第十九話 推測のすれ違い
お茶会で学内社交会の話を切り出せたリバシ。
しかしヴィリアンヌは、リバシがノマールの事を好きだから社交会を行うと勘違いしてしまいました。
この勘違いが今後にどう影響するのでしょうか?
どうぞお楽しみください。
「アッシス」
「はい殿下」
お茶会からの帰りの馬車の中、リバシは渋い顔で側仕えのアッシスを呼びました。
「……私は何を間違えた?」
「……はい?」
てっきり学内社交会の話をヴィリアンヌにした事を誇ると思っていたアッシスは、リバシの沈んだ表情に怪訝な色を浮かべました。
「間違えた、とは? ヴィリアンヌ嬢に学内社交会の話を伝えられた上に、想像以上の協力的な態度で、この上ない成果だったと思いますが」
「……違う。違うんだ……」
その沈痛な面持ちに、アッシスはただならぬ空気を感じ、襟を正します。
「殿下。私は殿下ほど人の心の機微に聡くありません。よろしければヴィリアンヌ嬢が何を示されたのか、お教えいただけませんか?」
アッシスの言葉に、リバシはぽつりぽつりと話し始めました。
「私が頼み事を切り出した時、ヴィリアンヌは身を固くした。だから私は自身の将来のために平民の支持が必要だと話した」
「あの唐突な話題の変化はそういう事でしたか」
「しかしそれを聞いたヴィリアンヌの感情は落胆だった。そこでヴィリアンヌを持ち上げようと誉めたのだが、そこからの感情の変化が理解できない」
「確かヴィリアンヌ嬢も名を連ねればノマール嬢も喜ぶ、という話でしたね。その時顔を背けたので、照れておられるのかと思ったのですが」
「その時の感情は、驚愕、拒絶、そして覚悟だ。私の予想した感情の動きに当てはまらないのだ。一体ヴィリアンヌは何を感じたのだろう……」
その言葉に、アッシスは首を捻ります。
「何かに驚き、にわかには受け入れ難い内容でしたが、最後には向き合う覚悟を決めた、といったところででしょうか」
「……その流れだとしたら、アッシスはどう見る……?」
「そうですね……。ヴィリアンヌ嬢は学内社交会でノマール嬢に真実を告げて謝罪されるおつもりなのでは?」
「……おお」
アッシスの言葉に、リバシは納得の表情を浮かべました。
「成程な。ノマールに謝罪する好機と気付いたが、公爵家令嬢としての矜持がそれを一度はとどめた。しかし、最後はけじめをつける必要を自覚した、か。あり得るな」
「推測の域を出ませんが……」
「それならばノマールと二人きりでさせれば問題はないが、ヴィリアンヌは思い詰めると突飛な行動に出かねない。大勢の前で謝罪させないよう気をつける必要があるな」
「しかし感情の流れだけでそうと決めつけるのは危険です。他の可能性も考慮に入れていただけますよう」
「そうだな。並行して情報収集も行おう」
「はい」
今後の方向性を定めた事で少し安堵したリバシは、後ろの窓からヴィリアンヌの馬車を見つめます。
大きな誤解に気付かないままに……。
「うえええ〜ん! リバシ殿下がノマールに恋していただなんて〜!」
「落ち着いてくださいヴィリアンヌ様。二人がくっつけば、もう脅迫される事はなくなる可能性が高いんですよ?」
「なくなっちゃ嫌! 脅迫でも恋のお手伝いでも何でもいいから、リバシ殿下のお側にいたいの〜!」
「……重症ですね。では泣いてる場合ではありませんよ」
「え?」
顔を上げたヴィリアンヌを、カルキュリシアは凛とした顔で見つめます。
「戦わずして負けを認めるなんて、公爵家令嬢の名が泣きます。幸い今回の学内社交会の準備で一緒にいられる時間はあるのですから、リバシ殿下を振り向かせれば良いのです」
「! で、でも、私なんかじゃリバシ殿下は振り向いてくれないんじゃ……」
「自分の魅力が足りない程度で諦められる恋なら、さっさと諦めた方がヴィリアンヌ様のためですよ」
「……! ……無理。諦めるなんて、無理……!」
「ならば徹底的に戦いましょう! もし負けても悔いの残らないように全力で!」
「わ、わかったわ!」
ヴィリアンヌの目に光が戻ったのを見て、カルキュリシアは微笑みます。
(これでいい。中途半端に身を引くような事をしたら、きっといつまでも立ち直れない。たとえ大きく傷付いても、私がきっと癒やして差し上げますから……!)
主への思いを新たにしたカルキュリシアは、ヴィリアンヌにできそうなアプローチの方法を、あれこれ考え始めるのでした。
読了ありがとうございます。
カルキュリシアはヴィリアンヌをどうこうするつもりはありません。
普通に慰めるだけです。
百合の花はしまってください。
慰めるっていうのも、そういう意味じゃありません。
主従百合は、拙作『悪役令嬢付きの侍女に転生したので、お嬢様改造計画に着手します』でどうぞお楽しみください。
おや、(一字不明)、花をおいてっちゃいけないったら。
次話もよろしくお願いいたします。




