第二十五話 社交会中のすれ違い
ノマールと対面し、リバシにはノマールが似合うと思い込んだヴィリアンヌ。
その落ち込みの理由はよくわからないまま、リバシはヴィリアンヌを元気付けようとあれこれ策を練るのでした。
どうぞお楽しみください。
「賑やかですね」
「そうですわね」
リバシとヴィリアンヌは、会場を見て回ります。
どこを見ても、生徒達は歓談しながらお茶や菓子を楽しんでいる様子でした。
それを見ているヴィリアンヌから、少しずつ絶望感が薄れているのを感じたリバシは、慎重に声をかけます。
「話が弾んでいるようです。やはりヴィリアンヌ嬢が選んだ茶と菓子の組み合わせが良かったのでしょうね」
「恐れ入ります」
表面上は淡々と答えるヴィリアンヌ。
しかし見回ってるうちに感じた達成感で気持ちが少し上向きになっていたヴィリアンヌは、リバシの言葉に大きな喜びを感じさせていました。
(会話が弾んでいるのはリバシ殿下の機転を効かせた挨拶のお陰だと思いますけど、殿下が仰るとそんな気になってしまいますわ! 皆さん、楽しんでくださってありがとう!)
ヴィリアンヌが喜んでいるのを感じ、リバシも気持ちが穏やかになるのを感じます。
(よし、これだな。ノマールとの話は極力触れないようにして、今回の会へのヴィリアンヌの貢献を褒めていこう)
「あの装飾もヴィリアンヌ嬢が手配したものでしたね」
「はい」
「実に素晴らしいです。華やかでありながら学生の社交会に相応しい落ち着きがあります」
「ありがとうございます」
(あぁ、良かった……! もう少し派手なものの方が好みでしたけど、カルキュリシアに言われた学生らしさを意識して良かったですわ!)
(ヴィリアンヌは想像と違って落ち着きのあるものを好むのだな……。よし、次に何かを贈る時には落ち着いた雰囲気のものを選ぼう!)
「楽団も公爵家のお抱えではなく、学園で呼べる方々に交渉されたのも良かったと思います」
「恐れ入ります」
(あぁ! これも正解で良かったですわ! 本当は我が家の専属の方が演奏は上でしたけど、リバシ殿下に出しゃばりと思われてはいけませんものね)
(もし公爵家の楽団が来ていたら、それとなくヴィリアンヌの好みの曲を聞き出せたのに……。演奏の腕を理由に頼めば良かったか……? 惜しい事をした……)
「楽団と言えば、もうすぐダンスの時間になりますね」
「はい、間もなくですわ」
「最初は私と踊っていただけますか?」
「えっ」
笑顔のまま固まるヴィリアンヌに、リバシは激しい焦りを覚えました。
(え、し、自然な流れだっただろう!? 今の感じならいけると思ったのに、心の底から意外な感じなのは何故だ!? 私と踊るのが想定外という事なのか!?)
同時にヴィリアンヌも混乱を極めます。
(何故私と!? 盛り上がる一曲目はノマールと踊りたいのでは!? う、嬉しいですけれど、三曲目くらいでお声がかかればと思っていましたから心の準備が……!)
「……ヴィリアンヌ嬢。どなたかと既に踊る約束が……?」
「……いえ、そのような約束はありませんが……」
「……『ありませんが』、……何ですか?」
「いえ、その……」
迫られたヴィリアンヌは、リバシを応援しようと思う気持ちと、自分がリバシの側にいたい気持ちとの狭間で葛藤していました。
(い、言えませんわ! ノマールと踊った方がよろしいのでは、なんて……! リバシ殿下と踊れるものなら踊りたいですし……!)
その葛藤が自分を想う気持ちとは思いもしないリバシは、手持ちの情報から自分なりの答えを導き出します。
(迷い……? まさか謝罪を済ませていない今は踊る資格がないとでも!? しかしこの機は逃せない! 決断を迷う相手には、相手のせいにできる理由を与えて……!)
そう考えたリバシは、ヴィリアンヌの手を取りました。
「ひゃっ!? ……り、リバシ殿下……?」
「ヴィリアンヌ嬢」
「は、はいっ」
「私にはあなたと最初に踊る事に大事な意味があるのです。私のためと思って、どうか踊っていただけませんか」
「殿下のため……? っ!」
リバシに手を握られて正常な判断力を失ったヴィリアンヌは、その言葉である結論に達します。
(リバシ殿下は私を盾にノマールを寵愛するおつもりのはず……! 大勢の生徒の前で私と最初に踊れば、本命は私と印象付けられる……。そういう事ですのね……)
しかし思い詰めているリバシは、ヴィリアンヌの抱いた諦めの感情に気付く余裕がありません。
(できればずっと踊りたいが、それはヴィリアンヌの恐怖心を煽りかねない……! あぁ、でも他の男となんて踊らせたくない! 何と言えば……! はっ!)
そこで何かを閃いたリバシは、ヴィリアンヌに詰め寄ります。
「ではこうしましょう。まず私と踊り、次にノマール嬢、次にキュアリィ嬢と踊り、また私に戻り、それを繰り返します」
「え……?」
「そうすれば今回の会の主旨を、より強く伝える事ができます。主催者として、協力していただけますね?」
「……」
その必死さに落ち込みながらも、ヴィリアンヌは若干の安心も感じていました。
(そこまでノマールの事を……。でもリバシ殿下以外の殿方とダンスを踊るのは気が進みませんし、将来仕えるかもしれないノマールと仲良くなれるのは良い事かも……?)
「……わかりました。リバシ殿下のお望みのままに……」
「あ、あぁ、ありがとう……」
その落ち込んだ様子に、、多少冷静さを取り戻したリバシは内心で頭を抱える事になります。
(しまった! 強く言えばヴィリアンヌは秘密を握る私に逆らえないのはわかっていたのに! ……だがこれで男と踊るのは回避できた……! それでよしとしよう……)
「ではノマール嬢とキュアリィ嬢を呼んで来ますので、ここでお待ちください」
「わかりました」
自分の言動が誤解を深めた事を知らずに、リバシは会場へと駆けて行くのでした。
読了ありがとうございます。
自分の想い人のためなら、公爵家令嬢の立場を捨て恋敵の平民に仕える事も辞さないヴィリアンヌ。
……それはそれで面白くなりそうな気も……。
リバシ!
作者の理性がちょっとでも残っているうちにとっとと告るんだっ!!
次話もよろしくお願いいたします。




