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第三十四話 打倒を狙われるすれ違い

リバシとヴィリアンヌのお茶会にノマールを誘うように言われ、困惑するアッシスとカルキュリシア。

主のめいに逆らうわけにもいかず、渋々一年生の教室に向かうのでした。


どうぞお楽しみください。

 場所は移って一年生の教室。

 大半の生徒は教室を出ていましたが、幸いノマールとキュアリィは教室で歓談していました。


「ご機嫌ようキュアリィさん、ノマールさん」

「あ! カルキュリシア様! ご機嫌麗しゅう!」

「こんにち、あ、ご、ご機嫌麗しゅう!」


 カルキュリシアの挨拶に、キュアリィは丁寧な礼を返し、ノマールも慌ててそれに倣います。

 まだ慣れていない感じを微笑ましく思いながら、アッシスも挨拶をしました。


「直接お話するのは初めてですね、キュアリィ嬢、ノマール嬢。私はリバシ殿下の側仕え、アッシスと申します」

「初めまして。先日はノマールのためにご尽力いただき、ありがとうございます」

「は、初めまして! 学内社交会の時に色々と指示をされていた方ですよね! 大変お世話になりました!」

「いえいえ、殿下のご指示があればこそでございます」


 にこやかに対応するアッシス。

 その頭の中は猛然と回転していました。


(言われたまま連れて行ったら、殿下は二人きりでないと落胆する程度だが、ヴィリアンヌ嬢は殿下がノマール嬢を選んだと誤解を深める! だが指示に逆らうわけにも……)


「アッシス様、カルキュリシア様。今日は何か御用ですの?」


 考えがまとまる前にキュアリィが問いを投げかけます。

 ここで黙ったり誤魔化したりするのも不自然と、アッシスは観念して用件を話します。


「……えぇ。殿下とヴィリアンヌ嬢が、ノマール嬢をお茶会に、とお誘いがありまして、ご都合を伺いにまいりました」

「……!」

「まぁ素敵ですわねぇ」


 のほほんと喜ぶキュアリィの横で顔色を変えたノマールが、アッシスに駆け寄って小声で問いました。


「あの、どうして私を……?」

「その、ヴィリアンヌ嬢が是非にと……」

「……!」


 その返事にノマールは眉を寄せて、さらに声を落とします。


「……あの、伺ってもよろしいですか?」

「何でしょう」

「リバシ殿下はヴィリアンヌ様の事をお好きですよね? そしてヴィリアンヌ様もリバシ殿下の事を……」

「……」


 アッシスは「何故それを?」とは聞きませんでした。

 あの学内社交会の二人のダンスを見れば、そう思うのが自然だからです。

 気付いていないのは当人達くらいのものだ、とアッシスは溜息をこらえました。


「そんなお二人のお茶会でしたら、私はお邪魔にしかならないはず……。それなのにお誘いをいただけた、それもヴィリアンヌ様から……。それって……」

「申し訳ありませんが、主の心は私如きには推し量れません」

「……そう、ですか……」

「そう言えば」


 アッシスは独り言のように、ノマールから目を逸らして呟きます。


「学内社交会にノマール嬢のお披露目を加えた事で、殿下はノマール嬢を婚約者に考えているのではと誤解している者もいるようです」

「……! まさかそれであの時ヴィリアンヌ様は……!」


 何かに気付いた様子のノマールに、アッシスはしれっと頭を下げました。


「これは失礼。つい独り言が出てしまいました」

「……いえ、独り言は止める事のできないものですものね。私は読みかけの本の中に今どうしても確認したい事がありますので、少し読んでもよろしいですか?」

「……構いませんよ」


 ノマールが荷物から本を取り出したのを見て、アッシスは一瞬緩んだ頬を引き締め、独り言を続けます。


「殿下は権謀術数の中で人の感情を読む術には長けましたが、恋する乙女が抱く不安な気持ちから恐怖しか読み取れないのはいかがなものかと思いますね」

「……!」

「ヴィリアンヌ嬢は好意をお持ちだとお話ししても、私を恐れているに違いないの一点張り。王族の宿命で否定される事の多い教育を受けたと言っても、少々頑固に過ぎます」

「……」

「何やらヴィリアンヌ嬢も似たような過去をお持ちとの事。そうなると、たとえ陛下を好ましく思っていても、噂を信じて身を引きかねませんな。事実ならば何たる悲劇」

「……っ」

「我々従者の苦労を察して、お互いの気持ちを伝え合ってもらえたら皆が幸せになれるものを……。厄介な主を持つと苦労が絶えません……」

「……」

「ふぅ、独り言とはいえ、言いたい事を言えるのはすっきりしますな。ノマール嬢、確認は済みましたか?」

「えぇ、しっかり確認できましたわ。それとお茶会の件ですが、是非参加させていただきますわ」

「ありがとうございます」


 ノマールの微笑みに、アッシスも微笑みを返しました。


(気休め程度だが、希望の光は見えた。少なくともノマール嬢がヴィリアンヌ嬢の思惑に沿って、殿下と結ばれるという最悪の結果は回避できたはず……)


「アッシス様!」

「ノマール、話は終わった?」


 そこにカルキュリシアとキュアリィが寄ってきます。

 アッシスとノマールが話している間に、カルキュリシアもキュアリィと話す中で何かを得たようで、若干上気した様子でした。


「ノマールさん、キュアリィさんもご一緒がよろしいですよね? キュアリィさんがどぉぉぉしても参加されたいそうで」

「……そうですね! キュアリィはヴィリアンヌ様の事大好きですものね!」

「……そうですね」


 ノマールの嬉しそうな言葉に、アッシスもその意図に頷きます。


「では、ノマール嬢とキュアリィ嬢をお招きするという事で、殿下とヴィリアンヌ嬢にお伝えいたします。直近で明日、その次は五日後ですが、いかがですか?」

「早い方が良いと思いますので明日でお願いします! キュアリィ、大丈夫よね!?」

「はい! ヴィリアンヌ様とリバシ殿下のお茶会、楽しみですわ!」

「かしこまりました。では明日、よろしくお願いいたします」

「ノマールさん、キュアリィさん、ありがとうございます!」


 頭を下げると、アッシスとカルキュリシアは頭を下げて、教室を後にしました。


「……アッシス様、ノマールさんとはどのようなお話を……?」

「……ノマール嬢は二人のお気持ちをご存知だったようです。その後うっかり私が独り言で色々漏らしてしまったのですが、ノマール嬢は幸い本を読んでいました」

「……成程、そうでしたか。こちらはキュアリィさんが、とにかくヴィリアンヌ様の素晴らしさを語られていたので、そのままお連れするだけでも良いかと……」

「成程、それでヴィリアンヌ嬢の気持ちが上向きになれば……!」

「はい!」


 アッシスとカルキュリシアは力強く頷き合います。


「決戦は明日!」

「お互い主のために力を尽くしましょう!」


 手を握り合うアッシスとカルキュリシア。

 廊下の窓から差し込む夕日が、二人の姿をまるで一枚の絵画のように、雄々しく、神々しく照らしていたのでした。

読了ありがとうございます。


個人的に相手に聞かせる気満々のクソデカ独り言って好きです。

言うに言えない気持ちを含めて相手に伝える、これぞ日本の心!

えもい(えも言われぬ思いの略)!


さて、ノマールとキュアリィを加えた縁結び連合は、戦果を上げる事ができるのでしょうか?


次話もよろしくお願いいたします。

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[一言] すれちがい君 「そこら中から楚の歌が聞こえてくるでござる」
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