第十七話 決意のすれ違い
学内社交会の話を切り出せず、三回目のお茶会に向かうリバシ。
無理に学内社交会を実施する必要はないとアッシスが諭すものの、リバシの決意は硬いようです。
どうぞお楽しみください。
「殿下」
「何だアッシス」
お茶会に向かう場所の中、アッシスがリバシに声をかけました。
「今日のお茶会でヴィリアンヌ嬢に学内社交会の話ができなければ、大人しく諦めてくださいね」
「大丈夫だ! 絶対伝える! 絶対だ!」
むきになるリバシに、アッシスは口調を和らげながら続けます。
「責めているのではなく、本当にそこまでする必要はないと思うのです」
「何?」
「ヴィリアンヌ嬢に花を贈ったり茶会に誘ったりした結果、周囲からは婚約も秒読みという噂も流れています。学内社交会などという大掛かりな仕掛けをしなくても……」
「それは違うぞアッシス」
「……違う、とは?」
リバシの声色が落ち着いているのを感じ取り、アッシスは背筋を伸ばしました。
「あれから色々考えたが、ヴィリアンヌの私に対する恐怖心の根本は、今の慈愛の女神という高すぎる評価から本心を明かされた際の落差への恐れだという結論に至った」
「……確かヴィリアンヌ嬢は、平民であったノマール嬢を追い出すつもりでキュアリィ嬢にいびるよう命じたのが、変な方向に転がったのでしたね」
「そうだ。人とは根拠のない高評価に対して、いつ失うかという不安を感じる。私が明かさなくても、いずれ本心と評価の乖離からなる不安に耐えられなくなるだろう」
「……それは、確かに……」
リバシの過去を慮り、アッシスは言葉に詰まります。
「今の女神という評価がヴィリアンヌを傷付けないためには、彼女自身の中にノマールとキュアリィのためになる行いができた、という自覚が必要なのだ」
「……仰る通りだと思います」
「まぁヴィリアンヌが、ノマールやキュアリィに本心を打ち明けて詫びられたら、それが一番なのだが……」
「それは……、難しいでしょうね……」
「だからこの学内社交会は、何としてでも成功させなければならないのだ。たとえ今日ヴィリアンヌに伝えられなくても、な……」
「殿下……」
真剣なリバシの言葉に、アッシスがにっこりと微笑みました。
「良い話風に予防線を張っても、今日ヴィリアンヌ嬢に話せなかったら私は手を引きますからね」
「た、タイミングとか話の流れとかあるから、今日と限定するのはいささか乱暴だろう!?」
「それだけの強い御意志があるのでしたら、どんな流れであろうとお話していただけますよね?」
「そういう言い方は卑怯だぞアッシス!」
「これは殿下のお言葉とも思えませんね。国のために敢えて汚職に手を染めたと言った大臣を断罪された時、同じような事を仰って無償奉仕とさせた記憶があるのですが……」
「あ、あれは汚職を正当化して反省の感情がなかった大臣を懲らしめるためで……! う、うぅ……! 言うさ! 言えば良いのだろう!」
自棄気味に叫ぶリバシを、アッシスは慈愛に満ちた目で見つめます。
(もっと追い詰めて策など練る暇もなくせば、ヴィリアンヌ嬢にその温かいお心で触れられるはず……。ご無礼をお許しください殿下……)
その頃、後ろに続くヴィリアンヌの馬車では。
「リバシ殿下はヴィリアンヌ様がノマールさんを追い出そうとした事、どう思っているのでしょうね?」
「……カルキュリシアの意地悪……。何もお茶会に行く前にそんな事言わなくても良いのに……」
「ヴィリアンヌ様があまりにも浮かれているからです。言わば鎮静剤ですよ」
カルキュリシアの言葉に、ヴィリアンヌは溢れそうになった涙を拭って、公爵家令嬢らしい表情に戻ります。
「……ありがとう、カルキュリシア。そうですわね。それを忘れていたら、大きな失敗をするところでしたわ」
「しかし二回お茶を共にしていて、話は無難なものばかり。単にヴィリアンヌ様とお茶をしたいというのならともかく、何の要求もないのが不思議ですね」
「……そうですわね。今回は三回目ですし、動きがあってもおかしくありません。気を引き締めますわ!」
そう言ってヴィリアンヌは、きりっと顔を引き締めるのでした。
読了ありがとうございます。
アッシスはリバシのためなら泥を被る事も厭わない忠臣。
そういう気持ちが伝わるからこそ、リバシはアッシスに逆らえないのです。
カルキュリシア、リバシの意図を口にするも華麗にこれをスルー。
第一印象が悪かったからね。仕方ないね。
お互いの決意がどう噛み合うのか。
次話もよろしくお願いいたします。




