第三十八話 従者二人はすれ違わない
長いすれ違いの果てに、想いを通じ合わせたリバシとヴィリアンヌ。
ようやく肩の荷が少し降りたアッシスとカルキュリシアは、中庭でのんびりと語らうのでした。
どうぞお楽しみください。
喫茶室での告白から一月。
覚悟と決意を固めたリバシの行動は素早いもので、父である国王とヴィリアンヌの父であるアーナブル公爵に話をつけ、ヴィリアンヌを正式に婚約者としました。
いくつかの有力貴族が公爵家の台頭を恐れ、自分の娘を婚約者にと差し出したり、妨害工作を図ろうとしたりもしましたが、全てリバシに秘密裏に潰されました。
「ヴィリアンヌを怖がらせたくないので、このくらいにしておきます。私はね、ヴィリアンヌの笑顔のためなら何でもできる気がしているのですよ。そう、何でもね」
微笑むリバシに貴族達は震え上がり、二度と逆らうまいと固く心に誓うのでした。
そしてその発表を受け、学園はお祝いの空気に包まれ、二人の関係は公認のものとなりました。
リバシとヴィリアンヌを密かに慕っていた生徒達からは残念がる声もありましたが、大多数がこれ以上ない婚約と祝福しました。
そんな幸せな空気が包むある日の事。
「正直やってられないですよ」
「同感です」
それぞれの主を送り届けたカルキュリシアとアッシスが、中庭で不満を並べていました。
「ヴィリアンヌ様は部屋に戻るなり『今日は横顔が美しかった』だの『声が凛々しかった』だの、延々惚気を聞かされて……」
「殿下も毎日同じような話をした上で、『何だその昨日も聞きましたと言いたげな顔は! 昨日は髪型で今日は髪質の話だ! 全然違うだろ!』と怒る始末……」
「もう卒業後と言わず、早く結婚してもらえませんかね……」
「気持ちはとてもよくわかりますが、それは流石に……。お互いに恥じない存在になろうと、勉学に教養に打ち込まれていますし……」
「それは確かに。これまで以上に勉強に身が入っていますね。『次の試験ではリバシが一位で私が二位を取るの!』と張り切ってます」
「ははは。それが惚気でなく現実になりそうなのが、またお二人らしいというか何というか……。前向きな変化と歓迎しましょう」
「前向きな変化といえば、ここのところ夜寝るのがすごく早くなりましたね」
「……あ、もしかして『会えなくて寂しいけど、早く寝て明日になればまた会える』とか言ってません?」
「そうですそうです! まるで子どもですね。ふふっ。まぁ体調管理をする立場からすると、早寝早起きはありがたいですが……」
「確かに。惚気の途中でも、明日の事を話すと切り上げてくれますし」
「あ! その方法、ヴィリアンヌ様にも試してみます!」
「えぇ、是非」
和やかな空気。
さあっと風が通り過ぎて、木々がさらさらと音を奏でました。
「……カルキュリシア嬢」
「……はい」
少し真剣な響きを含んだアッシスの言葉に、カルキュリシアは居住まいを正します。
「殿下とヴィリアンヌ嬢が結婚されたら、あなたはどうされますか?」
「私は……、ヴィリアンヌ様が許してくださるのであれば、ずっと側でお仕えしたいと思っています」
「そうですか」
「……アッシス様は?」
「私もこれまで同様、いや、王位を継げばこれまで以上に心労を感じられるであろう殿下を支えたいと思っています」
「それは良かったです。リバシ殿下も心強い事でしょう」
「小うるさいと思われているでしょうけどね」
「いえ、先日の喝を聞いて、リバシ殿下にはアッシス様が必要だと感じました。王になったら、叱ってくれる人はいなくなってしまいますから」
「そうですね。せいぜい尻を叩くとしましょう」
「まぁ……」
腕を振り回すアッシスに、カルキュリシアはくすくすと笑いました。
「となれば、これからもこうして色々お話できますね」
「勿論です。ですが……」
アッシスがすっと顔を引き締めます。
そして優しく、かつしっかりとカルキュリシアの手を取りました。
「……アッシス、様……」
驚きながらもカルキュリシアは、その手を握り返します。
「あなたとは主の苦労話だけではなく、人生も共にしていきたい」
「……それは、つまり……」
「はい。殿下とヴィリアンヌ嬢の結婚が済みましたら、私の妻になっていただきたい」
「……」
暖かな風が、時が止まったような二人を撫でていきました。
カルキュリシアは顔を真っ赤にしながら、笑顔で答えます。
「……喜んで」
「……ありがとう」
「……こちらこそ」
ゆっくりと二人の顔が近づき、そして主達より一足先に誓いを交わしたのでした。
読了ありがとうございます。
さすがアッシス!
リバシにできない事を平然とやってのけるッ
そこにシビれる! あこがれるゥ!
ちなみにアッシスはリバシの三つ歳上。
カルキュリシアはヴィリアンヌの二つ歳下。
つまりアッシスとカルキュリシアは五歳差。
カルキュリシアを高校一年生としたら、アッシスは二十歳過ぎ。大学なら二年生くらい。
こいつはメチャゆるさんよなああああ
まぁアッシスに怒りをぶつけようとしても、逆にアルゼンチンバックブリーカーを食らわされそうですけど……。
さて次話でこの物語も完結でございます。
どうぞ最後までよろしくお願いいたします。




