第十四話 飲み比べのすれ違い
なまじ感情が読めるせいで、話題を途切れさせてしまったリバシ。
待ちに待ったお茶が運ばれてきますが、目標とする『ヴィリアンヌの好みを知る』は達成できるのでしょうか?
どうぞお楽しみください。
「リバシ殿下、ヴィリアンヌ様、お茶の支度が整いました」
「あぁ。ありがとう」
「素敵な香りですわね」
部屋に運ばれてきたお茶の香りに、リバシとヴィリアンヌは微笑みを浮かべました。
(よし! ようやく来た! この時をどれほど待った事か! これでお茶の味や香りの感想で話が続けられる!)
(良かった……! これでお茶の話題でお話ができますわ! 喉も乾いてきましたし、少しは飲み比べもできるかも……!)
二人は運ばれてきた一つ目のお茶に口をつけます。
「ほう、これは……」
「実に爽やかな味ですわね」
「ヴィリアンヌ嬢、何の茶葉かお分かりですか?」
リバシの言葉に、ヴィリアンヌは少し考えて答えました。
「そうですわね……。ダージリンでしょうか?」
「さすがはヴィリアンヌ様。一杯目という事で、爽快感のあるダージリンの茶葉を選ばせていただきました」
支配人の言葉に、リバシがにっこり微笑みます。
「味がわかる方と共にする茶は、一人で楽しむより味わい深くなるものですね」
「恐れ入りますわ」
にっこり微笑み返すヴィリアンヌに、リバシは心の中で快哉を叫びました。
(正解して喜ぶヴィリアンヌが可愛い! よし! この流れでヴィリアンヌを誉めていこう!)
(良かった! 当たっていたわ! これでこのお茶の話で少し話題が続けられる!)
安堵の気持ちで器を傾けるヴィリアンヌに、リバシは話を振ります。
「ヴィリアンヌ嬢はダージリンはよく飲まれますか?」
「そうですわね。好きな茶葉の一つですわ。香り高く爽やかで」
「成程」
「リバシ殿下はいかがですか?」
「私も好きな味ですね」
「そうですのね」
上品に会話しつつも、内心では二人とも大はしゃぎでした。
(よし! 一つヴィリアンヌの好みを知れた! しかもヴィリアンヌが私の好みを聞いてくれた! これがアッシスの言っていた、興味を持たれる嬉しさか! 良い!)
(きゃああああ! リバシ殿下もダージリンがお好きだなんて! 元々好きだけど、尚の事好きになりますわ!)
そこに新たなお茶が運ばれてきます。
「二杯目でございます」
「ふむ……。これはまた雰囲気が違うな」
「そうですわね。深いコクをはっきり感じられますわね。これは……、アッサムかしら?」
「仰る通りでございます」
「流石ですねヴィリアンヌ嬢」
「恐縮ですわ」
支配人とリバシの言葉に、ヴィリアンヌは笑顔を崩さないまま安堵と喜びを噛み締めました。
(茶葉当てはあまり好きではありませんでしたが、こんな形で役に立つなんて……! お茶の勉強をしていて良かったですわ……!)
(緊張より喜びの方が優位になっている! この傾向は良いぞ! このままいけば、さっきの謎の恐怖心を払拭できる!)
勢い付くリバシは、ヴィリアンヌに水を向けます。
「アッサムもお好きですか?」
「はい。ミルクと合わせて良く飲みます」
「ふむ、甘いのを好まれると仰っていましたね。するとアッサムをそのまま飲むのはあまりお好きではない、と?」
「い、いえ、そういうわけではありませんわ」
「砂糖かミルクを加えても構いませんよ?」
「いえ、大丈夫ですわ。お気遣い、感謝いたします」
自分の失敗に気付いたヴィリアンヌは、背筋が冷えるのを顔に出さないように必死になりました。
(さっき言っていた事と矛盾してしまいましたわ! 騙したと思われたかしら!? リバシ殿下は嘘をつかれるのがお嫌いなのに……! ノマールの時も……!)
笑顔の裏で恐怖が再び力を増したのを見て、リバシは頭の中で自分を責めます。
(何で私はこう人を追い詰めるような言い方しかできないんだ! ただでさえ私を怖がっているのだから、もっと話題を慎重に選ぶべきだったのに……!)
貼り付けたような笑顔の沈黙が続きました。
「三杯目をお持ちいたしました」
「あぁ、ありがとう」
「ありがとうございます」
ヴィリアンヌは目の前のお茶をじっと見つめます。
(こ、これを間違えたら取り返しがつきませんわ! 何としても正解しないと……!)
力が入るヴィリアンヌを見て、リバシは笑顔を維持しながら、内心でははらはらしていました。
(まずいな……。あんなに緊張していては、味も香りも十分にはわからないだろう。ここでもし間違えでもしたら、今日の茶会は最悪の思い出として残りかねない!)
リバシの危惧の通り、ヴィリアンヌは笑顔のまま迷い続けます。
(ウバかしら……!? それともキームン……!? あああ! 焦れば焦るほどわからなくなりますわ……! そ、それでも答えないと……!)
「これはウバだな」
「え……?」
リバシの言葉に、ヴィリアンヌははっと顔を上げました。
「何、私も茶には多少造詣がある事をヴィリアンヌ嬢に見せておきたくてね。どうかな?」
「……はい。正解にございます」
「お見事ですわ殿下」
「ははは、ありがとう」
そう笑顔で答えながらも、リバシの内心は恥ずかしさでいっぱいでした。
(そんな目で見るな支配人! わかってる! 自分で注文して答えを知りながら、得意げに言う私は滑稽だよ! うあああ! やはり小細工を弄すべきではなかった!)
そんな思いに囚われていたリバシは、ヴィリアンヌの表情の変化に気づきませんでした。
(リバシ殿下はそんなおつもりではなかったでしょうけど、私は助かりましたわ……。ありがとうございます……!)
読了ありがとうございます。
ワイン詳しいフリ兄さんに通じる恥ずかしさ。
リバシの名誉のために言っておきますが、普通に飲んでも銘柄は当てられます。
『小細工を弄すべきではなかった』はごもっとも。
次話もよろしくお願いいたします。




