第二十話 準備のすれ違い
学内社交会に向けて準備を進めるリバシとヴィリアンヌ。
準備は順調に進んでいますが、二人の胸中は順調とはいかないようです。
どうぞお楽しみください。
「アッシス」
「はい殿下」
自室に戻ったリバシは、側仕えのアッシスを呼びました。
「学内社交会の実施に向けて、あと残っている準備は何だ」
「開催許可と大ホールの使用許可、全生徒への通知は滞りなく完了しておりますので、後は供する菓子と茶の種類とダンスの曲目を決めるくらいです」
「もうそれだけか」
「はい。本来かなり手間のかかる手続きもあったのですが、ヴィリアンヌ嬢のご助力が大きいですね」
「……そうか」
静かに頷くリバシに、アッシスは説明を続けます。
「当初はキュアリィ嬢を通じてノマール嬢の都合を確認していただくだけの予定でしたが、学園側との交渉も一手に引き受けてくださっています」
「うむ」
「『慈愛の女神』の頼みですから、学園も非常に協力的で」
「それは違う」
「っ」
鋭い否定に、アッシスは一瞬背筋が冷えました。
「ヴィリアンヌの申請は適切だった。字は丁寧で、挨拶文には教養があふれ、申請の内容に一点の瑕疵もなかった」
「……失言をお許しください。確かにヴィリアンヌ嬢の申請は見事でございました。あれならばたとえ『慈愛の女神』の肩書きがなくとも承認されたでしょう」
「わかれば良い」
淡々と答えるリバシに、アッシスは少し悪戯心を起こしました。
「これなら王妃となられても、問題なく政務を行えそうですね」
「お、王妃!?」
途端にリバシの顔が赤く染まります。
「た、確かにヴィリアンヌの実務能力は高いが、そういう理由で王妃を決めるわけではないし、身分とか立場とかも色々あるしだな……!」
「公爵家令嬢で、かつ誤解があるとはいえ学園最高評価を受けたヴィリアンヌ嬢以上に、殿下の伴侶に相応しい方を見つけるのは困難かと」
「あ、いや、まぁ立場から言えばそうなのだが……」
混乱した様子のリバシは、アッシスの笑みに気付かず、慌てて言葉を続けます。
「そ、それに婚約や結婚となればお互いの気持ちというものも大事で」
「殿下のお気持ちはもう決まっているのでは?」
「それは、まぁ、その、うん……。いや! そうではなくて! ヴィリアンヌが私に怯えたままでは、駄目だという事だ!」
「そのために今回の学内社交会でしょう。ヴィリアンヌ嬢もノマール嬢のためにここまでできたら、きっと心も軽くなる事でしょう」
「あ、うん、そ、そうだな……。そう願おう」
リバシはまだ火照る頬の熱を振り払うように軽く首を振ると、大きく息を吐きました。
その頃のヴィリアンヌの部屋では。
「はぁ……」
ヴィリアンヌの深い溜息に、カルキュリシアは心配そうに声をかけます。
「ヴィリアンヌ様、お疲れですか? ここのところ学内社交会の準備でお忙しかったですから……」
「ううん、それ自体はそんなに大変じゃないの。リバシ殿下のお役に立ってると思えるから、むしろ楽しいのだけど……」
言いながらヴィリアンヌの顔の陰りは深くなりました。
「今更だけど、頼まれた以上の仕事を引き受けて出しゃばる女って、可愛くないのかなって思って……!」
「あー、言われてみれば……」
「やっぱり!? どうしようカルキュリシア! 今からちょっと失敗とかした方が良いかしら!?」
「いや、ここまで実務能力を示してから不自然な失敗をすると、ノマールさんを歓迎したくない気持ちの表れと思われません?」
「それもそうよね! あぁ、私はどうしたら……!」
ヴィリアンヌは苦悶を振り払うように頭を振ると、再び大きく溜息をつくのでした。
読了ありがとうございます。
仕事ができる女の人を頼もしく思うか可愛げがないと思うか、それは人それぞれですが、可愛げがないのではと心配する姿、それはとっても可愛いなって。
次話もよろしくお願いいたします。




