第二十四話 お礼を受けてのすれ違い
挨拶の場での涙をノマールへの罪悪感だと思い込んだリバシの言葉に、ズレた決意をするヴィリアンヌ。
その悲壮な決意に戸惑いながら、リバシはヴィリアンヌと共に会場へと戻るのでした。
どうぞお楽しみください。
「ヴィリアンヌ様!」
「……あぁ、キュアリィ」
「ご機嫌よう、キュアリィ嬢」
「ご機嫌麗しゅう、リバシ殿下」
会場に戻ったヴィリアンヌとリバシに、満面の笑みのキュアリィが駆け寄って来ました。
「ありがとうございますヴィリアンヌ様! この会はノマールのためのものだったなんて! それでノマールの予定を聞いてくださったのですね!」
「え、えぇ、そうなの……。ごめんなさい。会を楽しんでもらってから、最後に話す予定だったのだけれど……」
「いいえ! とても嬉しかったです! ノマールも喜んでいます!」
「……え?」
その言葉に一歩前に出た令嬢に、ヴィリアンヌは息を呑みました。
「ヴィリアンヌ様……。こうしてお会いするのは初めてでございます。ノマールでございます……!」
深々とお辞儀をして顔を上げたノマールの潤んだ瞳は美しく、まるで宝石のようでした。
小柄な上、顔立ちは若干幼く見え、可愛らしいという気持ちと守りたいという気持ちがヴィリアンヌの中に湧き上がります。
(私はこんな子を平民と言うだけで追い出そうとしていたなんて……! 見た目の可愛らしさも心の美しさも、私なんか敵うべくもないわ……)
その落ち込みを察したリバシが、すっと割って入りました。
「初めましてノマール嬢。カムフル王国第一王子リバシです」
「お、王子様! この度は素晴らしい会をありがとうございます!」
「リバシ殿下! 今日はノマールのためにありがとうございます!」
頭を下げるノマールとキュアリィに、リバシは顔を上げるよう手で示します。
「喜んでもらえているようなら何よりです。ノマール嬢には最後に挨拶だけしてもらいますが、それまではゆっくり楽しんでくださいね」
「ありがとうございます……!」
「ありがとうございます!」
「あちらにヴィリアンヌ嬢が選んだお茶とお菓子もありますから、どうぞ召し上がってください」
「はい!」
「行きましょうノマール!」
リバシがそう促すともう一度お辞儀をして、二人はお茶とお菓子が置いてある卓へと向かいました。
その様子を見つめるリバシに、ヴィリアンヌは胸が締め付けられるような思いを感じます。
(やはりリバシ殿下はノマールの事が好きなのですわ……。本人の魅力を前にするとはっきり理解できます。あれほど立派ならお飾り正妃などなくても……)
それでも会場の目がある事を自覚しているヴィリアンヌは、決して穏やかな笑みを消しません。
リバシはその裏にある辛そうな感情に、胸を痛めました。
(これだけ感謝されても、ヴィリアンヌの罪悪感は消えないのか……。真面目なのは美徳だが、それがヴィリアンヌの心を傷つけはしないかと心配になる……)
そう思うと、貴族らしい笑顔の裏で様々な感情を抱えるヴィリアンヌの事を愛おしく、また守りたいという気持ちが強く感じられます。
(ヴィリアンヌがノマールへの贖罪を終えた時、婚約を申し込もう……! そのためにもノマールとの関係を向上させると同時に、私への信頼感を高めなければ……!)
笑顔で会場を見回しながらも、リバシはそのための策を凄まじい勢いで考え始めるのでした。
読了ありがとうございます。
そこで策に行っちゃうのがリバシのダメなところだと思うぞ。
早いところ人生半分ずつ等価交換してください。
次話もよろしくお願いいたします。




