第二十一話 打ち合わせ前のすれ違い
学内社交会の準備を着々と進めるリバシとヴィリアンヌ。
詰めの打ち合わせを巡って、また一波乱ありそうな予感です。
どうぞお楽しみください。
「アッシス」
「はい殿下」
馬車の中、リバシは側仕えのアッシスを呼びました。
「再三の確認になるが、気を悪くしないでほしい」
「……はい」
若干うんざりした色を浮かべながらも、アッシスは頷きます。
「本当にヴィリアンヌの方から、あの喫茶室で学内社交会の打ち合わせをしたいという申し出があったのだな!?」
「そんなに信じられない出来事とも思えませんが」
「いや、考えてもみろ! 学内社交会の打ち合わせなど、学園の中でも可能な話だ! それをわざわざあの喫茶室を指定するという事は……!」
「あの喫茶室に悪い印象はないという事ですね」
冷静になってもらおうとアッシスは話題を逸らしましたが、リバシの言葉にはさらに熱がこもりました。
「違う! いや、それもあるかも知れないが、女性の側から男を茶に誘うのは勇気のいる事! 私に対して好意を抱いている可能性が高いのではないか!?」
「希望的観測が過ぎますよ殿下」
「ぬっ……!」
「ですが当初よりは恐怖心は薄れているとは思います」
「そ、そうか! そうだな! まずはそのくらいからだな……! しかしまだか……? 早く着かないかな……」
浮いた腰を席に戻して窓の外を眺めるリバシに、アッシスは微笑ましさと同時によぎる不安に胸を押さえます。
(ヴィリアンヌ嬢は殿下をどう思っているのだろうか……。恐れているだけならまだしも、殿下を嫌っていたり、他に思い人がいたりしたら、可愛さ余って……!)
これまでの政敵への狡猾かつ苛烈な罠を思い出し、ヴィリアンヌが欠片でもリバシに好意を待っている事を、心から願わずにはいられないアッシスでした。
一方、欠片どころではないヴィリアンヌの馬車では。
「かかかカルキュリシア……。ほ、本当にこれで良かったのかしら……? リバシ殿下のお付きの方は大丈夫と言っていたけれど……」
「私も即日快諾とは思いませんでした。それほど学内社交会への力の入れ方が大きいのでしょうか?」
「! つ、つまりノマールのため……?」
「わかりません。単にご自分が手がける会には完璧を期したいだけかもしれませんし」
絶望に染まりそうになるヴィリアンヌに、気休めとわかっていてもカルキュリシアにはそう言うしかできませんでした。
「そ、そうね。お菓子とお茶の候補、ダンスの楽曲、どれも私の知り得る限りの情報をかき集めたのですもの。き、きっとご満足いただけるわ!」
「えぇ、リバシ殿下も喜ばれる事でしょう」
握りしめた拳が震えているのを見ながらカルキュリシアは、
(これほどまでにヴィリアンヌ様は尽くしているのですから、どうかノマールさんよりもヴィリアンヌ様を……!)
心からそう祈らずにはいられないのでした。
読了ありがとうございます。
加速するすれ違いは、従者二人をも巻き込んで危険な領域に突入するとかしないとか。
アッシスとカルキュリシアの心痛が解決するのはいつの日か……。
次話もよろしくお願いいたします。




