第十八話 企画のすれ違い
ヴィリアンヌの恐れを取り除くべく、学内社交会を連名で行おうとするリバシ。
しかしその一方でヴィリアンヌは、真意の読めないリバシの行動に備えるべく、心を引き締めます。
二人の決意の行方はどうなるのでしょうか?
どうぞお楽しみください。
(……何だ、これは……)
喫茶室でリバシは、向かい合うヴィリアンヌの態度に違和感を覚えていました。
エスコートの際に若干の動揺がありましたが、それ以外は覚悟に近い警戒心が張り詰めているのを感じます。
(恐怖心ではないのは良いが、一体何を警戒している? まさか私が学内社交会でノマールのお披露目を計画している事に気付いた……? いや、そんなはずは……)
(リバシ殿下は私に女神と呼ばれる資格がない事をご存知……。そんな私を度々お茶会に誘うのは何故……? それを解決しないと、これ以上の仲には……!)
奇妙な緊張感が満ちる中、お茶で喉を潤したリバシが意を決して口を開きました。
「ヴィリアンヌ嬢。今日は一つお願いがあるのですが、お聞きいただけますか?」
「……私のような者でお力になれる事がありましたら、何なりとお申し付けくださいませ」
(これはまずいな……)
身を固くするヴィリアンヌを見て、リバシは用意していた別プランへと移行します。
「私は学園を卒業してしばらく政務を学んだら、王位に就く予定です」
「え? は、はい……」
「その際には国を支える平民の支持が不可欠です」
「そう、ですわね」
不意の話題の変化に戸惑い、ヴィリアンヌから少し緊張が緩んだのを見て、リバシは言葉を続けました。
「そこで今回ヴィリアンヌ嬢のお陰で学園に受け入れられ、伯爵家の養子となったノマール嬢のお披露目を、学内社交会で行いたいと思うのです」
「!」
(驚きは想定内。だが私の支持のため行うお披露目となれば、ヴィリアンヌは責められているとは思わないはず。これならすんなり頷いてくれるのではないか……?)
「しかしその主催に今回の立役者であるヴィリアンヌ嬢の名前がなければ、皆が違和感と共に不審がるでしょう。なのでお名前だけでもお貸しいただきたいのです」
「そういう事でしたのね……。承りましたわ」
頷くヴィリアンヌに落胆の感情が見えた事に、リバシは動揺しました。
(てっきりノマールの名が出た事で恐怖するか、ノマールへの罪滅ぼしができる事に安堵するかと思ったのだが、落胆……? 私の提案をどう捉えたのだ……?)
(やはり私への好意などなく、肩書きが必要だっただけですのね……。浮かれていた自分が情けないですわ……。カルキュリシアに嗜めてもらえて良かった……)
ヴィリアンヌが誤解を深めている事などつゆ知らず、リバシは状況を改善しようと口を開きます。
「ありがとうございます。ヴィリアンヌ嬢がお披露目に名を連ねていると知れば、ノマール嬢も喜ぶ事でしょう」
「!」
驚愕の表情を浮かべ、慌てて顔を逸らしたヴィリアンヌに、リバシは心の中で首を捻りました。
(どうしたというのだ? 何かに気付いたような様子だったが、今の話に目新しい情報は何もないはずだが……)
(も、もしかしてリバシ殿下はノマールの事を……!? つまり私はノマールと繋がるための駒で、お茶会はそのための布石……!? 嫌! そんなの嫌!)
(今度は怒り!? いや、少し違うな……。拒否、か?)
(……でもここで断ってもキュアリィに話がいくだけで、状況は変わりませんわ……。少しでもリバシ殿下のお側にいるためには、辛くても協力をしなくては……)
(今度は何か悲壮な決意がにじみ出ている!? ヴィリアンヌは私の言葉から一体何を感じ取ったのだ!?)
混乱するリバシに、ヴィリアンヌは切なさを押し殺して微笑みます。
「はい。リバシ殿下のため、ノマールのために、尽力させていただきますわ」
「あ、あぁ、ありがとう……」
「それでは早速打ち合わせをいたしましょう。対象は全生徒となりますか?」
「……そのつもりです」
「承りました。時間はいかがいたしますか?」
「放課後に行うのが、生徒も参加がしやすいと思うのですが……」
「では食事というより軽食と、後はお茶の用意があれば大丈夫そうですわね。では会場は大ホールをお借りして、立食形式で……。あ、ダンスなどもなさいますか?」
「そ、そうですね。組み込めると良いかも知れません」
「では楽器と演奏者も手配いたしますわね。後は……」
「……」
ヴィリアンヌの積極的な協力に喜ぶ余裕などなく、リバシは何を間違えたのかを必死に考えるのでした。
読了ありがとうございます。
リバシが素直に好意を伝えないものだから、ややこしい事になりました。
果たして誤解は解けるのでしょうか?
それとも本当に素朴なノマールに惹かれて、ヴィリアンヌの危惧通りになってしまうのでしょうか?
次話もよろしくお願いいたします。




