様?」
「はあぁ……。冷たいおしぼりが気持ちいい……」
「全く、お茶しただけでこれでは、先が思いやられますよ」
「何を言っているのよカルキュリシア! お茶しただけじゃないわ! て、手も繋いだし、い、一緒のお皿からお菓子を食べたのよ!?」
「手を繋いだって言っても馬車の乗り降りのエスコートだけですよね? お菓子も確かに同じお皿のものですが、目の前で小皿に取り分けられたというだけですよ?」
「いいの! それでも私は嬉しいの!」
「嬉しいのは結構なのですが、それだけで馬車に戻るなり顔真っ赤で腰砕けになっていては、告白なんてされたら倒れてしまいますよ?」
「こっここ告白!? そ、そんな事ある訳が……! で、でももしリバシ殿下と、け、結婚する事になったら……!」
「あーあー、余計な事を言いました。額のおしぼりが湯気出してる……」
読了ありがとうございます。
恋は入れ知恵で容易に成功するより、体当たりで失敗を重ねての成功の方が良い気がします。
なのでリバシは千尋の谷コースにご案内。
アッシスは手を出したいのを思い留まれる良い先生ですね。
ちょっとだけ面白がってはいますが。
ヴィリアンヌは帰りの馬車で放熱できたので、夜に熱出すこ事はありませんでした。
カルキュリシアグッジョブ。
次話もよろしくお願いいたします。