第一話 令嬢と王子のすれ違い
新連載です。よろしくお願いいたします。
今作は拙作『新米悪役令嬢の平民いびり』
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のスピンオフ作品となります。
お待ちの皆様、ありがとうございます。
初めましての方、お手にとってくださってありがとうございます。
今回の主役は、前作主人公キュアリィに平民ノマールをいびるよう命じた、悪役令嬢ヴィリアンヌと、その事を有耶無耶にしようと提案した腹黒な王子リバシです。
タイトル通りのすれ違い系ほのぼのラブコメですので、お気楽にお楽しみください。
「あ! ヴィリアンヌ様! ご機嫌よう」
「ご機嫌よう」
「ご、ご機嫌よう、ヴィリアンヌ様」
「ご機嫌よう」
学友達の挨拶に、ヴィリアンヌは公爵家令嬢らしい上品な挨拶を返しました。
「あぁ! 女神様にご挨拶ができるなんて!」
「今日はきっと良い日になりますわ!」
背中越しに喜びの声を聞いたヴィリアンヌは、こっそり溜息をつくと、隣にいる専属看護師カルキュリシアに小声で話しかけます。
「どうにかならないかしら、この状況……」
「そう仰いましても……。ヴィリアンヌ様がキュアリィ様を通じて学園唯一の平民ノマールさんを見事救い切ったと言う話は、今や学園中の話題を独占していますから」
カルキュリシアの返答に、ヴィリアンヌは更に溜息をこぼしました。
「それは誤解なのに……。私は追い出すつもりでキュアリィにノマールを『いびりなさい』と言っただけで……」
「キュアリィ様は『いびり』という事自体を知らなくて、ヴィリアンヌ様が言った『失敗や不手際を指摘しなさい』を、改善策も含めて素直に実行されましたからね」
カルキュリシアの言葉に、ヴィリアンヌが鋭い目を向けます。
「わ、私が悪いと言いたいの!?」
「いえ、慈愛の女神と称され、学園からも最高評価をもらい、お父上からも大いに褒められているのですから、むしろ悪くはないのでは」
「私は身勝手な気持ちから、ノマールを追い出そうとしていただけなのに……」
「そんな事誰もわかりませんよ。公爵家令嬢らしく、堂々としていらっしゃれば良いのです」
「いえ、一人だけ……」
複雑な表情を浮かべたヴィリアンヌが教室の扉を開けると、
「やぁ。ご機嫌ようヴィリアンヌ嬢」
カムフル王国第一王子リバシがスマートに立ち上がり、にこやかに挨拶しました。
「リバシ殿下、ご機嫌麗しゅう」
にこやかに挨拶を返したヴィリアンヌですが、内心は穏やかではありません。
伯爵家令嬢キュアリィに平民ノマールをいびるよう命じた事を知っているのは、カルキュリシア以外に彼しかいないのです。
弱みを握られている恐怖心と、『これで共犯者ですね』と言われた時のときめきに、ヴィリアンヌの胸の高鳴りは収まりません。
「ではヴィリアンヌ様、また放課後に伺います」
「わかったわ」
一礼をするカルキュリシアに、頷くヴィリアンヌ。
内心では、
(いやぁ! 行かないでぇ! 心臓がどうにかなっちゃうからぁ! 看護師なんだから何とかしてぇ!)
と泣きそうになっていましたが、公爵家令嬢としての教育で積み重ねられた矜持が、それを押しとどめていました。
(と、とにかくリバシ殿下に、どきどきしている事を気づかれないようにしないと……。知られたらきっと身も心も弄ばれて……! 身も、心も……? って私は何を……!)
顔に出さないようにしつつ狼狽えるヴィリアンヌを、リバシは笑顔のまま鋭く観察します。
(やはり私に対しての怯えが強いな。くそっ、彼女の隠し事を暴いた時にあんなに厳しく問い詰めるんじゃなかった……! つい政敵潰しの癖が出る……!)
後継者争いの中で様々な人の裏の顔を見てきたリバシは、人が隠している感情の中で、一番強いものを見抜く力が備わっていました。
その観察力で、ヴィリアンヌが隠している一番大きな感情である『恐怖』を看破しました。
表情に出さないように後悔しながら、その明晰な頭脳で次の一手を考えます。
(女性の心を和らげつつ好意を伝えるには、花の贈り物が一番だな! 皆の前で渡せば、他の男に対する牽制にもなるだろう! 早速アッシスに手配させよう! その次は……)
リバシはにこやかな笑顔のまま、ヴィリアンヌに好意を伝えるために策を巡らすのでした。
読了ありがとうございます。
はい、こんな感じです。
ビビリのヴィリアンヌと、そこを的確に見抜いてしまうリバシとのすれ違い、今後も暖かく見守っていただけたらと思います。
次話もよろしくお願いいたします。




