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第十六話 企みのすれ違い

二回のお茶会を経て、若干距離が縮まったリバシとヴィリアンヌ。

更なる関係向上を目指して、リバシは新たな一手を打とうと画策するのでした。


どうぞお楽しみください。

「アッシス」

「はい殿下」


 自室でリバシは側仕えのアッシスを呼び付けました。


「学内社交会を手配しろ」


 学内社交会とは、その名の通り学内で行う社交会です。

 貴族の子息令嬢が集うこの学園では、将来の経験のために生徒だけで行う社交会を実施しています。

 学園の主催で年に一度行うものの他、費用を支払い許可を得れば、生徒が主催で実施する事もできます。


「お望みとあればご用意いたしますが、いかなる名目で実施されますか?」

「伯爵家令嬢となったノマールのお披露目だ」

「それは……」


 アッシスが絶句するのも無理はありません。

 学内社交会は学園の公的行事と位置付けられており、生徒が主催する場合、その主催者の影響力は絶大となります。

 そのため生徒間の派閥化に利用されないよう、特定の生徒だけを集める形は取れません。

 対象がクラス単位、学年単位などでなければ、許可が下りないのです。

 学年の異なるノマールを学内社交会でお披露目となれば、全校生徒を対象としたものになります。

 そこには少なくない費用と、それを支払ってでも学内社交会を開いたという意味が発生します。


「アッシスの危惧もわかる。確かに私がノマールのお披露目を主催すれば、私がノマールの後ろ盾になるという意思表示になる。これには大きな混乱を伴うだろう」

「はい」

「だがこれをヴィリアンヌと共催とすれば、話は変わってくる」

「成程」


 リバシの言葉に、アッシスは納得の表情を浮かべました。


「ヴィリアンヌ嬢であれば、ノマール嬢の後ろ盾になってもおかしくはありませんね。何せ世間的には、天使キュアリィ嬢を使わした慈愛の女神ですから」

「そうだ」

「加えて共に開催する事で、平民が学園に通う事を歓迎する意思を示し、殿下の平民層からの支持を高める狙いもある、と」

「その通りだ」

「そしてヴィリアンヌ嬢と名を連ねる事で、親密な関係であると周囲に認識させ、牽制すると同時に外堀を埋めるというわけですか」

「……まぁ、そういう側面もある」


 目を逸らすリバシに、アッシスは呆れた表情を浮かべました。


「落ち着いてください殿下。前回の茶会の帰りに言った事、本気にしてるんですか?」

「何だその目は! 家ごと潰すのはやり過ぎだと思ったから、そうならないように事前策を打つだけだ! 私は冷静だ!」

「冷静な人間は、誰とも知れぬ恋敵への牽制に、学園全部を巻き込んだりはしないのですが……」


 深々と溜息をつくアッシスに、リバシは慌てて付け加えます。


「いや、それだけではない! ヴィリアンヌの私に対する怯えの主な原因は、ノマールを追い出そうとした引け目と、それを私だけが知っている事による恐怖がある!」

「それはそうですね」

「ここでヴィリアンヌがノマールを受け入れる行動を取れば、罪悪感が薄れて私への恐怖も薄れる! そのためにもヴィリアンヌと連名の学内社交会は必須なのだ!」

「そう上手く行くと良いのですが……。とりあえずヴィリアンヌ嬢の承認は取ってくださいね」


 アッシスの言葉に、リバシの勢いが弱まります。


「……やはり承認は必要か? 費用は大した事ないし、準備もこちらでするし、名前を借りるだけだから、全てが整って断れなくしてからの方が良くないか?」

「今以上にヴィリアンヌ嬢に恐れられたいのならどうぞ」

「……わかった」


 リバシは渋々頷いたのでした。




 翌日の放課後。


「ヴィリアンヌ嬢。少しよろしいですか?」

「はいリバシ殿下」


 笑顔の裏に期待の感情を見たリバシは、胸がつかえるのを感じました。


(おそらく次の茶会の提案だと思っているな……。ここでノマールのための学内社交会の話をしたら、がっかりするのだろうな……)


 そこでリバシは、大事な事に気が付きます。


(ん!? 私の声かけに期待の感情が出たという事は、私との茶会を楽しみにしているという事か!? いや、喜んでいる場合ではない! 学内社交会の話を……!)


 混乱しながらもリバシは、意を決して口を開きました。


「……次回のお茶会ですが、以前二人とも予定の空いていた三日後に実施してよろしいでしょうか?」

「はい、喜んで」


 リバシは思っていたのと違う言葉が口から出た事に動揺しましたが、ヴィリアンヌが言葉通りに喜んでいるのを感じると、何も言えなくなります。


(三回目のお誘い! 今度はリバシ殿下のお好きなお茶を一緒に楽しめそう……! 殿下も私とのお茶会を楽しみにしてくださっていたりして……。なんてね! なんてね!)

(喜んでいるヴィリアンヌが眩しい! しかし茶会の場で学内社交会の話をしないといけなくなってしまった……。二人きりの方が話は詰めやすいが、気が重い……)


「では三日後に」

「承りました」


 複雑な気持ちを覆い隠し、リバシは微笑んで教室を後にするのでした。

読了ありがとうございます。


ひーよったひーよったー!

アッーシスに言ってやろー!


ヘタレ殿下は、お茶会でちゃんと学内社交会の事を切り出す事ができるのでしょうか?

次話もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっと追いつきました。 殿下ひよってはだめですよ、冷静たるものが…。 恋相手では冷静を保てないのか、経験がないからですかね。 続きが楽しみです。
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