第97話 防御本能
無数の黒い光線が、視界を埋め尽くさんばかりの勢いで室内を蹂躙する。
ぎょっとした俺は、咄嗟に両腕で顔を守った。
この密度で回避はまず不可能だ。
とにかく死なないことを優先するしかない。
全身を光線が貫く感触に襲われた。
もはや慣れてしまった。
意識が途切れることなく、俺はその場に蹲って待つ。
しばらくすると攻撃が止まった。
放たれた光線がすべて室内へと飛んでいったらしい。
俺はゆっくりと防御を解くと、さらに魔族化が進んだ肉体を見下ろす。
あちこちに開いた風穴がすぐに塞がっていく。
魔王でさえ再生力の限界が見えてきたというのに、一向に死ぬ気配がなかった。
俺はくたびれた副腕を引き千切って捨てると、周りの状況を確かめる。
光線の乱反射により、壁や天井がほとんど消滅していた。
床にもたくさんの穴が開いており、外気に晒された状態だ。
顔面が無くなった元戦士の死体が倒れていた。
何度も重傷を負った身体では対処し切れなかったようだ。
こればかりは仕方ない。
自分の身は自分で守るしかない状況だった。
そう思っていたのだが、部屋の端では他人を守った奴がいる。
ミィナが元賢者を庇って床に伏せていた。
治癒魔術で既に傷を塞いだようで、薄汚れた顔を上げている。
魔力消費以外に問題はなさそうだった。
そのことに安堵していると、緊張感のない声が聞こえてきた。
「ふぅ、危なかったぜ……さすがに死ぬかと思った」
壊れた壁の外から顔を出すのはウォルドだ。
奴はゆっくりと室内によじ登ってくる。
背後にはしっかりとメニもいた。
二人とも大きな怪我はしていない。
外に飛び出したのか、それとも吹き飛ばされたのか。
とにかく室内にいなかったことが功を奏して被害を抑えられたらしい。
俺は平然としている二人を見て呆れる。
(この状況で軽傷って、とんでもねぇな……)
互いの無事を讃えたいところだが、残念ながらそれどころではない。
今にも死にそうな者もいるのだ。
たとえば暗殺者カレンは、血だらけで壁に手をついていた。
全身に計十個ほどの穴が開いている。
四肢の抉れたような傷は、光線が掠めたのだろう。
無表情だが相当に辛いのは伝わってくる。
俺の後方に立つ勇者は、致命傷は負っていないものの、手足に小さな穴ができていた。
まだ身体は動かせる様子で、表情に苦痛はない。
とはいっても、平気ではないだろう。
生きている者の中では、最も近い位置で光線を受けたのだから。
(まあ、今ので犠牲者が一人なら上出来だろ)
確認を終えた俺は魔王を見やる。
そこには漆黒の大きな球体があった。
球体の輝きは黒い光線と同質だ。
つまり光線が高速で回転することで、内部を保護しているらしい。
球体内部の魔王は、絶対的な守りを敷いて俺達の前に鎮座していた。




