第三話 お誘いのすれ違い
花束のミスを取り返そうと、リバシは次なる策を打ちます。
さて、その目論見はうまくいくのでしょうか?
どうぞお楽しみください。
「アッシス」
「はい殿下」
自室に戻ったリバシは、側仕えのアッシスを呼びました。
「花束は失敗だった。花言葉を意識して花水木を選んだが、逆に脅迫的に捉えられた」
「何も考えずに普通に贈った方がよろしかったですね」
「結果論だ」
そう答えるとリバシは次の策に出るべく、アッシスに指示を出します。
「この学園の近くで、貴族令嬢を誘うに相応しい喫茶室を探せ」
「かしこまりました」
一礼して部屋を出るアッシス。
その背中を見送ると、リバシは誘い文句を考え始めます。
(まずはその日に行こうと誘う。急な誘いなら断る理由になる。一度断らせてヴィリアンヌの予定に合わせるようにすれば、私に対する恐怖心は軽くなるはず……)
これまでの継承権を巡る多くの権謀術数から、最適な手を導き出したと確信したリバシは、にたりと悪い笑みを浮かべたのでした。
翌日の放課後。
「ヴィリアンヌ嬢。街になかなか品のいい喫茶室があると聞きました。よろしければこれから一緒に行きませんか?」
「これから、ですか……」
花束に続くリバシのアプローチに、教室がざわめきます。
当日の誘い。
いかに王子とはいえ、あまりにも不躾。
断るのが当然。
リバシも含めた皆が思うそんな空気の中、
「……承りました」
ヴィリアンヌは一瞬の逡巡の後、笑顔でそう答えました。
更にざわつく教室の中で、冷静さを装ったリバシが笑顔を取り繕います。
「……我ながら急なお誘いですが、ご予定などよろしいのですか?」
「はい。リバシ殿下のお誘い以上に優先するべき事柄などありませんから」
きっぱり言い切ったヴィリアンヌの言葉に、教室のざわめきはどよめきに変わりました。
確かに次期国王と目されるリバシの誘いは、かなり断りにくいものである事は確かです。
しかし、勉強や習い事、貴族同士の付き合いなど様々な予定があるはずの貴族令嬢が即断する事の大きさは、誰もがわかっていました。
「そこまでリバシ殿下の事を……!?」
「くぅ、やはり男は地位と顔かぁ……!」
色々な声が飛び交う中、リバシはヴィリアンヌの内心を恐怖を感じ取り、笑顔のまま悔しがります。
(断ったら秘密をバラされると思い込んでいるんだな……! 追い詰めたのは確かに私だけど、そんなにも怯えるなんて……!)
そんな事を考えているとは知らないヴィリアンヌは、高鳴る胸を落ち着かせようと必死でした。
(ひ、秘密を守るためですもの! 予定はカルキュリシアにうまく変更してもらって……。でもリバシ殿下と二人きりのお茶会……! 嬉しいけど怖い……!)
お互いの思いが今ひとつ噛み合わないまま、デートの予定は決まってしまったのでした。
読了ありがとうございます。
ヴィリアンヌの中では、恐怖とときめきと期待がごっちゃになってます。
これは王子の目をもってしても見抜けませんでした。
吊り橋効果の話で、恐怖と恋愛のどきどきは似てるって話になってるからね。仕方ないね。
さて二人の初デートですが、さてさてどうなることか……。
次話もよろしくお願いいたします。