第91話 ぜつぼう
角の生えた女は、呆けた顔で俺達を眺めている。
敵意は感じないものの、感じる魔力は邪悪の一言に尽きる。
体内に核が収まっているのだから当然だ。
城全体への循環を止めて、その力のすべて角の女に費やしている。
簡単に言えば、馬鹿げた城の全能力が人間の大きさに圧縮された状態だった。
目の前の存在がどれだけ狂っているかよく分かるだろう。
俺はミィナを庇う位置に立ち、ぼんやりとする角の女を睨む。
(こいつが魔王の本体だ。誰かが核に近付くと目覚める仕組みだったのか)
巨大な城かと思えば、今度は人間に似た生物になりやがった。
魔王という存在は多芸らしい。
もっとも、それを冗談と捉えて笑う余裕はない。
「最終防衛ってやつかね。面倒だな」
勇者によれば、城は魔族を生み出す機能を持っている。
確かに壁を登る最中に何度も魔族が落ちてきた。
あれは城内で生産した個体を差し向けてきたのだろう。
そう考えると、女の一人くらい用意するのは造作もないと思う。
角を除けば人間にしか見えない外見だが、こいつは核を持っている。
つまり城が絶対的な守護者としてわざわざ創った。
決して油断はできない。
角の女もとい魔王は、無言で俺を見つめてくる。
その一挙一動を瞬きせずに観察する。
やがて魔王は、不思議そうに言葉を発した。
「……まぞく?」
「最近はよく言われるな。これでも人間なんだがね」
俺はいつもの口調で応じつつ、魔王の様子を分析する。
どうやら理性があるようだ。
舌足らずな言葉遣いと表情から察するに、あまり頭は良くない。
正確には幼いと表現すべきだろうか。
俺の返答を理解しているかも怪しいところだった。
(ひょっとして、まだ未完成なのか?)
魔王の切り札がこんな女だとは考えにくい。
これなら城の機能を全開にする方が脅威になる。
つまり成長途中ではないか。
さらに強くなる可能性があるのならば、真っ先に叩き潰すのが良い。
先ほどはミィナを止めてしまったが、彼女の判断が正しかったわけだ。
俺ならば罠の発動も察知できるので適任だろう。
無防備に突っ立っている魔王を睨んだ後、背後のミィナに指示をする。
「俺がやる。回復は任せたぞ」
「分かりました」
ミィナの緊張気味の声が返ってきた。
頷いた俺は慎重に歩き出す。
全神経を張り詰めて魔王に近付いていく。
両手の爪を構えていつでも動かせるように意識した。
極度の変異を遂げた肉体は、そう簡単に死ぬことはない。
何も恐れなくていいのだ。
魔王は口を開けてこちらを見ている。
未だに敵意や攻撃のそぶりは感じられなかった。
俺は頬を歪めて軽薄な笑みを浮かべる。
「これで魔王殺しになれるな」
魔王はもう目の前にいた。
爪が届く距離だ。
殺せる。
俺は右手を振り上げて、そのまま叩き付けようとする。
刹那、魔王が無邪気な笑顔を見せた。
すぼめられた口から黒い光線が発射される。
辛うじて視認できたが、とても反応できる速度ではなかった。
俺は咄嗟に声を発する。
「おっ」
何かが焼ける音がする。
視線を下ろすと、胸に拳くらいの穴が開いていた。




