第三十二話 従者二人のすれ違い
学内社交会で良い関係になったかと思いきや、やはりへたれるリバシとヴィリアンヌ。
業を煮やしたアッシスとカルキュリシアは、主のために動き出すのでした。
どうぞお楽しみください。
「では殿下、放課後に」
「あぁ」
「ヴィリアンヌ様、お疲れが残っているようでしたら、いつでもお呼びください」
「大丈夫よカルキュリシア。ありがとう」
アッシスとカルキュリシアは、それぞれの主を教室まで送り届けると、廊下へと出ました。
(……さて、この機にこのカルキュリシア嬢に話を聞きたいが、さて何と声をかけようか……)
横目でカルキュリシアを見るアッシスに、
「アッシス様。お聞きしたい事があります」
「!」
カルキュリシアから声をかけました。
(……まさかそちらから声をかけてくるとは……。いや、以前のお茶会の誘いの時も声をかけてきたのは彼女だったのだから、想定して然るべきだったな……)
意表をつかれたアッシスでしたが、動揺を見せずに微笑みます。
「カルキュリシア嬢。お聞きになりたい事とは何でしょう?」
「……!」
今度はカルキュリシアが驚く番でした。
アッシスにカルキュリシアが名乗ったのは、学内社交会の打ち合わせのためのお茶会にリバシを誘うために声をかけた一回だけ。
(覚えにくい名前なのに、あの一回だけで覚えるなんて……。相当注意深いみたいね……。足元をすくわれないようにしないと……)
警戒心を高めながら、カルキュリシアは微笑み返します。
「ここでは誰の耳があるかわかりませんので、中庭でお話ししたいのですが、いかがでしょう?」
「承りました」
笑顔のまま、二人は中庭へと向かいました。
授業中なので、中庭には誰もいません。
アッシスは胸から取り出したハンカチでベンチをさっと吹きました。
「さぁどうぞ」
「お心遣い、感謝いたします」
腰掛けながら、カルキュリシアは少なからず動揺します。
(こ、こんなのさらっとできる人本当にいるなんて! 物語の中だけだと思っていたのに!)
「それで、お話とは?」
「はい……」
しかしヴィリアンヌのためと、カルキュリシアは動揺を振り払ってアッシスに顔を向けました。
「リバシ殿下がヴィリアンヌ様の事をどう思われているのか、お教えいただけませんでしょうか?」
「っ」
その質問にアッシスはわずかにたじろぎます。
内容もそうですが、質問への答えだけでなく、反応の一つ一つまで見逃すまいと見つめる真剣な瞳が、アッシスの動悸を誘いました。
(……主のためにここまで真剣に……。おそらく殿下の言う通り、ヴィリアンヌ嬢が恐怖を抱えているから、それを解消するために、か。何と健気な……)
アッシスは息を吐くと、さらりと微笑みます。
「殿下はヴィリアンヌ嬢の事を好ましく思われています。ノマール嬢を追い出そうと画策した事も、今回の学内社交会への貢献で、十分な反省を感じておられます。ですから」
「そのノマールさんとヴィリアンヌ様とでは、どちらをお好みなのでしょうか?」
「!?」
予想もしなかった質問に、アッシスの身体が固まりました。
(何故ここでノマール嬢とヴィリアンヌ嬢を比較する? ……まさか今回の学内社交会を催した事で、ノマール嬢に想いを寄せていると勘違いされたのか?)
その様子に、カルキュリシアが目を光らせます。
(この動揺……。やはりノマールさんに対して好意はある、か……。しかしヴィリアンヌ様にも好意があるのなら、リバシ殿下の好みを聞き出して、優位に立つまで……!)
「それではリバシ殿下の」
「あの、少々お待ちいただきたい。色々と行き違いがあるようなのですが……」
「行き違い? 一体それは……?」
「……」
アッシスは口をつぐみました。
カルキュリシアが不審と不安の目で見つめてきます。
(ここで殿下のお気持ちを伝えて良いものか? カルキュリシア嬢に伝えればヴィリアンヌ嬢まで伝わるのは必至……。それは殿下の望むところだろうか……)
しかし、アッシスの考えはすぐに決まりました。
(あの弱腰の殿下を放っておいたら、また余計な策を練りかねない! 故にこれは殿下のため! 何か問題が起きたなら、身命を賭して解決するまでの事!)
決意を固めたアッシスは、カルキュリシアに向き直ります。
「カルキュリシア嬢」
「へ? は、はい、あの……」
「少し長い話になりますが、聞いていただけますか?」
「も、勿論、です……」
アッシスの真剣な表情に戸惑いながら、カルキュリシアはこくこくと頷くのでした。
読了ありがとうございます。
さぁ皆さんご一緒に。
「すれ違わんのかーい!」
最初はすれ違っていたのでサブタイトルに偽りはない。いいね?
次話もよろしくお願いいたします。




