第90話 魔王降臨
断続的な戦闘の果てに、俺とミィナは魔王城の最上階付近に到着する。
ここからだと雲のせいで地上が見えにくい。
人生においてこんな高度に来ることなんて初めてだった。
できれば二度目がないことを心から祈っている。
壁に掴まる俺は城の壁を調べて回る。
生憎とちょうどよさそうな侵入口がない。
仕方ないので少し下に戻り、最後に魔族が出てきた窓から室内に入った。
すると、すぐさま魔族の大群が押し寄せてくる。
俺は両手の爪を打ち鳴らしてミィナに言う。
「さっそくの出迎えだな。突っ切るぞ」
「了解です!」
そこから俺達は力任せに魔族の妨害を突破する。
基本的には俺が前線で盾となり、再生能力で耐えて無理やり殺しまくった。
傷を受ければ受けるほど、俺の肉体は成長する。
主観でも分かるが、赤黒い甲殻の怪物へと変じていた。
まだ辛うじて人型を保っているものの、翼だけでなく尻尾も生えている。
舌で確認すると、歯は牙のようになっていた。
舌自体も先端が割れて蛇のそれと酷似したものに変わっている。
ミィナは平然とついてくるが、この姿をどう思っているのか。
少し気になったものの、尋ねるのはなんとなく憚られた。
もはや魔族すらも簡単に叩き潰せる強さなので、今はありがたい変化だと思っておこう。
そうこうしているうちに、俺達は最上階に到達する。
扉の奥からは、強烈な魔力の反応を感じる。
この部屋に魔王の力の源があるらしい。
それを起点に城全体へと魔力が循環しているのだ。
最も危険な場所だが、覚悟の上でやってきている。
俺は意識を集中させて周囲の魔力を探った。
(勇者達は……まだ下の階にいるようだな)
ここまで来るには時間がかかるだろう。
俺は深呼吸をして扉に手をかけた。
「さっさと魔王をぶっ壊して、勇者の手柄を盗んでやろうぜ」
「ふふ、そうですね」
なぜか嬉しそうなミィナに首を傾げつつ、俺は扉を開いた。
即座に爪を構えながら室内に踏み込む。
最上階のその部屋は広い空間だった。
中央の台座に小さな宝石が載っている。
魔力はそこから放出されていた。
間違いない。
あれが魔王の核だ。
生物で言えば脳や心臓にあたる部位である。
その時、ミィナが前に進み出ると、拳を構えて核に跳びかかった。
「何か起こる前に壊してしまいましょう!」
「おい、待て! これは罠だッ!」
俺はミィナを抱きかかえて床を転がる。
掠めるようにして、黒い光線が核から放たれた。
それは壁に穴を開けてすぐに止まる。
一部始終を見届けた俺はミィナを離して立ち上がった。
「危なかったな。下手すりゃ即死だった」
「す、すみません……」
尻餅をついたミィナは素直に謝る。
張り切りすぎたのが原因だが、今の判断は完全な間違いとも言えない。
素早く叩き潰して終わらせるのは利口な手と言えよう。
それに罠の気配はほとんど感じないほど微細だった。
俺が盗賊だから分かったようなものだ。
或いは魔族化の進行により、常人とは異なる感覚が発達したのかもしれない。
とにかく、ミィナを助けられたのでよかった。
しかしそのことに安堵する間もなく、魔王の核に変化が生じる。
噴き出した魔力が血肉となって核を包み、人間の形を作り始めた。
漆黒の瘴気がドレスとなり、出来上がった身体を覆っていく。
そうして現われたのは、額から二本の黒い角を生やす若い女だった。




