第二十七話 別で踊ればすれ違い
すれ違いながらも共に踊る時間に、幸せを感じたリバシとヴィリアンヌ。
リバシの策でヴィリアンヌはノマールと踊る事になりました。
リバシがノマールを愛していると勘違いをしているヴィリアンヌは、何を思うのでしょうか。
どうぞお楽しみください。
「で、ではヴィリアンヌ様……」
「えぇ」
ノマールの言葉にヴィリアンヌは手を差し出します。
その手をノマールがそっと握ると、ヴィリアンヌに衝撃が走りました。
(何この子の手……! 荒れてがさがさ……! 手だけなら私の方が……? あぁ、こんな痛ましい手を見て勝ち誇ろうとするなんて、私は何と浅ましい……!)
内心の葛藤を笑顔の仮面で押さえ込み、ヴィリアンヌはノマールと踊り始めます。
ノマールの踊りはヴィリアンヌほどではありませんが、努力が感じられる見事なものでした。
「ノマールさん、ダンスお上手なのね」
「あ、あの、お気遣い、恐れ入ります……」
「あら、お世辞ではありませんわ。大変努力をされたのね」
「! 友人が丁寧に教えてくれたので……! ありがとうございます!」
ヴィリアンヌの言葉に、ノマールは嬉しそうな笑顔を浮かべ、すぐに顔を赤らめて俯きます。
その様子に、ヴィリアンヌは微笑ましさと嫉妬を同時に感じました。
(この手にこの恥じらい、リバシ殿下が守りたくなるお気持ちもわかりますわ……。あぁ、私にもこんな可愛らしさがあったなら、リバシ殿下は愛してくださったかしら……?)
そんな事を思いながら踊るヴィリアンヌは、ちらりちらりとリバシへと視線を送ります。
それを見たノマールが、少し身を寄せて囁きました。
「あの、先程はキュアリィが失礼いたしました……」
「失礼? 何の事かしら? リバシ殿下が踊る約束をなさっていて、それに従ったまでの事ですから、失礼だなんて……」
「でもヴィリアンヌ様は、リバシ殿下ともっとご一緒に踊りたかったのではないですか?」
「そ、そんな事は……」
図星を突かれ、ヴィリアンヌは少なからず動揺します。
先程と違い踊りにも意識を割いているので、いつもなら完璧にできる取り繕いに綻びが生じました。
「……この後私はリバシ殿下と踊る約束なのですが……」
「そ、そうよね! そういう約束ですものね!」
「でも私、御辞退申し上げようと思います」
「ど、どうして……?」
「……ヴィリアンヌ様がリバシ殿下に想いを寄せられていますから……」
「ぴぐ」
ヴィリアンヌの押し殺した悲鳴は、ノマールの耳にだけ入ります。
その可愛らしい声に、ノマールの真剣な表情は崩れ、思わずくすくすと笑いをこぼしました。
「な、何故笑うんですの?」
「ご、ごめんなさい……! 完璧で凛とした方だと思っていたので、その可愛らしさに……、ふふっ……」
笑いを堪えながら踊りを合わせるノマールに、ヴィリアンヌは驚きと共に緊張がほぐれるのを感じます。
(私が可愛らしいだなんて……! ノマールの影響かしら? もしこれからも側にいたなら、私もそんな可愛らしさが身につくかも……。そうしたら……)
そう思うと、ヴィリアンヌの顔には貴族としての完璧なものではない、少しぎこちなくも本心からの笑みが浮かびました。
「……ノマールさん」
「はい」
「お気持ちは嬉しいけれど、リバシ殿下の願いですから叶えて差し上げていただけます?」
「……ヴィリアンヌ様が、そう仰るなら……」
「大丈夫ですわ。その後はまた一緒に踊る約束になっていますから」
「それなら良いのですが……」
心配そうな顔をするノマールに、ヴィリアンヌは少し無理をして微笑みます。
それでも陰るノマールに、ヴィリアンヌはおずおずと切り出しました。
「あの、それでもし良ければなのですけれど、一つお願いがありますの……」
「何でも仰ってください!」
「ありがとう。……その、これからも、仲良くしてくださる……?」
「! 喜んで!」
ノマールの弾けるような笑顔に、ヴィリアンヌの笑みも再び本物へと置き換わります。
(こんな素敵なノマールがリバシ殿下と結ばれるなら、耐えられる気がしますわ……! 今日出会えて本当に良かった……!)
ヴィリアンヌは満たされた気持ちで、ノマールと踊り続けるのでした。
「リバシ殿下。先程から何度もヴィリアンヌ様とノマールの事を見ていらっしゃいますね」
「あぁ」
キュアリィの問いに、リバシは生返事を返します。
(会話までは聞こえないが、ヴィリアンヌもノマールも喜びの感情に満ちている……! 和解がなったのか……? くっ、会話が聞きたい!)
「もしかしてヴィリアンヌ様の事、お好きなんですか?」
「あぁ」
「まぁ! そうなのですね」
「あぁ」
ヴィリアンヌとノマールの様子に全力を傾けていた事。
キュアリィの表裏のなさに対する警戒心の緩み。
この二つが相まって、キュアリィに本心を漏らしてしまっている事に、リバシは全く気が付かないのでした。
読了ありがとうございます。
ノマールとキュアリィの義姉妹が、ヴィリアンヌとリバシのとても重要な情報を握りました。
これが二人の関係にどう影響するのか?
やっちゃえ義姉妹。
次話もよろしくお願いいたします。




