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第二十二話 打ち合わせでのすれ違い

学内社交会に向けて、提供する飲食物やダンスの楽曲の調整に入るリバシとヴィリアンヌ。

ヴィリアンヌの資料を差し出す不安げな様子に、リバシは戸惑いを必死に隠すのでした。


どうぞお楽しみください。

「では資料を見せていただけますか?」

「はい、こちらです」


 紅茶の香りが漂う喫茶室の中、ヴィリアンヌは微笑みながら、学内社交会で提供するお菓子とお茶、そしてダンスの楽曲の候補一覧を手渡します。

 しかしヴィリアンヌは、内心では絶望に近い恐怖を抱いていました。


(今更ながら気付いてしまいましたわ! このお菓子もお茶も楽曲も貴族向けの選択……! リバシ殿下がノマールのために社交会を開くなら、お気に召さないかも……!)


 恐怖の感情が笑顔の裏ににじんでいる事に、リバシは戸惑いを覚えます。


(何故怯えているのだ!? 私への恐怖が薄れたからここに呼んだのでは……? まさか、学園だと大勢の前で責められると思ってここに!? そんな事しないのに!)


 落ち着こうとお茶を飲んだリバシは、大きく息を吐きました。


「……ふぅ」

「!」


 それを失望の溜息と勘違いしたヴィリアンヌの恐怖心が、更に跳ね上がります。


(資料を一瞥いちべつして溜息だなんて……! やはりお気に召さなかった!? どうしましょう……! こんな事なら平民を見下したりせず、理解を深めるべきでしたわ……!)


 その心の変化に、リバシも動揺を強くしました。


(後悔、だと……? 私をここに呼んだ事を悔やんでいるというのか……? くっ、何が好意だ! 思い上がりも程々にしろ私!)


 リバシはこの状況を打開する何かを見つけるべく、急いで資料に目を通します。

 すると、リバシの目が見開かれました。


(これは……! 単に菓子と茶の一覧かと思ったら、価格から味の相性を加味した組み合わせ案まで……。ここまで丁寧に検討してくれているとは……!)


 続いてダンスの楽曲の一覧をめくったリバシは、その内容に驚嘆します。


(こちらも単なる楽曲の羅列ではなく、曲の時間や雰囲気に合わせて組み合わせ、完成された演目と言えるところまで昇華されている……! それが何種類も……!)


 一通り見終えたリバシは、笑顔のまま恐怖を強く感じているヴィリアンヌを安心させようと、優しく声をかけました。


「素晴らしい資料です。この学内社交会が終わりましたら、製本して学園の図書室に置いても良いくらいの出来ですよ」

「まぁ、ありがとうございます」


 ヴィリアンヌはお世辞をかわす貴族よろしく、さらりと微笑みます。

 しかし内心は両手を天に突き上げ、絶叫したくなるほどの喜びでした。


(やりましたわ! お役に立てただけでなく、そこまで言っていただけるなんて……! 毎日部屋に戻ってから必死に練った甲斐がありました!)


 上品に微笑みつつも、一気に喜びの感情に切り替わったヴィリアンヌを見て、リバシは安堵します。


(何だ……。この資料の評価を気にしていただけか……。ならばもっと誉めておいた方が良いな。同時にノマールへの謝罪に対する恐怖心も取り除ければなお良し!)


 そこでリバシは優しい声色のまま、ヴィリアンヌに話しかけました。


「この菓子と茶の組み合わせは実に素晴らしい。これを学園に広めれば、茶会で菓子や茶の選択に迷う生徒の道標になるでしょう」

「皆様のお役に立つのならば光栄ですわ」

「この楽曲の構成も、王宮での舞踏会に使いたいほどです」

「まぁそんな……。お優しいお言葉、感謝いたしますわ」

「これならきっとノマール嬢への気持ちも伝わるでしょう」

「! ……そうだと、よろしいですわね」


 途端に笑顔のまま喜びの色を失うヴィリアンヌに、リバシは失敗を悟ります。


(ノマールの名前を出した途端にこの態度という事は、まだ決意は覚悟にまで至っていなかったのか! しまった! ヴィリアンヌの喜ぶ様子に浮かれて手を誤った!)

(ノマールに気持ちを伝える……! つまりこの学内社交会で告白……!? そんなの嫌……! でもリバシ殿下の幸せを願うなら……。でもでも……!)


 張り付いたような笑顔のまま、二人は残りの時間をお茶を飲む事のみに費やすのでした。

読了ありがとうございます。


蛇に足を描いてはならない(戒め)。


恋敵(とヴィリアンヌが勝手に思い込んでる)ノマールの話題は危険なのです。


次話もよろしくお願いいたします。

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