第四話 行く道でのすれ違い
断らせてヴィリアンヌの心を和らげようとしたのに承諾されてしまったリバシ。
移動中の馬車の中で、側仕えのアッシスにたしなめられるのが不満な様子です。
どうぞお楽しみにください。
「殿下」
「何だアッシス」
「ヴィリアンヌ嬢とのお茶会、今日の今日というのはいささか性急では?」
喫茶室へ向かう馬車の中で、リバシは側仕えのアッシスの言葉に口を曲げました。
「仕方ないだろ。了承されてしまったんだから」
「また何故そのような事を……」
「無理な予定で一度断らせ、ヴィリアンヌが私に持っている恐怖心や引け目を軽くしようと思ったまでだ」
「しかし即断という事は相当恐れられているようですね」
「わかっている。だからこの後の喫茶室で巻き返しを図る」
ぶすっとしながら外を眺めるリバシに、アッシスは優しい眼差しを向けます。
(これまでリバシに近付いてくる女性は、皆見た目だけを飾り立て、次期王妃の座への野心を隠した者ばかり……。素直に好意を表せないのも仕方ないか……)
その視線に、リバシは更に不機嫌の色を深めました。
「おい、今私を憐れんでいるな?」
「えぇ。これまで女運が悪すぎて素直になれない殿下が可哀想だな、と」
「……可哀想と思うなら、少しは気を遣え」
「気遣ったところで、殿下は全てお見通しですから」
にこやかに返すアッシスに、リバシは諦めたように顔の険を外します。
「ふん……、全てというわけじゃないさ」
リバシはそう言うと後ろの窓から、後に続くヴィリアンヌの馬車を見つめました。
その頃後ろの馬車では、ヴィリアンヌが青い顔をして震えていました。
「ね、ねぇカルキュリシア……。やっぱり今から具合が悪くなった事にして帰れないかしら……」
「駄目ですよ。そうしたら別の日に延びるだけです。今日のダンスとお作法の稽古の予定を、無理言って変えていただいたのですから」
「で、でも、私、怖くて……」
主の恐怖心を慮り、カルキュリシアはヴィリアンヌの背中をさすります。
「大丈夫ですよ。これから向かう喫茶室は完全個室だそうですから、他に情報が漏れる心配はないと思います。ですからそんなに怖がらなくても……」
「違うの! それも勿論怖いけど、緊張して何か失礼があったらリバシ殿下に嫌われちゃうかもって思ったら……」
「はい?」
思ってもいなかったヴィリアンヌの言葉に、カルキュリシアの手が止まりました。
「あの……、その結果ヴィリアンヌ様への関心がなくなったら、秘密をバラされる心配もなくなって良いと思うのですが……」
「そんなの嫌よ! 嫌われるくらいなら秘密を明かされた方がましだわ!」
「いや、そんな交換条件ありませんし。前々からちょっと残念なところはあると思っていましたが、ここまでとは」
「ひどい! 誰が残念よ!」
リバシとヴィリアンヌ、二人の微妙にすれ違う気持ちを乗せて、二台の馬車は貴族御用達の喫茶室へと向かうのでした。
読了ありがとうございます。
偉い人はこういう、一切忖度しない人が一人は必要だそうですね。
昔の王様の中には、道化を身辺に置き、放言を許した方もいるそうです。
この主従二組は今後も楽しく書けそうです。
次話もどうぞよろしくお願いいたします。