第六話 お茶会のすれ違い
いよいよお茶会。
しかしヴィリアンヌの緊張は最高潮に。
リバシはその気持ちを解きほぐす事ができるのでしょうか?
どうぞお楽しみください。
「うん、カモミールの良い香りがしますね。この香りは穏やかな気持ちにさせてくれます」
「本当ですわ」
リバシとヴィリアンヌはお互いにカップを傾けながら、にこやかに言葉を交わします。
しかしカモミールの効果はどこへやら。
二人の内心は全く穏やかではありませんでした。
(何がカモミールの安息効果だ! ヴィリアンヌは『緊張』しかしていないじゃないか! それ程までに私への恐怖心と警戒心が強いのか!?)
リバシの目が見抜いた通り、ヴィリアンヌは緊張の真っ只中にいました。
(あああ味もかかか香りも良くわかりませんわ! リバシ殿下に見つめられていると思うと、ききき緊張して……! ととととにかく不作法だけはないように……!)
それでもカップを振るわせずにお茶を飲めるのは、公爵家令嬢としての厳しい躾の賜物でした。
状況を変えようと、リバシは次の手を打ちます。
「何かヴィリアンヌ嬢のお好きな菓子でも持って来させましょうか?」
「勿体ないお言葉。ですが私に合わせていただくなど、申し訳ありませんわ。どうぞ殿下のお好きなものを召し上がってくださいませ」
その言葉に半ば以上パニックに支配されているヴィリアンヌは、反射的にそう答えました。
(め、目上の方からの勧めは、一度遠慮して次に勧められたらいただく、で合っていますわよね!? 私間違っていませんわよね!?)
貴族と王族の関係なら問題ない対応が、内面の感情を見抜くリバシには心深く突き刺さります。
(型通りの解答は良いが、いや、可能なら菓子の好みを知りたかったから良くはないが、この表情の裏の感情は必死……! 何としても私に借りを作りたくないと!?)
ヴィリアンヌが何に必死なのかまでは見抜けないリバシは、これまでの情報からそう判断しました。
(飲食は緊張を緩和させ、懐に入り込むのに一番使い勝手が良い策……。なのにまるで毒殺を警戒するかのような緊張感では、入り込みようが……。ん? 毒殺!?)
リバシは脳裏に流れた物騒な言葉から、次の手を閃きます。
「では私の食べたいものに付き合っていただく、というのはどうですか?」
「……あ、はい、少し、でしたら……」
(よし! 毒殺を警戒する相手に食事を取らせるには、自分と同じ皿から取るように仕向ける……。政争で得た知識がまさかこんな場面で役に立つと、は……!?)
心の中で拳を握ったリバシは、一瞬思考が止まりました。
ヴィリアンヌの表情の下の感情に、変化が現れたからです。
(り、リバシ殿下と同じものを分け合って……!? ま、まるで恋人のような……! い、いえ、きっと共犯者という意識を強めるためのもの……。でも嬉しい……!)
(え、よ、喜んでる!? な、何が要因だ!? まさか本当に毒殺を警戒……? そんな訳ない! わ、わからないけど、よ、良かった、のかな!? な、何頼もう!?)
リバシは驚きながらも喜びに包まれ、
「アッシス。このクッキーを三種類全てと、ケーキも一通り、それとこのマドレーヌとフィナンシェとフルーツパウンドと」
「殿下。落ち着いて馬鹿な真似はおやめください」
アッシスから小声で嗜められました。
読了ありがとうございます。
リバシ、物騒な方策がまさかのヒット。
ちょっとだけヴィリアンヌとの距離を詰めました。
まぁ下手に策を練らないで真っ直ぐ振り抜けば、軽々ホームランなんですけどね。
次話もよろしくお願いいたします。