第二十八話 踊り終わってすれ違い
ヴィリアンヌのリバシへの思いを知ったノマール。
リバシのヴィリアンヌへの思いを聞き出したキュアリィ。
二人はリバシとヴィリアンヌのすれ違いを打破する事ができるのでしょうか?
どうぞお楽しみください。
「ノマール嬢」
「はい」
三曲目を踊りながら、リバシは先ほどのヴィリアンヌとのやり取りを知るべく、ノマールに話しかけます。
「ヴィリアンヌ嬢の事をどう思われます?」
「えっと……、か、神様みたいな方、でしょうか……」
「そうですか」
その回答に、リバシは微笑みながら落胆を感じました。
(という事は、ヴィリアンヌはノマールに罪の告白をしたわけではないのか……。関係は良くなっているようだが、私への恐怖心はしばらくそのままだな……)
そんなリバシに、ノマールはおずおずと声をかけます。
「ただ……」
「おや、何かありましたか?」
「ヴィリアンヌ様って可愛らしいところもおありなのだと、今日気が付きました」
「っ」
微笑みながらそう言うノマールの言葉に、リバシは旧知の友と出会えたような感激を抱きました。
周囲のヴィリアンヌの評価は、美しい、気高い、慈愛の女神といったものばかりです。
それはそれで納得しているリバシでしたが、自分が一番惹かれている可愛らしさを理解している人がいない事に、物悲しさを感じていました。
そのためノマールの言葉は、リバシから冷静さを奪ってしまったのです。
「どんなところだ」
「え?」
「どんなところに可愛さを感じたのだ」
「あ、あの」
「教えてくれノマール嬢。ヴィリアンヌの可愛らしさを知る者が増えて、私は嬉しく思っているのだ。だから頼む」
「え、えっと……」
ノマールは口調まで変わったリバシに気圧されながらも、その必死な様子に一つの結論に至りました。
(リバシ殿下もヴィリアンヌ様の事をお好きなのでは……? つまりリバシ殿下とヴィリアンヌ様は両想い……! 何て素敵なの!)
ヴィリアンヌの幸せを思って喜ぶノマールでしたが、ここで困った事に気が付きます。
(私がここで可愛い悲鳴を上げられた事をお話ししたら、そのきっかけもお話しする事に……。私がヴィリアンヌ様のお気持ちを勝手に話すわけには……)
そう考えたノマールはわずかなためらいの後、王族に逆らう覚悟を心の内に秘め、にっこりと微笑みました。
「内緒です」
「内、緒……?」
これまでのノマールであれば、王族であるリバシに逆らうなど考えもしなかったでしょう。
しかし友人に新たな家族、この学園で生きる全てをヴィリアンヌに与えられたと思っているノマールに、恐れるものはありません。
「……」
その強い決意の前に、リバシはそれ以上問いただす事ができませんでした。
「あ、曲が終わりましたね」
「あっ待っ」
踊りを止めると、ノマールはリバシから離れようとします。
それでも藁にもすがる思いで、リバシはノマールを呼び止めようとしました。
「大丈夫です。リバシ殿下」
「な、何……?」
唐突な優しい言葉に戸惑うリバシに、ノマールは微笑みかけます。
「今のままの殿下でいれば、きっと大丈夫です」
「……え? そ、それはどういう……」
「失礼いたします」
目を丸くするリバシにぺこりと頭を下げて、ノマールはキュアリィとヴィリアンヌの元へと歩いて行きました。
その背中をリバシは絶望的な気持ちで見送ります。
(今のままだと……? そんなわけないだろう……! ヴィリアンヌに怯えられている私が、今のままでいいはずが……)
「ヴィリアンヌ様、キュアリィ」
「あ、ノマール! お帰りなさい」
「……ノマール、その、リバシ殿下とのダンスは、その、どうでしたの……?」
ノマールは嬉しさいっぱいに微笑みます。
「はい! とても良いお話が聞けました!」
「!」
リバシがノマールと踊りながら何かを話していた事、リバシがノマールを最後に呼び止めた姿を見ていたヴィリアンヌは、その話が告白なのだと確信しました。
「そう、良かったですわね。あの、私、少し気分が優れないので、控室でお休みしますわ。ノマール、リバシ殿下のお相手をお願いしますわね」
「え……?」
てっきり喜んでリバシの元に行くと思っていたノマールがあっけに取られる中、ヴィリアンヌは控室へと向かいます。
「ヴィリアンヌ様……?」
「どうなさったのでしょう。心配ですわ」
その心中の絶望を知らないノマールとキュアリィは、わけもわからず立ち尽くすしかないのでした。
読了ありがとうございます。
思い込みの力は恐ろしい……。
このまま二人は絶望に沈んでしまうのでしょうか?
リバシとヴィリアンヌは、お互いへの想いを諦めてしまうのでしょうか?
天使な二人の力をもってしても、このすれ違いは打破できないのでしょうか?
フラグは良いねぇ。
フラグはリリスの生んだ文化の極みだよ。
次話もよろしくお願いいたします。




