1.変なやつ
仕事場はそこそこでかいドラッグストア。夜遅くまで空いてるのもあって、変な奴が来ることもしばしばある。だけど今日は中々変な奴がきた。
「なんだァ、これ」
目薬の棚の前にカートが置きっぱなしになっていて、更に買ったばかりのレジ袋がフリップに引っかかっている。カートの中には精算済みの黄色のカゴ…と、いくつかの商品。はァ…とため息をついてレジへ持って行く。
「田中さん、これ置きっぱだったんすけど、覚えあります?」
レジでダラダラと漫画を読んでいる先輩に示すと、怠そうに目線だけあげる。…ちょっと腹立つんだよなぁ…。言わんけど。
「少し前にダサいイケメンがきたけど。それ通したわ」
「…忘れる、とかあります?」
「しらね。トイレとか?」
そういうと田中さんはまた目線を漫画に落とした。…俺が確認しろと?
イライラした自分を自覚して、意識して冷静に俺は言った。「トイレ見てきます」…結果トイレには誰も居なかった。監視カメラを見たら分かるんだけど、そんな権限あるわけもなし。レジ通ってるなら落し物として処理しなければいけないんだけど、場所が棚の近くなだけに…。
「田中さん、これ忘れ物扱いですか?」
「うん、そうして」
「棚の近くだったんで、どうかと思って…」
「カート押してその棚見だしたから警戒してたんだけどちょっと目、離した隙に消えててさあ」
あぁ? つまり、カートを知ってて放置した挙句、在庫確認してた俺に押し付けたわけですか。…このフリーターが。こちとら大学終わりのバイトなんだが? しかもお前より長時間バイト入ってんだけど。なんか仕事引き受けてくれる所か押し付けてくるってなんなんだよ!!
「いや、すぐ戻ってくるかもと思ってさ。変な奴だったし、刺激したらトラブルになるかもじゃん?」
無言の俺に気づいて言い訳してくるクソ先輩に、コイツのこの態度は今に始まったことじゃないとまたしても理性をフル回転して目元を意識して和らげた。お前も客扱いしないといけないのか、まじでだりぃよ。
「どんぐらい前に来たんすか?」
「10分前くらいだわ」
「そっすか。記録はするんで田中さんもハンコ押してくださいよ」
「おー」
…そんなに熱心に読まないといけない連載って、その雑誌にあんのか? なんて毒づきながら書類を埋めて、ちょっと漫画家さんや雑誌を作る関係者に罪悪感。うん、今のナシで。
今日も今日とてあと1時間で終わりなのだ。謙虚に頑張ろう、俺。