第9話 新たな仲間
突然の事態に俺は頭を悩ませる。
しかしよく考えてみると、判断を迷うことでもないかもしれなかった。
(治癒魔術が使える仲間か。悪くないな)
獣人女はなかなかの使い手である。
決して一流ではないものの、魔術師としてはやっていけるほどの才能を秘めていた。
身体つきからして戦闘は素人だが、鍛え上げれば優秀な仲間になる。
何より元奴隷という素性が良い。
基本的に従順で、さらには俺達に憧れを抱いている。
もちろんそれは英雄と思い込んでいるが故の感情だろうが、これを利用しない手はないのではないか。
(いざという時に治癒魔術があると便利だ。戦いで死ぬ可能性が低くなる)
なるべく殺し合いを避けたいとは考えている。
しかし、勇者を騙る以上はそういった展開もありえるだろう。
俺は楽観主義者ではない。
名声を横取りして裕福な暮らしをできるのが最高だが、そこまで甘くないことは分かっている。
だから治癒魔術が手元にあるのはありがたい。
ここで仲間に引き込むのは利口な判断だと思う。
脳内で結論を下した俺は獣人女に尋ねる。
「お前、名前は?」
「ミィナです!」
獣人女ことミィナは元気よく答える。
背筋を伸ばして尻尾を左右に振っており、だいぶ嬉しそうなのが分かった。
俺はなるべく爽やかな笑みを作って手を差し出す。
「よし、ミィナ。今からお前は勇者パーティの一員だ。これからよろしくな」
「――はいっ!」
ミィナは頬を紅潮させて手を握ってきた。
あまりの力で骨が折れそうになるも、気合で耐えてゆっくりと離す。
もう少しで片手が丸ごと千切れそうだった。
獣人の身体能力は総じて高い。
華奢で気弱に見えるミィナでもこれだ。
もし本気で殴られれば命に関わるだろう。
こちらの危機も知らず、ミィナはパーティ加入に舞い上がる。
一方、ウォルドが小声で話しかけてきた。
「いいのかよ」
「ああ、問題ない。パーティに置いとくだけで周りからの印象が良くなるだろ。俺達の正体にも気付いていない。好都合だ」
「すぐ気付くんじゃないか?」
「そこを上手く騙し通すんだ。俺達ならできる」
小声で言い合っていると、ミィナが顔を覗いてきた。
彼女は不安そうに眉を下げる。
「あの……?」
「すまん、少し話し合っていた。ミィナに買う服の相談だ」
「わたしの服!? 買ってもらえるんですか!?」
「当然だろ。勇者パーティに相応しい服装をしてもらう」
俺がそう言うと、ミィナはまたもや歓喜する。
もう成人しているはずだが、反応は子供のように無邪気だ。
その姿を眺める俺は、呆れるウォルドに囁く。
「ほら、簡単だろ。物で釣れば細かい疑惑なんて忘れるさ」
「そんなに単純ではないと思うがなぁ」
「心配すんな。堂々としてれば信じ込むだろう。本人も憧れの勇者パーティに入れて満足しているんだ。夢を見せてやろうぜ」
俺は悪い笑顔で述べる。
ウォルドは深いため息を洩らした。




