第三十話 薄れていくすれ違い
リバシがヴィリアンヌを好きと聞いたというキュアリィの言葉に、わけがわからなくなるヴィリアンヌ。
そんな事とは知らず、会場ではリバシがその身を案じながら、ノマールと共に待っています。
リバシとヴィリアンヌの心は通じ合うのでしょうか?
どうぞお楽しみください。
「……あ! ヴィリアンヌ様!」
「……!」
戻ってくるヴィリアンヌの姿を見たノマールは、曲の途中であるにも関わらず、駆け出そうとしました。
「待ってくださいノマール嬢」
その動きを踊りの中にうまく巻き込みながら、リバシはノマールをたしなめます。
「ダンスを中断して駆け寄っては、我々の動きを追った生徒達にヴィリアンヌ嬢が注目されてしまいます。もうすぐ曲も終わりますから、それから行きましょう」
「す、すみませんリバシ殿下! 私ヴィリアンヌ様が戻られたのが嬉しくて……!」
「えぇ。わかりますよ」
謝るノマールへ優しく微笑むリバシ。
しかしその内心は、わかりますよどころの話ではありませんでした。
(ヴィリアンヌは無事だった! 戻って来てくれた! 嬉しい! 主催者でなければ、王子という立場などなければ、今すぐにでも駆け寄ってその手を取りたいのに……!)
やがて曲は終わり、ノマールはヴィリアンヌの元に駆け寄ります。
「ヴィリアンヌ様、お元気になられて良かったです!」
「ありがとうノマール。心配をかけてごめんなさいね」
「いえ! ヴィリアンヌ様がご無事ならそれで……!」
ヴィリアンヌの手を握りしめ、涙ぐんで喜ぶノマール。
リバシがその後に続きます。
「ヴィリアンヌ嬢。お加減はよろしいのですか?」
「はい。リバシ殿下にもご心配をおかけしました。申し訳ありません」
「ヴィリアンヌ嬢が元気なら何よりです」
ノマールの背を軽く撫でながら答えるヴィリアンヌの笑顔の裏から動揺を感じ、リバシは内心溜息をつきました。
(ノマールとはあれほど打ち解けた感情なのに、私に対しては動揺か……。一体私の中の何がこれほどまでにヴィリアンヌを脅かすのだろう……)
(あああああ! リバシ殿下が私に好意を持っているのでは、と思うだけで動悸が……! き、きっとノマールの次でしょうに……! あ! という事は世界で二番目!?)
しかしリバシは落ち込みそうになる自分を奮い立たせ、ヴィリアンヌに手を伸ばします。
「ヴィリアンヌ嬢。お戻りになったばかりで恐縮ですが、お約束通り踊っていただけますね?」
「はい、喜んで」
ヴィリアンヌは内心の動揺を抑え、震えそうになる手をリバシの手に乗せました。
その瞬間、ヴィリアンヌが控室に去ってから、心配と寂しさで張り詰めていたリバシの心がふっと解けました。
「この後はずっと私と踊っていただけると嬉しいのですが」
「え?」
思わずこぼれた言葉にヴィリアンヌの感情がさらに動揺するのを見て、リバシは慌てて付け加えます。
「その、先ほど踊る順番がずれてしまいましたからね」
「あ、も、申し訳ありません……」
「いえ、責めているわけではなく、平等に踊った方がと思ったまでです」
「ではキュアリィも一緒にという事になりますか?」
「えっ、あ、まぁそういう事にもなります、かね……?」
動揺を深めるリバシに、さらなる追い討ちが襲い掛かりました。
「リバシ殿下! 私もヴィリアンヌ様と踊りたいです!」
「え、あ、そ、そうですか……。ははは……」
「きゅ、キュアリィ……! お二人のお邪魔をしてはいけないわ……! こっちで二人で踊りましょう……!」
「!」
「!?」
キュアリィの発言に加えて、ノマールの小声の注意が耳に入ったリバシとヴィリアンヌは、今日一番の動揺に包まれます。
(その気遣い……! ノマールが先ほど『そのままで良い』と言ったのは、そういう事なのか!? ヴィリアンヌも私に好意を……!? そんな馬鹿な! いやしかし……!)
(ノマールどうして!? 先ほどリバシ殿下から告白されたのではないの!? リバシ殿下も私とずっと踊りたいと仰るし、もう何がどうなっていますの……!?)
二人の心が定まらないまま、楽団が前奏に入ってしまいました。
「あの、では……」
「は、はい……」
二人は動揺に支配されたまま、踊り始めます。
その踊りは先ほどの無我の境地のような踊りとは違い、完璧とは言えないものでしたが、その動作の端々に歓喜が光り輝くような二人に、ダンス担当の教師は涙しました。
「これが表現の極致……!」
それほどの気持ちの動きが、長く仕えた従者に伝わらないわけはありません。
(殿下……。ようやく真正面から向かい合う勇気を出しましたね。ですが殿下の事ですから、少し経てばまた策をこねくり回そうとするでしょう。そうなる前に……!)
(ヴィリアンヌ様、リバシ殿下と踊れて満たされたお気持ちでしょうが、すぐまた不安に負けてしまう事でしょう。それを防ぐにはより確かな繋がりを……!)
従者二人が新たな決意を抱いているとも知らずに、リバシとヴィリアンヌは幸せな時間に心を浸していたのでした。
読了ありがとうございます。
二人は幸せなダンスをして終了……?
アッシ太郎「なまぬるいぜ」
カルナレフ「いくぜダメ押し」
すれ違いフラグッシー「ヒイイイイイイイ」
次話もよろしくお願いいたします。




